#1045 雪と温泉と言えばスキーでしょ!
ローカルルールを有りにして下剋上を果たし大富豪に――なる直前でラナに上がられてただの富豪になった夜から一夜明け、2日目だ。
ちくせう。あそこでスペ3返しはつらたん。
ちなみにサトルはロビーのソファで居眠りしていたところを従業員の人に見つかって、消灯時間近くに帰って来た。
部屋の女子はすでに解散していて、さっきまで女子たちが大勢部屋に来ていて楽しんでいたことを聞いたサトルが血の涙でも流しそうな顔をしていたのが忘れられない。どんまいだ。「旅行で疲れていたんだろう」と言って慰めた。
さて気持ちを切り替えていこう。今日はスキーの日だ。
この温泉街から少し外れた同じ1層に専用のスキー場があるので、今日はそこで遊ぶ。さすがは観光地だ。スキー場まであるとはすごい。
全力で楽しむぜ!
「ヤッホー!」
「ゼフィルス君待ってよー」
雪坂をS字に滑って楽しんでいると後ろからハンナが見事なボーゲンで追いかけてくる。
ちなみに俺はスノボ派だ。
途中で止まって待っていると、ゆっくり滑ってきたハンナが追いついてきた。
「いやぁ、気持ちいいなハンナ。というかハンナってスキー出来たのな」
「うん? うん。なんだか出来ちゃった。難しいけど楽しいよ」
「まさかハンナが一番最初に出来るとはビックリだったぜ」
〈ダン活〉の世界ではあまり雪は降らないためスキー経験者なんてほとんどいない。
みんな初心者だ。その中で最初にスキーが滑れるようになったのは、なんとハンナだった。
DEXが原因。ハンナむっちゃ高いし。
というか宿に〈EXテクリタン◯〉シリーズのアイテムが大量に売ってたからな。
〈テクリタン〉とはそのままステータスの一つとDEXの数値を一時的に交換する効果を持つアイテムだ。〈マホリタンR〉の親戚だな。
ちなみに〈EX〉が付いている物は2時間効果を発揮するタイプだ。
現在メンバーはみなそれを飲んで一時的にDEXを上げてスキーに挑んでいる。
1回2回滑ればコツのようなものを掴める様子だ。DEXすごいな!
あとスキー板にも雪を滑る『滑走補助』『バランス感覚補助』なるスキルが付いている。おかげで初心者ばっかりのメンバーだったのにもうみんなだいぶ滑れるようになっていた。
ちなみに全員スキー用の服をレンタルして着ている。
さすがに『湯着』スキルは2時間しか持たないからな。仕方ない。
なお上級者スキー場では、所々に温泉休憩所が配置されていて装備のままで滑ることができるのだが、そこは遠慮しておいた。装備がスカートの女子も多いのだ。スキーにスカート。未知の領域だ。
中には水着で滑っているスキーヤーもいるらしいが、上級ってそっちの意味なの?
「うおおおおお止まらーんんんんん!! お助けーーーー!!」
そんなことを考えていたら、上からサトルの声が聞こえたのでそっちを見る。するとサトルが直滑降していた。
おお、初心者なのに、挑戦者だな。あ、こっちに来てる。止まれないのか。
「ゼフィルスさーーーん!!」
「大丈夫だサトル! わざと倒れて減速しろ!」
「『バランス感覚補助』のおかげで倒れられましぇぇぇぇん!」
「……HPに身を任せるんだ!」
「お、お助けええええぇぇぇぇぇぇ―――――」
俺はアドバイスを送るとそっと道を空けてサトルを見送った。
「……ゼフィルス君、行っちゃったよ?」
「大丈夫だ。HPは優秀だからな。それに下には雪の防波堤もある」
「大丈夫かなぁ。……あ、防波堤で、止まった?」
「おお~。見事に雪に埋まったな。あれはあれでちょっと楽しそう」
結局下まで直滑降したサトルがそのまま雪の防波堤に突っ込んで大の字の穴を作っていた。すごくギャグっぽい。ちょっとスクショ撮りたいぞサトル。
しかし、その考えは新たなメンバーの声にかき消える。
「待ってルルちゃんー!?」
「そっちはジャンプ台ですよー!?」
「とう!!」
「「ルルちゃんが飛んだ!!」」
「おお! ルルすっげぇ!!」
幼女3人の声に惹かれてそっちを見れば、ちょっとしたジャンプ台からまさにルルがジャンプするところだった。しかもスノボだ。ジャンプ台を避けて併走していたエリサとフィナが驚いている。俺とハンナもだ。ルルがすっげぇかっこいい!
「ルルー! かっこいいぞーー!」
「ルルちゃんすごいですー!」
「あい!」
サトルの大の字のことはすっかり忘れ、ルルの大ジャンプからの着地に拍手を送った。
ルルはこの後さらに技を習得し、大ジャンプから横回転や縦回転などのポーズで観客(?)を沸かせることになる。ルルがすごい。さすがは回転の申し子。
「ゼフィルス、ハンナ。また上に行くの? 一緒に行ってもいいかしら」
「シエラ、もちろんいいぞ」
紫系のスキー服に紫のゴーグルをしたスキーヤーがかっこよくズザザザザと滑ってきたと思うとシエラだった。シエラも上達が早いな。
ちょうど下に降りた俺たちは一緒にリフトに向かうことにした。
途中寒さが苦手なアルルとカルア、体力の無いニーコがかまくらの中で温かい飲み物を飲みながら和んでいるのを見つけて手を振ったり、リカとアルストリアさん、シレイアさん、マリア、メリーナ先輩が巨大な〈幸猫様〉の雪だるまを作っているのに感心したり、ちょっとお祈りさせてもらったりしながら進む。
雪の遊び方は人それぞれ。
みんな雪が珍しいのか、アートを作っている人も結構居るのだ。
到着して3人で乗っても余裕があるほど大きなリフトに乗り込むと、俺はなぜかハンナとシエラに挟まれるかたちとなった。
「2人とも楽しんでるか?」
「もちろんだよ! こんな遊び初めてだもん」
「いつもダンジョンで戦闘ばかりだったものね。たまにはこうして遊びを楽しむのも良いと思うわ」
好評で良かったよ。なにしろフィールドボスを狩ろうと言うメンバーも居たからな。
このエクストラダンジョンのボスドロップはかなり優秀だから分からんでもない。スキーが終わったら参加メンバーを募って一狩り行く予定だ。
あのドロップだけでQPの元がかなり取れるからな。
「あ、見てください。あそこにレグラムさんとオリヒメさんがいます」
「手取足取り教えているわね。でもあれ、オリヒメさんわざとよね。〈テクリタン〉飲んでいなかったもの」
「だな。アレが恋愛マスターと裏で囁かれるオリヒメさんの手腕か」
「ゼフィルスは最初から滑れていたみたいだけど。誰かに教わったの?」
「……勇者だからな」
「あ、トモヨさんたちです」
「あ、ゼフィルス君たちだ! おーい!」
「お~、カタリナたちも一緒に滑っていたみたいだな。おーい」
下を滑っていたトモヨやカタリナたちに手を振ったり、振り返されたり。滑っている人たちを眺めたり。リフトに座っているだけでもちょっと楽しい。
「あ、もう到着だ」
「……あっという間だったわね」
「話していると早いなぁ~」
リフトから降りながら滑ると、奥では初心者講習が行なわれているのが見える。
実はここで最初にスキーを教えてもらい、練習しながら下へ滑っていくのだ。
「む、難しい~。ユウカはなんでそんなに簡単に滑れんの~」
「〈テクリタン〉飲んでるのに上手く滑れないんだけど~!」
「こればかりはコツを掴まないと難しいと思うよ。ほら、支えてあげるからもう一回滑ろう」
すぐそこで仲良し3人組が唸っているな。どうやらサチとエミはスキーが苦手なようだ。
でもユウカに手を引かれて少しずつ滑る様子は微笑ましい。そして。
「あ、ラナ殿下です」
「あ、あらゼフィルス。ハンナにシエラも! き、奇遇ね」
「おう。ラナは滑れるようになったのか? やっぱり俺が教えようか?」
「心配ご無用です。私が付きっきりでお教えしますので、ゼフィルス殿はどうぞスキーを楽しんでください」
「ちょ、ちょっとシズ!?」
「私たちの立場もあるのでどうかお気になさらずデース!」
実は意外なことにラナはスキーが苦手だった。白のスキー服に青系のゴーグルを掛けたラナがシズに抗議しているが、シズは首を振るだけだ。
いや本当にビックリだ。ラナなら軽くこなしそうなイメージがあったのに。
結局シズ、パメラが付きっきりでラナのコーチをしていた。シズとパメラが経験者だったらしいので任せていたのだが、ラナが俺に教わりたいと先ほど言っていたので提案した形だ。まあ、シズとパメラに却下されたのだが。
王女の護衛兼従者として譲れないものがあるようなのでここは任せるのが吉だとシエラに教えてもらった。ちなみにエステルも苦手組だ。
どうもSTRとDEXを交換すると体の感覚が劇的に変わりすぎて動きづらいらしい。
ちなみに魔法使いの人はそもそもスポーツが苦手な人が多い模様。
まあ人によりけりだな。メルトとミサトは普通に滑ってたし。
そんなことを考えながらスノボを履いていると、リフトからサトルが現れた。
「ふう。死ぬかと思いましたよ」
「サトル? サトルじゃないか! お前生きていたのか!」
「あれは残像ですよ」
昨日仲が深まったサトルがネタを振ってきたのでそれに応えて笑い合う。なんか、男友達って感じがするノリだな!
俺はこういうのを求めていた!
ちなみにその後。
「お、お助けええええぇぇぇぇぇぇ――――――!!」
またサトルは直滑降でそのまま下に消えたのはご愛敬。
こうしてみんなでスキーを楽しんだのだった。




