#1039 最初の秘湯! 〈湖温の秘湯〉へ到着!
「へ? これ全部温泉なの!?」
「湖かと思ったけれど、ちゃんと湯気が出ているわね」
「ふわ~、綺麗ですね~」
ラナがビックリした声を上げると、シエラも身を乗り出しながら確認し、ハンナはキラキラした目でこの秘湯を見つめていた。
ふっふっふ。どうだ、すごかろう?
この〈秘境ダン〉がなぜ秘境と名付けてあるのか?
それは文字通り秘境だらけのダンジョンだからだ。
10層までは本当に秘湯。
雪道の奥とかに温泉があるだけだったが、11層からはそれが大きく変わる。
雪山の山脈などが多数そびえ立ち、道の無い上級ダンジョンのようなオープンワールドへ変貌するのだ。
そしてこの障害物である雪山には隠れた、まさに秘境と呼ばれている場所が各所に点在しているのである。
その中でも俺がめっちゃ推すのがこの14層にある秘境にして秘湯。
その名も〈湖温の秘湯〉である。
ぱっと見、雪山の山脈に挟まれた縦長の湖。
色は白系で乳液を大量に溶かしたような温泉水。
凄まじく広く、百メートル以上続いている光景はまるで温泉の川。
一部に滝が流れていたり、鍾乳洞のような洞窟もあり、その全てが温泉という魅力が振り切れたような秘境地。
深さは人の脚までしかない上に流れもおだやかなので子爵組だって溺れる心配が無い完璧温泉。
ゲーム〈ダン活〉のオススメ絶景ランキングでは常に上位にあった温泉の一つだ。〈スクショ観覧会〉のロケによく使われていた。
リアル〈ダン活〉になったので、ここには来たいとずっと思ってたんだよなぁ。
やっぱ〈秘境ダン〉に来るんだったらこの秘湯は外せないぜ。
やっと来られた! ちょっと嬉しい。
「よし、エステル、着水してくれ」
「! 了解しました」
ここに来るには雪山の山脈を越えるしかない。
〈イブキ〉なら余裕だ。
山脈の上から見る景観も最高の一言だが、本命は入浴。
もうすぐ宿から出て2時間が経つ。スキル『湯着』も効果が切れる頃だ。
エステルには早速温泉に〈イブキ〉を進めてもらう。
山脈の上から飛び出した〈イブキ〉は浮遊しながらゆっくりと落下し、そのまま温泉に着水。
水面から微妙に浮くことも可能だが、このまま運転手も降りるので着水させたのだ。ちなみにこれはエステルの操作で可能だ。
それに続くようにアイギス号、ロゼッタ号も山脈から降りてくると、温泉に着水した。
「これだけ綺麗な温泉に着水すると、水を汚さないか心配になりますわね」
「ふむ、大丈夫じゃないかリーナ? 〈イブキ〉は常に浮遊している。汚れだってほとんど付着していないはずだ」
「ん。でもモンスターを轢きまくってる」
「それがあったか……」
リーナが恐る恐る温泉を覗き込み、リカが首を振るが、カルアに珍しくツッコまれて悩ましそうに首を傾げていた。大丈夫だ。
エステル号は今朝納品されたときにはピカピカに磨かれていたからな。
「エステル、アイギス、ロゼッタ、とりあえずタラップは下ろしておいてくれ」
「「「はい」」」
〈イブキ〉の乗り降りに使うタラップは錨のような固定具としても使える。
タラップが降りているときは〈イブキ〉を動かせないし、動かない仕様なんだ。
〈イブキ〉を変形させてタラップを降ろすと温泉に浸かる準備をする。
「わぁ~、この温泉にこれから入るのゼフィルス君?」
「もちろんだ。この温泉全部が俺たちの貸し切りだぞ?」
「ご、豪華ですわね~。今までそれなりの贅沢を経験してきましたが、こんなの初めてですわ」
「は、はいです! わ、私もこれに参加して良いのですか? 本当に参加していいのでしゅか!?」
「アルストリアさんもシレイアさんも遠慮せずに楽しんでくれ」
みんな温泉に夢中だ。
分かる、分かるぞ。もう眺めるだけでもお腹いっぱいだからな。
だが、ここは温泉。温泉に来て入らないなんて選択肢は無い!
俺は早速宿で借りたいくつかの簡易テントを〈イブキ〉のデッキに広げていく。
〈イブキ〉は新しく最上級品になったことでスキル『環境対策モード』を会得し、『耐寒』スキルを使えるので寒さ対策はバッチリである。このテントは着替えスペース用だ。
温泉から上がった時のためにタオルを下に敷くのも忘れない。
ちなみに、外の秘湯は全て混浴なので水着着用が義務である。
裸での入浴は違反となるので要注意だ。
アイギス号、ロゼッタ号でもサトルやレグラムが率先して簡易テントなどを組み立てていく。
うむ、これは男子の仕事だ。女子の水着を見るのだからこれくらいはしないと罰が当たってしまう。
「よし、準備出来たぞ~。各自この中で着替えてくれ。あと温泉から上がった時は船内に入るなよ~絨毯が濡れるからな。だから簡易テントに着替えを持ち込むのを忘れないようにな~」
「「「「はーい!」」」」
簡易テントは更衣室。
今のうちに荷物を持って行っておかないと、温泉から上がった時に困ることになるので注意。その辺ちゃんと通達しておかないと目の前の楽しみに気を取られすぎて失敗する子が必ず出る。レジャーではこういう細かいところも重要。まあやらかしても〈スッキリン〉も用意してあるのでフォローも万全だ。俺に抜かりなし。
さて、女子が着替えている間に俺たち男子はお先に入らせてもらおうかな。
男なんてパパッと脱いでトランクスタイプの水着を履くだけなので早い。
ちなみにこの水着は夏休みに作ったやつだ。
また、前回参加していないメンバーには昨日マリー先輩の店で水着を購入してもらっている。素材の方はこの時期だし少し余っているとのことで、今回は採集しに行かなくても良かった形。ラウと一緒に素材集めしようとしたらマリー先輩から言われたのだ。
ただ、前回夏休みの時に水着を購入した子たちが新しい水着を遠慮してしまったのは誤算だった。
せっかく男子たちが狩りに行ってゲットしてきてくれた素材で作った水着、それを1回しか着ないなんてとんでもない。みたいな感じだった。
良い子たちだ。本当に良い子たちだ。でも他の水着姿も見たかったのは内緒。
次回は必ず狩りに出向き、せっかく狩ったのだからと言って新しい水着を購入してもらおうと心に決めておく。
「こ、こらカルア、水着に着替えないとダメじゃないか。温泉と言ってもここは混浴なのだぞ!」
「ん! うっかりしてた」
そんなセリフとバタバタとした足音が背後から聞こえた気がしたが、気のせいだったということにする。俺はグッと堪えてセレスタンと共にタラップを降りていった。
「ここはまた、素晴らしいですね。湯加減は少し温いですが、その分ゆったりと浸かっていられますね」
「さすがはダンジョン温泉だな」
温泉に入ると早速セレスタンが温泉をチェックする。
すぐに合格が帰ってきた。まあ、このダンジョンで人が入れない温泉は無い。
その辺はダンジョンなのだ。どの温泉も管理していないのに適温である。さすがダンジョン風呂。不思議!
「いやぁ~、宿の温泉もよかったが、この絶景を見ながらの温泉はまた格別だな~」
「それには完全に同意だゼフィルス」
「お? メルト、レグラムも来たか」
「待たせたな。しかし、ここはいい所だ」
「そうだろうレグラム。自由行動の時はもっと良い場所を教えるからな」
「それは楽しみだ」
アイギス号から降りてきたメルトとレグラムがこっちに来て一緒に浸かる。
「ふおおお~、これはいいですよ。秘境の露天風呂とかまた格別ですね~」
「お、サトルとラウも来たようだ」
「遅れました~」
「サトルが温泉で溺れかけて遅くなった」
「サトル……こんな浅いのに溺れかけたのか?」
「ち、違うんですよ! ちょっとタラップを降りているときにツルッといって落ちただけなんです」
「危ないな! まあHPのおかげで怪我はしないだろうが、気をつけてくれよ?」
「面目ない」
「しかし、ここは本当に良い湯だ。ゼフィルスさんが宿で一度体を流させたのも分かる。ここはあまり汚したくない」
「ラウもわかってんな~! さすがにこの秘湯ではかけ湯は出来ないからな。ここに来る前にひとっ風呂浴びたのはそのためでもあるんだ」
ここは山脈に挟まれた湖のような環境なので、陸に上がれる場所がほんの少ししかない。中央にある孤島みたいな場所くらいだ。そこもとても小さいのでかけ湯なんかしたらそのお湯も温泉に流れてしまう。
かけ湯が出来ないなら、その前に一度温泉に浸かって綺麗にしておけば良いじゃない。という作戦だった。『湯着』も得られるし一石二鳥である。
そんな感じで〈イブキ〉の近くで温泉に浸かり男同士で喋っていたら、いよいよ女子の準備が出来たらしい。
「待たせたわね!」
「準備完了なのです!」
ラナとルルの声が聞こえてエステル号から女子が水着姿で降りてきた。




