#1038 10層で待ち受けるボスが上級職に蹴散らされる
「ゼフィルスさん、こちらの方角で合っていますか?」
「おう、そのまま真っ直ぐ進んでくれ」
「クワァ!」
アイギスの言葉に頷きながら指示を出すと、なぜかゼニスから返事が返ってきた。
現在俺はアイギスの〈イブキ〉に乗車中だ。
後ろにエステル号(仮)とロゼッタ号(仮)が続いている。
ちなみに俺がどこの〈イブキ〉に乗るかで少し揉めたのは内緒。
結局アイギスが〈モンスターカモン〉でゼニスを呼び出した時にその流れでアイギス号(仮)に乗車していて今に到る。
温泉街を抜けると一面真っ白の世界が広がっていて迷いそうではあるが、そこは俺頼み。
俺がナビしているのだから迷うはずがない。
よし、目印である大雪ボックスが見えてきたな。階層門はあの裏にある。
「アイギス、あの雪の障害物の後ろに回ってくれ。あ、右回りで頼むぞ」
「承知しました」
「クワァ!」
俺の言葉にアイギスと、そしてゼニスからも勇ましい返事が返ってくる。
雪で覆われた大きな四角い障害物を左から回り込むと、〈ユキガニ〉と〈シロツムリ〉というカニ型とカタツムリ型のモンスターが「ここを通りたければ俺たちを倒していけ」とばかりにスタンバイしていたのでそのまま轢いて光にしつつ、目的のものを発見する。
「あ、階層門を見つけました!」
「よし、入ってくれ」
「はい!」
「クワァ!」
1層唯一のモンスターがいたことすらスルーして階層門の発見報告が飛んだ。
早速〈イブキ〉で潜ってみると、次の階層も一面真っ白だった。
だが、1層とは結構違う所がある。
「あ! 見てください、向こうに湯気が見えますよ!」
「あちらにも見えます。これが秘湯の温泉地なのですね」
マリアとメリーナ先輩がそれぞれ指さす方に見えるのは、温泉の湯気。
そう、ここのダンジョンは所々に湯気が立つダンジョンなのだ。
基本的に湯気から湯気に向かい、温泉を巡るのである。
2層は雪景色と温泉エリア。
動物も生息していて、動物と一緒に温泉を楽しむこともできる。
悪くはないのだが、規模が家族風呂レベルの小さな温泉なのでスルー。ここより広く素晴らしい温泉が奥にはたくさんあるのだ。俺たちはそのまま次の階層門まで真っ直ぐに進んだ。
〈秘境ダン〉の強さは上層から中級上位級となかなかの難易度を誇る。全40層まであり、10層毎に等級が増していき、下層の31層からは上級上位級のモンスターまで登場するのでこの世界では21層以降は誰も攻略に行かないのだとか。観光地だしな。それに資源ダンジョンだし。
俺たちは誰も居ないダンジョンをスムーズに進み、途中で現れたモンスター、または動物は問答無用で光にした。
また、10層ではフィールドボスの守護型が登場する。つまりショートカット転移陣がある。
〈食ダン〉は初級レベルの全20層ダンジョンだったのでショートカット転移陣は無かったが、〈秘境ダン〉は最奥が40層まであるのでショートカット転移陣が設けられていたりするのだ。
「アイギス、あの辺で止めてくれ。下車の準備だ!」
「はい!」
「クワァ!」
ということでボス狩りです。
この10層を守るボスは〈雪角大軍ラビット〉。
通常のダンジョンではあまりお目にかかれない、軍型のボスだ。
最初は1体のボスと30体を超える角が生えた雪兎が出迎える。
さらにこの雪兎は一定時間毎に地面からポコポコと際限なく登場する無限湧き型で、放置するととんでもない数で押し切られて負けるので要注意だ。
雪兎は弱くてさほど苦労することもなく倒せるので、まずは雑魚を減らし、余裕が出来てからボスと戦うのがセオリー。
ボス1体を倒せればその場で雪兎も雪に還る。
「なんだか弱そうなボスね」
「可愛いボスなのです!」
「見た目が雪兎に角と手足付けただけだからな。ボスはそれを大きくしただけという安直さよ。だが、見た目に騙されちゃいけないぞ。ここで全滅することもざらだからな」
怖いのは雪兎の無限湧きだ。いや、こいつらマジで放置するとどんどん増えていくんだよ。
例えば増えすぎて100体くらいになったとする。その雪兎が一撃で10ポイントのダメージを与えてくるとして、100体が一斉攻撃してきたらダメージは1000だ。
タンクですら二撃でやられる。なにそれ怖い。
しかもボス自体は中ボスでそんなに強くもないのだからとても困る。
ゲーム〈ダン活〉時代、「へ、雑魚め!」とボスを狙って雪兎を無視し速攻勝利を狙うと、いつの間にか雪兎に囲まれていて、一撃500ダメージ、二撃1000ダメージ、三撃目1500ダメージとか食らって戦闘不能になるんだ。マジ恐ろしい。
雑魚のはずなのにHPの減りがエグいを通り越してんの。予想外すぎて心構えすら出来ていないからヒーラーで回復するのすら間に合わないんだ。恐ろしい初見殺しだぜ。
ボスを相手に果敢に攻めていたはずなのに、雪兎の攻撃とか10ダメしょぼいはずなのに、気が付けばHPがドカンドカン減って戦闘不能になってんだよなぁ。
戦闘不能の退場で操作キャラが変わって「え、何事?」って状況を理解出来ないうちに雪兎にまた囲まれてやられるんだ。
マジ悪夢だったよ(実体験)。
「ここでは必ず雪兎を狩りまくること! 数が増えたら負けると思え! 必ず雪兎は10体未満まで減らしてからボスを攻撃するんだ! 雪兎に20体以上囲まれそうなら逃げろ。もう全力で逃げろ!」
「なんだか実感こもってるわね」
鋭いなシエラ。
「説明はこんなところだ。ボス狩りに参加したい人!」
「「「「はいはいはーい!」」」」
こんなに危機感を説明したのに、希望者はいっぱいいた。
その意気や良し、メンバーにはなるべく体験させたいので、20人4パーティばかりの大所帯で戦うことになった。
ちなみに俺は応援側。
無限湧き型系ボス。この先の〈山ダン〉とかでも登場するのでメンバーに練習させたかったし丁度良い。
勝負は……相手にもならなかった。
「キュ~~~…………」
「大勝利~!」
「いえ~い! 私たちの勝ちだよ~!」
今回、雪兎を狩る、もしくは抑える担当と、ボスを相手にする担当で分けたのだが。
うん、ボス自体は弱いんだよ。
だって中級上位級ボスだし、推奨LVは下級職LV75だ。まあ、上級職メンバーの俺たちには敵わないよな。
ノエルが怒りモードを抑えるユニークスキル『鎮静の一曲・ラブ&ピース』使っちゃったからな~。そりゃ大勝利だろう。あれで不慮の事故が完全に無くなったもん。
というかシャロンの壁の分断力が強すぎたな。雪兎が分断されちゃったもんな。
今回のMVPは間違いなくこの2人だ。
観戦側に回ったカタリナが感銘を受けたのかキラキラした目で拍手を送っているのが良き。
ちなみに宝箱は〈木箱〉。ハズレだ。
……次からニーコを強制参加させるか。
「ふお!? なんだい!? 今すごく背筋に悪寒が走ったんだが!?」
「どうしたんだいニーコ君? 誰かが背中に雪でも入れたのか?」
「そ、それはとんでもないイタズラだね!? ちょっとカイリ君、背中を見てくれたまえ!?」
ニーコがなんだか慌ててた。誰かが定番のイタズラをしたのだろうきっと。
その後、ショートカット転移陣を開放すると、〈イブキ〉に乗って出発だ。
ちなみに今度はエステル号に乗車することになった。そのまま真っ直ぐ寄り道せずに目的地まで向かう。
そしてお昼のちょっと前に俺たちは目的地に到着した。
そこは〈秘境ダン〉14層のとある場所。
普通ならたどり着けないような雪山の山脈に囲まれ、まるで湖のような超巨大にして隠された秘湯。
「着いたな。ここが今日の目的地。〈湖温の秘湯〉だ」
初の秘湯は湖規模だった。




