#1037 一方男子チーム。秘湯目指して出発だ!
一方男子チーム。
「温泉、広すぎだな! とても1時間じゃ楽しみきれない!」
「それに1時間フルで使うわけにもいかないしな。あれは装備に着替えて出発準備完了にして集合、ということだろう?」
「楽しむのは夜でいい。もしくは朝風呂という手もある」
「それは楽しみですね」
「お? セレスタンさんは温泉好きなのですか?」
「温泉が嫌いな人なんていないだろう。なにしろ、この心地よさだ。入れば分かる」
ゼフィルス、メルト、レグラム、セレスタン、サトル、ラウは揃って一番奥にある最も巨大である滝の落ちる温泉に浸かっていた。
ここは階段型温泉の最上部でもあるため周りを一望できるのも良い。
他の男子学生などは滝に打たれて修業している者もいる、人気温泉だ。
なお、滝に打たれるときはしっかり頭も洗ってからが原則ルール。
禁止にしないところが学生宿である。学生はみんな滝で修業するものだとわかっているのだ。大人がいないからこそのルールである。
「となると、温泉に浸かっていられるのは実質20分くらいか?」
「秘湯巡りの受付と、外で簡易テントを張るための道具は先ほど宿で手続きしておきました。後は数のチェックだけですね。40分は楽しめるでしょう」
「おお! サトルは優秀だな~」
「それほどでもありがとうございます」
「どういう受け答えなんだ?」
今回サトルは気合いを入れている。
前回の〈海ダン〉旅行ではうっかり忘れられたので今回はしっかり実力を示し、〈エデン〉の縁の下の力持ちというのをアピールしてきていた。
もちろんゼフィルスもサトルのことを忘れてはいない。
貴重な男子であり、いつも雑事をこなしてくれるありがたい存在だからだ。
「よし、そろそろ各温泉巡りを始めるか。1温泉1分で移動すれば全部入れるか?」
「俺はゆっくり入ろう。ジャグジーら辺にいる」
「俺は……」
「レグラム様、あの辺に〈縁結びの温泉〉というものがあります」
「……では、俺はそこへ行ってみよう」
「サトルとラウはどうする?」
「俺は適当に回ってみます。なんかチャンスを掴める〈ワンチャン温泉〉というのがあるらしいんで、それ探してみます」
「ラウはルキアとの関係はどうなんだ? 〈縁結びの温泉〉に行かなくていいのか?」
「メルトさん、ルキアとはそんなんじゃない、ただの同級生だ。メルトさんこそ〈縁結びの温泉〉は必要ではないのか? ミサトさんといつも一緒にいるが」
「ミサトとはそんな関係じゃない。というよりすでに縁は十分だ。これ以上増えなくていい」
「では、一緒にジャグジーにでも行かないか?」
「そうだな。一緒に行こうか。そういえばゆっくり話すのは〈金色ビースト〉以来になるか?」
「いや、あの時もさほど話す機会がなかったから初めてかもしれない」
「そういえば……そうだな。俺も約1ヶ月で脱退してしまったしな。しかし、もうラウは俺たち〈エデン〉の仲間だ。今後は俺のこともメルトと呼んでほしい」
「では、そうさせてもらうよメルト」
元々Bランクギルド〈金色ビースト〉のメンバー同士だったが、仲はそこまで親しくなかった2人。しかし、風呂で何か通じ合うことがあったのか、メルトとラウが仲良しになっていた。
「うーん、これはあれだ。温泉ってすぐに移動するもんじゃないな。一つの湯にゆっくりと浸かるものだわ」
「そうですね。ゆっくりとゆったりするのはいいものです」
「珍しいな、セレスタンがそんなことを言うなんて」
「裸の付き合いですから」
「なるほど。……今度からたまには一緒に寮の大浴場に行くか」
「良いですね。お供させていただきます」
ゼフィルスとセレスタンは結局温泉にはゆっくり浸かることにした様子。
貴族舎には個人の風呂はあるものの、他にも大浴場という施設もある。
貴族の男子はあまり大浴場を使わないが、女子は結構な頻度で使う。
ゼフィルスたちもたまにはそこを利用することに決めたようだ。
「――そろそろ時間ですね」
「ん? もうそんな時間か。よし、出るか。俺はメルトたちを呼びに行くからセレスタンはサトルとレグラムの方を頼んだ」
「畏まりました」
ゼフィルスはセレスタンとの裸の付き合いが思いのほか有意義だったようだ。
いくつかの温泉に入って楽しんでいると、あっという間に時間が迫って来ていた。
まだ半分どころか4分の1の温泉すら入れていなかったが一旦上がる。また夜や、レグラムの言ったように朝風呂を楽しむという手もあるのだ。心残りもなく上がることが出来る。
装備に着替えて外に出ると、女子が戻ってこないうちに宿から借りたレンタル品の確認をする。
これは男子の役割だ。
この宿では秘湯巡りツアーや、仲間内で秘湯巡りをする旅客を支援するサービスが整っている。
ゼフィルスたちはそれを利用し、様々なレンタル品を借りていた。
秘湯は環境が悪いことも多いので着替えのための簡易テントなどは必須だ。
ちなみにこうやって秘湯巡りをする旅客は結構多い。
秘湯では温泉水を採集出来る他、周囲に採集ポイントが点在しており、ここでしか手に入らない素材も多い。
ゼフィルスの狙いもその辺りも含んでいる。
もちろん、ギルドメンバーが楽しむのが第一であるが。
「待たせちゃったかしら」
そして約束の時間ほぼジャスト。
装備に着替えた女子たちが温泉から出てきた。
「おお~。いや、時間ぴったりだ」
湯上がり女子たちに目を奪われるゼフィルスだが、それを悟らせることなく頷いた。
女子たちの一部が露骨になりすぎない程度にアピールするものだからゼフィルスも必死にキリッとする。
「むう、おかしいわね」
「ゼフィルス君、いつもと変わらないね」
「湯上がり姿を見せればそれなりに意識してもらえるという話は不発のようですわ」
「装備なのがいけないんじゃない?」
「やっぱりパジャマとかの方が良かったかな~?」
「いや、これからダンジョンだからね?」
「時間が足りなかったのではないかしら? やはりもっと火照って肌がプルプルになるくらい湯に浸かるべきだったのよ」
「じゃあこれからプルプルになるまで秘湯巡りだね!」
「はい。秘湯巡り、とても楽しみです」
そんな話が女子の間からこそこそと漏れるが男子たちまでには届かない。
ちなみにラナ、ハンナ、リーナグループ。サチ、エミ、ユウカグループ。カタリナ、フラーミナ、ロゼッタグループがヒソヒソ話していた。
なお、シエラとアイギスはゼフィルスとこれから行くダンジョンの軽い打ち合わせを行なっている。
実は湯上がり美少女軍団にガリガリと理性を削られているゼフィルスだが、そんなことは微塵も見せない。なんとか理性を削りきられる前に打ち合わせを終わらせて行動を起こした。
「よし、それじゃあ早速行くか! いざ、秘湯巡りへ!」
「「「「おおー!」」」」
クルッと半回転して後ろを向き、手を挙げてゼフィルスが宣言すると、みんなも周りの迷惑にならない程度に「おー」と返して出発した。
外は未だ一面雪景色だが、〈秘境ダン〉の温泉に入ると共通で『湯着』というスキルがしばらく付く。これは『耐寒』とほぼ同じ効果で寒さを感じなくなるスキルだ。上がってから2時間続く。
このスキルを発動しながら秘湯を巡り、効果が切れないうちに次の秘湯まで行き、またスキル『湯着』を延長して次の秘湯へ向かう。
それが秘湯巡りの醍醐味だ。
だが、〈エデン〉の秘湯巡りはちょっと特殊だった。
「よし、じゃあ〈イブキ〉を出してくれ」
「「「はい!」」」
ゼフィルスの指示でエステル、アイギス、ロゼッタ、がそれぞれ〈イブキ〉を出す。
なんと3台の〈イブキ〉がそこにあった。
全てが〈最上級イブキ〉である。
ガント先輩が頑張り、エステルの〈イブキ〉のアップグレードまで済ませてくれたが故の3台だった。
ここからは〈イブキ〉に乗って進む。
まず目指すは14層、〈湖温の秘湯〉だ。




