#1035 泊まりがけの温泉ツアー! 〈秘境ダン〉に出発!
1月10日。
今日はとうとう〈秘境の温泉ダンジョン〉、通称〈秘境ダン〉旅行の日だ!
帰省組には昨日ゆっくり旅の疲れを癒してもらい、俺は装備更新の後、数人のメンバーを連れて新しい〈最上級イブキ〉で〈嵐ダン〉の40層まで突破してきた。楽しかった。
生産組のアルルとハンナ以外はもう上級下位ダンジョンへの入ダン条件をクリアしている故の強行だ。
帰省組のノエルやレグラムなど、〈嵐ダン〉未経験者も〈イブキ〉に乗るだけならと参加した者もいた。彼ら彼女らが上級下位ダンジョンの攻略者の証を手にする日も近いだろう。
そんなこんなあったが、翌日に集まったみんなの顔は晴れやかだった。
元気いっぱいだ。
「さてみんな揃ってるな! 今日から泊まりがけで〈秘境ダン〉の温泉ツアーに行くぞー!! 準備は良いかーー!!」
「「「「おおー!!」」」」
場所は〈エクストラダンジョン門・特伝〉通称:〈エクダン〉。
市場と隣接しているためにわいわいガヤガヤと騒がしい場所だが、それに負けないよう俺は声を張り上げて盛り上げる。
「よし、ではしゅっぱーつ!」
すでに受付も済ませているので出発だ。
5つある門の内、温泉のマークの立て看板と、色々な温泉のポップが貼ってあったり「ようこそ温泉街へ 入口→」とか書いてあって、観光地アピールに余念が無い箇所にある門を潜ると、一面雪景色だった。
「ふわ、寒ーい!」
「真っ白です!」
「雪ー冷たーいのです!」
エリサ、フィナ、ルルが子どものように叫んでいる様子が微笑ましすぎる。
メンバーの半分以上がそれを見てほっこりしているぞ。
「みんな無理はしないようにな。無理そうなら〈耐寒のコート〉を貸し出すからな」
「「「はーい」」」
ちなみに〈耐寒のコート〉とはそのまま『耐寒』スキルの付いたコートである。防御力は紙だ。
なぜ〈ホカホカドリンク〉を飲まないのかというと、温泉に浸かったとき、〈ホカホカドリンク〉の効能が続いていると温泉を楽しめないらしい。
そのため宿に着くまではこうして装備で乗り切る。
ただ、冷え切った体に温泉の心地よさはまさに格別らしく、『耐寒』なんて邪道という観光者も多いらしい。なので欲しい人だけに配ることにしていた。
装備がかなり薄着のメンバーはさすがに最初からコートを着ているな。
「寒くは無いけど雪は冷たいのねこれ!」
「教官、雪を丸めて相手にぶつける競技があるそうですよ」
「えっとこう、なのです? とう!」
「はひたっ!?」
フィナの発言に早速雪玉を丸めたルルがエリサに投げていた。
エリサは一発ノックアウトである。
フィナ、今ルルを誘導してなかった?
「よくもやったわねー!」
「「きゃー!」」
ちなみにエリサはすぐ復活して微笑ましさに磨きが掛かっただけだった。
「まあまあ、雪で遊ぶのはとりあえず宿にチェックインしてからだな」
「宿は向こうね。行きましょうか」
「「「おおー!」」」
観光地らしくいくつもの看板が並んでいて迷わずに雪道を進める。
しばらく進むと大広場が見えてきた。
そしてそこは、温泉街となっていた。
いくつもの木造の宿、温泉マークの建物もいくつもあり、店では温泉にちなんだ商品、特にお土産屋さんがとても多く並んでいた。
「ここ本当にダンジョンの中なのかしら?」
「不思議ですね」
「エクダンの1層はなぜか人工物を置いても消えないからな」
〈迷宮学園・本校〉にある5つのエクストラダンジョンは資源ダンションとして知られている。
食料を始めとした、主に資源ばかりが採集できる特殊なダンジョンだ。
ここで入手出来る資源がこの世界を潤している。
そしてこのエクストラダンジョンにはもう一つ特殊な性質がある。
それが第1層に人工物を設置しても消えないという点だ。
基本的にダンジョンの中で放置されたものはそれが特定のアイテムや装備で無い限り時間経過で消えてしまう。
ダンジョンに取り込まれるとのことだ。
建物や加工前の鉱石類、食材やドロップなどは本当に日付が変わったら消えている。
そのため普通は人工物の長期的な設置ができない。
しかしエクストラダンジョンは第1層のみその性質が緩いのだ。皆無に近い。
つまり第1層のみではあるものの建物を建てることも出来るし、なんだったら町を作る事だって可能。
この世界のどこかではダンジョンに町を作って生活しているところもあるそうだ。
なぜ第1層のみなのかは定かではないが、エクストラダンジョンの本番は2層目からということだな。
〈食ダン〉の1層では学生が採集出来るエリア以外は柵で覆われていたが、あの向こうにはあそこで働く人たちの拠点があるそうだ。これは最近授業で初めて知った。
〈海ダン〉の1層はビーチとして解放されているエリアがある。モンスターがまったく出ない場所だな。
ただそういう場所は学園が管理しているし人も大勢居るので、俺たちはプライベートビーチ的な場所を確保したんだったな。あと幽霊船は1層では出てこない。
〈道場〉なんて1層は完全に受付と化している。あそこの1層は完全にモンスターが出ないので受付を置いてスムーズに各階層へ送ってもらえるよう管理されているのだ。
さらに受付の反対。塔の裏側にはまた特殊な施設が広がっているのだが、これはまたの機会に説明しよう。
そして〈秘境ダン〉では1層の一部を完全に温泉街にして観光業に精を出している。学園都市の外からここの温泉に入るために観光に来る人たちもいるのだ。
宿も3種類のグレードと学生向けの宿から選べるぞ。
「ゼフィルス、宿はどこかしら?」
「ああ、俺たちが泊まるのはあれだな。学生宿」
「学生さんが泊まる宿なのです?」
「高級宿じゃないの?」
「いや、実は俺も高級宿にしたかったんだが、人数的に部屋が取れなかった」
無念。
なんか、時期が悪かったらしい。冬休みだしな。
そりゃ約40人分の部屋を確保するのは難しいか。
ちなみに現在、〈エデン〉が30人、〈アークアルカディア〉が6人、あと身内のマリア、メリーナ先輩、サトル、アルストリアさん、シレイアさんで41人いたりする。
大所帯なので元々ギルド単位で利用することを前提にされている学生宿に行くしか無かったのだ。
あ、ちなみに〈エデン店〉は臨時休業だぞ。
「ここが学生宿ね」
「大きいですね。それに綺麗です」
学生宿だからといって舐めてはいけない。
エクストラダンジョンの入ダンには結構なQPが掛かる。
つまりそれだけいい宿なのだ。そして学生向け宿なので学割が利く。お値段は安く、施設は大きく、綺麗で清潔。温泉もギルド単位で入ることを前提に作られているためすんごく広い。
ちなみに部屋は男子と女子で当然のように分かれており、貴族舎に近い感じで上の階が女子専用フロアとなっていて、男子は進入自体が不可となっている。
なお、高級宿は普通に男女相部屋もOKだ。
だからどうしたという話だけどな。シエラが絶対にそんなことは許さないだろう。
許されなかったので学生宿になったというところも少なからずある。
早速チェックインを済ませると全員に鍵を配った。
男は6人しかいないので1部屋だ。
女子は35人いるので6部屋。なお、全ての部屋に隣の部屋へ続くドアが設置されていて行き来できるらしい。すごいな学生宿。
「さて、荷物置いたらまずは入浴するか!」
「だな。外は冷えた」
「俺も異存は無い」
「では入浴の準備をしましょう。荷物は各自纏めておいてください」
「あ、じゃあ俺こっちー」
「承知した。では、俺はこの辺に置かせてもらおう」
男6人だ。部屋は和風の畳部屋だった。いいね、修学旅行って感じがするぜ!
俺の提案にメルトとレグラムが同意すると、セレスタンが指示を出してくれた。
それぞれその辺に荷物を置く。サトルとラウは隣同士のようだ。なんか仲が良いな。
荷物を置いたらお風呂道具を持って出発だ。
ここの温泉、すっげぇ楽しみにしてたんだぁ。
まずは宿の温泉を堪能する。ダンジョンの先、秘湯巡りに行くのはそれからだ。
俺たち6人はワクワクしながら温泉へと向かった。




