#1034 装備更新! これで全員上級装備だ!
ルキアの〈上級転職〉が終わると、そのままBランクギルドが並ぶ〈B街〉にあるマリー先輩の店へと向かった。
「マリー先輩いるか~」
「いるよ。奥に行って」
「あいよ~」
新しくなった店に入ると、あの眠たげな先輩ことメイリー先輩が珍しくシャキッと起きていて店の奥へと指さした。
今日の店番は彼女らしい。
「うわ~、なんかすごいねここ。大盛況じゃん!」
「いやほんと。これはゆっくり新店を見る余裕も無さそうだな」
リニューアルオープンした〈ワッペンシールステッカー〉は現在、大盛況だった。
そこら中で押し合いへし合い、「俺なら◯◯出す!」「いいや俺なら◯◯出そう」と装備が競りのように取り合いになっているところもあった。レジの人は大変そうだ。
なお、メイリー先輩は接客なのでレジではない。メイリー先輩だとレジの最中に寝てもおかしくはないからだろうか? と想像してみる。
商売繁盛している理由は言わずもがな。あの五段階目ツリー開放ダンジョンの解放、のおかげだ。
それと〈エデン〉が今ドカンと上級装備を放出しまくっている影響で〈ワッペンシールステッカー〉も競うように貯め込んだマリー先輩の作品を放出しまくっているのだ。
リニューアルという話題性も手伝ってこの大盛況具合となっているのだろう。マリー先輩以外のギルドメンバーがほぼ全員出動しているな。
冬休みなのにご苦労様です!
心の中で労ってルキアと店の奥へと進む。
ここは商談用の個室みたいなところだ。Bランクギルドともなればそういう個室も作られているのだ。……〈青空と女神〉には無かった気がするが、はて?
それはともかく、まっすぐとある部屋へ向かうと扉を3回ノックする。
すると扉が開かれて、中から顔を出したのは、なぜかハンナだった。
「あ、ゼフィルス君。いらっしゃい」
「おう。来たぜ」
まあ、そういうこともあるよね。
冗談だ。今日ここに来たのは装備の更新のためだからだ。
俺とルキアが個室に入ると、〈エデン〉のギルドメンバーが何人も揃っていた。
「兄さん来たか。準備出来てるでぇ」
「おう。じゃあルキア、いってらっしゃい」
「うん!」
「あ、ルキアさん、〈上級転職〉おめでとう~」
「何に就いたのですか!?」
「えへへ、私が就いたのは【先駆の時兎】だよ!」
「「「「おおー! 〈上級転職〉おめでとう~!!」」」」
みんなに祝われて照れるルキアだが、満更でも無さそう。
そのまま奥の別の部屋へとマリー先輩と共に消えていく。装備を装着するためだろう。
「ささ、ゼフィルス君入って入って~。みんなゼフィルス君に見せたがってるんだからね~」
「新装備をお披露目よ! 見てご主人様、私の可愛いフィナちゃんを!」
「私は別に姉さまの物ではないです。ですがそれとは別にどうでしょう教官」
部屋に入ると、浮ついた空気が待っていた。
実は本日装備を更新するのはルキアだけではない。
上級職に就いたのはいいが、それで攻略が出来る程上級ダンジョンは甘くはない。そしてエクストラダンジョンの〈秘境ダン〉は上級ダンジョン並に強いモンスターが登場するのだ。
そのため温泉に行く前に上級装備を着用していないメンバーは装備を更新することになっていた。
もちろんその準備は〈秘境ダン〉に行くことが決まったときから着々と進められていて、マリー先輩も帰省組の帰還に合わせて作製を終えてくれたのだ。感謝だぜ。
そしてトップバッター。まず俺の前に立ち、装備を見せるのは【ミカエル】に就いたフィナだ。
フィナの戦い方は空中戦。
空を自由に駆け回り避けタンクとしても活躍する。そのため分厚い装備やヒラヒラした感じの服は枷になるということで、キュっと引き締まった感じの装備だった。
白と青をベースにした服装備。所々小さなベルトのようなもので体にキュッとフィットさせている。スカートではあるものの、黒系のレオタードのような服を下に着ているので見えても恥ずかしくないらしいが……これは果たしてセーフなのだろうか?
あと、胸当て、肩当て、そして膝の側面には青をベースにしたアーマーを付けている。
この装備、それ以外に金属は使われていないのだが、一応〈軽鎧〉の分類となりかなりの防御力を持っていたりする。
その名も〈天嵐聖銀シリーズ〉。
〈軽鎧〉だが素早さに大きく補正が掛かるシリーズ装備だった。
さらにシリーズとは別にMPの自然回復や、MP自動回復効果持つアクセを身に着けている。
空を飛ぶとMPが継続で減っていくため、その対策だ。
「ああ。よく似合っているぞフィナ。前よりもこっちの方が断然可愛いな」
「やりました」
小さい見た目のフィナがフィットする感じの服装備を着ればもっと小さく見えて可愛い。
思ったまま伝えてみたら、すごく真面目な顔で嬉しがっていた。
「では、ゼフィルスさん、私の装備も見ていただけませんか?」
「もちろんだ」
続いて来たのはカタリナだった。
カタリナはドレス風装備から一転。キャビンアテンダントにも似たどこか船長を思わせる改造服装備を着ていた。
【方舟姫】だからか、それに合わせてきたものと思われる。
女司令官、というより副官風。スーツっぽい服に鍔付きのしっかりとした作りの帽子を被っている。
その名も〈秘書艦長シリーズ〉装備だ。
秘書なのか艦長なのか、つまりは秘書風の艦長だ(?)。
「おおお~! カタリナはお姉さんっぽいな! すっごく綺麗で似合ってる」
「やりま――うふふ。そう言っていただけますととても嬉しいです」
一瞬フィナみたいな言葉とポーズを取るのか思ったが、よく見ればお淑やかに片手を口に当てているカタリナがいた。どうやら気のせいだったらしい。カタリナはとてもお淑やかなのだ。
「では次は私をお願いします」
「おお! ロゼッタはすっごく騎士って感じだ! これはかっこいいなぁ! 性能も良さそうだ!」
「ありがとうございます」
カタリナの次に見せに来たロゼッタは、もうすっごく騎士だった。
シエラよりも大きな大盾を持ち、長剣を腰に差している。
体は全身が鎧に覆われる勢いで装備されていてとても硬そうだった。
白をベースにしており、神聖さが体から溢れ出しているかっこよさがあった。
これは〈聖法騎士シリーズ〉。実はトモヨもいくつか装備していたりする。タンクにはぴったりな装備シリーズだ。
三者三様、どれも違ってどれも良い。
きっとこれまで以上に活躍してくれるだろう。
俺がフィナ、カタリナ、ロゼッタと話し込んでいると、奥の扉がガチャリと開いた。
「終わったでぇ。ルキアはんの装備もお披露目や」
「「「「おお~」」」」
「いやぁ~、これ照れるよぉ~」
そう片手で顔の半分を隠しながら登場したのはルキア。
その装備はバニーガール、なわけもなく。しかし、カジノにいるディーラーのようなピシッとした感じの服装備だった。
チョッキ部分の右半分が橙色、左半分が濃い緑色系になっていて、今にもポーカーを始めそうな雰囲気を持っている。頭にウサ耳があるのでなんとも言えないくらい似合っていた。
さらに体の至る所に懐中時計のようなアナログ系の時計が付けられていて、割とかっこいい雰囲気を醸し出している。
これは〈激走時計シリーズ〉といって、このスーツっぽい見た目に反し、かなり移動系に補正が多い装備シリーズだ。
結構強いんだぞ。見た目はディーラーだが。
走っている姿もかなり映えるんだ。
「時」の漢字が全装備に入っていないせいでこれ着て【先駆の時兎】の条件を満たせないのが玉に瑕。
さて最後にラウの装備だが。
「俺はいいだろう。だが、見たいというのならばよく見れば良い」
「ラウがツンデレになってる!」
ラウの装備は虎だった。虎の雰囲気と虎模様をあしらった服装備で、鎧にも見えるしローブにも見える。服にいくつかの鎖が巻き付いているのがアクセント。
なぜか模様が揺らめいて見えることもある。さらには電撃っぽいものが体に時々ビリビリと現れては消えていた。ワイルドだぜぇ。
これはかっこいい。ラウが普段は見せないポーズを取ってまで良いという理由が分かるというものだ。
これは〈虎幻獣雷シリーズ〉。
素早さ、移動速度の他に、拳系での威力上昇効果を持っている装備だ。
ラウだけ下級職ではあるものの、この装備シリーズを着ていればそこそこ戦えるだろう。
後は無理をさせなければ浅い層なら活躍出来るはずだ。
「どや、兄さん?」
「ああ。さすがはマリー先輩だ。良い仕事をするぜ」
マリー先輩がドヤるのも分かる。むしろどんどんドヤってほしいまである。
やっぱりコーディネートならマリー先輩にお任せだな!
アルルも後でいっぱい褒めておかないと。
これでとりあえずのお披露目は終わった。
さて、では俺たち男子組はこれにて解散するとしよう。いや、いっそダンジョンに行くのも良いかもしれない。
女子はこれからもうちょっとマリー先輩の店ですることがあるのだ。
俺とラウは、その日の後半、一緒にダンジョンへ向かうことにした。




