#1025 〈フルート〉流ボス周回! 至れ五段階目ツリー!
シエラと分かれた後も女子メンバーと学園中を巡った。
時には2人きりで、時には4人で。
おかげで最後は腹が破裂しそうになった。
危うく腹一杯で動けず、寮に帰れないところだった。
あ、危ねぇ。
その翌日からはまた合同ギルドでダンジョン攻略だ。
すこぶる順調なおかげでみんなの士気が高く、変わらない景色の〈岩ダン〉でもすいすい進んでいく。
「ゴアアアアア!!」
「ガオオオオオオオ――『ガオークラッシュ』!」
ブチンッ!
「ゴオオオ!?!?」
あ、またガルゼ先輩がゴーレムを引き裂いてる。
あの引き裂き技、相変わらず強すぎるぜ。
というかライオン顔で吠えると迫力がヤバいぜガルゼ先輩は。
あの顔で吠えられながら接近されて腕をブチンッと捥ぎ取られたゴーレムはもう大混乱だろう。
「ガーハッハッハ! 上級ダンジョンも中々楽しいじゃねぇか!」
「ガルゼが先頭で掴まえてくれるから後ろが楽だよ」
「本当にここが上級ダンジョン、それも後半なのかと忘れそうになるのじゃ」
「まったくだよー! ここまで楽ちんとか、今まで苦労していたのがなんなのって感じちゃうよね~」
ガルゼ先輩がまだ変身中のライオン顔で笑い、ユーリ先輩が苦笑しながら同意し、ヨウカ先輩とカノン先輩もそれに続く。
そりゃ、次の階層門の当てもなく探索に時間掛けて、いろんなメンバーに注意を払いながら進むのと。超少数精鋭、学園のトップメンバーズでダンジョンに挑むのでは雲泥の差だろう。
ガルゼ先輩は自己バフからのインファイタースタイル。
ステゴロでぶん殴り、時には組み合うなどして押え、そして引きちぎる戦術でモンスターを圧倒していた。
組み付いたりして動きを押え、ライオンの口を開けて衝撃波を放つ獅咆でドバンッした時はテンション上がっちまったぜ。なにあれ? かっこいいんだけど!
ボスの動きまで押えられるものだから擬似的なタンクまでこなせる。これはどういうスタイルなんだろうなハメタンクか、あるいは押えタンクか。
ユーリ先輩は前と同じアタッカースタイル。この濃いメンバーの中で一番の火力を出しているのは相変わらずすごい。
次に火力が高いのが魔法使いのヨウカ先輩。〈ヘカトンケイル〉戦でもチラチラ見えた大火力の炎で燃やすこともあれば、変幻自在に形を変え、一点集中の刃に変えることも出来る。全体攻撃級の炎を圧縮して一本の刀にして振るった攻撃はロマンがいっぱいだった。
カノン先輩は相変わらず操剣で物量攻撃スタイル。たまに自ら斬りに行っているが、大体は剣を操っての中距離遠距離攻撃による刺突がメインだ。
これがまた強い。エステルのスラスト砲に通じるところがあると言えば、どのくらい強いかが想像付くだろう。
あと装備もみんな良い物を揃えてきていた。
ガルゼ先輩なんて、あの腕に付けているのはユニークスキルのクールタイムを軽減してくれる〈クーラーユニークアームレット〉だぞ? どこで手に入れたんだ?
聞けば〈山ダン〉のレアボスから〈金箱〉でドロップしたのだそうだ。
マジかよ、やるなガルゼ先輩!?
さらにはミミナ先輩なんて俺と同じく〈金猫の小判〉を装備しているし、ミミナ先輩の職業【幸福の光猫】はドロップ判定に幸を呼ぶスキルも持っている。〈金箱〉が当たりやすくなるわけだ。
〈獣王ガルタイガ〉に良いアイテムや装備が集まっているのは、ミミナ先輩の活躍が大きかったのかもしれないな。
そのおかげで、ガルゼ先輩はずっと変身しっぱなしだ。
効果が切れても数秒でまた変身できるのがヤバい。また〈エデン店〉で買った〈エリクサー〉も多く常備しているようだ。
そして常に先頭で戦うガルゼ先輩のおかげで31層という、上級ダンジョンの折り返しにたどり着いたのにほとんど進行スピードが落ちなかった。
「なるほど。〈エデン〉では常にこの感覚で上級ダンジョンを進めているのだな」
「そら攻略スピードが段違いのはずやわぁ」
「そうなると〈エデン〉はいったいどれほどの戦力を持っているのでしょうか?」
「お願いしますから。〈エデン〉は傭兵業とかやらないでくださいね?」
キリちゃん先輩が納得したように頷き、ハクが呆れたように俺を見る。ソトナ先輩が困ったような表情をすると、ミミナ先輩はそれを聞いて傭兵業をやらないでくれと頼み始めた、なぜかシエラに。
ミミナ先輩、まさか〈エデン〉をコントロールしているのはシエラだと思っていないか?
「しかし、ゼフィルス君たちはいったいどこまで攻略したんだい? もう折り返しに到着したっていうのに巨石が落ちているんだけど?」
「さて、どこまででしょう」
ユーリ先輩の言葉を適当にはぐらかす。
まだ言う時ではない。一生言わないかもしれないけど。
そんな感じですいすいと32層への階層門を潜った。
ちなみに後方の〈救護委員会〉と〈ダンジョン攻略専攻〉のメンバーたちだが、しっかり付いてきているぞ。
やっぱりカイリとオスカー君のスキルがとても優秀。向こうはほとんどエンカウントしていないみたいだ。
俺たちもエリアボスを見つけてもらって、近ければどんどん狩ってるからな。
とても助かっている。
32層で一息入れ、オスカー君にエリアボスを探してもらう。
「今度の混沌はあっちです」
「階層門がある方角と反対側か」
「なに? ゼフィルス、どうする?」
「今回は階層門に直接向かおうか」
「構わないよ~」
オスカー君の探知に落胆するメンバーたち。階層門の方向と反対側だと、戻ってくるときにちょっと萎えるのだ。士気は削りたくないのでそのまま次の門へ行くことにした。
すぐに33層だ。
ユミキ先輩は俺たちに付いて来つつ、出来る限りこのダンジョンを丸裸にしてしまおうと〈メビウスの輪〉をそこら中にばらまいている。
頑張ってほしい。
「ガオオオオオ!」
あ、またガルゼ先輩がブチンッと引き裂いてる。
あれが目の前でされるとモナが超ビクビクするんだよな。
大丈夫だ。モナ、あれはガルゼ先輩だ。本物のライオンじゃないから。
「そういえばモナ、成果はどんな感じなんだ?」
「あ! それがすごいんですよゼフィルスさん! なんと〈結晶〉や〈宝玉〉がすんごく採れるんです!」
モナがすごいすごーいと手を広げてどれだけすごいのかをアピールしてくるが、可愛いとしか思えない。本当に男なのかなモナって?
実は当初、モナは女子だと思われていたようで〈罠外課〉のトオル先輩がアタックを掛けちゃったんだよなぁ。まあ、女装しているのでさもありなん。
結局ユミキ先輩がモナが男の子だと暴露してトオル先輩が膝から崩れ落ちたんだ。
「男? 男なの? こんな可愛いのに? 嘘だろ?」
「い、いえ、こんな格好ですが、男です」
「お、俺は男にアタックしてしまったのか……」
「ナンパなんてするからよ。ここでは真っ当にいなさい」
「な、ナンパじゃないんだ。ちょっと仲良くなりたかっただけなんだ……」
そんなやり取りがあってからしばらくトオル先輩がモナをチラチラ見ては溜め息を吐いていた。うむ。気持ちは理解出来る。そっとしておこう。
モナは一通りはしゃいだ後に〈空間収納鞄〉から様々な〈結晶〉や〈宝玉〉を見せてくれた。
モナの気持ちは分からんでもない。〈結晶〉や〈宝玉〉というのはつまり〈上級転職〉に必要なアイテム。言うなれば〈上級転職チケット〉と同列の存在だ。
そして上級ダンジョンだとその採集効率がとんでもなく上がるのだ。
それに高く売れる。
モナが大はしゃぎする理由も分かるというものだ。
ちなみにソドガガも口の端が上がっている。
シグマ大隊長はモンスターが〈ダンジョン攻略専攻〉を襲ってきたときの護衛だが、カイリがいるので襲われることはほぼ無い。暇だろうと思うのだが、周りを警戒する視線には一切の油断無し。すごい大人だ。こうありたいという目標だな。
それからさらに3日経った。
1月5日だ。おそらく、今日がこの合同攻略の最終日となるだろう。
この道中、俺はとあるアイテムを解禁していた。
それは〈フルート〉。
エリアボスを呼べるアイテムにして、周回が可能というスペシャルアイテムだ。
つまりは周回を教えたのだ。〈フルート〉の回数限定だが、エリアボス周回が出来るという事実は凄まじく、この場でレベル上げをすることになった。
今日は昨日の続き、ショートカット転移陣で55層に転移してからレベル上げ。
〈岩ダン〉55層のエリアボスは〈周辺警備機械・アビゾン改Ⅲ〉。
〈アビゾン〉系はこれまでもエリアボスで何度か登場し、〈アビゾン〉〈アビゾン改Ⅰ〉〈アビゾン改Ⅱ〉など、徐々にパワーアップしながら登場してはプレイヤーを楽しませてくれた。
八脚型の足に人型の上半身を持ち、剣術から砲撃まで様々な攻撃をしてくる機械兵だ。
パワーアップする度に装備が豪華になっていく仕様で、〈アビゾン改Ⅲ〉になると巨大なバックパックみたいな物を背負い、大型でビーム砲をぶっ放すこともできるロングビームソードを二つ装備しているロマン機械兵になる。
そしてドロップも美味しい。
55層にショートカットで転移して守護型ボスの〈最終防衛機械・ムテキン〉をはっ倒し、〈アビゾン改Ⅲ〉を周回して狩りまくった。〈フルート〉の回数が無くなれば帰還して、〈上下ダン〉に臨時の店を構えることになったレンカ先輩が〈フルート〉を即回復してくれる。そしてまた55層に戻ってボス狩りだ。これを繰り返した。
これぞ上位トップギルドたちのチームワーク。
レンカ先輩は「レベルが上がるよ!」と喜んでいたよ。目は濁ってたけど。
「いやしかし、まさかこんなアイテムがあったなんて驚いたよ」
「ですね。レベルの上がりもこんなに早いだなんて」
「これが〈エデン〉の秘密ですか。うちにもありませんよこんなアイテム」
「というか未発見アイテムじゃろこれ」
ユーリ先輩、ソトナ先輩、ミミナ先輩、ヨウカ先輩が〈フルート〉を前に唸っていた。
まあ誰も持ってはいないだろう。だって〈フルート〉は上級ダンジョンでしかドロップしないアイテム。それもレアボスか希少ボス、徘徊型からしかドロップしない上級中位級の激レアアイテムなんだから。
さて、俺たちはなぜこの55層に留まりレベルを上げていたのか?
それはね、この55層のエリアボスでも上限である上級職LV30まで経験値がもらえるからだ。
そして連日のエリアボス周回により、ついにユーリ先輩たちは至ったのだ。
そう、五段階目ツリーが開放される――LV30に!
「がはははは! ゼフィルス、おいゼフィルス! これはスゲぇぞ! がはははは!」
ガルゼ先輩はさっきからこの調子で俺の背中を叩きまくっている。ライオンの顔で。
「これはすぐに使ってみたいのじゃ。というか使ってやるぞぃ、次は妾にやらしてたもれ!」
「むう、ヨウカ先輩だけずるいわぁ。うちなんかまだLV20やで?」
「こればっかりは仕方ないのじゃ。精進するのじゃハク」
ヨウカ先輩もLV30に至ってにんまりしている。ハクは上級職には至っていたものの、〈岩ダン〉に入ダンしたときまだLV6だったそうなのでまだまだ経験値が足りていない。
珍しく唸りながらヨウカ先輩に羨ましい視線を送っていた。
「ちょ、これ見てよキリちゃん! すごい! すごいよ! 千剣が形状変化するんだって! なにこれ!?」
「落ち着けカノン。見てと言われても他人のステータスは見れないだろう? とはいえ気持ちは分からんではない」
こっちではカノン先輩が大はしゃぎ中だった。キリちゃん先輩もLV30に到達しているのでその表情はとても良かった。
「いいわねなんだか。ゼフィルスが他のギルドをここに連れてくると言ったときはどうなることかと思ったけれど。この雰囲気、好きよ」
「みんな未知の五段階目ツリーに至ったからな。つまりは先駆者だ。だがそれ以前に五段階目ツリーに至ったことが嬉しくてたまらないのさ」
「そうね。ゼフィルスが教えたがっていたことも、少しは分かる気がするわ」
シエラは五段階目ツリーに至ったみんなを見て少し嬉しそうに微笑んでいた。
シエラにはいつもお世話になっています!
「まあ、これからが心配なのだけど」
「今は忘れていてもいいと思うんだ」
五段階目ツリーを開放した人材がたくさん生まれました。
それがどんな波紋を生むのか、そういうのは全部ユーリ先輩に任せれば良い。
そういう意味でもユーリ先輩には表立ってほしくて連れてきたんだからな。
「ユーリ先輩には頑張ってもらおう」
「……そうね」
ということで問題は解決。
「よし、続きだゼフィルス! もういっちょボスを狩ろうぜ!」
「賛成じゃ。もう一度ボスのポップを頼むのじゃ」
「オーケー! んじゃもういっちょ〈フルート〉を使っちゃうぜ!」
五段階目ツリーに至ってワクワクが天元突破した要望を聞き、〈フルート〉を吹こうとしたときだった。
「ん? なんか揺れてないかい?」
ユーリ先輩の言葉にみんなピタリと停止した。本当だ、というか『直感』が囁いてくる!
こいつはあれだ!
「混沌が、来る!」
「ストップ! みんな聞いてくれ! 徘徊型が来るぞ! 迎撃準備!」
「なにぃ?」
「カイリ! 非戦闘員を全員連れて離れろ!」
「任せて! 『パーティインビジブル』! 『痕跡隠蔽』!」
この揺れは徘徊型の〈アーシーゴーレム〉がやってくる前兆だ。
徘徊型というのはどこも最も警戒すべきボスで、俺の言葉に全員が素早く臨戦態勢を取った。
参加させるのは10人に絞りたいため、カイリには離れて隠れてもらう。
「面白いわ! 妾の新しい魔法、叩き込んでくれるぞ」
「私も私も! すんごいの見せちゃうんだからね~!」
しかし、あの徘徊型が来るというのにみんなの表情はキラキラしていた。
だって五段階目ツリーの試し撃ちの相手が自ら来てくれるんだもんね。
そして数秒するとそいつは地面を隆起させて現れた。
「オオオオオオオ!!」
大地と見間違うほど巨大なゴーレム。否、むしろ大地そのもの。
徘徊型ボス――〈アーシーゴーレム〉の登場だった。
後書き失礼いたします!(お知らせ)
〈ダン活〉小説第6巻の発売まで残り1ヶ月となりました!
現在ご予約受付中です!(小説第6巻は8月10日発売!)
また、ブックウォーカー様で購入していただいた方への特典SSの内容が決まりました!
タイトル:〈転職〉成功者の周囲の反応。(リーナ視点で約5000字)
【姫軍師】に〈転職〉したリーナが翌日登校したら、なぜかクラスメイトたちがみんな知っていて取り囲まれちゃったから始まりリーナ父が度肝を抜かれるまでの話。
「公爵」の遠距離通信手段やリーナの公爵家の名が判明するなど、気になるという声が多かった、本編にはまだ登場していない情報もいくつか記載してあります。
宜しかったらご購入いただけると嬉しいです!
これからも〈ダン活〉をよろしくお願いいたします!




