#1020 〈上下ダン〉に学園上位勢たちが大集合!
その日の午前中は、色々あった。
――フラーラ先輩。
二つ名を〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉といい、学園内外では有名なぬいぐるみ職人だ。
現在3年生で〈生徒会〉の生産副隊長代理を務めており、生産職の中でも屈指の実力者と名高い。
〈エデン〉の〈助っ人〉で来ている唯一の男子、サトルのお姉さんでもある。
彼女が作ったぬいぐるみは学園内外では非常に高額で売買がなされ、少し前まで注文が殺到し、あまりの注文の多さにフラーラ先輩が身を隠す事態にまでなったというのだから驚きだ。
ちなみに〈エデン〉では〈幸猫様〉を守るガーディアン、〈特製もちもちモチッコぬいぐるみ〉がフラーラ先輩の作品の一つだ。これが切っ掛けでリカをスカウト出来たので〈エデン〉はちょっとした恩がある。
さらに〈生徒会〉所属なのでハンナと面識、というかかなり強い繋がりが〈エデン〉にはあった。突如〈上級転職チケット〉を持ち込んでも不自然ではない(?)くらいの繋がりが。
ということで午前中はフラーラ先輩のところに向かい、ハンナとサトルと、なぜかルルの猛烈な説得によって折れたフラーラ先輩を無事、【ぬいぐるみ職人】の上級職、高の下、【マギドールメイカー】に〈上級転職〉することになった。
上級ぬいぐるみレシピとその他諸々いろんなレシピがプレゼントされ、レベル上げから始めるとのこと。
が、がんばってほしいなぁ。ルルが目をキラキラさせているから。
フラーラ先輩は「〈生徒会〉の引き継ぎもほとんど終わって冬休みは時間があるからな。頑張って作るのじゃ」と割と気軽に請け負ってくれたのは幸か不幸か。
気にしないようにしようと思う。
そしてやってきました今日の午後。
ざわめく〈上下ダン〉の空気を肩で切るようにして歩いて行くと、奥にはすでに〈獣王ガルタイガ〉や〈千剣フラカル〉、〈百鬼夜行〉のメンバーがいた。
他にもモナたちやカイリ、〈救護委員会〉のシグマ大隊長の姿も見える。
「お、この企画を考えた主催者さんのご到着だな」
ガルゼ先輩がそんな冗談を言ってこちらを見ると、それに釣られるようにして周りにいる人たち全員の視線が俺を捉えた。
うう~ん。気持ちいい。
今俺は、とてつもない有名人になった気分だ。
「気を引き締めてよゼフィルス」
「もちろんだ」
後ろに続くシエラから小声で注意されたので振り向かずに答える。
さすがにいつものメンバーと同じようにとはいかない。だが、このワクワクの気持ちは止めがたい! 頬が少し緩んでしまうくらいは許してもらおう。
「お待たせ。ちょっと遅れてしまったか?」
「いいや。俺たちは単純にワクワクした気持ちを止められずに早めに来ちまっただけだぜ。がははは!」
「それはガルだけでしょう」
「あ、ミミナ先輩。ガルゼ先輩のお目付役ですか?」
「おいおいゼフィルス、そりゃどういう意味だ?」
「こんにちはゼフィルスさん。ご無沙汰してます。お察しの通りです。ガルが何かしでかさないよう、まあ見張りとでも思ってください」
「了解」
「おいおいミミナそりゃねぇぜ。俺が何をしたって言うんだ?」
まずは〈獣王ガルタイガ〉組に挨拶。
メンバーはギルドマスターのガルゼ先輩。そしてカルアと同じ部族出身のミミナ先輩だった。ミミナ先輩はやはりガルゼ先輩のフォローをメインに来たっぽい。
「なんだかガルゼ先輩ってあなたと同じ空気を感じるわね」
「?」
ガルゼ先輩とミミナ先輩と話している俺の後ろでシエラが妙なことを言っていた。
振り向くとなぜかジーッと俺を見つめるシエラが。はて、どうしたのだろう?
「相変わらずミミナとガルゼは仲いいのう。――〈エデン〉も今日はよろしく頼むのじゃ」
「ヨウカ先輩、こちらこそよろしく」
「うむ。あとこちらも紹介しよう。と言っても知り合いとのことじゃが、1年生のハクじゃ」
「ゼフィルスはん、よろしゅうたのんます」
「おおハクか、1年生でこのメンバーに参加するなんてすごいな。こちらこそよろしく。――ヨウカ先輩に紹介するが、うちのタンクのシエラだ」
「よろしくおねがいします」
「こちらこそじゃ」
〈百鬼夜行〉はギルドマスターであるヨウカ先輩とクラスメイトのハクだった。
どうやら大罪持ちと学園では名高いサブマスターさんや、他の腕利きは帰省組とのことで、将来性のあるハクが選ばれたのだと教えてもらった。
「私たちも挨拶をいいだろうか?」
「キリちゃん先輩! もちろん構わないぜ」
キリちゃん先輩を見るとテンションが上がるのはなぜだろう。
「やーゼフィルス君昨日ぶりだね~! 今日はよろしくね」
「カノン先輩もよろしく! あと紹介するな、うちのタンクのシエラだ」
「シエラよ。よろしくおねがいします」
「! あなたが〈操盾のシエラ〉さんか~! 一度会ってみたかったんだよ! よろしくね」
「私もよ〈千剣姫カノン〉先輩」
〈千剣フラカル〉の方は事前に話していたとおりギルドマスターのカノン先輩とサブマスターのキリちゃん先輩が参加だ。
できればリカを連れてきたかったが、シエラを見たカノン先輩が目を輝かせていたし、これでよかったのかな?
どうやら自在剣と自在盾を操る者同士、色々語り合いたいことがあった様子だ。
「ね、ねえゼフィルスさん」
「お、モナか。今日はよく来てくれたな」
「う、うん。おかげさまで学園から直接指名依頼が来てね」
俺の右手の裾をいじらしく引っ張ったのはモナだった。相変わらずの男の娘ムーブ。
その後ろには腕を組んで微動だにしないソドガガもいた。
モナとソドガガは上級職になったからな。上級ダンジョンの探索に声が掛かるのは当然だ。推薦したのは俺だけど。
「で、でも~。ここまですごいメンバーが揃うなんて、僕心臓が破裂しちゃいそうだよ」
なぜだろうか、モナがそんなことを言うと突然ラブコメ臭がする気がする。気のせいかな?
モナの格好がまた女装なのが拍車を掛けていると思う。
「まあ、頑張れ。そのうち慣れるさ」
そう言って励ましておいた。だが、基本的に俺たちの攻略に付いてくるだけで、さらに〈救護委員会〉が基本面倒を見るということになっていたから別行動かもしれない。どうなるのだろう?
「ハローゼフィルス君」
「おお! ユミキ先輩!」
「私もいるよ」
「カイリもお疲れ~。ってそういえば聞いたぜユミキ先輩、カイリのお姉さんなんだって?」
「知ってしまったのね。情報料は100万ミールよ」
「情報料高っか!?!?」
「もちろん冗談よ」
続いて話しかけてきたのはユミキ先輩とカイリ。
まずはジョークでコミュニケーション。ユミキ先輩は相変わらずなんだぜ。
いや、改めて見ると確かに似てるな。
髪の長さは全然違うけど、色は同じだ。
ユミキ先輩は腰まで伸びる長い髪なのに対し、カイリはスポーツ少女で短めのショートだからな。
印象がガラリと変わって気が付かなかった。
しかし、スタイルはどちらもスラリとしていて、見比べてみるととてもよく似ている。顔つきもどことなく共通点が多かった。
「まあ、知られてしまったのだからお礼を言わせてねゼフィルス君。カイリの面倒を見てくれてありがと」
「ユミキ姉!?」
「この子ったら〈アドベンチャーズ〉で燻ってたでしょ? ゼフィルス君が引き取らなかったらこっちで面倒見るところだったのよ」
「ちょ、恥ずかしいなもう。そういうことは言わないのがお約束でしょ!?」
思わぬ保護者発言に焦るカイリだったが、ユミキ先輩は止まらなかった。
「そして今は上級職に〈上級転職〉して〈救護委員会〉でなくてはならない存在になっている。全部ゼフィルス君のおかげよ」
「いや~それほどでも」
「うわあやめてやめて! せめて人の居ないところでそういうこと話して! 私がいたたまれないから!」
「そうね。まだまだ話したいけれど、ここまでにしましょうか」
「それがいいな」
「それじゃあ今度は時間があるときに2人で話しましょう。話したいこといっぱいあるのよ」
「なんかユミキ姉にだしに使われた気がする! シエラさんにチクってやる!」
「あ、カイリそれはダメよ。やめなさい、こら」
どうやら姉妹仲は良好なようだ。
ぷんすこしたカイリがシエラの方に行ってしまいユミキ先輩が追いかけていくと、続いて〈救護委員会〉のシグマ大隊長がやってきた。
「ゼフィルスさん、なんだか久しぶりですね」
「シグマ大隊長こそ。ご無沙汰しています」
俺たちはグッと握手を交す。
シグマ大隊長は〈キングアブソリュート〉所属にしてクラスメイトでもあるラムダのお父さんだ。
「カイリさんの延長の件、誠に助かっています」
「まあ、こっちが撒いた種ですからね」
これは〈岩ダン〉の調査依頼の話だ。
ランクが上のダンジョンを安全に進むにはカイリの職業の力が必要だった。
俺たちが〈岩ダン〉から帰還したところを見られたおかげで学園は指名依頼を出し、〈岩ダン〉を調査しようとしたが、ここでカイリの力が必要となる。
俺としても〈岩ダン〉で学生に五段階目ツリーに至ってもらうのは目的に沿うので許可を出した形だ。カイリも〈救護委員会〉をもうちょっと続けたがっていたからな。本人の希望もあった。
「それと今日の予定なのですが」
「何か変更がありましたか?」
「いえ、特にありません。ゼフィルスさんたちは通常の攻略を、我々はその後を勝手に追わせてもらいながら調査をする予定です。具体的にはこれが計画書となります」
「拝見します」
〈救護委員会〉や〈ダンジョン攻略専攻〉の面々は要は俺たちの攻略に便乗する形なのでなるべく迷惑が掛からないように立ち回る。まあ、そのためのカイリだからな。
俺としてはドンドン〈岩ダン〉を暴き、学生に早く開放してもらいたいので色々教える予定だ。
「――なるほど、委細承知しました」
「これからしばらくの間、よろしくお願いいたします」
シグマ大隊長との話が終わると、無事なんとかなった様子のユミキ先輩が2人の男子を連れてやってきた。
「ゼフィルス君、この2人を紹介しておくわ。私の後輩であり〈調査課〉の〈新学年1組〉所属で期待の子を連れて来たわよ。名前をオスカーというわ」
「オスカーです。いつも〈エデン〉とゼフィルスさんには助かっています」
「? ゼフィルスだ。青色の帯ってことは同い年か、よろしくな」
グッと握手を交す。
彼は1年生の〈新学年〉のようだ。それでユミキ先輩が期待するって相当だぞ。
しかし助かっているとは? 〈ギルバドヨッシャー〉関連かな? 確か彼は〈ギルバドヨッシャー〉所属のはずだが、あまり記憶に残っていない。でもどこかで見たことはある気がする。不思議な男子だ。
続いてもう1人の紹介。
「こっちは〈罠外課〉の……名前なんだったかしら?」
「ちょ、ユミキさんそりゃねぇよ!? トオルだよトオル! これでも〈罠外課3年〉のNo.3にして上級職【罠プロ】に就いているトオルだよ!?」
「No.3……ものは言いようね。この学園の〈罠外課〉で上級職なのって3人しかいないじゃないの」
「ぐはっ!?」
おお……。えっとトオル先輩? ずいぶんユミキ先輩とは仲が良い様子だ。歯に衣着せぬもの言いがスムーズに飛び出している。
しかし、言葉のナイフが心に深く刺さった様子だが。
ちなみに【罠プロ】は上級職、高の下の罠系専門職である。罠を張るのも解除するのも得意のなかなかの職業だ。
「えっと、トオル先輩。よろしく?」
「あ、はい。よろしく」
「ごめんなさいねゼフィルス君、今〈罠外課〉の上級職の人たちどこも引っ張りだこで、1人しか確保できなかったのよ」
「全然構わないよ。上級職がいるだけでだいぶ違うから。――トオル先輩、頼りにしてる」
「おお、おおおお! 任せてください勇者さん! 俺が〈岩ダン〉の最奥まで導いてみせますよ!」
「さすがゼフィルス君ね。やる気を出すやり方が上手いわね――あら?」
「――お、来たな」
こんな感じになんやかんや紹介が終わったそのタイミングで、〈上下ダン〉がざわめいた。
〈キングアブソリュート〉のメンバー、ユーリ先輩とソトナ先輩がやってきたからだ。
「待たせたかい?」
「時間通りだ。こっちは全員揃ってるぜ」
ユーリ先輩の言葉にガルゼ先輩が答えた。
気が付けば待ち合わせ時間となっていた。ほんと、みんな早く来すぎだ。俺もだけど。
ユーリ先輩は時間ピッタシの到着。ピッタシに合わせたのはユーリ先輩が早く到着してしまうと後から来た人が王族を待たせたとして萎縮してしまうからなんだとか。
そういえばラナは昔、俺が後から来るとよく色々言ってきてたな。あれはラナが早すぎたせいだったけど。
「あ、ゼフィルス君。今日は誘ってくれてありがとう」
「いえいえ、今日はお互い楽しみましょう!」
真っ先に俺のところに来るユーリ先輩にそう返す。
どうやらユーリ先輩も今日からの攻略をとても楽しみにしているらしかった。
これで全員集まったな。攻略はとりあえず冬休みの期間のみ行なわれる。
冬休みが終われば帰省していた人たちも戻り、状況も変わるためとりあえず期限をそこまでにした形だ。本来なら上級ダンジョンなんて攻略不可能な期間スケジュール。
ふっふっふ。
だが問題無い。冬休み中に〈岩ダン〉の攻略を果たしてやるさ!
もちろんユーリ先輩たちの五段階目ツリー開放もしてやるぜ!
ふははは!
俺たちは受付を済ませた後、いよいよ〈岩ダン〉へと突入する。
んじゃ、行ってきます!
後書き失礼いたします。
フラーラ先輩の〈上級転職〉回とその他諸々の詳しい描写はいつかハンナちゃんストーリーの方でやる予定です。




