#1018 宴の席で学園を震撼させる重要なことが決まる
五段階目ツリーを広める。
この世界では上級職の〈スキル〉〈魔法〉は四段階目ツリーが一般的で、一部のスキル開放条件を満たしツリーの先にある僅かな五段階目ツリーを獲得するのが精一杯という現状だ。
そのため五段階目ツリーを使える者も、1つしか使えないという者が大半である。
最高LVは25。
できればLV30になってほしい。五段階目ツリーが全開放されるから。
そしてそれを多くの人に広め行動してもらうには、ユーリ先輩という広告塔が必要だ。
ユーリ先輩には〈霧ダン〉なんかでは満足せず、もうちょっとだけ上を目指してほしい。
「なに、後LV5なんて直ぐですよ直ぐ。ほんとほんと。ついでに〈岩ダン〉も攻略してしまいましょう。良い名声になりますよ!」
「は、ははは……」
俺のお誘いにユーリ先輩はなぜか乾いた笑いだ。
全力で〈エデン〉がサポートするし、問題は無いよ。ほんとだよ?
そこにソトナ先輩が焦ったように話に入ってきた。
「あのゼフィルスさん、休み明けには今回の攻略の発表が」
「大丈夫、大丈夫ですって。冬休みが終わるまでには〈岩ダン〉の攻略も終わってますから!」
「い、いえ、そんなすぐに攻略なんて……」
お、これはそんな短期間でランク6の攻略が出来るとは思ってないって顔だな。
なに心配ない。だって俺たちはもう攻略してるし。何だったら2日で攻略したし。
さて、どう説得しようかな? いっそのこと部屋に飾ってある〈岩ダン〉の攻略者の証を見せるか? 反応が楽しみ。いやいや、それは性急だ。最初は少し別角度から――。
そう思っていると、突然後ろから首に腕を回された。おお?
振り向くとそこにはライオンのような迫力ある顔があった。
「ガルゼ先輩?」
「ようゼフィルス。面白い話をしているな! 俺にも聞かせてくれねぇか?」
そこに居たのは〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスター、ガルゼ先輩だった。
この宴会は〈キングアブソリュート〉の攻略を祝してのものだが、当然攻略に携わった人物も誘ってある。ガルゼ先輩、というか〈獣王ガルタイガ〉も傭兵として何度か攻略の手助けをしたことがあるらしい。
「なんだか面白い話をしておるな。妾も混ぜてはくれんかのう」
「ってヨウカ先輩もか」
さらにガルゼ先輩の後ろからひょっこり顔を出したのは、Sランクギルド〈百鬼夜行〉のギルドマスター、ヨウカ先輩だった。彼女も当然のように手伝ったことがあるらしく、この宴に参加していて、どうやらガルゼ先輩と一緒に居たようだ。結構仲が良いんだよなこの2人。
しかし、これは――ちょうど良いぞ。広告塔はなにもユーリ先輩だけじゃなくてもいいんだ。
「もちろんだ。2人も聞いていってくれ」
俺は即行で頷いた。
〈獣王ガルタイガ〉は現Aランクギルド最強と言われているギルドで〈百鬼夜行〉に至ってはSランクギルドだ。つまりは知名度が高い。知らない人なんてこの学園にはいない。
広告塔は多い方が良いのだ。よし、巻き込もう。
なんだか周りが俺たちの集まりを見てざわざわしているがスルーしつつ話を進める。
「実は先日、〈エデン〉はあの攻略不可能ダンジョンと言われていた〈浮遊の巨石ダンジョン〉の攻略法を発見したんだ」
「うむ。その話なら妾のもとにも届いておる。とても驚いたのじゃ。どうやって見つけたのかのう?」
「ああ。俺たち〈獣王ガルタイガ〉もあそこには何度か調査に出向いたが、結局とっかかりすら掴めず仕舞いだったからな。どんな手を使ったんだ?」
ヨウカ先輩もガルゼ先輩もどうやら〈岩ダン〉には入ダンしたことがある様子だ。しかし、結局攻略の手がかりがなく断念したのだろう。興味津々といった様子で聞いてくる。
まあ、あそこはノーヒントで見つけろという方が難しいからな。
「僕も気になっていた。〈エデン〉が転移陣で帰ってきたと噂が広まってから学園は調査に乗り出したのだが、今までどこを探しても見つからなかったはずの階層門を、簡単に発見してしまったらしい」
「あの階層門、どうやって出現させたのかとても気になります」
ユーリ先輩もソトナ先輩も興味津々という様子だ。
さっきの話とは別に気にはなるようだ。
ふっふっふ。良いだろう。教えちゃうよ。でもここではダメだな。
そこら中で聞き耳を立てている人が多い。弱いのに攻略法だけ知って上級ダンジョンへ挑むなんてことになったら結果が分かりみすぎるからな。
「ここで説明してもいいが、百聞は一見にしかずとも言う。どうだ、良かったら明日から一緒に〈岩ダン〉に行ってみないか?」
「おいおい、いいのかよゼフィルス?」
「もちろんだぜガルゼ先輩。一緒にダンジョン行こうぜ!」
「!! ハーッハッハッ! 心躍る誘いだ! 俺は是非参加させてもらうぞ!」
「もちろん妾も参加するぞ。こんな極上の情報、食いつかぬ方が愚かというものじゃ」
「そうだね。僕も参加させてもらえるかいゼフィルス君」
「みんな大歓迎だ!」
ふははははは! 話は纏まった。超簡単に纏まったぜ!
そして彼らを五段階目ツリーに到達させて実績を作り、学園には学生のための第二の育成ダンジョンとして管理してもらうのだ! 夢が広がりまくる!
そう思っていたとき、新たに乱入者が現れた。
「ちょーっと待ったー! なにその面白そうな話、私たちも参加させてもらえないかな!?」
「カノンが突然すまない。少し話が聞こえてしまって、抑えられなかった」
「カノン先輩、それにキリちゃん先輩! いいぞいいぞ、大歓迎だぜ!」
そこへ入ってきたのは先日Sランクに新たに昇格し四つ目のSランクギルドとなった〈千剣フラカル〉のギルドマスターカノン先輩と、サブマスターのキリちゃん先輩だった。
もちろん〈千剣フラカル〉なら大歓迎だ。
「す、すげぇ」
「まさかAランクギルドとSランクギルドがこうも揃い踏みとか」
「〈エデン〉と〈獣王ガルタイガ〉と〈キングアブソリュート〉と〈百鬼夜行〉と〈千剣フラカル〉が合同でダンジョンに挑むって?」
「何それすごい!」
「お、俺も参加させてくれないかな?」
「バカ、恐れ多いだろ! お前、あのギルドに顔を覚えられたいのか? 足を引っ張ったって記憶でよぉ?」
「あの5大ギルドに付いて行ったが最後、雑魚としか覚えてもらえなさそうよね」
「あ、うん。俺おとなしくしてるわ」
「それがいい」
周りのざわめきがすごいが俺たちは気にせず今後のことを話し合った。
「〈岩ダン〉はな最高LV30までレベル上げが可能なんだ」
「話の流れからそうじゃないかと思っていたけれど、やっぱりそういうことなんだね」
「くっくっく。LV30か。つまりゼフィルスよ、そういうことだな?」
「はいはい! 私絶対参加するよ! なにがなんでもね!」
「カノンはもう少し落ち着いてくれ。――すまない、カノンはこっちで面倒を見るから〈千剣フラカル〉も是非参加を認めてほしい」
「いいのういいのう、血がたぎるようじゃ。妾も是非参加したいのう」
「もちろん。みんな大歓迎だ! この5ギルドで合同攻略としよう! はい決まり!!」
こうして宴の席で重要なことが決まった。
この話は一瞬で各地に広まったらしい。
なお、この話がシエラに伝わり、たくさんお説教されたのは別の話。
いったいなぜ?
後書き失礼します。
明日は掲示板。
この日はギルドハウスの改装が完成した日。シエラが宴会から少しだけ退席し、工事業者さんの書類にサインして宴会場に戻ってくると、ゼフィルスがはっちゃけていたのだった。スン。




