#110 90周も倒したらそりゃレアボスくらい来るよ。
帰還して〈空間収納鞄(容量:大)〉の中身を一度マリー先輩の下に預けにいくと、「予想より多いんやけど!?」と戸惑いの声が上がった。52周は多すぎたらしい。
俺も一度反省し、「安心してくれマリー先輩。だいぶ慣れたから明日はもっと持ってこれる」と言っておいた。
マリー先輩は嬉しい悲鳴を上げていた。
そして翌朝。
また学生らしく元気に朝の8時に集合する。
「おはよう。皆早いな」
「あなたは早すぎるわ。何時からいたの?」
「7時くらい?」
「楽しみにしすぎでしょ! まったくゼフィルスったらしょうがないんだから」
ラナに言われたくはない。しかし、ぐぅの音も出ない!
言い訳させてもらうとゲームで朝からダンジョンアタック待ち合わせとかもう、目が覚めちゃうでしょ? と言いたい。
しかも今日2日目だし。俺が夢の中で何回〈バトルウルフ〉屠ったと思ってるんだ?
いつもはもう少し落ち着いてるんだが、昨日の手ごたえというか感触というかが手に残っていて今日はいつに無く早く起きてしまったのだ。
おそらく旧友の〈バトルウルフ〉と再会したからに違いない。(バトルウルフにとって大迷惑)
そんなこんなで出発予定の30分前にはなんか皆集まったので少し早いが今日もダンジョン攻略を開始する。
再び〈小狼の浅森ダンジョン〉に潜り始めると、やはり二日連続だからか進みがかなりスムーズだ。
奇襲なんて足を止めずにねじ伏せている。みんな昨日だけで相当LVが上がったなぁ。
今日の周回が終わった後で時間があればみんなのステータスを見せてもらおう。
そして昨日よりかなり早く9時には最下層に到着。
テンションの赴くままにシャウトした。
「〈バトルウルフ〉よ、俺は帰ってきたーーー!」
「何よそれ、ちょっとかっこいいじゃない! 私もやるわ!」
「おやめくださいラナ様。大声を上げるのははしたないといつも言っているでしょう」
かの有名な方が叫んだセリフにラナが共感したが速攻でエステルが押さえに掛かった。
大声を出しちゃダメとか今更すぎないかエステル? 普段のバイタリティに溢れるラナを思い出してなんとなくそう思った。
「よし、今日も元気に〈バトルウルフ〉狩りしようぜ!」
「「おー」」
「その発言はどうなのかしら?」
「もう少し修練などの言葉を組んでみてはいかがでしょう?」
うーむ、テンションの赴くままに突き進むのはラナとハンナには好評だがシエラとエステルには不評のようだ。気持ちいいんだけどなぁ心のシャウトって。
そんなわけで突入し、お昼を挟んでガンガン狩って38周目、唐突にそれは起きた。
「あ! もしかしてこれって」
真っ先に反応したのはハンナだった。彼女は一度、俺が遭遇したのを知っているからな。
「なによ、バルフがいないじゃない。どこいったのよ」
「ゼフィルス、これってもしかして」
いつの間にか〈バトルウルフ〉に変な名前を付けたラナがキョロキョロとボスを探す。
ラナの言ったとおり、ボス部屋の中には、いつも俺たちを出迎えてくれる〈バトルウルフ〉がいなかった。
シエラはその現象を知っていたのだろう。ピンと来たようだ。エステルも静かにラナの方に近寄っていく。
「ああ。お察しのとおり、これはレアボスをツモったな」
〈エンペラーゴブリン〉の時を思い出す。
レアボスが発生する可能性は、1%。
公式戦術によりボス周回が可能になってしまった〈ダン活〉では、割と高い確率だ。
大体100回ほど周回すれば出る。な、簡単だろ?
面倒だから狙うならレアボス遭遇アイテム使うけどな。
今回は昨日を合わせて90周目だ。そろそろ出たっておかしくはなかった。
ボス部屋の奥が光りだす。
レアボスポップのエフェクトだ。
あまり時間もない。俺は素早く作戦を伝える。
「全員傾聴! レアボスは一体だ。強さは初級上位ボスクラス。だが安心しろ。現在俺たちのレベルでも十分対抗が可能だ。いつも通りやれば問題ない。シエラはまず『ガードスタンス』を」
「了解よ」
今回俺が先頭で門をくぐったので最初に狙われるのは俺だ。シエラにまずヘイトを取ってもらう。
「シエラがヘイトを取ったら、ラナ」
「任せなさいよ! バフは何を掛ければいいの?」
「守護で頼む。後はヘイトを取りすぎないよう気をつけながらいつも通り、アタッカーが畳み掛ける。ここまでで何か質問はあるか?」
「ゼフィルス殿、それでどんなボスなのですか?」
おっとうっかりしていたぜ。
俺としたことがボスの名前どころか詳細すら伝えていないとか、レアボスに会えて少し舞い上がっていたらしいな!
しかし、仕方なかったんだ。だってレアボスは、
「レアボスは〈バトルウルフ〉第二形態だ!」
俺の発言と共にエフェクトが晴れ、中から体長3mほどのオオカミ型モンスターが出てくる。
思わず、成長しすぎだろ! と突っ込みたくなるほど大きくなったそれは、〈バトルウルフ〉の面影をほんの少し残しつつ、大幅に進化された見た目をしていた。
まず、白かった体毛が全部灰色に変わっている。大きさも三倍になっているし、それに見合うだけのステータスも持ち合わせている。
そしてあの小狼で少し可愛げがあった第一形態の時とは似ても似つかない凶悪な顔。
〈バトルウルフ〉は形態が上がるごとに体色が黒へと近づき、頭と顔がどんどん凶悪になっていくのだ。最終形態なんか頭が5つとかあるしな。あれ最初はヒュドラかと思ったよ。なんか懐かしい。
さすがに第二形態では頭は1つのままだ。
ただし、モーションやスキルはかなり増える。
ここが重要なのだが、レアボスは〈ユニークスキル〉を仕掛けてくることがある。
〈エンペラーゴブリン〉なら『ゴブリン流・必殺破砕剣』がそうだ。
そして〈バトルウルフ〉(第二形態)なら、
「赤いエフェクトと共に尻尾が大きく膨らんだら注意しろ。〈バトルウルフ〉第二形態のユニークスキル、『バトルウルフ流・爆炎尻尾薙ぎ』が来る。兆候が見えたらすぐに距離を取るか防御スキルを発動しろ」
注意を促し終わると同時に動き出す〈バトルウルフ〉第二形態。
さあ、楽しいレアボスとの戦闘開始だ!