#1017 続け、続け、勝利に続け。証、なんて、楽勝だ!
ユーリ先輩とハイタッチした所でソトナ先輩の声が届いた。
「出ました! 〈金箱〉ですよユーリ殿下!」
「「「〈金箱〉!」」」
その声に反応したのはユーリ先輩だけでは無かったが。
「おかしいわね。これが普通の反応なのかしら?」
「〈金箱〉というのは嬉しいものさ。僕もいつも心躍ってるよ」
「はい! それに上級ダンジョンの〈金箱〉です。中身はとても期待出来ますから」
見ろシエラ。このユーリ先輩とソトナ先輩の反応を!
これが正しい〈金箱〉の反応だ!
俺は〈金箱〉の出現に興奮しつつもしっかりユーリ先輩と一緒に宝箱に向かった。これくらい落ち着いていればシエラが心配することもないだろうウキウキ。
そんな思いを込めてシエラを見ると「もっと落ち着いて。殿下に粗相をしちゃダメよ」と目で語ってきてた。俺は密かに親指を立てておいた。任せろ。ウキウキ。
ドロップしたのは〈ヴァンパイアバイカウント〉から〈金箱〉が、〈ジョウキ〉からは〈銀箱〉がドロップしていたのだ。
「〈金箱〉は一つ、〈銀箱〉が一つか。ふむ、では〈金箱〉は〈エデン〉が受け取ってくれ」
「お、良いのかユーリ先輩?」
「僕たちがこんなにも早く目的を達成出来たのはゼフィルス君のおかげだからね。その上〈金箱〉はもらえないさ」
「なら遠慮無く!」
「こら、ゼフィルスもっと遠慮しなさい」
「ははは、大丈夫だよシエラ嬢。単純に〈エデン〉の功績に報いているだけさ。これだけでは到底釣り合わないくらいなんだ。遠慮しなくていいさ」
「……ありがとうございます」
俺は〈金箱〉に飛びついた。だってユーリ先輩が良いって言ったもん!
シエラもユーリ先輩から言葉をもらって、なぜか頭を下げていた。
理由が俺が迷惑を掛けることに対するものではないはずだ。
さて、あと一つ難関があるな。
「カルア、今度スゴ美味カレーを用意しよう。10杯でどうだ?」
「ん。今回は譲る」
話はついた。
俺はお祈りをする。
「〈幸猫様〉〈仔猫様〉! どうかいいものをお願いします!」
「します!」
「…………」
あれ? シエラのお願いしますが聞こえない。
「えっと、シエラ嬢。ゼフィルス君は〈金箱〉の前で何をしているんだい?」
「……良いものが当たるよう祈っているのです」
「そうなのか」
「お祈り……これが、〈エデン〉が良い装備を揃えられる秘密なのでしょうか」
横目で見るとユーリ先輩とソトナ先輩がとても真剣な瞳で俺を見つめていた。
俺のお祈りを学ぼうというのか? ふふふ、俺のお祈りはそんな簡単に真似出来るものじゃないぜ? まずは〈幸猫様〉を用意するところから始めないと。
あとシエラがすごく複雑そうな顔をしていたのでもう少しテンションを抑えるよう頑張ろう。
「いざ!」
パカリと〈金箱〉を開けると、全員が覗き込んだ。
何が当たるかな?
俺も中を見ると、そこにあったは1着の服装備。
「あ」
「! これは!」
どうやらこれ、ユーリ先輩も知っている模様。
白を基調とした聖職者装備、それも明らかに高位の女性聖職者が着ていそうな衣装。そう、まさに聖女が着るにふさわしい神々しい装備だった。
その名も。
「〈聖の装束〉……」
それは【大聖女】の発現条件である三つの神器、〈白の玉座〉に並ぶ一つ。
ラナの五段階目ツリー『プレイア・ゴッドブレス』を使うために必要な装備。
着ているだけで魔を寄せ付けないと言われる上級中位級〈金箱〉産の大当たりだった。
まさかユーリ先輩の目の前で当たるとは思わなかったぜ。
◇
結局ユーリ先輩は何か言いたそうにするも、呑み込むことにしたようだ。
一度あげると言ったのだから覆すことは出来なかった模様。
とりあえず〈聖の装束〉をどうするのかと聞かれたのでラナに装備させるつもりだと告げておいた。
ユーリ先輩は苦笑していたが「そうだね。それがいいと僕も思うよ」と言って引き下がっていた。
〈聖の装束〉は上級下位の徘徊型なら全てのボスが落とす可能性のある装備だった。
しかし〈ヴァンパイアバイカウント〉から〈聖の装束〉がドロップするか~。あまりに真逆なボス過ぎて結構どころか、本当にこれドロップするの? って確率だった気がするんだが。やっぱりあれか? ソトナ先輩に浄化されたから聖の装備がドロップしたのか?
そんなアホなことを考えてみる。
その後、ユーリ先輩たちは〈銀箱〉を開けたのだが、これはレシピだった。
俺たちはそのまま転移陣から帰還、することもなく一度救済場所に戻ると、大きな拍手の中出迎えられた。
「「「おおおー!」」」
「おめでとうございますユーリ殿下!」
「おめでとうございます!」
「素晴らしい戦果、心からお祝いする!」
もちろん俺やユーリ先輩が胸に着けている攻略者の証の効果だ。
しかし〈キングアブソリュート〉のお祝いはすごいな。涙を流しながらお祝いを言っている人も居るぞ。バルガス先輩だけど。
そして〈エデン〉の方はと言うと。
「お疲れ様だよ勇者君。さあ、何がドロップしたんだい?」
「ニーコは冷めすぎじゃないかな?」
一仕事終えて戻ってきた社員を軽く労うような口調で迎えられた。
「ゼフィルスお兄様、シエラ、カルアお姉ちゃん、おめでとうなのです!」
「皆様、おめでとうございます」
ほらニーコ、ルルとセレスタンを見習え。
そう視線で訴えてもニーコはどこ吹く風だった。なのでドロップは教えない。
お披露目まで待ってもらおう。
「ゼフィルス殿」
「バルガス先輩?」
そこで声を掛けてきた人物がいた。ユーリ先輩の護衛役でもあるバルガス先輩だった。
「今回のこと、深く深く感謝申し上げる。ありがとうゼフィルス殿。おかげで我らの悲願が果たせた」
「た――その感謝、受け取りますね」
「大したことはしてない」と言いそうになってシエラに袖を引かれ、感謝を受け取る旨を口にする。すまんシエラ、助かる。
それから〈キングアブソリュート〉のメンバーからも次々お礼を言われた。
自分たちではアレを撃破出来たか分からなかったともアマテス先輩から言われた。すごく感謝されてしまったな。
その後、バルガス先輩たちは攻略者の証をどうするのかと聞いたところ「不要じゃ」という答えが返ってきたので待ったを掛けた。
ここまで来て不要ってことは無いだろう?
「じゃが、ワシらの目的はユーリ殿下の攻略を助けること。ユーリ殿下さえ攻略してもらえたのならワシらは出来なくてもかまわんのじゃ。それにアレには勝てる気がせん。【英雄】と【勇者】で倒せたボスじゃぞ? ワシらが勝てなかったとしても誰も何も言わん」
それに、倒せるまでの時間をユーリ殿下に消費させるわけにもいかない。とバルガス先輩は締めくくる。う~ん。さすがにそれはもったいなさ過ぎだ。
今後多くの学生がこの〈霧ダン〉を攻略することになるだろう。【勇者】と【英雄】で攻略出来たボスだから諦めるのも仕方が無い、そんな言い訳が通じるのは今だけだぜ?
ということで一つ提案する。
「なるほど。じゃあ、一度俺やシエラ抜きの〈エデン〉メンバーでボスに挑んでもらい、それで勝てたらバルガス先輩たちも挑戦する、というのはどうですか? 徘徊型の〈ヴァンパイアバイカウント〉は今日はもう出ないでしょうし。先ほどより楽だと思いますよ?」
「……まあ、そこまで言われてはやらんわけには行くまい」
そういうことになった。
じゃあ、選別していこうかな。
「というわけでセレスタン、リーダーを頼めるか?」
「お任せください。ではトモヨ様、ルル様、シェリア様、タバサ様をお連れ出来ればと思います」
「おう。行ってきてくれ」
もちろん中のボスの特性なんかも全て教える。
徘徊型ボスは一度撃破したので明日まで復活しないだろうということも添えて。
セレスタンなら上手くやるだろう。きっと攻略してしまうに違いない。だって〈ジョウキ〉は1体だけならばそこまで強いボスというわけでもないからだ。
そもそもの話、開発陣は攻略を妨害することはしても、周回は推奨していた。
特に上級ダンジョンに入りたてのランク2のボスである。多少強いのは認めるが、【勇者】や【英雄】がいないと突破不可能なんて難易度にはしていないのだ。
むしろ周回しやすいよう調整されていたりする。筒箱を攻撃すればタゲを向けられるのならば、タンクが筒箱を攻撃すればヘイトを稼ぐ必要すら無い、とかな。
タゲをプレイヤーの意思で調整できるので、周回で慣れると比較的攻略しやすいとまで言われていたんだ〈ジョウキ〉は。
まあ、だからこそ徘徊型と組ませられたとも言えるんだが。
参加メンバーはニーコとアイギス以外の5人。
2人には後で機会を作りたい。
色々ボスの行動パターンを説明していく。
霧に隠れる第三形態が少し厄介ではあるが、セレスタンには『敵の位置を探りましょう』といういかにもなスキルがある。セレスタンがマジ優秀な件。
問題はタンクだ。セレスタンもトモヨも道中でレベルを上げたとはいえ直撃すると厳しいことになるだろう。ピンチな時は誰かが筒箱を攻撃してタンクをスイッチすることと伝えておく。
これで準備は万端だな。
「それで、誰が帰還するのだ? ボスが復活しなければ挑めないじゃろ?」
バルガス先輩の言葉にポンと手を叩く。そういえばその問題があったな。
俺たちは〈公式裏技戦術ボス周回〉があるので周回するのが基本になっていたが、ユーリ先輩たちがいる前じゃそれは出来ない。
そこで手を挙げてくれたのが〈秩序風紀委員会〉のメンバーだった。
「ではその役目、僕が承ろう。我々はユーリ殿下が攻略者の証を手に入れたところを見届けた。すでに役目は果たしているし先に帰っても問題はない」
「いいのかいアオ?」
「なに、ユーリ殿下たちの偉業をすぐにでも上司に報告したいだけですよ。仕事です」
「そうかい。ではお願いするよ」
「は!」
ユーリ先輩の言葉に笑って返すのは〈秩序風紀委員会〉のNo.2、アオ副隊長だ。
青髪の短髪で、まるで護衛のような雰囲気を纏っている。いや正しく護衛だ。
しかし、その護衛も残すところ最奥のボスだけとなった今ではお役目はほぼ終了した。ということで提案をしてきたのだろう。
言い終わるとアオ先輩はボス部屋の転移陣に向かって行った。かっこいい人だなぁ。
本来、ボスが復活する条件は転移陣を使って誰かが帰還し、ボス部屋にいる人がゼロになること。人数は何人でも良いので1人でも良いし、50人帰還しても良いんだ。
そのためアオ先輩は他の〈秩序風紀委員会〉メンバーを残し、気負うことなく一足先に転移陣で帰っていった。少しするとボスが復活し、ボス部屋の門にボスが復活した渦が出る。
「僕が帰っても良かったのに」
「ニーコはまだ出番がある。安心してくれ」
「安心……はて? それは間違った使い方だよ勇者君? 安心違う」
ニーコが代わりに帰るとか言い始めたが引き留めて、〈エデン〉パーティによる攻略が始まった。
そして30分といういつもより長い時間を掛けて戦闘を終えた〈エデン〉メンバーは、みんな攻略者の証を持っていた。
「「「「おおー!!」」」」
「おめでとうみんな!」
「ありがとうなのです! ルルはとっても嬉しいのです!」
「ゼフィルス様の予想通り、徘徊型ボス〈ヴァンパイアバイカウント〉は居りませんでした。そのため最奥のボスを集中して叩くことができました」
「「おお!」」
セレスタンのもたらした情報にバルガス先輩とユーリ先輩が湧く。
バルガス先輩たちだって攻略者の証は欲しいはずなのだ。
続いて〈秩序風紀委員会〉のメンバーがまた1人帰還しボスをポップさせると、今度は〈キングアブソリュート〉がユーリ先輩、ソトナ先輩を含んだ5人で挑むことになった。
結果は勝利。
どうやら俺たちの戦いの何かをヒントにしたユーリ先輩が上手くみんなを導き、ネガティブ発言していたバルガス先輩たちを見事に勝利へと引っ張ったようだ。
【ソードマスター】であるアリナリナ先輩の『心眼』スキルで、第三形態で霧に隠れた〈ジョウキ〉を上手く見つけ出せたのが勝因に繋がったとユーリ先輩は語っていた。
戻ってきたユーリ先輩の前には、アマテス先輩とアリナリナ先輩、そしてバルガス先輩が膝を突いて忠誠を誓っている。
やったなユーリ先輩!
続いてまた〈秩序風紀委員会〉の1人が帰還して転移陣を起動させると、今度はまた〈エデン〉がさせてもらえることになった。
今度は俺、シエラ、カルア、ニーコ、アイギスのメンバーで挑み、俺がヒーラーも兼任しつつ立ち回って問題無く撃破。
セレスタン戦と合わせて結果〈銀箱〉が三つ。惜しい……。
とそこで遅い時間になったので今日のダンジョンはここまでとなった。
「ゼフィルス君。今日はありがとう」
「なに、良いってことさ」
改めてユーリ先輩と男同士の固い握手を結んだ。
その握手からは万感の思いが伝わってくるかのようだった。
ついに帰還。
〈キングアブソリュート〉と〈エデン〉の同時帰還ということもあって、日が沈んでいるにもかかわらず〈上下ダン〉が少し騒ぎになったのはご愛敬。
なんだかまた人を集めて大々的にお披露目するらしい。
その時には是非〈エデン〉も出席してほしいと言われたので快諾した。
ということでその日はそのまま宴会に突入した。
〈キングアブソリュート〉と〈エデン〉の合同宴会だ。
この〈キングアブソリュート〉上級ダンジョンの攻略で協力したギルドが数多く呼ばれ、盛大に祝われることになった。
突然の宴会だが、出席率は悪くない。冬休みだからな。
午前中で分かれたメンバーや三大ギルドの〈生徒会〉メンバーたちがポカンとしていたり、ユーリ先輩にお祝いを贈ったりとまあ賑やかな宴会となった。
おっと、そろそろいいかな。
宴会もだいぶ進行し、そろそろ解散という時、俺はユーリ先輩に一つ話を持ちかけてみることにした。
「じゃあ、やっぱりゼフィルス君たちはLV30に至り、五段階目ツリーを開放しているのかい?」
「はい。上級下位ランク6の〈岩ダン〉で」
「……最近〈エデン〉が転移陣で帰還したって話題になっていたダンジョンだね。まさか、そんなことが……」
「そこでユーリ先輩に提案なのですが」
「はは、なんだか怖いな……」
ユーリ先輩は今日、目標を達成した。上級下位ランク2〈霧雲の高地ダンジョン〉の攻略。
入学してからラナに嫌われることも許容して頑張り尽くしてきたユーリ先輩の成果がついに実った日だ。
しかし、それで満足してちゃダメだ。だってすぐに学生に超えられてしまいそうだもん。
ということで俺はそっとユーリ先輩に唆す――じゃなくて囁くんだ。
「一緒に〈岩ダン〉いきませんか? 俺たちに付いてくればLV30なんて直ぐですよ直ぐ」
そうユーリ先輩に提案した。




