#1012 ユーリ視点。〈エデン〉が非常識すぎるよ。
「え? それは本当なのですかユーリ殿下」
「間違いないみたいだ」
その日驚く連絡が〈学生手帳〉に届いた。
差出人はギルド〈エデン〉所属のセレスタン。
その連絡の内容にソトナが思わず僕に確認してしまったほどだ。
王太子の言うことを疑うなんて、普段の彼女ならしないだろう。それだけでも彼女がどれだけ動揺しているのかが分かる。
その内容は――現在〈キングアブソリュート〉が苦戦している〈霧雲の高地ダンジョン〉の攻略を〈エデン〉が協力するというものだった。
〈学園出世大戦〉という初の試みの大きなお祭りが終わり、新たな〈エデン〉の仰天爆弾情報の処理に追われて肩の荷が下りる暇も無いままダンジョンに逃げるように突入して2日目、それは届いた。
ちなみに〈エデン〉の爆弾の処理はいくつかやるべきことはやった後、学園長に投げてきたよ。学生の本分はダンジョン攻略。学園長にはこういう時にがんばってもらわないと。
それに僕にもやるべきことがある。
この冬休み中に結果を出さなければならないんだ。〈霧ダン〉攻略という結果を。
学園は大きな転換期を迎えている。僕がダンジョンに集中して潜れるのも、この冬休みまでだろう。卒業も近いし、やるべきことはごまんとある。
僕の上級ダンジョン攻略に助力してくれたみんなにお礼や職の斡旋もしなくてはならない。
だからこそ〈学園出世大戦〉が終わった2日後にはこうして〈霧ダン〉へと潜っているんだ。僕が大きな結果を残せればそれだけ協力した人たちの立場も強くなるしね。
とはいえ現状は芳しくなかった。53層で攻略がピタリと止まってしまったのだ。
理由は徘徊型ボスによる襲撃。それも大きいが、何より帰省によりギルドメンバーが欠けているのが辛いところだ。
そこへまさに福音。
ギルド〈エデン〉はあの勇者ゼフィルス君が率いる新進気鋭にして異色の1年生最強ギルド。
その強さは学園祭で行なわれた〈迷宮防衛大戦〉で全学生に共通認識されている。
僕は〈ヘカトンケイル〉を相手に大立ち回りをする〈エデン〉を見て、次代の学生を引っ張って行くのは〈エデン〉だと確信したよ。
〈嵐ダン〉攻略でその確信はさらに深まった。
その〈エデン〉が協力を申し出てくれた。
帰省で人数が減っている〈キングアブソリュート〉からすればこれほどありがたい申し出はない。
「ですが、間に合うでしょうか?」
「わからない。でも〈エデン〉ならもしくは、という気がしないかい?」
「確かに、そうですね。〈エデン〉は私たちが〈嵐ダン〉を攻略した2週間後には同じ〈嵐ダン〉を攻略してしまいましたから」
そう、ソトナと笑い合う。
〈エデン〉がいつ53層に到着するかは分からない。だけどこの応援の情報自体に大きな意味がある。
僕は早速この情報を使いギルドメンバーを鼓舞した。士気の上がったギルドメンバーたちは探索効率が上がり、ついに53層の階層門を発見することに成功したのだった。
このペースは悪くない。このまま行けば、あるいは最下層までいけるかもしれない。
そう思っていたら〈エデン〉が到着していた。
連絡をもらった翌日のことだった。
「セレスタン、到着するなら連絡が欲しかったのだけど……?」
「サプライズでございます」
「いや、サプライズって、セレスタン?」
どういうことなんだいセレスタン!?
いや、嬉しいサプライズだけどさ。
王太子としてそれなりに感情の起伏が顔に出ないよう訓練してきた僕だけど、明らかに顔に出ちゃった気がするよ?
えっと……セレスタンずいぶん変わったね。明らかにゼフィルス君の影響を受けている気がするよ。
大丈夫かな。僕はセレスタンの今後がちょっと心配になった。
とりあえず〈エデン〉が予想より早く応援に駆けつけてくれたことを喜ぶべきだ。
ただゼフィルス君が言うには人数が多すぎるからもっと減らして午後再突入しようと言われた。
ゼフィルス君の言葉は信用出来る。
その言葉といくつかの有用なアイテムのおかげで僕はここにいるからね。
みんなをなんとか説得して、〈キングアブソリュート〉は僕のパーティメンバーの他にラムダと斥候の2人、合計8人で再突入することになった。
一応〈エデン〉〈救護委員会〉〈秩序風紀委員会〉のメンバーもいるから大丈夫だとは思うけど、少し心配な人数だとは思った。
でもその思いは杞憂だった。
〈浮遊戦車イブキ〉? はは、あの学園長を盛大に困らせたものの一つだね。
速いな~。
立ち塞がるモンスターが邪魔にすらなってない。次々光に還っているよ……。
「どうですかユーリ先輩。これが正しい馬車の運用法ですよ」
ゼフィルス君がもの凄く得意顔でそう言っていた。
うん。そうだね。こんなので来たらそりゃ2日でここまで来られるよね。
これが〈エデン〉かぁ。
僕たち、すごくがんばってここまで来たんだけどなぁ。
僕は改めて〈エデン〉の非常識さを知った。
うん。〈エデン〉は非常識なんだ。
〈学園出世大戦〉Aランク戦では〈イブキ〉からさらに大砲のようなものが撃たれていたし、またとんでもないものがあったものだよ。
少し、遠い目をしてしまったかもしれない。
おかげでゼフィルス君がソトナに【商人】の上級職を勧めていたけれど、どうしてゼフィルス君がそんなことを知っているのかって疑問に思わなかったからね。
それに気が付いたのはもっとずっと後になってからだったよ。
「クワァ!」
ああ…………そういえばこれもあったね……。
「……ゼフィルス君。少し前に聞いたのだけど、この子が竜かい?」
「ええ。ゼニスといいます。可愛いでしょう?」
「クワァ!」
「そうだね、はは……」
帰ったらまた色々やるべきことが出来ちゃったな。
でも、うん。この子が竜か。思ったよりもずっと可愛いね。
少し撫でてもいいかい?
「クワァ!(お触りはお断りです!)」
「はは、参ったな」
手を伸ばしたら逃げられてしまった。
現実逃避はここまでにしよう。
あっという間に55層の階層門を見つけた。
本当に速い。今日はパーティを再編成したから〈転移水晶〉が使えず50層のショートカット転移陣からやりなおしたのに、もう55層の階層門なのかい?
55層の階層門の前には守護型のフィールドボスが佇んでいた。
いや、佇むというかなんだろう。待っているという方が適当かな?
55層のフィールドボスは、巨大な剣だった。
「かっこいい……」
隣のアリナリナの言葉に少し力が抜けた。アリナリナは剣にとても強い関心があるんだ。
でも、良い感じにリラックス出来た。あのボスを倒し、最奥へと進むんだ。
そう思ったらゼフィルス君に遮られた。
「ここは〈エデン〉に任せてください。〈エデン〉なら10人行動が可能ですから。応援に駆けつけた〈エデン〉の実力をまず見てください」
どうやら今回は〈エデン〉の実力を見せてくれるらしい。
確かにゼフィルス君の言うことも一理ある。僕はゼフィルス君たちに任せることにした。
圧勝だった。
「な、なんという盾捌きと攻撃なのじゃ!」
バルガスが目を見開いてみるのは〈エデン〉のメインタンク、シエラ嬢。
バルガスと同じく盾で防御するだけではなく武器で攻撃までして敵の体勢を崩し、ヘイト稼ぎだけではなくアタッカーが攻撃するサポートまでこなしている。
もう1人のタンク、トモヨはタゲ取りをシエラ嬢に任せ防御スキルで僕たちの方へ来そうな攻撃を全て防いでくれていた。こちらも申し分ない防御力だ。
「すごいね……」
「ああ。素晴らしい動きだ。本当に1年生なのかと疑いたくなってしまう」
アマテスとアリナリナが彼ら彼女らの動きを見て思わず言葉を漏らしていた。
なんというか、連携だけではない、まるで相手の動きに合わせたような動きという印象を受けた。
全員が全員分かってるんだ。
役割分担もちゃんと出来ていて、多分行動パターンまで決められていて体に染みこんでいる。
ボスが攻撃すれば防御する。ボスが移動すれば有利な位置取りをする。タンクがヘイトを稼がないとまったく攻撃しないし、隙が出来た瞬間全員が攻撃する。
そう、〈エデン〉の動きは完全にパターン化されていた。
全員がバラバラに動いているように見えて、その実完全にパターンが組まれている。
「なんだこの動き……」
思わず呟いてしまったのは僕も同じだった。
「たくさんの攻撃を当てているのに、戦況が安定しています」
「まるで踊っているかのようじゃ」
ソトナやバルガスも同じだ。
まるで出来の良い演劇を見せられている気分だった。
敵は55層のボス。
守護型ボスの最後にして最強のボスのはずだ。
それが、ほとんど一方的に〈エデン〉にやられている。
〈エデン〉の動きはまるでボスの行動が分かっているかのようだ。
何戦、何十戦、何百戦とボスと戦ってきたかのような圧倒的経験からくる安定さがあるように見えた。
〈エデン〉が戦うなら、もう勝ったも同然だ。
そんな特大の安心感がそのバトルからは感じられた。
気が付けば僕たちは全員、その動きに魅入っていた。
そしてボス戦からまもなく、最後の守護型ボスは撃破された。
時間を見れば、まだ10分しか経っていなかった。
後書き失礼します。
本日11時よりコミカライズが更新されます!
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コミックス版〈ダン活〉もよろしくお願いいたします!
また、ゼニスの口調は親譲り。アイギス口調です。
ですが実際に喋ったりは、まだしません。




