#1010 方針は決まった。いつの間にか攻略をしよう。
それからいくつか話し合った。
今後の〈キングアブソリュート〉の行動についてやるべきことはいくらでもある。
でもまずは〈キングアブソリュート〉の事情を把握しておかなければならない。
「〈霧ダン〉の攻略が滞っているのは〈調査課〉の上級職さんが帰省しているのと、〈嵐ダン〉の攻略で離脱者が多数出ているからなんだ。また、帰省で帰っている者もいる。おかげで〈キングアブソリュート〉は人材不足で今は20人しかいないんだよ」
もちろん、ここに来られるのは、という言葉が頭に着く。
そう教えてくれたのは同じクラスのラムダだ。
1年生はやはりまだまだ実力不足で、ここに居るのは上級職のラムダだけらしい。
ラムダは父が〈救護委員会〉の偉い人で学園を離れられないため、学園に親類が集まって年越しをするのだそうだ。そのためこの時期でも学園に居られると喜んでいた。
「〈キングアブソリュート〉以外のメンバーは、例の三大ギルドから来ている人たちか?」
「うん。〈救護委員会〉と〈秩序風紀委員会〉の人たちだ。〈生徒会〉は年末年始で忙しくて欠席で、現在合わせて30人だね」
どうやら帰省以外にも攻略が滞る理由があったみたいだ。
「30人規模でも攻略が進まないのか?」
「重要な職業に就いてる人たちが軒並み帰省しちゃっているからね。それに〈嵐ダン〉の攻略で満足してしまった人たちも多いんだ」
「だけどそれって自分で攻略者の証ゲットしたわけじゃなく、ユーリ先輩を送り届けただけだろ?」
「だけって、王族の上級ダンジョン攻略の手助けをするのってすごく名誉なことなんだぞ? 特に現国王様のギルドメンバーを務めていた人たちはみんな要職に就いているし、人気もすごいんだ」
「あ~なるほど」
ラムダの言葉に納得する。
この辺は俺とこの世界の認識の違いだな。
俺はダンジョン攻略をメインにしているが、この世界では生活とダンジョンが直結している。十分な成果を上げられたなら無理してダンジョン攻略をする必要が無いのだ。
最奥まで行ったのに攻略しないで満足するのか。
うう~ん、勿体ないなぁ。
「もちろん全員が何度かボスにチャレンジしたさ。もちろん俺だってね。でも〈クジャ〉を倒すことは出来なかったんだ」
「ええ? 【カリバーンパラディン】ならいけるだろ?」
「そりゃ月単位を掛けて試行回数をこなせば行けると思うけれど、あれは強すぎるよ。もっと時間を掛けなくちゃ無理だ」
いや、それほどじゃ無いだろ。俺たちだって周回してるし。
ってああ、もしかして装備か? よく見ればラムダの武器と防具は中級上位級だった。
上級装備が1年生まで浸透していないと見える。
そういえば〈キングアブソリュート〉が〈青空と女神〉に〈上級転職チケット〉を持ち込んだのって今月のテスト期間の前辺りだったっけ?
それにフィールドボスも今まで複数で相手にするやり方で慣れていたら、5人しか参加出来ない最奥ボスは辛いかもしれない?
「とりあえず、〈キングアブソリュート〉の現状は理解した」
「そうか? でも〈エデン〉が来てくれて本当に助かった。最近はあの〈ヴァンパイアバイカウント〉も毎日何度も襲ってくるし、探索も遅々として進まなかったんだ。戦力が増えるのは本当に助かる。共に〈ヴァンパイアバイカウント〉を倒そう!」
「おう! だが――ここで〈ヴァンパイアバイカウント〉は倒さない」
「…………なに?」
「ふっふっふ、攻略するだけなら徘徊型を倒すよりもっと面白い方法――じゃなくて画期的な方法があるんだ。それにはちょっと人数が多すぎる。少人数で行動したい。協力してくれラムダ」
そう言ってラムダの肩に手を回し、小声で作戦を伝えた。
ラムダは終始ポカンとしながら俺の話を聞いていたよ。ちゃんと聞こえているのかな?
「では〈エデン〉が応援に駆けつけてくれたため、我々は一度学園へと帰還しメンバーを再編成する!」
ユーリ先輩の言葉がフィールドに響く。
耳を澄ましているのは〈キングアブソリュート〉や三大ギルドのメンバーたちだ。
露骨に安堵の息を吐く人もいる。
上級ダンジョンは今でもかなり危険なダンジョンなのだ。早く帰りたいと思う人もそりゃいるよな。
そんな人は隣の人に肘鉄を食らわされたり、足を踏まれたり、頭をひっぱたかれたりして気を引き締めさせられていたが(物理)。
ちょっと強引だったが〈エデン〉が合流したための打ち合わせとメンバーの再編成で帰還すると名目を作った。
〈キングアブソリュート〉のメンバーは基本堅物が多いが、いい人たちばかりだった。再編成するということは付いてこられない可能性もあるのに「〈エデン〉には期待している」「よく来てくれた」と歓迎する声ばかりだったのだ。
〈エデン〉の力はすでに学園中の知るところとなっている様子だ。
上級職もかなりの数が減っていて心細かったのも原因だとユーリ先輩が苦笑と共に解説してくれた。
「では帰還しよう〈転移水晶〉発動!」
「「「「〈転移水晶〉発動!」」」」
こうして俺たちは〈上下ダン〉に戻り、ちょうどお昼だったこともあって昼食を食べながら今後の打ち合わせをすることになった。
メンバーは〈キングアブソリュート〉からユーリ先輩、ソトナ先輩、バルガス先輩、アマテス先輩、アリナリナ先輩、ラムダ。それと猫人の女子とアスリートのような男子の8人。
猫人女子とアスリート男子は斥候だそうだ。2人で〈先速のツヴァイ〉とも呼ばれている凄腕らしい。どこかで見たことがあるような気がする。
〈エデン〉側は〈霧ダン〉攻略中の10人全員。
計18人で高級カレー店〈マーベラース〉の個室で食事となった。
「ふむ。ここのカレーはいつも美味いな」
「ユーリ先輩はここのカレー食べたことあるんですか?」
「1年生の頃は常連だったんだよ」
「マジですか」
人に歴史有り。
さすがは〈マーベラース〉。うちにもここのカレー好きが何人もいる。
ちなみにその筆頭であるカルアは向こうの猫人女子とカレーの大食い対決をしている。
次々と積み重なっていく皿。猫人はみんなカレー好きなのだろうか?
あ、猫人女子のスプーンの動きが遅くなってきた。決着は近そうだ。
でもお腹いっぱいで動けなくなるってことは避けてくれよ?
午後もダンジョンなんだから。
ちょっとした宴会っぽくなった昼食が終わると、俺たちはその足で――〈霧ダン〉へと向かった。
再突入である。
〈救護委員会〉や〈秩序風紀委員会〉の10人と〈上下ダン〉で合流。
縁側でお茶を飲むおばあさんのごとくのほほんとしていたケルばあさんに行ってきますと告げて突入した。
ケルばあさんは軽く手を振って送りだしてくれたよ。
「じゃあ、ラムダは〈馬車〉の運転を頼むな」
「任せてくれ」
実はラムダは〈馬車〉の運転操作ができる。
まあ【騎士】系の職業だからな。
とはいえエステルのようにモンスターを轢いて倒したりすることは出来ないらしい。轢くことは出来るが倒しきれないと本人は言っていたな。つまり、スキルLVが低いんだ。
まあ、アタッカーとタンクへステ振りして〈馬車〉の操縦まで全力で手を出すのは厳しいだろう。綿密な育成スケジュールが必要だ。
現在のラムダは前衛で回復もできる硬いアタッカーとして重宝されているらしく、SPは主にそっちをメインに振っているらしい。それでいい。
「そしてこっちも出す。アイギス、セレスタン」
「はい! 〈イブキ〉、出します!」
「ではこちらに出させていただきます」
「「「おお~!」」」
アイギスが取りだした〈イブキ〉を見て〈キングアブソリュート〉組がざわめいた。
セレスタンの〈馬車〉はすまない。高級品止まりの〈からくり馬車〉なのでほとんど注目されなかった。一応最大強化して8人乗りできるんだがな。
「これが、例の〈学園出世大戦〉Aランク戦で猛威を振るった……」
「ああ。〈浮遊戦車イブキ〉だ!」
「「「「おお~」」」」
ユーリ先輩もやはり驚くようで目を見張っている。
「壮観だよ~! すごいすごい、すご~い!」
「ゆ、揺らさないで。揺らしちゃダメ」
こちらはテンション高くなった【戦乙女】のアマテス先輩と肩に手を置かれて揺らされて青い顔をしている猫人女子。ちなみにさっきはカルアに敗北していた。
カルアはお腹がぽっこり膨らんでいるくせにまったく苦しそうではない。実に不思議な光景だった。
さて、ここまで揃っていれば何をするかも見当が付くだろう。
俺はここに集まる全員に向けてこう言った。
「じゃ、最奥まで突っ走ろう!」
せっかく〈馬車〉があるのに使わないなんて勿体ない。
俺たちが正しい〈馬車〉の使い方を教えようじゃないか!(プロ級)
〈キングアブソリュート〉は人数が多すぎたんだ。
最奥なんて5人しか挑めないんだし、時には人数を削ることも必要だ。
聞けば攻略者の証が欲しいという人も少ないという。そういう人は今回は解散。
〈馬車〉の乗車人数は3台で28人まで乗れる。なら28人まで絞ればいい!
ということで、今日中に最奥まで行って攻略してしまおう!




