#1009 ついに〈キングアブソリュート〉と合流!
「ふっ、『波動斧戟烈』!」
「えーいあったれー『ヴァルキリーレイソード』!」
「フシュゥゥ―――」
「あ、また霧に隠れた!」
「ならば、この霧ごと叩っ切る! 『ギガントスラッシュ』!」
「アリちん外れてるってー!」
「みなさん、下がってください! 『ホーリーピラー』!」
そこで戦っていたのは〈キングアブソリュート〉の主力メンバーたち。
巨大なバトルアックスとタワーシールドを操る【守硬戦斧士】のバルガス先輩。
神々しい青と白の鎧に身を包み、しかしその言動は明るいムードメーカー【戦乙女】のアマテス先輩。
片手剣を両手で持つ変わったスタイルではあるものの、剣に愛された者にしか出せない凄みを持った女子【ソードマスター】のアリナリナ先輩。
一目でヒーラーと分かる白のシスター服装備に身を包み、パーティの指揮役も代行する【アークビショップ】のソトナ先輩。
この学園の中でもかなりの有名人だ。
全員がノーカテゴリーではあるものの、そのプレイヤースキルは一流。
ユーリ先輩が直接スカウトしてパーティに入れた〈キングアブソリュート〉の主力メンバーたちだ。
そのメンバーたちが苦戦していた。
相手はこの〈霧ダン〉の徘徊型ボス。
自身を霧化し、周りを霧で包ませ、催眠術を操り、奇襲で攻撃してくるいやらしいボス。
その名も〈ヴァンパイアバイカウント〉だ。直訳するとヴァンパイアの子爵である。
ダメージを受けると霧化して逃げられるため、とても倒しにくい敵としてゲーム〈ダン活〉では有名だった。
しかし、その防御力は低い。特に日中は。
故に逃げに入ったとき、大技を連打すればギリ倒せなくは無いボスだな。
霧化されたらとある塩や砂アイテム、専用魔法を使わないと実体化しないのでやっかい。
その塩も砂もランク4の〈冠水の島鳥ダンジョン〉で手に入るのだが、俺はまだそこに行ってないからなぁ。まあ、ごり押し出来るのでいらないのだが。後はラナが使える『レクイエム』などの対アンデッド魔法も有効だな。
しかし〈キングアブソリュート〉たちはどうやら〈ヴァンパイアバイカウント〉を逃がしてしまったようだ。
辺り一帯に立ち込めていた霧が徐々に晴れていき、ボスがもうこの場には居ないことを示していた。
「逃がしてしまったようだね」
「はあ~またか~」
「う~ん、どうすれば倒すことが出来るのでしょうか……」
徐々に〈キングアブソリュート〉のメンバーたちが臨戦態勢を解いていく。
ユーリ先輩の声に【戦乙女】のアマテス先輩がガクンと項垂れ、【アークビショップ】のソトナ先輩が指を頬に当てる考えるポーズで思案していた。
ボスを逃がしてしまった割には悪くない雰囲気。
どうやらあのボスを逃がすのは1度や2度じゃない様子だ。
そしてボスの対策も確立しているのだろう。被害らしい被害は無かった。
だが、倒せない理由は俺にはすぐに分かった。
何しろ〈キングアブソリュート〉はここに30人近くの人材を集めていたのだから。
これでフィールドボスと戦えばパワーアップされてそりゃ倒しきれないだろう。
〈ヴァンパイアバイカウント〉は少人数の精鋭で当たるのが鉄板なのだ。
まあ普通は奇襲されるので、複数パーティで一緒に行動していると、その複数が大体最初から戦闘に巻き込まれてしまうんだけどな。故に多段パワーアップされてしまい倒せなくなってしまう。
これは徘徊型の特性の一つだ。
数多くの集団でレイドを組んで楽々攻略、そんなことさせない! という開発陣の意思を感じる。
徘徊型は攻略の妨害役。
上層や中層はその方法でも突破出来たかもしれないが、下層では徘徊型がいるため簡単に突破させない。それが〈ダン活〉のダンジョンだ。
「む、誰だ!」
おっと、複数の人材の中の誰かがこっちに気付いた様子だな。
「ニャー」
「なんだ猫か。ってそんな訳あるか!」
「おお~、良いツッコミだ」
先行していたカルアの猫の1体、クミンがニャーと鳴いて気を引いたが、さすがに騙されなかったようだ。一応猫は本物なんだけどな。
俺たちは遺跡跡の壁から出て手を挙げながら〈キングアブソリュート〉に近づいた。
「ユーリ先輩、久しぶりです」
「ゼフィルス君? なんでここに居るんだ? 早くないかい?」
現れた俺たちを見て〈キングアブソリュート〉のメンバーがざわめいた。
うむ、苦労してたどり着いていたこの場に俺たちがいるのだからそりゃざわめくだろう。
シエラが静かに首を振っているのはどういう意味だろう?
「そりゃ、〈キングアブソリュート〉を手伝いに急いできたんですよ。応援です」
「いや、説明になってないよ?」
先ほどより大きくざわめく〈キングアブソリュート〉メンバーたち。
「こほん。とにかく話を聞こう。――全員、ここで休息とする!」
「「「「はっ!」」」」
ということで、ユーリ先輩と話すことになった。
場所は以前納品した〈最上級カラクリ馬車〉の中。
何やら呆然とした様子でこっちを見てくるあちらのメンバーたちの間を通り、俺、シエラ、セレスタンが馬車へと入る。
うん、相変わらず中がやたら広いな。
その一つ、高級ソファのようなものがあり、ユーリ先輩から座ってくれと案内されたので遠慮無く座る。シエラも座るが、セレスタンは立ったままだ。
向こうもユーリ先輩とソトナ先輩は座るが、他の3人のパーティメンバーが後ろに控える形になった。
「ふう。何を言ったらいいか少し混乱したけれど、よく来てくれた。歓迎するよ」
「突然の到着でしたが、受け入れてくださりありがとうございます」
「はは、以前〈霧ダン〉攻略を打診したのは僕の方だしね。むしろ願ったり叶ったりだよ。それともうちょっと砕けてもいいよゼフィルス君?」
「そう言うわけにもいかないでしょう。ここは人の目がたくさんありますから」
「残念だね。そうだ、まだちゃんと紹介したことがなかったね、僕のパーティメンバーを紹介するよ――」
まずは改めて挨拶。
ユーリ先輩からパーティメンバー4人を紹介してもらい、俺もシエラとセレスタンを紹介する。まあお互い知っているが順序は大事だ。
「それで改めてなんだけど……なんでここにいるんだい?」
「そりゃここまで攻略してきたからですよ」
俺はキリッとした顔でそう言った。シエラがすまし顔で一度深く目を瞑っていた。
「そんなに簡単に言われちゃうと僕たちの立つ瀬が無くなってしまうのだけど……?」
ユーリ先輩は乾いた笑いをしていた。
他の4人も微妙な顔をしている。いや、剣士風の女子【ソードマスター】のアリナリナ先輩はそんなことは無さそうだ。動じない剣士の気風を身に纏っている。
「セレスタン、到着するなら連絡が欲しかったのだけど……?」
「サプライズでございます」
「いや、サプライズって、セレスタン?」
ユーリ先輩がセレスタンに投げるが見事に躱されていた。さすがはセレスタンだ。
セレスタンがサプライズなんて言うところは初めて見たな。
見ろ、ユーリ先輩も目を白黒させているぞ。
セレスタンはラナに関することでユーリ先輩に協力している的なことは知っている。
しかしそのラナはついこの間帰省してしまったのでセレスタンはユーリ先輩への連絡は最低限に抑えていたようだ。
うむ。故のサプライズだな。それっていいのセレスタン?
「連絡しても混乱を生むだけだと判断いたしました。また、ゼフィルス様たちの移動速度が速すぎて到着の予想が付かなかったという理由もあります」
そう、俺にだけ聞こえるように耳元で語ってくれるセレスタン。
なるほど、確かに〈霧ダン〉に入ダンしてから2日目でここにいるしな。
そういうことなら仕方ない。
ユーリ先輩が珍しく困惑していると、その後ろに立っている【戦乙女】のアマテス先輩が俺に話しかけてきた。
「ねえねえ、そんなことよりさ。今日から手伝ってくれるって本当?」
「こらアマテス。ユーリ殿下が話されているところに割り込むなんて失礼ですよ」
「はは、構わないよ。確かにこのままじゃ他に気になることがありすぎて話が進まなさそうだしね」
シスター装束のソトナ先輩がアマテス先輩に注意するが、ユーリ先輩が慣れたように窘めていた。
どうやらいつものやり取りのようだな。ソトナ先輩はシエラ的なポジションなのだろうか? いや、話を進めるか。
「さっき言ったとおりですよ。〈霧ダン〉の攻略を〈エデン〉が手助けします。もちろん今日から、すぐにでも」
「ふむ」
「失礼を承知でお聞きしたい」
「どうぞ」
俺の言葉にユーリ先輩が考える仕草をすると、後ろに控えていたバルガス先輩が硬い口調で俺に話しかけてきたので先を促した。
「〈エデン〉の応援、感謝の言葉も無い。だが、どのような助けなのかを明示していただきたい」
なるほど。確かに手助けに来ただけだと弱いな。具体的に何を手助けしてくれるのか、というのは重要だ。ありがた迷惑という言葉もあるし、恩の押し売りは良くない。
「そりゃあなんでもです」
「なんでも?」
「はい。〈キングアブソリュート〉が困っていることはなんでも解決しますよ」
「…………」
俺がそう言うと糸目のバルガス先輩は黙ってしまった。
「ぷはっ。あははははは」
「ユーリ殿下?」
「いや、あはははは。バルガス大丈夫さ。ゼフィルス君は出来ないことは言わない。信用して大丈夫だ」
「ユーリ殿下が大丈夫と言うのならワシは従います」
「ゼフィルス君。〈エデン〉の目的を聞いても良いかい?」
「もちろん、今後の上級ダンジョンの攻略をしやすくするためですよ(意味深)」
「まあ、そうだよね。なら、安心だ」
「うーんこれはすごい応援が来たね」
「ここ最近行き詰まっていましたから。他のギルドと共同であっても攻略を推し進めた方がよろしいかと」
「僕もそう思うよ。年末年始というこの時期に帰省もせずに攻略しているんだ。なんの成果も上げられませんでしたでは通らない。〈エデン〉の協力、とても頼もしく思うよ」
どうやら最近の攻略階層の更新が中々進んでいないのは悩みの種だったらしく、〈キングアブソリュート〉はこちらが驚くほど簡単に〈エデン〉を受け入れた。
「よろしく頼めるかい、ゼフィルス君」
「任せてください。すぐに〈霧ダン〉なんて攻略させて見せますよ!」
大船に乗ったつもりで任せてほしい。
ユーリ先輩とグッと握手を交した。




