#109 ボス戦で腕を磨こう! 狩りって楽しいな!
木箱の中身はただの〈グレートソード〉、両手剣だった。いらん!
売り決定! と〈空間収納鞄(容量:大)〉にボスドロップごと収納する。
収納しているとやや気落ちしたハンナが近寄ってきた。
ああ、魔法一発も当てられてなかったからなぁ。
「あ、ゼフィルス君、あんまり役に立てなくてごめんね?」
「気にするな。的が小さいんだし何より素早い。当り難いんだから仕方ないって」
「でもラナ様は当ててたのに」
そうなのだ。ラナはテンションの関係なのかハンナとほぼ同じ後方にいたのにもかかわらず〈バトルウルフ〉相手に二度も『光の刃』を決めていた。何気に命中の才能あるよなラナって。
とはいえそれはラナだけの成果ではない。
「あれは俺も悪かったからな。本当ならタンクが敵の足を止めて、そこを狙って魔法を撃ち込まなくちゃいけないんだ。ラナが『光の刃』を当てられたのもシエラがきっちり〈バトルウルフ〉の足を止めたからだな」
それでもその隙を狙って魔法を撃つのは結構センスがいるが。
「俺の場合、複数の相手がまだ練習中でな。シエラにはまだまだ及ばない。複数を足止めするのは難しくてなぁ。だから、一緒に練習していこう。な?」
シエラは『受盾技』と『流盾技』のパッシブスキルのおかげで相手を怯ませやすいというのもある。俺の場合、防御技がアクティブスキルの『ディフェンス』だけなので足止めしにくいのだ。特に複数体は。
そこらへんメイン盾とオールマイティの差だよなぁ。
「う、うん。私もがんばるね!」
俺の励ましにハンナも少しは元気が出たようだ。今日だってこれからたくさん周回するのだ。良い練習になるだろう。
「よし、準備が整ったらまたボス周回を始めよう。今日は夜までやるぞ!」
それから〈バトルウルフ〉の乱獲が始まった。(?)
哀れな小狼は毛皮をたっぷりと持っていかれ、ツルッパゲになるまで狩られたという。
まあ、いくらドロップしても禿げないんだけどな。
お昼休憩を挟み、MPポーションでブーストしながら狩る事約8時間。
時刻はすでに18時。夕日はすでに沈みかけだ。
ダンジョンでも日はしっかり沈むのでそろそろ引き上げ時だろう。
「オォォォ…ン……」
すでに何周か分からなくなって数時間。
また断末魔の悲鳴を上げた〈バトルウルフ〉が膨大なエフェクトの海に沈んでいった。
俺たちにとってすでに慣れた光景になりつつある。
それでも全然飽きないんだからゲームって不思議!
「お疲れー」
「お疲れ様でした」
共に〈バトルウルフ〉をボコッていたエステルと労いあうのも何度目だろうか。
これも何回やっても良いもんだよなぁ。ゲーム時代のダン活には無かったものだ。
今すごくゲームしてるって感じがする!
「そろそろ帰るか!」
「ですね。日も沈んでまいりました。帰還した方が良い頃合でしょう」
そういえばエステルとこうして会話するのってあまり無かった気がするな。
と今更ながら気が付いた。
「? 何かありましたか」
「いいや。しかしずいぶん狩ったけどいったい何周したんだ? 途中から夢中でまったく覚えてない」
「52周ですね。みなさん最後の方はとても良く修練されていました」
「おお。そりゃ新記録だな」
皆最後の方は慣れてきて1戦5分を切っていたからな。
俺も複数体相手の『ディフェンス』の扱い方がだいぶ分かってきたぜ。
ハンナもラナも、魔法に慣れてきたようだ。敵に当てられることもかなり増えてきている。
シエラは本当に安定してるな。〈バトルウルフ〉を相手に最初からすばらしい立ち回りを見せ、今では『シールドスマイト』や『シールドバッシュ』でダメージも稼ぐようになってきている。
皆順調に成長しているようだ。
隣にいるエステルもだいぶ槍に慣れてきた感じだ。
俺が勧めて剣使いだったのに転向させてしまったし、槍スキルしか取らせていない。何か悩み事なんか有れば相談事に乗ったほうが良いかもしれないな。
「何か〈スキル〉で分からない事や困った事とかはないか? 相談に乗るぞ?」
「いいえ、大丈夫です。今はとにかく試行錯誤と練習あるのみです」
「皆秀才だなぁ~」
「いえ、ゼフィルス殿ほどではありません」
え? 俺、秀才って思われてるの? さっきタンクで噛み噛みされまくったんだけど。
「なんの訓練も受けていなかった方が、ある日【勇者】に就いたからといってそこまで的確に動けるはずがありません。ゼフィルス殿には間違いなく才がお有りです」
ああ~。それは全部〈ダン活〉のおかげだな。
俺に才能があるとしたらゲームに熱中する向上心くらいだ。
ま、でも俺に〈ダン活〉の才能があるって言われるのは素直に嬉しいね。
「サンキューエステル。最高の褒め言葉だ」
エステルと話をしているとメンバー全員が集まってきた。
「そろそろ切り上げようか」
「ええ! もうちょっと狩りたいわ!」
8時間も狩りをしておいてまだ全然足りないとラナが言う。無邪気な発言に〈バトルウルフ〉が聞いたら恐怖に震えるな。
でもラナの言いたいこともわかる。狩りって楽しい! まだまだ狩りたい!
しかし、そんな俺とラナをよそにハンナとシエラは素直に帰り支度を始める。
「結構素材集まりましたね」
「そうね。けど一番欲しがられている〈一戦小狼の大毛皮〉はまだ13個しかドロップしてないし、もう一日は来る必要があるわね」
「良いわね! 明日、明日また来ましょ!」
「俺は良いが、みんなはどうだ? 疲れていたりしてないか?」
ゲームなら数時間だろうが数十時間だろうが余裕だが、ここはリアル。
動けば体力も消費するし疲れも溜まる。しかし、
「私は問題ありません」
「私も、それなりに鍛えているつもりよ」
前衛メンバーが力強い。
「私も、もう少し練習したいです」
ハンナも問題ないということなので、明日も〈小狼の浅森ダンジョン〉に挑むことが決定した。
ハンナはロリっ子なのに大丈夫か? とも思ったのだが、そういえばハンナはスラリポ中毒者だった。ずっと叩き続けても錬金し続けてもケロッとしていた覚えしかない。
案外タフだったんだなハンナって。




