#1007 〈霧ダン〉の狩り場! 43層エリアボス!
「ん、あそこ、〈レムスイカ〉がある。注意」
「お、本当だ。となると、まずはフィールドを整えないとな」
エリアボス発見。それと同時に自然罠も発見。
ということでまだボスと戦うことはしない。まずは戦闘するフィールドを整える。
守護型フィールドボスとは違い、エリアボスはフィールドのどこにだって出る関係上、やりづらい環境で戦う場面もある。例えば罠に囲まれた環境とかな。
〈霧ダン〉にも多くの罠が存在する。
その一つが広範囲に〈睡眠〉の状態異常をばらまいている自然罠、〈レムスイカ〉だ。
これの効果範囲でしばらく活動すると急に〈睡眠〉状態になってしまうという危険な罠だ。
移動中であれば眠る前に範囲外へ出てしまえるので問題無いのだが、採集や休憩、戦闘をするために足を止めると引っかかる。
普段は気にしなくてもいいのに、別の事に集中すると引っかかる。
かなり強力でいやらしい罠だな。
カルアは以前クラス対抗戦の時にこれを使われ眠ってしまい閉じ込められたことがある。
〈睡眠〉は強いのだ。
採取していこう。
〈レムスイカ〉の効力を取り除くと共に罠まで回収できる素敵すぎる作戦だ(作戦とは言わない)。
まあ、俺たちには全員シリーズスキルも含め『状態異常耐性』や『睡眠耐性』を持っているので〈睡眠〉になる可能性は低いだろうけどな。
「カルア、エリアボスは?」
「ん。まだ気が付いていない」
「よしよし」
エリアボスがこっちを発見する前にフィールドの罠を取り除いた空間を作ることができそうだ。
続いて〈モンスターケムリン〉を使って通常モンスターが寄ってこない環境を作れば完成。
ここへエリアボスを引き寄せるのだ。
「よし、カルア頼んだ。釣ってきてくれ」
「ん! 行ってくる――『神速瞬動斬り』!」
「――――ギャアアアア!!」
「来るぞ! 全員構え! トモヨ!」
「うん!」
カルアが目にもとまらぬ速さで駆けたかと思うと、少ししてボスらしき叫び声が聞こえて来た。
カルアが先制攻撃に成功したようだな。
そしてズシズシバサバサという足音と羽音が迫ってきたかと思うと、カルアが戻ってきた。ボスを連れて。
「帰還。連れてきた」
「ナイスだカルア!」
「『ヘイトアップ』! 『タウントコール』!」
「ギャアアアア!!」
自分のやりやすい環境にボスをおびき寄せるのは鉄板。
カルアの後ろから遅れてボスが登場する。
その名も〈ライライジェルトス〉。
始祖鳥のような頭に皮膜のある腕、尻尾はやや細長く先が二股に分かれている。
基本二足歩行で走り、低空も飛べる、雷属性を纏い襲撃してくる翼竜系のボスモンスターだ。
通称〈ライジェル〉。
通称名が無駄にかっこいい。いや、見た目も割とかっこいいけどな!
こいつ、翼竜のくせに倒すとなぜか食材ばっかりドロップする。鱗などより肉の方がドロップしやすい上に、鱗などと比較して食材は価格が安くてミール稼ぎや装備更新がし難いボスだった。
その代わりに経験値をいっぱいくれる。
〈ライジェル〉は〈霧ダン〉のエリアボスの中でも50層後半のエリアボスより経験値をくれるのだ。ドロップはしょぼいが人気のあったボスだった。43層という、微妙に来にくい場所にもかかわらず、大体の人がここでレベル上げするからな。
複数パーティで戦えるエリアボスなので、上級ダンジョン序盤、最も経験値稼ぎの出来る狩り場として知られていた。
もしかしたらしょぼい値段の食材もリアル的な補正で価値が高いかもしれないし、美味いのかもしれない。俺はこの〈ライジェル〉にとても期待していた。
すぐにトモヨがヘイトを取り、正面から〈ライジェル〉の突進を受け止める。
『ノックバック耐性』と同じ効果を持つトモヨの〈四ツリ〉スキル『不動』はまだレベルが低いためズザザザザと多少引きずられたが、なんとか耐えた。
そこへセレスタンが側面から打ち込む。
「『ストレートパンチ』! 上級ボスはやはり硬いですね。では――『浸透掌底』!」
「ギャ!?」
ああっとー! またセレスタンが浸透系の掌底で敵をグラつかせたーーー!!
効いてるぞーー!!
アレ強いな~。
「なるほど、雷を纏っているのですか。そして攻撃するとこちらも多少ダメージを受けると。少々厄介ですね」
セレスタンの言った通り〈ライジェル〉は雷を身体に纏わせている。
昔〈六森の雷木ダンジョン〉にあった〈六雷樹〉を思い出すな。あれも斧で樵るとビリッとダメージを受けた。あれと同じだ。ダメージはこっちの方が高いが。
物理の近接攻撃に対し、攻撃した者に多少のダメージを与える『雷鱗』を持っているので侮れない。気が付けばダメージがとんでもないことになっていることもあるため近距離アタッカーを入れるならヒーラーが必須のボスだ。または遠距離攻撃で倒すことが推奨されているボスだな。
「ここはヒーラーの腕の見せ所ね。『式神ノ参』! 『式神部分変化』! 『式神の武器』!」
「ヒーラー関係ねー!」
「うふふ」
召喚陣から現れたのは、鬼だった。マジでヒーラー関係無いし。タバサ先輩のちょっとしたジョークだろう。タバサ先輩にはちょっとお茶目なところがあるのだ。
まあ、召喚モンスターは有効だな。
召喚された鬼が巨大化して巨大棍棒を持つと〈ライジェル〉に躍りかかった。
〈ライジェル〉もビリビリと電気を帯びる尻尾を振り回し、翼を振り回してトモヨと鬼を相手に立ち回り始める。
「ガアアア!!」
「! 『イージス』!」
「ァ?」
「―――!」
勢いよく叩き付けられた尻尾攻撃の『ビリビリテイル』だったが、トモヨの『イージス』が防御勝ちする。そこへ鬼の棍棒が叩き込まれた。良い切り返し。
「ギャアアア!?」
「『シールドインパクト』!」
「いいぞトモヨ! ボスの攻撃が止まったらじゃんじゃんヘイトを稼いでいけ! じゃないとアタッカーにヘイトで抜かれるぞ!」
「はい!」
気が付けば他のアタッカーメンバーが〈ライジェル〉の後ろ側に周り込んで攻撃していた。
うむ。ダメージが高いんだぜ。
そんな高いダメージを与え続けているとすぐヘイトを稼いでしまう。
タンクはアタッカーのヘイトが自分を超えないようにヘイトを稼がなくてはならないが、攻撃を受けながらヘイトを稼ぐというのは案外難しい。シエラは平気な顔してやっているけど。
トモヨを見れば分かるが、ボスから狙われている最中にヘイトスキルを発動するのは普通は難しいのだ。下手なタイミングでヘイトスキルを使えば、その隙に攻撃を受けるハメになる。だからこそアタッカーがボスをノックバックさせたり、隙を作ったりしてタンクがヘイトスキルを使う時間を稼ぐ連携が重要になってきたりする。
シエラの場合は自分でボスの体勢を崩したり攻撃したりしてヘイトを稼いじまうからなぁ。
頑張れトモヨ。
「クワァ!」
「『ドラゴンブレス』!」
「ギュワアアア!」
しかし、体長40センチしかないゼニスなのにその数倍の翼竜を相手に押しているのを見ると、種族差を感じるぜ。
「思ったよりもダメージが多いわね。『領域回陣の儀式』! 『全体回復の儀式』!」
「ゼニス、交代しましょう。『竜騎姫フェイズ』! 『竜泉突き』!」
「クワァ!」
ゼニスは飛びながら爪で攻撃したり突撃したりするので『雷鱗』のせいでそこそこダメージを受ける。
ゼニスを下げ、スイッチしてアイギスが前に出た。竜と姫が交互にスイッチできるのも【竜騎姫】の強みだ。
防御してもダメージが増大する『貫通強化』があるので良いダメージが入ったな。
ゼニスは「クワァ」と鳴いて自分の番はまだかという目で俺を見る。
俺は「アイギスに任せろ」と言っておいたが、そしたら抗議するように俺の上を旋回しだした。
うむ、子どもっぽい行動にほっこりしたのは内緒。
そうこうしているうちに戦況が動いた。
カルアが〈ライジェル〉の尻尾をちょん切ったのだ。
「ギャアアアアア!?!?!?」
「おお!?」
強烈なダメージに跳び上がり大暴れする〈ライジェル〉。
そこへ攻撃するのは拳を握りしめたセレスタンの強力な一撃――ではなく、ルルのおでこだった。鳩尾直撃コース。へたをすればセレスタンの拳より強力な一撃。
「『ロリータタックル』!」
「ギュ!?」
高さ3メートルの翼竜なのでルルは直前でピョンと跳んでの一撃だ。
まるでスーパー頭突き。久しぶりに見た!
小さな幼女の一撃が見事に鳩尾に入り、〈ライジェル〉が一瞬止まって白目を剥いた。
おおう。なぜか背筋に冷たいものが流れる!
「強い!」
「ルル、ナイスです!」
「こちら、追加でどうぞ『紅蓮爆練拳』!」
「ギ!?」
哀れ、ただでさえルルの強力なおでこの直撃を食らった鳩尾にセレスタンが追加のサービスを行なった。
強力な炎の拳が鳩尾に吸い込まれ、〈ライジェル〉がついに膝から崩れ落ちてダウンしてしまう。
「よっしゃ総攻撃! 俺も参加だーー! 『テンペストセイバー』!」
「ん! 『128スターフィニッシュ』!」
「とうなのです! 『インフィニティソード』! 『ジャスティスヒーローソード』!」
「頭を狙いますね。――『イグニス・バースト』!」
「ゼニス、力を分けてください――『竜祝投天槍』!」
もちろん総攻撃。うずくまるようにして倒れたためお腹を攻撃できなかったのが残念。
その後も良い感じに削った後、最後はニーコの攻撃で〈ライジェル〉はエフェクトに消えていったのだった。




