#1006 順調に進む。順調すぎてピクニックになってる?
会議が開かれることになった。
重大な会議だ。
議題は【ぬいぐるみ職人】に〈上級転職チケット〉を渡すか否か。
ふむ。…………ふむ?
あの、〈エデン〉でぬいぐるみを武器として使うのはタバサ先輩だけなのだが。
え? それ以外にもぬいぐるみにはたくさん使い道がある?
例えば? 部屋に飾る? いやいやでもギルドハウスはすでにぬいぐるみで…………そういえば最近ギルドハウスが超広くなったんだよな。
え? 寂しい? ぬいぐるみが少なくて寂しい?
いや、どうかな……ぬいぐるみはすでに百体くらいギルドハウスのホールに飾られているけど寂しいの? あ、寂しいんだ。なるほど。部屋が広くなった弊害かな?
そんな説得をされた。
「この議題は持って帰って厳正な話し合いで決めるのです!」
「ルルがこんなにやる気なのはあまり見ません。本気なのですね。私も全力で協力しますよ」
「そうね……。いつもは〈上級転職チケット〉の使用先はゼフィルスのお願いばかり聞いていたもの。たまにはそういうのもいいかもしれないわね」
なんとシェリアとシエラが向こう側に付いた。
まあ、シェリアは分かってたけどな。まさかシエラが向こう側に付くとは。
そうなると俺は静観しか出来ない。
〈上級転職チケット〉ってこうやって決めてたっけ? なんか、もっと大切に扱われていた気がしていたが、これもメンバー全員にチケットが行き渡った故の変化か。
結局ギルド〈エデン〉で厳密に話し合って決めるということで話はついたのだが。
ぬいぐるみに掛ける情熱がみんなすごい。きっと可決されるだろう。根回しするまでもない。
〈エデン〉にはぬいぐるみ好きが多いのだ。
あのAランクギルドハウスの大ホールがぬいぐるみでいっぱいになる日は、ひょっとしたら近いのかもしれない。なんとか手を打たなければ。
「ゼフィルス様、こちらをどうぞ。心が安らぐティーを選んでみました」
「おお、ありがとうセレスタン……。―――って美味っ!!」
ヤバい。完全に気が抜けてた!
あまりの香りの上品さに思わず叫んでしまったぞ!?
これはもう完全にあれだよ、上級ティーだよ!
ドロップしたばかりの〈上級ティーセット〉を早速使ったなセレスタン!
しかもこれ、この前レアボスの〈カマグマ〉からドロップした上級レシピの〈蜂蜜入り高級ティー〉じゃん! そりゃ美味いはずだよ!? 見ろ、バフが〈INT+20%〉〈RES+20%〉とか付いてるし! つっよ!
「これは、確かに美味しいわね」
「はい。心が安らぐホッとしたところに蜂蜜の甘さが染みこんでくる、なんとも言えない美味しさです」
いつの間にかテーブルを囲っていたタバサ先輩とアイギスが同じくティーを飲んでそう呟いていた。
ちなみに今は30層最奥の救済場所で休憩中だ。
ボスを倒せばショートカット転移陣が現れる。その転移陣の周りは救済場所になるので、そこで休憩ということになったのだ。
まあ、31層からは未だ霧が立ちこめているだろうからな。
後お昼休憩も兼ねていた。
「でもここまで早かったわね。まだ13時よ」
「ボス戦がないのであればこんなにも早く進んでこれるのですね。慣れればもっと早くなりそうです」
現在30層である。上級ダンジョンの30層だ。
ここまで来るのに本来ならどれくらい時間が掛かるか。少なくとも数日は掛かるだろう。
しかし、俺たちは〈イブキ〉を使ってほぼ最短ルートでここまで来たし、ボス戦もさっきの30層が初だったので全然時間が掛かっていなかった。
つまりは楽勝である。さすがは上級ダンジョンの入門口と言われるだけのことはある。言ったのは俺だけど。
そして昼食。セレスタンが〈空間収納鞄〉から出しただけだが、まるでピクニックである。
ホッと一息。飯が美味い!
「それでこれからのことなのだけど、予定よりかなり早くここまで来ているわよね。この後はどうしようと考えているのゼフィルス?」
シエラの質問によって全員が俺に注目したのを感じた。
「……とりあえず今日は行けるところまでは行く予定だ。あと、トモヨを始めまだLVが低いメンバーも多いからレベル上げもやりたい」
「それは助かるよ!」
「レベル上げですか? ではエリアボスを見つけるのですね?」
トモヨが喜び、シェリアが確認してくるので頷く。
トモヨはタンクにしてはまだまだレベルが低いのでもう少し上げておきたい。
幸いにも、43層には経験値を多くくれる優秀なエリアボスがいるのだ。それを狙いたい。
「だな。ここで登場するのはこのエリアボスを呼ぶ笛。この〈フルート〉だ」
「「「おお~」」」
まだ周知していないメンバーのためにも説明。
〈フルート〉は〈笛〉系アイテム。70%の確率でエリアボスである階層ボスか希少ボスをリポップさせ呼び寄せる笛だ。回数は6回まで使えるので1回残して5回使用出来る。
つまりはエリアボスで周回出来るようになるアイテムということだ。
知らなかったメンバーから歓声が上がった。ちょっと気持ちいい。
「〈フルート〉は5回までしか使えないからな。出来るだけ奥の階層に進んだら楽なボスか、経験値を多くくれそうなボスに使いたいところだな」
「すごい。狩り場を作れるアイテムなんだ」
トモヨがキラキラした目で〈フルート〉を見ていた。いいリアクションだぜトモヨ。
この俺の提案が通り、今日は出来るだけ進んでからエリアボスを周回して狩って帰ることになった。
「じゃ、そうと決まれば出発だ」
「「「おおー」」」
31層へと入る。
「わ、霧濃い。前に見た1層より濃い」
「ここは中層だからな、上層よりも霧が濃いんだ。下層はこれよりもっとすごいぞ」
「なんで行ったことがないダンジョンの情報を知っているのかしら?」
「……勇者だからな!」
「…………」
シエラのジト目にテンションを上げながら階層門を潜るとそこは霧の世界だった。
10メートル先が分からない濃い霧だ。
こんな所を無防備に進めばたちまちモンスターからの奇襲攻撃に晒されてノックアウトすることだろう。
しかし、対策は万全だ。俺にはこれがある。
「じゃあ霧を払うぞ」
「お願いゼフィルス」
「そーいやー!」
なるべく遠くへ投げる。
もちろん投げたのは〈霧払い玉〉。このランク2〈霧ダン〉の救済アイテムだ。
ハンナが大量生産してくれたものだな。救済アイテムな上に消費アイテムなので、かなり安価に作れる。一回錬金すれば2、30個作れるからな。量産特化のハンナがこれをするとその50倍くらいの速度で生み出されていくので大量に在庫があるんだ。
投げた先でポーンという音が響き渡ると、徐々に霧が晴れていく。
「不思議な光景ね」
「本当ですね。こうやって霧が晴れていくんですね」
タバサ先輩とアイギスが感動していた。
投げてからすぐに効果が現れて全ての霧が消え失せ、見通しの良い遺跡の跡地みたいな土地が顕わになる。
「じゃ、アイギス。頼むぜ」
「あ、すみません。すぐに準備します」
霧が晴れるのに夢中になっていたらしいアイギスに声を掛け、〈イブキ〉を用意してもらうと全員が乗り込む。
「じゃあ、出発だ」
「はい!」
「クワァ!」
「目標は向こう。霧にぶつかったら俺が〈霧払い玉〉を投げるから、タバサ先輩はアイギスのHPが減ったら回復してほしい」
「任せてちょうだい」
霧が現れる度に俺は〈イブキ〉の前方に〈霧払い玉〉を投げに行かなくてはならないのでアイギスの回復担当はタバサ先輩に任せた。
「クワァ!」
「ははは、ゼニスも頼むな」
回復なら自分も出来ると言わんばかりに勇ましく鳴くゼニスを一撫でして出発。
ちなみにゼニスの回復も出来るスキル『竜の息吹』は、アイギスが〈馬車〉を運転しているので使えないのだが、それは言わないでおいた。
そのまま霧を払いながら下層へと進んで行った。
たまにカルアに索敵もしてもらい、エリアボスが引っかかると挑む。
目的の43層に着くまでに5戦もエリアボスと遭遇してしまった。多いな!
霧が晴れたところに向かってくる習性でもあるのかってくらい襲われた。
フィールドボスも35層と40層を撃破し、俺たちは43層へと到着。
そこからちょっとエリアボス探しをすると、すぐに見つかった。ラッキーだぜ。
さて、こいつを倒して経験値が多いことをアピールし、ここを周回する作戦、スタートだ。




