#1005 〈金箱〉回!神聖なクジ引き、運が強いのは!?
さて〈金箱〉がドロップしました!
しかも三つも!
素晴らしい。素晴らしいが、問題もある。
それはここにいるメンバーが10人ということだ。
共同作業でも全員に分けられない!?
「さすがに早い者勝ちといういつものスタイルも難しい、か。――だからカルア、そんな〈金箱〉の前を陣取っていないで戻って来い」
「ん!」
「ん! じゃない。――シエラ頼む」
「分かったわ。ほら、おいでカルア」
「にゃあ……」
いつもの通りいつの間にかカルアが〈金箱〉の前に陣取っていたのでシエラに回収させる。
俺だって〈金箱〉の前に飛びつきたいのに我慢しているのだ。許せカルア。
さてそろそろこの素晴らしい〈金箱〉を開ける人を選ぼうと思う。
「集合! 全員集合だ!」
宝箱を開けるのだから全員を集める。
「ゼフィルス、いつもみたいに〈金箱〉で狂ったりしないでね?」
「し、しないよ?」
シエラの言葉に少しどもった。
でもきっと大丈夫だろう。チラッと宝箱を見る。〈金箱〉が三つある。三つだ。〈パーフェクトビューティフォー現象〉の一歩手前だ。自然と頬が緩みそうになるのは仕方ないことだ。
「ほほう、〈金箱〉が三つか。なかなか幸先がいいじゃないか」
「ニーコもそう思うか!?」
イエーイとニーコにハイタッチ。
うむうむ。普通ボスからの宝箱は一つだ。
そこに〈幸猫様〉たちのお力が加わり倍の二つに、そしてそこにニーコの『レアドロップコレクション』の効果で三つになった。素晴らしい。
さらにはニーコの『ラストアタックボーナス』の効果でいつもより〈金箱〉確率アップ。
きっとこの効果が反映されたに違いない。
ありがたやありがたや。ニーコに祈りたい気持ちになった。
でもやめておく。なんかニーコにお祈りし出したらシエラに怒られる気がするから。(※ニーコにも怒られます)
ということで〈金箱〉を開けよう!
「それで勇者君。この〈金箱〉は誰が開けるんだい?」
「任せろ。俺、しっかりこの状況を想定していた。そしてクジを作ってきてある」
「なんか勇者君の言葉がいつもと違う気がするよ?」
「気のせいさ!」
ニーコの言葉に不敵に笑うと、俺はバッグからクジを取りだした。
神聖なるクジで宝箱を開ける人を選ぶのだ。
当たりを引いた人は運がいい人。その運を是非宝箱にも使ってほしい。良いものください!
「それなら公平ですね」
「ルルが最初に引きたいのです!」
シェリアが頷き、ルルがぴょんぴょん撥ねて最初に引くことをアピールする。
ふっふっふ。良いだろう。クジの内容を当たり3本、ハズレ7本にして、まずルルの前に差し出した。
「どうぞ」
「う~ん。これなのです! あ、当たりなのです!」
「当たっちゃった!? ルル運が良いな!?」
初っぱなから当たり出ちゃったよ!?
むむむ、これで残り当たりが2本にハズレが7本。ここで引くと外れる確率が高くなる。さてこの状況、クジを引きにくる強者はいるか?
「ルルの次は私です」
おっとシェリアが来たーー!!
ルルの次という順番が彼女にこの過酷な確率へ挑ませてしまったというのか!
果たして結果は?
「あ、ハズレなのです」
「…………」
うん。ドンマイだシェリア。そんな落ち込むなって。まあ〈金箱〉だしな。凹む気持ちは分かる。次、頑張れ。
その後もドンドン引いていった。
シエラ、トモヨ、カルアが引きに来るがなんとハズレ。
これで当たり2本、ハズレ3本になった。良い感じの緊張感が漂う。
「次は私の番ね」
「タバサ先輩、どうぞ」
タバサ先輩の前にクジを差し出す。
ここで外れれば次の確率は2分の1となる。当たれば4分の1だ。どっちにしろドキドキな展開だ。
「あ、当たりみたい」
「「「おおー!」」」
「タバサ先輩おめでとう!」
「ありがとう」
タバサ先輩は当たりだった。これで分からなくなった。
引けるのは4人、当たりは1本。もし自分の前に引いた人が当たりを引けば自分の番は回ってこない展開だ。それはそれで悲しい。
「どうする?」
「ならば、全員で引こうではないか」
ニーコから妙案。
俺以外の3人が同時に引けば良い。ちなみに俺は残り物だ。
この提案に最後で良いと遠慮していたセレスタン、そしてアイギスが同意。
4人で恨みっこ無しで引くことになった。
それぞれ3つの手がクジを1本ずつ掴む。竜のゼニスがそれを興味深そうに見つめていた。遊びだと思われたのかな? そうだ、遊びです。引くぞ!
「せーの」
「ほい」
俺の掛け声に3人がクジを引くと俺はすぐに手に残ったクジを確認――ハズレだった。ガーン!!
「おや。僕のようです」
「おっふ」
セレスタンの手の中にあったのはまさしく当たりクジだった。
ニーコがショックを受けたリアクションをしていて、アイギスのクジはゼニスがパクッと食べていた。あ、それは食べ物じゃないぞゼニス!?
ということで〈金箱〉を引くのはルル、タバサ先輩、セレスタンに決まった。
なるほど、公平に決めるとこうなるのか。
「おお~、なんだか珍しいメンバーだな」
「恐縮です」
「遠慮するなよセレスタン。〈金箱〉は神聖なものだ。精一杯願いを込めて引けば良い」
セレスタンが遠慮しそうな雰囲気をしていたので先に言っておく。
今回運が良いのはセレスタンなのだ。是非その運で良い物を当ててほしい。
それに今回のボスはセレスタンが頑張ってくれたしな。あの怒りモード中の〈スノポン〉によくやるよ。
セレスタンは一礼すると一つの〈金箱〉の前にしゃがみ込んだ。
続くようにルル、タバサ先輩も〈金箱〉の前にしゃがむ。
「ではお祈りだ! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉良い物ください!」
「お願いいたします」
「良い物くださいなのです!」
「お願いします」
お祈りは重要。宝箱を開けるときにお祈りするのは必須だ。
そこはギルド内で周知徹底している。
パカッと宝箱の開けられる小さな音が妙に大きく辺りに響いた気がした。
中身は何だ?
まずはルル。
「お~? チケットなのです!」
ルルがじゃじゃーんと片手に持って掲げるのは間違いない。まさしく〈上級転職チケット〉だった。
うむ、まあ1枚くらいあってもおかしくはない。
次にタバサ先輩は?
「これはレシピね」
ふむ。すぐに〈幼若竜〉の準備をしよう。
ちゃんとエステルから預かってきているので問題は無い。
そしてセレスタンだが。
「これは――ティーセットのようですね」
「ってティー作製アイテムを当てちゃったのかよ! マジか!」
セレスタンが当てたのは文字通り『上級ティー作製』に使うためのティーセット。〈上級ティーセット〉だった。なんというタイムリー。
セレスタンには上級のティーを作ってもらいたいと前々から言っていた。そして了承ももらっていたし『上級ティー作製』にも振ってもらったし、ティー系のレシピだって持っている。
しかし肝心の〈上級ティーセット〉が無かった。学園でもどこにも無いのだ。
これではアイテムが作れない。おかしい。
上級生産職はこの世界にはまったくいない。だから普通は上級の生産アイテムはどこかしらに余っているはず。
なのにティーセットだけはどこにも無かったのだ。
それもそのはずで、ティーセットは【調理師】ではなく【メイド】【執事】の分野。
生産アイテムのはずなのに実際使うのが純粋の生産職ではないのだ。
メイドや執事は割と上級職になることも多く、上級ティーセットだけはどこかに流れてしまうとのことで在庫が無かったのである。マジかよ……。そんなことある?
だが、ここに来て光明が現れる。セレスタンの運の良さを見極めた俺の目に間違いは無かった!
「ゼフィルス様」
「ああ、これで上級のティーが作れる! セレスタン、レシピは!?」
「持参いたしております。もちろん加工した茶葉も」
「持って来てるの!? さすがはセレスタンだ! 作れるか!?」
「お任せください。次の休憩の時に作ってみましょう」
「頼もしい!」
さすがはセレスタンである。
ついに時は来た。
上級のティーを飲む時が!
うおおおおお! テンション上がってきたぜ!
これで上級ボス周回がさらに進むことだろう!
そして最後にタバサ先輩のレシピだが、中身は。
「これは、ぬいぐるみのレシピだわ。――【人形師】の上級職【ドールマスター】などが使うアイテムみたい」
タバサ先輩が当てたのはぬいぐるみのレシピだった。もちろん上級ぬいぐるみだ。
上級ぬいぐるみってなんだろうな。見ろルルがキラキラした目をしてるぞ。
その後ろに控えるシェリアはニッコニコだ。
「私でも使えるかしら」
「おう、これなら【メサイア】の式神にも出来るぞ。能力値がむっちゃ高いな。もし作れればタバサ先輩の力になることは間違いない。が、これは作製できる人物がいないな」
「確かに、武器にもなる上級のぬいぐるみだもの。専門職が必要ね」
果たしてぬいぐるみに上級は必要なのか? 必要なのだ。
しかし、残念ながらまだまだ上級生産職は少ない。【ぬいぐるみ職人】なんてマイナーな職業を〈上級転職〉させたいという人は皆無だろう。と思ったのだが、ここにその人がいた。
「分かったのです! ではこれを使えば良いと思うのです!」
そこには〈上級転職チケット〉を持ったルルがいた。
そう繋がるのか!?




