#1004 〈スノポン〉戦後半。行けニーコ〈金箱〉だ!
〈スノポン〉のHPバーががっつり減ったのを見てみんなの行動が変化する。
誘導するまでも無く攻略法に気付いたようだ。
この〈スノポン〉は自分で雪を生み出すことが出来る特殊なスキルを持っている。
そして雪の鎧を着るのだ。
その上から攻撃しても防御力が高くダメージはかなり軽減されてしまう。しかし、規定値を超えるダメージや〈火属性〉の攻撃などを食らうと雪の鎧が剥げる。そこを叩けば大きくダメージを稼げるのだ。
「なるほど、そういうことですか。なら炎でもいけそうですね――射線を開けてください『イグニス・バースト』!」
「ゼニス、炎です『竜の息吹』!」
「クワァ!」
すぐにそれを看破し攻撃に転ずるのはさすがだな。
シェリアが手からイグニスの炎を発射し、ゼニスが火炎放射を吐く。
『竜の息吹』は特殊でテイムしている竜によって効果が変わり、スキルLVが上がるほどその威力と種類を増やすスキルだ。竜が状況に応じて攻撃から回復まで様々な息吹を吐いてくれるのだが、この世界だと主人の指示通りに息吹を吐いてくれるからヤバい。
そして炎に包まれると雪がガンガン溶けた。自慢の雪鎧が溶かされてしまった〈スノポン〉は、ちょっと怒ったような声を出してそのままトモヨに躍りかかった。
「ポス!!」
「わ、速い!?」
しかもさっきより5割増しくらいの速度で。
雪の鎧が無くなると防御力が低下する代わりに素早さが上がるのも〈スノポン〉の特徴だ。
「『堅牢の二枚壁』!」
〈スノポン〉が飛び掛かり突撃、そしてその背後から数本の氷柱がトモヨを狙った。〈スノポン〉の魔法攻撃だ。トモヨがスキルを使って防御する。
近距離の物理攻撃と氷柱の魔法攻撃の二段構えだ。
シエラやトモヨといったVITもRESも育てているタンクじゃないと割とダメージを受ける攻撃だ。
「『回復の儀式』! トモヨ、ダメージは気にしないの、まずは攻撃に慣れることよ。回復はこちらに任せて。目の前のボスに集中して」
「はい!」
タバサ先輩の言葉にトモヨの集中が増す。
前々からタバサ先輩は下部組織〈アークアルカディア〉の指導役をしていた。トモヨとの信頼関係もバッチリな様子だ。
これは俺だけではなく、シエラの出番も無さそうだ。
「ポース!」
「とう! ルルも攻撃に加わるのです!」
「私も前衛に参加します。――『竜騎姫フェイズ』! 『竜祝投天槍』!」
「クワァ!」
デバフを掛け終わったルル参戦。
『ドラゴンフェイズ』の効果が終わったためアイギスも参戦。今度はゼニスのステータスを借りる『竜騎姫フェイズ』を発動。アイギスのターンのようだ。
ゼニスから祝福を受けた強力な槍の一撃が〈スノポン〉に直撃する。
「ボッフ!?!?」
良い感じのダメージが入ったな。
戦況は良い感じに進んでいる。
「あなたは行かなくていいの?」
「アタッカーが過剰だからな。それに全体の指揮もある」
「指揮をしなくてもみんな独自に良い動きをしているけどね」
「ああ。さすがは自慢のメンバーたちだ」
そんなことをボスを観戦しながら話すのはシエラと俺だ。
俺たちはスイッチ担当というか待機組というか。……遊撃かな?
ぶっちゃけ、俺たちが参戦しなくても十分戦えているので、誰かがもしやられて穴が空いた時にスイッチして穴を塞ぐ担当だ。今の所そんな雰囲気は無いが。
誰かが状態異常などに陥ったときに速やかに交代するという重要なポジションだな。
戦況を見ながらシエラと会話していると、その横からニーコが話しかけてきた。
「僕も休憩していいかい?」
「ニーコは援護射撃を続けてくれ。あとラストアタックもよろしく」
「……了解だよー」
新しく新調した〈強合金の盾〉に半身を入れて防御しつつ、盾の上や横からハンドガンで撃って地味にHPを削り続けているニーコだ。ニーコにはそれを続けてもらう。ニーコの攻撃はアタッカーの邪魔にならないボスの上部分を狙えるので、俺たちと違いスペースの取り合いにはならない。どんどん撃ってほしい。
しかし、怪盗や海賊もかくやといった服装に身を包んだトレジャーなニーコが、そんなサバゲーみたいな射撃をしているのはいささか違う気がする。教えたの俺だけど。
「ニーコは盾を銃に変えて二丁銃使いにしてもいいな……」
「あ、それはかっこよさそうね」
「ねえ、なんか僕の居ないところで僕の話が進められている気がするんだけど?」
「安心してほしい。かっこよくしてやるさ!」
「どこら辺を安心しろって!?」
俺の今のポジションは仲間の指導も兼ねているんだ。
みんなのボス戦を見て、アドバイスしたりするのもギルドマスターの役目なのだ。
ニーコは【トレジャーハンター】なので、もうちょっと回避しながら攻撃する優雅さを身に着けてほしいと、個人的には思っている。
アクロバティックに相手の攻撃を躱し、反撃に二丁拳銃を構えてバンバン――良いじゃないか。ロマンの塊だ!
帰ったら早速新しい銃をニーコに渡そう! 盾と使い分けるのもロマンなんだぜ。
そうこうしているうちに〈スノポン〉が怒りモードに突入していた。
ヘイト関係無しに大暴れ。魔法も暴走させてそこら中にブリザードや氷柱をばらまいている。
遠くにいるこっちにまで届くな。
「ふお!? ――ねえ、勇者君見た? ねえ今の見た? 怒りモードの氷柱が盾に当たってこんなにダメージを受けたよ? 素受けは無理だって!」
ニーコが氷柱の当たった〈強合金の盾〉を見せながら盾の有能性をアピールしてくるが、俺の考えは変わらなかった。
「はぐ!?」
「『全体回復の儀式』! 『聖水の儀式』!」
「ふう、助かりましたタバサ先輩」
だってタバサ先輩がすぐに全体を回復してサポートしていたし。多少ダメージを受けても大丈夫だしな。見ろ、ブリザードによってシェリアが運悪く〈氷結〉状態になってもすぐに『聖水の儀式』で状態異常を回復していた。リカバリーが早い。
だからニーコのスタイルは変えても問題無いと思うんだ。うん。
暴れる〈スノポン〉は怒り状態なので中々近づけない。攻撃範囲もかなり広いため、防御で凌いで怒りが収まるまで待つのがセオリーだ。
「トモヨ! こっち来て『イージス』展開だ! みんなを守る盾になってくれ!」
「はい!」
トモヨは遠距離攻撃や状態異常にとても強い【アルティメット・イージス】だ。
暴れている〈スノポン〉を無理に抑えに行くよりも少し離れてみんなをかばう壁役に徹するべし。
「『イージス』!」
「この盾の後ろで耐えるぞ!」
「ポースッ!! ポーーースッ!!」
トモヨが張った『イージス』はまさに巨大な壁。
1枚の巨大盾の幻想が顕現したかと思うと、1枚の巨大な結界が張られてみんなを守った。『イージス』は状態異常になる攻撃に対し、防御性能が上がる特性を持っている。ブリザードに対して非常に強い防御性能を誇るのだ。
〈スノポン〉はさらにお怒りの様子だ。スキルを発動し、自分にブリザードを吹き付けて雪を纏い始める。
また雪鎧に包まれてしまうが、剥がせばいいので問題無し。
と思ったら暴れる〈スノポン〉に接近する影が一つ。
セレスタンだ。
あの大小様々な氷柱が放たれ暴れ牛状態の〈スノポン〉の懐に入り込む。
そして、左手の突き。
「『ブレイクノッキング』!」
「ポフォ!?」
「おお!」
思わずそんな声と共に手に汗握った。
あれはブレイク系が組み合わさった『ノッキング』スキル。
スキル攻撃中の相手に当てると攻撃をブレイクし、さらにはほんの少し動きを止める効果まである。なお〈麻痺〉効果付きではあるが、〈スノポン〉には残念ながら〈麻痺〉は効かない。
飛びまくっていた氷柱が力を失ったように落ち、〈スノポン〉が苦しそうにして一瞬動かなくなると、セレスタンはさらなる追撃を放った。
「『紅蓮爆練拳』!」
「プホワ!?」
強烈なフック!
真っ赤に燃えるセレスタンの拳が〈スノポン〉の頬を横からぶん殴ったのだ。そして爆発。〈スノポン〉はぶっ倒れた。ダウンだ。やべかっけぇ!!
「セレスタンナイス! 総攻撃だー! 『ライトニングバースト』! 『サンダーボルト』!」
「チャンスですね! ゼニス――『ドラゴンブレス』! 『騎槍突撃』! 『閃光一閃突き』!」
「ん! 『神速瞬動斬り』! 『128スターフィニッシュ』!」
「『イグニス・バースト』!」
「とうー! 『インフィニティソード』! 『ジャスティスヒーローソード』!」
トモヨの後ろに控えていた他のメンバーがとても素早く飛び出すと、全力でガンガン攻撃を加えていく。すると〈スノポン〉のHPが急激に削られていく。あ、まずい。これ以上は倒してしまうな!
「おっと攻撃中止! 攻撃そこまで! ニーコ、出番だ!」
「任せたまえー! ニッコニコにしてやんよー! 『3連バースト』!」
「ポス! ポスーーーー」
トドメ役は『ラストアタックボーナス』を持っているニーコが仕留める。
宝箱のレア度が上がる可能性があるからな。
みんなそれが分かっているので、一瞬で攻撃から手を引いていた。凄まじい連携。これが宝箱の力だ。
「ポ、ポス~……」
3連弾の銃撃が〈スノポン〉の雪鎧の無い身体に吸い込まれるとHPはゼロとなり、そのまま悲しげな声を出して倒れてエフェクトの海に沈んで消えたのだった。
そしてドロップは? 宝箱は? 何色だ!?
エフェクトが晴れた後にあったのは――金色だった。しかも三つもあった。
「〈金箱〉―――三つキターーーー!!!!」
うおっしゃーーーー!
これは〈幸猫様〉〈仔猫様〉の恩恵、そしてニーコの『ラストアタックボーナス』に加え、個数が増えるユニークスキル『レアドロップコレクション』の効果だ! 間違いない!
〈霧ダン〉! 初ボス!! 〈金箱〉!!! 三つ!!!!
ありがとうございます!!




