#1003 〈霧ダン〉30層守護型ボス――〈スノポン〉!
〈霧ダン〉30層守護型ボス――〈スノポン〉。
見た目は雪ウサギならぬ雪ダヌキ。
真っ白の雪に覆われた巨大なタヌキだ。タヌキ型の雪ではなく、雪を被ったタヌキというのがポイント。
体長は5メートル。四足歩行で毛皮の形をした雪を全身にまとい、くりっくりな赤い目と小さな鼻を持つ。あとすごくふっくらしている。
多くのモンスターが〈雷属性〉で跋扈するこの〈霧ダン〉では珍しい〈氷属性〉のモンスターだ。
だが油断は出来ない。
本来であれば濃い霧の中で活動するモンスターで、白い体が保護色となって姿がとても見えにくく戦い辛いボスだ。ゲーム時代ではボス戦中にもかかわらず斥候が常に索敵をして位置を割り出していたが、こいつはその索敵に反応して対抗スキルを使ってくるのでさらに厄介なボスだった。
ボスのくせに潜伏スキルがやたら高いのもやりにくい原因の一つだ。
索敵で敵を見つけたら、ただの雪の塊だった、という身代わりまでしてくるからな。さすがはタヌキである。
まあ、今は霧が晴れているので丸見えなのだが。
可哀想に。アイデンティティを失った雪だるま、じゃなくて雪ダヌキはただのボスだ。
ということで、早速狩ってみよう!
「はい! 私にやらせて!」
「いいぞ。じゃあメインタンクはトモヨで。シエラはトモヨが崩れたときのスイッチ役として最初は待機していこうか」
「構わないわ。トモヨ、任せたわよ。いつでも交代できるから気楽にね」
「やった! 新装備のお披露目だよ! 私頑張るね!」
タンクは2陣のトモヨがメインを担当することに決まる。もう〈イブキ〉を下りてるしな。
トモヨはまだまだレベルが低いが、装備が超優秀だ。合計の9点シリーズスキルと【アルティメット・イージス】の硬さなら30層でも何とかなるだろう。ヤバければシエラとスイッチすれば良い。やられたときのことなんか気にせず全力でやってもらおう。
トモヨが守護型ボスのパーソナルフィールドに進入すると〈スノポン〉がこっちを向いて威嚇した。
「ポスポス!」
「あれ!? 意外に癒やし系な鳴き声!?」
「油断するなよトモヨ。上級のボスだぜ」
「う、うん。気を引き締めるね! 『ヘイトアップ』! 『タウントコール』!」
そう、〈スノポン〉は意外にも癒やし系だ。
見た目もふっくらしてるし鳴き声も可愛い。でも油断したらやられるので気をつけてくれよ。霧の中では油断したものからやられていくのだ。霧なんてないけど。
トモヨが早速挑発スキルを使う。〈四ツリ〉の『タウントコール』で盾同士をぶつけ合って音を出し、挑発を掛けると〈スノポン〉がトモヨの方を向いた。そして、
「ポスポスーー!」
鼻先からブリザードを放った。鼻息かな?
「へ? ふおおおおお!? 『ハイ・イージス』!」
その意外すぎる攻撃に対応出来ず、トモヨが一瞬直撃を受けそうになった。ギリギリで二盾で防いで、その後スキル『ハイ・イージス』を使う。うん、驚いてスキルの発動が遅れたな。ビックリするよな。「その体格で鼻息ブレスだと!?」って、分かる分かる。ゲームでもよくあった。
『ハイ・イージス』は使用者の前方に巨大な1枚の盾を生み出し攻撃を防ぐスキルだ。【アルティメット・イージス】の〈四ツリ〉の中でも最硬度の防御力を持っている。うん、慌てすぎだな。
「トモヨ、落ち着いていけー。相手をよく見て観察するんだ」
「う、うん!」
トモヨは今回が初めての上級ボスだ。
まずは経験させてあげよう。
ブリザードが止むとトモヨが反撃に移る。
「今! 『ダブルシールドバッシュ』!」
「ポスポス!」
「へ? うそ!?」
トモヨの二つ盾の『ダブルシールドバッシュ』。
しかしこれは避けられてしまう。
中級ダンジョンではあまり避けるボスがいないためにトモヨはビックリした声を上げた。
さらに反撃として突進攻撃がトモヨに迫る。
トモヨはスキルが終わったところで反転し防御スキルを使った。
「くっ! なら〈四ツリ〉の『ダブルイージス』!」
「ポスポスー!!」
「防げた! 『イージスインパクト』!!」
「ポス!」
ようやく相手の攻撃を受け止めることに成功したトモヨがさらに挑発のついた盾攻撃でヘイトを稼ぐ。
よし、ようやく俺たちの出番だ。
「トモヨ、ボスのパワーアップに気をつけろよ! ――2パーティ目参戦するぞ!」
「「「おおー!」」」
ボスのヘイトを稼いで止めたなら、次は攻撃だ。
しかし気をつけなくちゃいけないことがある。
今回は2パーティでボス戦をするという点だ。
2パーティでボスに挑むと、その時点でボスのHPは全回復し、ステータスが上昇。
2パーティを相手にするのにふさわしいステータスにパワーアップしてしまう。
「まずは回復するわ『快癒の儀式』!」
「ポス? ポスーー!!」
タバサ先輩がトモヨを回復すると、〈スノポン〉が荒ぶった。赤いエフェクトに包まれ、HPが全回復する。
トモヨは2陣パーティだがタバサ先輩は1陣パーティだ。
2パーティ参加と捉えられて〈スノポン〉がパワーアップしたのだ。
「行くのですよ! 『キュートアイ』! 『ハートチャーム』! 『ロリータソング』!」
「ん! 『ブレイクピンポイントスタッブ』!」
即でルルとカルアがデバフをプレゼントする。
素早さ、攻撃力、魔法力、防御力がダウン。
「『六精霊全召喚』! 『古式精霊術』! 『大精霊降臨』! 『サンクトゥス』! ――サンクトゥス様、お願いいたします。さらに『パーティ・エレメントリース』です!」
「―――」
シェリアはバフを担当する。
今回降臨した大精霊は〈聖属性〉を司るサンクトゥス。まるで女神のような神々しい大精霊で、金色の瞳と白の長い髪をストレートに流し、白を基調とした羽衣系の衣装を着ている。装備しているのは先端が輝く両手杖。光の大精霊『ルクス』よりもバフに特化しており、強力なバフで味方を強化してくれる。
さらには精霊をパーティにリースしてステータスバフまでプレゼントした。
「ポス!?」
〈スノポン〉との戦力差を調整すると、いつの間にかセレスタンが〈スノポン〉の側面に接近していた。
「まずは一当て。『ストレートパンチ』! ほう、意外に堅い。ではこれではいかがでしょう――『浸透掌底』!」
「ボフッ!?!?」
ああっとー! セレスタンがなんか浸透させる的な掌底を放ったーー!
〈スノポン〉が蹈鞴を踏むーーー!!
意外にも雪の鎧を着込んだと言っても過言では無い〈スノポン〉は防御力が高い。
しかし、防御を貫通する浸透系を使われては自慢の雪鎧はあまり役には立たなかったようだ。鳴き声の「ポス」も「ボフ」になってる。さすがはセレスタンだ。
「まだまだ行きますよ―――」
セレスタンが攻撃をしたところで負けじと接近したのは1体の竜、ゼニスだった。
「ゼニス、今こそ良いところを見せるときです『ドラゴンフェイズ』!」
「クワァ!」
アイギスが竜のゼニスに『ドラゴンフェイズ』を使用する。
アイギスの力を受け取ったゼニスがセレスタンの反対側から〈スノポン〉に突撃をかました。ズドン。小柄でも竜。ゼニスの攻撃は重かった。〈スノポン〉の身体が大きくグラつく。
「ポス!?」
「『ドラゴンブレス』!」
「クワァ!」
「ポスーーー!?」
そして超近距離のドラゴンブレスが雪鎧に直撃。
雪の鎧が剥げてしまい、腹が露出してしまう。つまりは弱点だ。
「おっと。――なるほど、そこを叩けば良いのですね。お任せくださいませ。『必殺抜き手』!」
「ポスーーー!?」
いつの間にか周り込んでいたセレスタンが強烈なのを放った模様だ。
〈スノポン〉の露出したお腹に「ズドンッ!」といいのが突き刺さった。




