#1000 上級職ランクアップ! レンカ先輩編!
「こんにちはレンカ先輩! 〈上級転職〉しようぜ!」
「は? へ? なにごとだい!? その手に持っているチケットはなんだい!?」
「もちろんレンカ先輩に使う〈上級転職チケット〉だ!」
「????」
俺はCランクギルドの一つ、生産ギルドである〈私と一緒に爆師しよう〉にお邪魔していた。この店も勝手知ったる、俺が来店したら店番の子が速攻で奥の部屋へ案内してくれた。いつもの光景である。
目的はサブマスターのレンカ先輩だ。いや、もうただのサブマスターではない。
「あ、ギルドマスター内定おめでとうございます」
「これはご丁寧にどうも? いやいや、だからどういうことなんだい?」
「ギルドマスターの内定祝い?」
「いや、そこで疑問形になられても困るよ? あとお祝いが高価過ぎるから!」
レンカ先輩から鋭いツッコミが飛んだ。いつも通りなかなかのキレである。
俺とレンカ先輩はもうこんなやり取りが出来る仲だ。
「そ、それで? なんで私なんだい? 私、なんかゼフィルス君と接点そんなあったっけ? 多少打ち解けてはいたが、お客様と従業員という雰囲気だった気がするのだが??」
「あ、これは〈嫁チケット〉的な意味じゃ無いです」
まずは訂正。誤解は良くないからな。
誤解させておくといけないと、なぜか『直感』が警報を鳴らすんだよ。
次は説明だ。
〈エデン〉がなぜレンカ先輩に〈上級転職チケット〉を持ってくることになったのか、その理由を話した。
説明を聞き終わったレンカ先輩はなぜか全てを悟ったような目をして呟いた。
「ついに上級の〈笛〉まで担当させられることになったようだよ……」
「大丈夫さ。レンカ先輩ならやれる(確信)」
「あのね。一応私は【爆師】で、メインは〈爆弾〉系アイテム作製なんだけど? ほら、そこの棚にあるでしょ? そういうのがメインなの。君ってば私を〈笛〉の回復職人と勘違いしてないかい?」
「違うのか?」
「違うよ!? 全然違うよ!? 確かに今のギルドを支えるのは〈笛〉の回数回復依頼さ。そこはお世話になってます。でも、でもだよ? 爆師ギルドの本業は〈爆弾〉なんだよ!」
レンカ先輩が目に溜まったものを抑えながらくぅっとするポーズで涙を誘うようなことを言う。そろそろアイテム回数回復職人として活動しても良い頃だと思うんだよ。
今レンカ先輩が自分で言ったように、このギルドの財政は〈笛〉の回復依頼によって支えられているんだから。
ポーション系とは違い、売れ行きにばらつきのある〈爆弾〉系。特に素材がかなりお高めなせいで値段が高く、使い捨てにするには躊躇する物が多いアイテム類。
それでも中位職が多い今まではなんとかなっていたが、高位職の学生が増え、〈爆弾〉系アイテムに頼らなくても自力でダンジョン攻略出来るようになる者が増えると、爆師ギルドの売れ行きは一気に落ち込んだ。
外の看板に小さく書かれた〈消費アイテムの回数回復、やってます〉の文字が涙を誘う。
まあ、〈エデン〉が大量に〈笛〉の回復依頼をするおかげでギルドの内装は結構豪華なんだけどな。
かなり儲けてるから割り切るよ! とそうはいかないのが生産者心らしい。
だが、これくらいなら説得は可能だ。
「まあまあ、だがこうは考えられないか? 上級職になれば上級ダンジョンで通用する〈爆弾〉系が作れるようになる。学生はまだまだ装備不足でアイテムの力が必要だ」
そこまで言うとレンカ先輩の肩がピクリと動く。
「〈爆弾〉系アイテムの生産も一般向けの販売ももちろんして良いさ。〈笛〉の回数回復さえ優先してくれれば他に条件は付けないよ。どうだ? やってみないか?」
「やる!」
ちょろい。レンカ先輩ならそう言うと思っていた。だってレンカ先輩だし。
これで〈フルート〉回復要員は確保!
早速レンカ先輩と話を詰め、俺の指定する上級職へと〈上級転職〉してもらうことになった。
「レンカ先輩には【爆師】の上級職、高の下【ダイナミックボマー】に就いてほしい!」
「高位職だし! いいよ、いいけど。なんだか釈然としない?」
「気のせい気のせい。それじゃ行こうか?」
「今からかい!?」
「だって〈フルート〉回復してほしいし」
「ああ、うん。私は当分〈笛〉回復係だよ~」
頼むぜ?
〈フルート〉の回復はかなり重要だ。
目指せ五段階目ツリー!
レンカ先輩を早速〈測定室〉に連れて行き〈上級転職〉!
無事【ダイナミックボマー】に就いてもらった。
「やったなレンカ先輩!」
「わーい! と素直に喜んでいいのかいこれは!? へ? いったいどうしてこうなったんだっけ!? 私がいつの間にか上級職に就いている????」
「レンカ先輩! まずは祝おうじゃないか! むしろ踊ろうじゃないか! そうれクルクルクル~~」
「は~れ~~~!?」
レンカ先輩が冷静になろうとしていたのでクルクルダンスに誘った。
以前マリー先輩にやったって言ったら自分もやりたいって言ってたからな。
うむ、やはりクルクルダンスはテンション爆上がりしている時にこそやるものだ!
ふはははは!
続いて祝儀のSP10を『上級魔具回数回復』に全振りしてもらうよう話をする。
「ねえ、気のせいかな? それじゃあ私、上級の〈爆弾〉アイテムが作れないんだけど?」
「そっちは後回しだ。どっちみちレシピが無いだろ?」
「まあ、そうなんだけどね。まさか私が上級職になるなんて思わなかったからね~。下級職の時のSPは全部使っちゃったし」
「そっちは後でレシピも渡すさ。それよりまずはレベル上げも込みで『上級魔具回数回復』をLV10にして、上級素材を使って上級アイテムの回数回復をしまくる。これが一番経験値稼げるからな。レベルが上がればSPが増える、そしたら『上級爆弾作製』にSPを振っていく」
「うむむ。なるほど……」
要は遅いか早いかだけだ。なら、まずは経験値を優先した方がいいだろう?
それに『上級魔具回数回復』に振っておけば〈フルート〉も回復出来る。
中途半端に振っているのが一番よくないんだ。
悩んだレンカ先輩だったが、最終的に俺のアドバイス通り『上級魔具回数回復』に全SPを振ってくれた。
「まあ、すぐに上級爆弾が作れなくても今までと変わらないしね」
レンカ先輩も納得してくれて良かった。
ということで早速経験値を貯めないとな! 上級〈爆弾〉を作るために!
ほら、〈フルート〉と素材各種持って来たぜ。工房はあるだろ? 俺たちが〈笛〉を回復しまくったミールで最上級魔具工房をいくつも用意したの知ってるんだよ?
うんうん。じゃあ早速回復しに行こうじゃないか!
店に戻った俺たちは、最上級魔具工房の一つで早速〈フルート〉の回復をすることにした。
初めてでドキドキするかと思ったが、思った以上に冷静に準備を整えたレンカ先輩がスキルを使う。
「『上級魔具回数回復』! なるほど……。初めてにしては良い感じかな?」
「おお~! しっかりフル回復してるな、さすが未来のギルドマスターだ!」
「ふふん! そうでしょうそうでしょう! ――でもこれ、依頼が舞い込んでくるまで私経験値稼ぎ出来ないんだけど?」
「安心してほしい。そこは俺が後でじゃんじゃん持ってくるからさ。それでレベルアップした後のSP振りの相談なんだが―――」
そこから色々話し合った。今までのノリではなく、実際学園にとってのレンカ先輩の価値がどう変わるのかについて認識してもらう。
上級の消費アイテム回数回復は需要がある。というか今後とんでもなく需要が増える予定だ。レンカ先輩の注目度は爆上がりし、学園では知らない人はいなくなるだろう、その確信があった。
レンカ先輩は半信半疑みたいだったけどな。
あと、あの看板に小さく書かれたあれももっと大きく書いておくようにも説得しておいた。
また、レベルが上がったときのSPの振り方についても伝授した。『上級爆弾作製』にまず10振るのがいいと言っておく。
【ダイナミックボマー】の〈爆弾〉系アイテム上級レシピも供与する。レンカ先輩の願いも出来るだけ叶えてあげたいしな。
レンカ先輩とは今後も長い付き合いになる。一緒に学園を盛り上げて行こう!
それからギルドに戻ってギルドハウスの改装について手続きした。
いつまでもスタンダードのままじゃいけないからな。
せっかくお店を開く良い土地を手にしたのだから〈エデン店〉はオープンする。
新築だから改装するのは勿体ない感はあるものの、せめて工房と〈エデン店〉は無くてはならない。新しく加わったアルストリアさんとシレイアさんを含む生産組に意見を聞き、改装の設計を計画していく。
お店に関しては従業員であるセラミロさんやマリア、メリーナ先輩の話も参考にした。
提出完了。
これで2日後には完成しているだろう。
一応正面の外観、店構えくらいは改装をお願いしたが、他の部分に関しては帰省組が帰ってきてからになる。
そんなことをしていたら日が暮れていた。
戻ってきたメルトたちに聞いたところ、モナとソドガガは無事〈心〉〈結晶〉〈宝玉〉をいくつか発掘することに成功したらしい。
また女物装備を着ていたモナが良い笑顔で〈エデン〉の取り分を納品してくれた。
おお!? これは〈天槍の宝玉〉じゃないか!? 良いのか!?
在庫切れだったから超ありがたい!
いいね、全てがいいよ!
この調子でどんどん行ってみようー!
明日はいよいよ〈霧ダン〉突入だ!
祝! 1000話達成!




