#996 続々帰省ラッシュ。上級職組の練習風景。
翌日、12月26日。
お祭り騒ぎが終息し、今日から帰省ラッシュが始まる。
学園中で帰省が始まってもの凄く馬車の出が多い。
これは昨日までのお祭りのために商人などが多く滞在し、そして今日に出立することも大きな理由だ。多くの一般学生はその商人の馬車に乗せてもらい帰省するのだとか。
なるほど。
ちなみに貴族や裕福な学生は自前の馬車が迎えに来るそうだ。
本来なら冬休み突入とほとんど同時に帰省する人も少なくない中、〈学園出世大戦〉の影響で今日まで延期していた学生も多く、帰省が今日に集中しているらしい。
ちなみに〈エデン〉〈アークアルカディア〉からの帰省は11人。
そのうちメルトとミサト以外の9人は今日出発だった。
「ゼフィルス、聞いたわよ! また他の女の子をたらし込んだんですって!」
「人聞きが悪い!? いやいやそんなことはしてないぞ。昨日の件を言っているならアレはスカートを履いているが歴とした男子だ。というかモナだ。面識あるだろ?」
「? ――ああ! あの子なの?」
なぜか帰省するはずのラナから問い詰められる俺。
ラナはどこからその情報をゲットしたんだ? たまにラナの情報網がとんでもない時があるんだ。
しかし、相手がモナだと知って勢いが収まる。ラナも一緒にダンジョンに潜ったことがあるからな。
「まったく紛らわしいんだから。危うく帰れなくなるところだったわ」
「ダメですよラナ様。帰省は必ずしなくては、公務が溜まっております。それに国王様とお妃様が悲しまれます」
「……むう。仕方ないわね」
シズの説得により口を尖らせながらも渋々承知するラナ。
「まあ、帰ってきたらバカンスだからな。楽しみにしていてくれ」
「もう、分かったわよ。バカンスを励みに頑張るわ。シエラ、リーナ、ハンナ、アイギス。ゼフィルスを頼んだわよ?」
「任せて」
「任されましたわ」
「は、はい!」
「十分に注意します」
なぜか結託している4人。俺を頼むって、俺は子どもじゃないぞ? でも、言わないでおいた。なぜか言うとややこしいことになりそうな気がしたんだ。
他のメンバーにも挨拶しよう。
リカは、カルアを後ろから抱きしめて顔を猫耳の間に埋めていた。何あれすごく羨ましい。
「カルア、しばしのお別れだ」
「ん。寂しい」
「私も寂しい」
リカの言葉が少ないのは、言葉に出来ないほど寂しいかららしい。
あと、口を開くと姉の文句が出そうになるのだとか。
キリちゃん先輩は今年度卒業なので帰省は無し。フィリス先生も〈学園出世大戦〉で帰れず。3番目の姉であるリンカ先輩だけは帰省するとのことだが、リカは帰省せずに残りたかったらしい。でも残れない理由があるのだとか。
「レグラム様、あの馬車じゃありませんか?」
「間違いないな。うちの男爵家の家紋だ」
「では荷物を運びましょう。それに挨拶もしなければいけませんね」
「……そうだな」
こちらはレグラムとオリヒメさん。
しかし迎えの馬車はレグラムの家の馬車のみだった。そこへ真っ先に向かうオリヒメさん。あ、察した。
レグラムとオリヒメさんは相変わらずだな。
レグラムの馬車が到着すると、続々と他の帰省組の馬車が集まって来た。
そこへ荷物を持ったシャロンやノエルが乗り込んでいく。
「じゃあノエル、また向こうでね」
「ばいばいシャロン~。またパーティでね~」
どうやら2人は年末年始は王都で過ごすらしく、パーティで再会する予定らしい。
俺も出発する2人に手を振って別れを惜しんだ。まあ、2週間もすれば戻ってくるんだけどな。
「メルトとミサトはまだ帰らなくて良いのか?」
「ああ。俺たちは領地が近いからな。むしろ今帰ると面倒なことに付き合わされる気がしてならない」
「分かる分かる~。当主様、厳しいもんね~。お前がどれだけ成長したのか見てやる、とか言ってメル君に勝負仕掛けそう~」
当主というのはメルトのお父さんらしい。
メルトからは実家での扱きはスパルタだったと聞いているが、色々とすごい方らしい。
しかし、そう語っていたときのメルトがとても誇らしげだったので立派なお父さんのようだ。
「おいミサト、メル君はやめろと言ってるだろ」
「おっと、ごめんごめんちょっと早かったよ~」
「……実家でもやめてもらいたいんだが?」
「ええ~、やだ!」
「フッ!」
「うきゅ!?」
おお~、するどい抜き手のウサ耳クローが炸裂!
ミサトが上体を起こして回避する前に行ったな。一瞬の早業でウサ耳を掴んでいた。見事だ。
ちなみにミサトはメルトの従者みたいなものなので、付いていくそうだ。
遅れて出発するのはラナたちの馬車だった。
車窓からラナが身を乗り出すようにして人差し指を立ててくる。
「ゼフィルス、いい? おとなしくしているのよ? 私が居ない間に面白いことなんてしちゃダメなんだからね?」
「そりゃ無茶な話――いや、善処しよう」
まるでメッてするようなラナの言い分に俺が不敵な笑みで答えようとすると、車内のシズからバッテンのジェスチャーをされたので言い直した。
さらに俺の後ろからシエラが来てラナを説得する。
「安心してラナ殿下。ゼフィルスは首に縄を引っかけてでも止めるから」
「俺は犬か何かか?」
「縄じゃダメよ。きっと引きちぎるわ。鎖か何かじゃないと」
ラナも俺をなんだと思ってるの?
少し問い詰めたい気分になった。でも言わない。俺は藪を突かないのだ。
だけど鎖に繋がれるのは勘弁してほしいので脱出手段は何か考えておこう。『英勇転移』で大脱出すればいけるか?
まあ帰省が寂しいラナなりの冗談だろう。
「「じゃあねみんな! また来年!!」」
「「また来年!!」」
「「「「良き年載せを!!!!」」」」
最後の別れの挨拶。
〈ダン活〉では「良いお年を」とは言わず、「良き年載せを」と言う。
「年の瀬」ではなく「良き年載せを」だ。
これは年末と年始、両方を指す独特な〈ダン活〉語で、〈ダン活〉のキャラが全員数え歳で年始に一斉で歳を重ねる、数を載せるところから来ている。
〈ダン活〉では毎度あわただしい年の瀬からバースデーに移行するため、良き年載せでありますようにという意味がこもっている言葉だな。
そんな挨拶をして手を振って帰省組を見送った。
無事にラナたちを送り出すと、お昼を食べてダンジョンに向かう。
新しく上級職になったメンバーたちに指導もして、充実したダンジョンライフを楽しむのだ。
「『必殺抜き手』!」
「ぢゅううう――――!?」
セレスタンの抜き手がネズミ型モンスターに突き刺さり、そのままエフェクトに還した。
これ、セレスタンは練習要らないんじゃないか?
上級職になったばかりなのにモンスター相手に普通に戦えているんだが?
「僕の父が【闘神執事】でしたので。スキルは大体分かっているのです」
「親子2世代で【闘神執事】だったのか!」
「いえ、正確には3世代ですね。祖父も【闘神執事】だと聞いております」
セレスタンがなぜこんなに強いのか、ちょっと分かった気がした。
また、セレスタンには『上級ティー作製』を育ててもらえることで話がついた。
【闘神執事】はその名の通り、非常に強力な戦闘職でもあるが、サポートもかなり出来る。執事だしな。
普段は執事、有事の際は最強の護衛というコンセプトで育成することになった。
なんだかロマンの塊っぽくなったなセレスタン!
冬休みが終われば放課後のちょっとした時間にダンジョンでボス周回をすることも増える。
その時に紅茶1杯でバフが付く『上級ティー作製』は非常に役に立つだろう。
セレスタンには負担を掛けるが、頑張ってほしい。
セレスタンは教えることも少ないので次へと向かう。
「これは、ちょっと制御が難しいですわね」
「頑張れカタリナ~。練習あるのみだよ~」
「もちろんです!」
カタリナは自分の動きと連動させる形で結界を移動させるのに苦戦していた。単純に制御するものが増えたからな。フラーミナの声援もあり気合いを入れるカタリナ。是非頑張ってもらいたい。
「うはわ~! 派手! すっごく派手だよこれ!?」
「むう、こんな上まで効果範囲があるのですか。飛び越えるより周り込んだ方が?」
「防御破壊にはどう対処すればいいのでしょう?」
こちらはタンク組のトモヨ、フィナ、ロゼッタ。
【アルティメット・イージス】の『イージス』という巨大で派手な防御スキルをどうすれば突破されないか、突破されるとすればどんな状況か、どういう時に使うスキルなのかを相談し合っていた。
他にもフィナのスキルや、ロゼッタのスキルについても話し合っている。
こっちは独特な雰囲気があるな。確かにタンクは突破されたら困るので検証は大事だ。
これは俺も参加してガンガン教えていこう。
タンクはパーティの要だ。
するとフィナから早速相談を受ける。
「『天空飛翔』発動中はMPを常時消費するのでMP管理は常に気をつけないといけません。タンク中ですと〈エリクサー〉を飲むタイミングも厳しいです。こういう場合はどうすればよいのでしょうか?」
「そうだな。MPがどのくらいまで消費したら地上に降りて盾タンクをするとか、決めておくといいぞ。例えば残りMP120は絶対残す、それを切った場合は即座に地上へ降りるとかな。地上に降りて盾タンクをするには防御スキルや回復魔法も必要だからMPが切れて墜落することだけは避けなくちゃいけない」
「なるほど。墜落すると強制ダウンでしたね。気をつけます」
「あとは隙を見て〈エリクサー〉を飲むしか無いな。飲むことができないような場合はもう少しMPに余裕を持たせて地面に降りるなど、状況に応じて対応する」
【ミカエル】の『天空飛翔』中はMPを継続消費する。飛んでいる時にもスキルを使うので減る量がなかなかエグいのだ。あとでMPを大量に増やす装備を付けたりして余裕を持たせようと思う。
続いてロゼッタの下へ向かう。
「エステルさんから〈イブキ〉をお借り出来ましたが、操縦がなかなか難しいのですね」
ロゼッタはまず〈イブキ〉の操縦訓練だ。
〈イブキ〉はエステルが帰省する際、置いていってくれたのでロゼッタとアイギスが操縦方法を実地で慣らしている。
まあ、ロゼッタが戦車スキルを使えるようになるのは五段階目ツリーからなので、それまでには慣れてほしいところだな。あとロゼッタ用の〈乗り物〉装備がドロップしてもらえるとなお嬉しいのだが。こればかりは運次第だ。
そんな感じで今日を終えると、一つ報告が舞い込んできた。
報告者はカイリ。
「ねえゼフィルス君。ユミキ姉から聞いたんだけどさ。〈浮遊の巨石ダンジョン〉の調査隊が動き出したらしいけど。いいのかい?」
「お、ついに来たか。問題無いぞ。じゃあ、こちらも動くとする……ん? ユミキ姉?」
「あ~、うん。ゼフィルス君も知っているユミキ先輩って私のお姉ちゃんなんだ」
……そっちの方が驚きの報告なんだが?




