#989 上級職ランクアップ! セレスタン編!
〈エクストラダンジョン〉は許可制だ。
それは資源の宝庫だからでもあるが、他のダンジョンと比べて入ダンのための条件が無いというのも大きな理由を占めている。
つまりはLV0でも入れてしまうダンジョンなんだ。もちろんLV0でモンスターを倒せるかと言えば……〈道場〉以外ではノーだ。
普通の初級や中級ダンジョンではLV5からとか、LV40から入ダン出来ると条件が決まっているのだが、〈エクストラダンジョン〉にはその条件がない。自分の力量を大きく超えたダンジョンに入ダンしてしまい、結果事故に遭ってしまうことがあった。
故に〈エクストラダンジョン〉の入ダンは学園が管理して、QPの支払い基準を満たしているギルドのみ入ダンを許可している。
その中で、一番許可が出にくいダンジョンはどこかと言えば、〈秘境の温泉ダンジョン〉である。
1層は学園が管理しているため危険は無いが、2層以降に行きたければ最低でも下級職カンスト(中位職基準)を要求されるほどモンスターが強い。
それほど危険で強力なダンジョンだ。ダンジョン等級で言えば中級上位~上級上位級である。
うん。無理。上級職のパーティーでも20層までしか立ち入りを許可されないほどだ。ということで今回は20層までを目的にして行こうと思う。
そのため全員上級職にしておこう、という話だな。
「ゼフィルスさん、俺たちは」
「ラウたちはまだLVが足りないが、冬休みだし、ボス周回はたんまり出来る。すぐに上級職になれるさ。チケットもあるしな」
「いや~ラウ君が言いたいのはそういうことじゃなくて、まだなんの活躍もしていない私たちが貴重な〈上級転職チケット〉を使ってもいいのかなって言うね」
ラウとルキアがどこか困ったような雰囲気で言う。
「なんだそんなこと気にしているのか? 何も問題無いぞ?」
俺がそう言って返すとシャロンがうんうんと頷いていた。
「そうだよ~。私だって即カンストまで育ててもらったと思ったら余韻に浸る前に上級職になってたんだから。ここではそんなもんだよ~」
「どんなもんだ?」
ラウが混乱していた。シャロンよ、もう少し分かりやすく言ってやってくれ。
まあ、とりあえずラウやルキアはちょっぱやでレベルカンストまで上げて〈上級転職〉だな。
「あとゼフィルスさん。もう一つ我儘を言わせてもらいたい。俺は【獣王】に就きたいんだ」
「む。【獣王】か……」
ラウの突然の希望にメンバーもざわめいた。【獣王】とはすなわち〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスター、ガルゼ先輩と同じ職業ということだ。つまりめちゃくちゃ強い。
しかし、そうなるとその条件が少し厄介なんだ。
「……そうなると。〈上級転職〉がかなり先になるぞ? いいのか?」
「構わない。俺は【獣王】に就き、〈エデン〉に貢献したいんだ」
「……よし、分かった。ルキアは? 何か希望はあるか?」
「私はゼフィルスさんにおまかせでいいよ~。みんながね、それがベストだって言ってたんだ」
「ふ、そういうことなら俺に任せとけ! 最高の職業に就かせると約束しよう!」
「やた!」
「もちろんラウにもだ。少し時間は掛かるが俺が必ずラウを【獣王】に就かせると約束しよう」
「ありがたい。俺も今まで以上に頑張らせてもらう」
「おう。頼むぜ。手始めに時間があるときに水着素材を取りに行ってもらうから覚悟しておいてくれ」
「あ、ああ? わかった……?」
俺は自信を持ってラウとルキアに親指を立てて宣言した。
ラウ。男にはやるべきことが多いのだ。働いてもらうぞ?
また、ラウの覚悟もしっかり伝わったので、俺はラウを【獣王】に就かせようと思う。だが、そうなるとあの特殊条件がネック過ぎて今すぐは無理だ。すっごく時間が掛かるぞ。あれは時間経過で満たせる系の条件だ。
しばらく待ってもらわなければいけないが、さすがにその条件は知っていたようでラウも頷いていた。ガルゼ先輩に聞いたのか? なら、〈秘境ダン〉の時はちょっと苦労するかもしれないが、下級職のまま頑張ってもらおうか。
さて、話は戻って〈エデン〉〈アークアルカディア〉で未だ下級職なのは7人。
トモヨ、カタリナ、ロゼッタ、フィナ、セレスタン、ラウ、ルキアだ。
ということで、今日はラウとルキア以外の〈上級転職〉をしたいと思う。
「今日〈上級転職〉するのはトモヨ、カタリナ、ロゼッタ、フィナ、セレスタンだ。みんな予定は空いているか?」
「もちろん! 私もついに上級職かぁ。なんか長かったような短かったような」
「ふふ、トモヨさんは大げさですわ。でも感慨深いというのは分かります」
「もちろん私たちは構いません」
「姉さまに上級職の自慢をされているのも鬱陶しかったので、助かります」
「いつでも時間を用意しましょう」
5人とも受け入れてくれて良かった。
トモヨとセレスタンはとても待たせてしまった。
カタリナは、俺が欲しかった侯爵【深窓の令嬢】だったが、まずは伯爵【姫城主】を仕上げたかったので後回しにしてしまっていたし。
ロゼッタも、中級ダンジョンで馬車の運用がとても助かっている。
フィナだって万能天使としてどんなポジションでも活躍していてありがたがられていると聞いていた。
本当にお待たせしたな。
会議が終わったら早速〈上級転職〉してもらおう。
他にも色々と話し合い、〈エデン〉の方針を決める。
〈秘境ダン〉に行くのは帰省組が帰ってきてからになった。
今回の帰省組は、ちょっと多い。
ラナ、エステル、シズ、パメラの王族従者組を始め、レグラムとオリヒメさん、メルトとミサト、リカも一度帰省するらしい。
「シエラは今回帰らないのか?」
「ええ。学園祭の時にお父様へしばらく帰らないと伝えておいたから」
「?」
まあ、シエラが居てくれるならありがたいな。
後はノエルとシャロン。
合計で11人が帰省するとのことだ。
何やら年末年始は貴族的なパーティが多くて出席しなければならないらしい。
「あれ? 他の貴族組は帰らなくていいのか?」
「あい! ルルはお母様からなぜか行ってはダメですと言われているのです!」
「私もよ」
「姉さまに同じです」
ロリ子爵組は基本大人になるまでパーティには出席しないらしい。
なぜかは、うむ。まったくわからんな!
「わたくしは家が遠いですから」
「私もリーナさんと同じですね」
リーナとアイギスは遠距離組のようだ。
「カタリナとロゼッタは?」
「私たちは帰っている場合ではありませんから」
「レベルが遅れている分、みなさんに追いつきたいですし。鍛えたいです」
とのことだが、良いのか? 良いらしい。
「タバサ先輩は?」
「私は3年生だもの。3年生のこの時期は学園の方に集中してもらうために帰省する人はほとんどいないのよ」
「そうなのか」
ということはユーリ先輩を始め、ガルゼ先輩やカノン先輩たちも学園に残る感じかな。
「帰省は明日から順番に行く感じか? 帰ってくるのはいつ頃になる?」
「年末年始の挨拶にパーティへの参加だけだ。7日か8日辺りには帰って来れるだろうか。確か姉上がそのくらいで学園に戻っていたはずだ」
リカの言葉にほとんどのメンバーが大体そのくらいだろうと告げる。
この世界は馬車移動が主流なので移動に何日も掛けなくてはいけない関係上、挨拶終わったら即学園、というわけにはいかないようだ。
冬休みは1月12日の日曜日まで。
一番遠いところに住んでいるメンバーでも8日までには学園に戻ってくるとのことなので、〈秘境ダン〉には余裕を持って10日から入ダンということで通達しておく。
できれば2泊したいところだが、状況を見てだな。
あらかた会議が終わると俺は5人を連れて測定室へと向かった。
他のメンバーはお祭りに参加するそうだ。
冬休みに加え12月25日というお祭り開催中にも関わらず職員室にいる先生に心の中でお疲れ様ですと労い、測定室の鍵を受け取る。
「なんだか、ドキドキしてきた」
「気が早いですわよトモヨさん」
測定室の鍵を開ける段階でトモヨとカタリナがはしゃいでいた。
はしゃぎたい気持ちも分かる。
ロゼッタ、フィナはすまし顔。クールだ。
セレスタンはいつも変わらないな。
「ではまず誰から行く? 誰からでもいいぞ?」
「わ、私はもう少し落ち着くまで待ってほしいかな」
トモヨは目の毒になりそうな大きな胸に手を当てて一歩下がった。
「ふむ。ではセレスタンさんはいかがでしょうか?」
「僕ですか?」
「ええ。この中では最古参だもの。一番最初に〈上級転職〉するのはセレスタンさん以外にはいないわ」
「私もカタリナの意見に賛成です」
カタリナの提案でセレスタンが選ばれることになった。
ロゼッタが賛成を示すとフィナとトモヨも頷く。
「そうだな。セレスタンには随分待たせてしまった」
「では、僭越ながら」
「遠慮するなセレスタン。一番良いのに就かせるからな。むしろ今まで待たせて悪かった」
「とんでもありません。むしろ事務に上級職は必要ありませんから当然かと」
セレスタンはこう言っているが、待たせてしまったのは事実だ。何も言わないわけにはいかない。
それと上級職が事務に必要無いという言葉だが、そんなことはない。
【秘書】や【ハードワーカー】にも上級職はあるからな。
【執事】系の上級職だって事務に役に立つこともあるだろう、多分。きっと。
「では発表する! セレスタンに就いてほしいのは【闘神執事】だ!」
「「「おお~」」」
【バトラー】の上級職、高の中、【闘神執事】。
名前の通り拳で戦う執事だ。
大抵のことは拳で解決すると言われている職業だが、事務仕事は拳で解決出来るのかは不明。ちなみに『上級ティー作製』は覚えることができるぞ。
拳系の職業の中では【獣王】に次ぐ実力を持ち、ダンジョンやギルドバトルでも安定した強さを誇る避けタンク&拳アタッカーだ。
【執事】系職業の中では最高峰の戦闘力を誇る。
是非セレスタンには【闘神執事】に就いてもらいたい。
「承りいたします」
即答だった。さすがはセレスタンだ。
すぐに条件を満たしてもらう。
〈影の結晶〉を使ってもらい。スキル無しでアイテムを拳の一撃で破壊してもらう。10枚まとめて。
「これは?」
「〈塗り絵〉だ。これをパンチで破ってくれ」
「畏まりました」
ズバン!
見事な拳の切れだった。
貫通して穴が空いた〈塗り絵〉をしまう。これで満たせているはずだ。
本来は瓦でやるものだが、瓦の絵でも大丈夫なのがミソ。こっちの方が簡単なのだ。
〈上級転職チケット〉を渡し、〈竜の像〉の頭に手を置いてもらうと、ジョブ一覧が現れた。
「ございました。【闘神執事】でございます」
「じゃ、選んでくれ」
「畏まりました」
セレスタンは優雅に一礼すると迷わずジョブ一覧に書かれた【闘神執事】をタップした。
他の一覧がフェードアウトして消え、【闘神執事】だけが残る。
いや、スムーズだ。さすがはセレスタン。なんの迷いも疑いも無かったよ。
見ろ、他の4人がポカーンとしているぞ。あのクールなフィナも小さく驚いている。
なーに安心してほしい。
セレスタンが終われば君たちの番だ。この分ならすぐに順番が回るぞ。
「これでセレスタンは【闘神執事】だ。おめでとうセレスタン」
「ありがとうございますゼフィルス様。今後も誠心誠意務めさせていただきます」
「ん、まあほどほどにな」
まずは1人目完了だ。




