#987 さて会議をしよう。この困った事態を打開する!
俺たちは強くなりすぎてしまったかもしれない。〈五ツリ〉が強い。
〈学園出世大戦〉Aランク戦ギルドバトルが終了し、〈エデン〉は第1位に輝いた。
しかも圧倒的1位だ。入念に準備したことで誰も退場しなかったからな。
完勝と言っていいだろう。
だが、素直に喜ぶことは出来ない。
Aランク戦の内容をユミキ先輩に教えてもらったところ、重大な事態が判明したからだ。
〈エデン〉、避けられてる。
正確には〈筋肉は最強だ〉に拠点を攻められたが、他のギルドが完全に〈エデン〉を避けているのだ。あかん。
「というわけで、なんとかしたい」
「なんともならないと思いますわよ……?」
俺の悩みをバッサリ切ったのはリーナだった。
うむ、あのリーナがバッサリといく事態か……深刻だ。
「まったくゼフィルスは、むしろ拠点に攻め込んでほしいと願うのは〈エデン〉くらいよ」
シエラも追随する。
「ま、まあ普通は攻め込まれたくないと思うものだってのも分かる! 分かるが、攻めてこないと楽しくないじゃないか!」
「返り討ちにされることがわかりきっているのだから、むしろ当然の判断じゃない」
「ガクン……」
シエラの言葉に肩を落とす。
「いや、分かってるさ。でもさ、策を練って攻め込んできてもいいじゃないか。全てねじ伏せてあげるからさ」
「それが原因なのだけど……」
分かっていてもどうしようもないこともある。負けられないのだから勝つしか無い。
というかあれだけ準備を整えてみんなの協力もあって手加減してほしいと頼む方が無理だ。なら全力で勝つしかないじゃないか。そして誰も〈エデン〉に攻めて来なくなった。筋肉以外……。
現在いる場所は新しく手に入れ、引っ越したAランクギルドのギルドハウス。
昨日のギルドバトルを勝ち、引っ越して宴会した大ホールで現在、俺、シエラ、リーナ、セレスタンの4人が今後のことを話し合っていた。いや、セレスタンは議事録を作っているから実質話しているのは3人だ。
ラナも参加したがったのだが、冬休みの帰省の準備があり、エステルとシズに連れて行かれてしまったので不在。今回は帰省する人が多いようだ。
ということで3人で話し中。議題は今後の〈エデン〉の方針だ。しかし、
「つまりゼフィルスさんの願い、というか方針は狙われやすくなるギルドを目指す、ということですの?」
「うむむ」
リーナに纏めてもらうと、これほど変な方針もあるまいという結果になった。
おかしいな。どうしてこうなった? いや、原因は分かっている。
「全部学生が弱いのが悪い!」
「十分強いわよ。むしろ今年は歴代で最も盛り上がっていると言われているわよ」
俺の言葉に即座にシエラからツッコミが入った。だけど、弱いもんは弱いんだもん。ゲームではAランクギルドは全員上級職が基本だった。下級職が1人混ざるだけでBランクギルドに足をすくわれかねない難易度だったんだぞ?
「俺はもっとギルドバトルしたいし、どんどん攻め込まれたい! いいのか? このままでは第二の〈ギルバドヨッシャー〉のようになるぞ!」
「それは……」
俺の言葉にシエラは詰まる。
目の前に窮まってしまったギルドがあるのだ。
あまりに強すぎてしまったが故に誰からも狙われず、誰にも〈決闘戦〉を受けてもらえず。
結果ここ1年ほどギルドバトルをしていないという〈ギルバドヨッシャー〉というギルドがいるのだ。このままでは〈エデン〉はその位置に収まりかねない。
とりあえずSランクギルドになるのはもう少し後にしようとは今日の会議で最初に決まったことだ。
「そういえば件の〈ギルバドヨッシャー〉さんから練習試合の申し込みが届いておりますが。もしくは〈決闘戦〉でもいいと」
「普通逆じゃないかしら? 妥協で練習の方でしょ」
「やりたい! やりたいが――断ってくれ……。今〈ギルバドヨッシャー〉に勝ってしまうと取り返しが付かなくなってしまう気がする」
「勝ってしまうのは確定なのね」
「すでに取り返しの付かないポイントは過ぎているように思いますが……」
俺たちがAランクギルドに上がったことでお祝いしてくれたギルドは多数あった。
自分たちだってSランクギルドに上がった〈青空と女神〉や、このたびCランクギルドに上がることができた元ラウとルキアのいたギルド〈ユートピアサークル〉からも、たくさんのお祝いの言葉と手紙と品物を受け取った。
しかし、一番喜んでくれたのは〈ギルバドヨッシャー〉だった。
だって俺たちがAランクになれば〈決闘戦〉が挑めるようになるし、練習試合だって頻繁に行なっても違和感はなくなる。
本来ならランクの垣根を越えて挑む事が可能な練習試合だが、さすがにSランクがCランク以下のギルドに練習試合をするのはあまりよろしくないらしく、今までセーブしていた。俺たちならすぐにギルドランクを駆け上がれると分かっていた〈ギルバドヨッシャー〉が待っていたとも言う。
だが状況が悪化しちゃうから。今はダメだ。〈ギルバドヨッシャー〉の諸君、すまん。
「ううーん、もう少し挑まれやすいギルド作り、ですか」
「Sランクギルドへの挑戦に防衛回数が関係無いのは幸いなのかしら?」
リーナが悩み、シエラが首を傾げた。
シエラが言っているのはBランク戦やAランク戦に挑む際の条件で、防衛戦の勝利回数の実績が必要だが(Bランク戦に挑むなら1回、Aランク戦なら3回)、Sランク戦に挑む時にはそれが無い件だな。
SランクギルドにはAランクギルドが希望すればなんの条件も無くランク戦を挑むことが出来る。ただしランダムマッチング申請は出来ないため指名制でQPはむっちゃ掛かるが、それだけだ。
まあ条件に防衛実績とかあったらAランクギルドが貯めるのは相当難しいだろうからな、なにしろBランクギルドの数自体が少ないし。
将来的にSランクギルドになる予定の〈エデン〉なので防衛回数の条件が無いのはありがたい。いや、別にBランクギルドなら好きに挑んできてもいいが?
実際は挑んでくるギルドはランダムマッチング申請で〈エデン〉と当たっちゃったギルド以外無いだろう。うむ。簡単な推理だよ。普通に挑んできてもらいたいのに。
「〈決闘戦〉でもよろしいのでしたら、魅力的な武器防具を公開するというのはいかがでしょう? アリーナレンタル代のQPこそ掛かりますが、〈決闘戦〉は挑まれやすくなるかもしれませんわ」
「なるほどね。幸いと言っていいのか分からないけれど、〈エデン〉には上級の装備類がかなりの数あるもの。言い方は悪いけれどそれをエサにするのね。やり方は?」
「オークションを使いましょう。シングルオークションの方も利用して大々的に注目を集めますわ。また〈エデン店〉に高級展示棚を用意して、とても買うことの出来ない値段で武具を飾りましょう。〈決闘戦〉で勝てたら譲渡という文言を添えておくのですわ」
「いいわね」
「いいじゃないか! リーナの案採用!」
リーナが魅力的な案を出してくれた。
〈決闘戦〉のエサを用意するんだ。〈獣王ガルタイガ〉を思い出す。
デメリットが多くてオーケーしてこないなら、オーケーしてもらえるだけのメリットを用意すればいいじゃない! つまり上級武具を公開する。欲しければ〈決闘戦〉を挑んでこいと言っているわけだ。さすがはリーナだぜ。
「とはいえこれだけでは〈決闘戦〉を挑んでくるギルドは少ないでしょう。もう少し学園のレベルを上げて、学生に自信を持たせなくては難しいですわ。昨日のギルドバトルでゼフィルスさんたちが未知の強スキルを使っていたり、竜をテイムしていることがバレてしまいましたから」
五段階目ツリーに聖竜のゼニスだな。
うん。全力を出した結果だ。
それにゼニスはまだ幼竜。あまり強くないのでギルドバトルを挑む時の指標になり得ないと思ったのだが、〈竜〉という種だけで未知の大戦力と思われているなのだとか。うむ、厳しい。
しかし、リーナはヒントをくれた。
「学園のレベルを上げなくては厳しいのなら、学園のレベルを上げれば良いな!」
「え? ゼフィルスまさか」
「そのまさかだ。学生たちにもさっさと五段階目ツリーの世界に来てもらおう。幸い、ギミックが解除されっぱなしの攻略しやすいダンジョンに心当たりがある」
俺たちが強いのは無論五段階目ツリーがあるからだ。(※それだけじゃないよ)
五段階目ツリーと四段階目ツリーには大きな差がある。
それにこの世界では四段階目ツリー開放がたどり着ける限界とか思われている節があるんだ。五段階目ツリーが開放されるのが上級職LV30というのもろくに知られていない。
故に育成方法も〈四ツリ〉で止まるような方法になっている。〈五ツリ〉や〈六ツリ〉を想定した育成じゃ無いんだ。
その認識を変えることにも繋がるだろう。
上級下位ダンジョンで上級職LV30に上がるためにはランク4以上のダンジョンに潜る必要がある。
そして、先日から1年間ギミックが解除されっぱなしになってしまった上級ダンジョンが存在する。学生がレベル上げするにはちょうど良いだろう。
「それと、学生がそこを利用しやすくなるために上級生産職を増やしておく必要もあるな」
俺はそう言って〈空間収納鞄〉から12枚の〈上級転職チケット〉を取りだした。
後書き失礼いたします!
活動報告を更新いたしました!
第21章の予告などもありますので気になる方はどうぞチェックしていってください!




