#981 〈エデン〉VS〈筋肉は最強だ〉戦――決着!
俺の名はランドル。どうかマッスルと呼んでほしい。
我が〈筋肉は最強だ〉のメンバーはみんな筋肉を鍛えるのが好きだ。
筋肉を鍛え、自分がどれほど素晴らしい筋肉を育てたのか見てもらうのを楽しみとする。
しかし、筋肉を魅せるためにはポーズだけでは足りない。
やはり強さも見てほしい。
すると必要なのは戦いだ。
血湧き筋肉が躍る戦い。
それを我らは求めている。しかし、我らは筋肉を育てすぎたようだ。
他のBランクギルドでは我らの筋肉を魅せるのに不十分。筋肉の強さを魅せるならばもっと強い相手が必要だ。
そうして我らは現Bランクギルド最強である〈エデン〉に挑んだ。拠点へ攻め込んだのだ。
しかし、それはなかなかに困難な道のりだった。
まず我らの前に飛び掛かってきたのは下級モンスターウルフの群。
〈鋼鉄粉砕ビルドローラー〉を組んでいる我らからすれば塵芥に等しい。
「キャイン!?」
景気よく光に還っていく。筋肉がまた少し輝いた気がした。
光のエフェクトに照らされただけの気がしなくもなかったが、それでいいんだ。
モンスターを倒した時の淡い光は我らの筋肉を彩ってくれるスポットライト。
ドンドン来てほしい。
しかし、ものには限度があると思わずにはいられん。
〈エデン〉に挑んであっという間に11人もやられたときは焦った。士気はすぐに回復したが、〈エデン〉に挑むだけでもここまで選別されてしまうのか。さすがはゼフィルス率いる〈エデン〉だ。
我らに次に飛び掛かってきたのは召喚モンスターだった。
どうやら〈エデン〉は防衛モンスターやテイムサモンモンスターで押さえ込むつもりらしい。
そのモンスターがどこかおかしいと思い始めたのは最初に飛び出してきたモチッコを見てからだ。
「おかしい。俺が知っているモチッコと違うぞ!」
このモチッコ、巨大化しやがった。俺の知っているどのモチッコも巨大化なんてしないぞ?
だが、パワーアップか、いいだろう我らの鋼鉄の筋肉を受けよ。
モチッコの攻撃はプレスやそのモチモチの体で拘束するなど多様だったが、我が筋肉の前についに膝を付いた。まあ、モチッコに膝なんて無いが。
「モチモチー……」
「ああ!? チーちゃんがやられた!」
「はははは! 我ら筋肉に死角無し!」
巨大モチッコプレスを筋肉で受け止め、はっ倒し、鋼鉄の筋肉パンチをお見舞いすると、モチッコは光に還った。
なかなかのモチっぷりだったが筋肉には勝てない。
だが、優勢だったのはそこだけだった。
見れば他にも見たことも無いモンスターが大勢いる。
あの武士っぽい猫はなんだ? 〈猫侍のニャブシ〉に似ているが少し小型だ。それにあれは〈ハイフェアリー〉ではないか! 妖精は我らの天敵! 幽霊の次に恐ろしい敵だ!
しかも妖精はそれだけでは無い。
まさか、あれは〈妖精女王・シーズン〉だと!?
妖精最強のレアボスではないか! まさかゼフィルスめ、筋肉対策をしていたな?
敵ながらあっぱれだ。まさか我らのためにあれほどのレア召喚盤を持ち出してくるとは。
俺は手強い妖精を相手にする。
妖精に筋肉の攻撃は届かない。こんな時強化以外のスキルが欲しくなるが。
いや、筋肉を信じろ。我らが筋肉はその程度だったのか!
俺は筋肉を膨らませる。
「マッスル~~ポーズ!!」
「『『『『ふぎゃあああ、目が、目がああああ!?』』』』」
「今だ!」
「うおっせい!」
「取り巻き4体倒したぞ!」
「ナイスバルク!」
ふ、我らの筋肉を甘く見たな?
〈妖精女王・シーズン〉の取り巻きは倒した。すると徐々に高度を下げる親玉。
こいつも厄介極まりない。
だが厄介なのはこいつだけではない。
魅了する見たことも無いモンスターまでいる。
あれはなんだ? 人型、いや、女の子型モンスター? 人形か?
くっ、どんどん筋肉たちが惑わされていくだと!? 2人の筋肉がやられた。今はお互いの筋肉を褒めあっている場合では無いというのに!
〈オール耐性ポーション〉を飲んでいてもこの貫通力。相当高位のモンスターだぞ!
あれは危険だ。すぐに筋肉が1人対処に向かう。
そして巨大な鬼までいる。これはタバサ女史の鬼だな。俺も何度か戦ったことがある。
アランが止めているな。ふ、良い筋肉してるぜ。あそこは譲ろう。
しかし、今回はいつもより鬼が強い気がする。〈テンプルセイバー〉に在籍していた時はあそこまで手強くは無かった気がするが。
これもゼフィルスが変えたのかもしれない。
ふ、相変わらず粋なやつだ。
新たにやってきた〈バトルウルフ(第三形態)〉を軽く捻ってやったところで〈エデン〉が奥の手を出してきた。
そこで俺は今まで見たことが無かったモンスターは全て上級モンスターだと確信した。
「ギャアアアアアアアオ!」
〈防壁〉から降りてきたのは怪獣。
見たことも無い巨大な怪獣だった。
観客席がとんでもなく盛り上がっているな。
おいおいゼフィルス、我らのためにこんなのまで用意していたのか?
無茶苦茶強そうじゃねぇか!
「はっ! 俺の筋肉を魅せるのにちょうど良い相手だ!」
俺は一度マッスルポーズを取って威嚇する。
「ギャアアアアアアアオ!」
怪獣はそれに威嚇で返した。
ほう、俺の筋肉を見て威嚇を返すとはなかなかの度胸だ。
む! これは突風か!
ふん! 筋肉に風なんて効かん! 我らの筋肉は鋼鉄のごとき重さだからな。
他の筋肉たちが蹈鞴を踏んでいるが、まだまだ筋肉不足だ。
だが、これ以上筋肉に迷惑を掛けてはいけないな。
こいつは俺の敵だ。他の筋肉では荷が重いだろう。
俺は怪獣に挑んだ。
「ふ、なかなかやるではないか!」
「ギャアアアアアアアオ!」
打ち合い殴り合い。
こいつは魔法攻撃もしてくるためダメージが高い。
メタル化してノックバック耐性に加えダメージを下げているとはいえ、このダメージは異常だぞ。ポーションを飲む時間を捻出できない。
なんとかこいつをノックバックさせ回復したいが、相手の強さがこちらの筋肉を上回っている。
なかなか隙を作れない。
誰か援護を頼めないだろうか?
周りに意識を割くと。
筋肉たちは奮闘していたりやられていたりと様々だった。
やはり〈妖精女王・シーズン〉とあの人形っぽいモンスターが強い。
2人ほど筋肉の姿が無く、4人の筋肉に状態異常が発生していた。
アレでは援護どころではない。
もう1人、次代を任せようと思っているアランは、なんだかまた知らないゴーレムと力比べをしていた。
「俺の筋肉が、機械の筋肉に負けるかあああああ!!」
「ウィーンウィーン!!」
「行っけーハンナ印の人工筋肉! 筋肉VS人工筋肉の決着や如何に!?」
あ、ゼフィルスめ、あそこで高みの見物かよ。
だが、乱入されるとそれはそれで水を差す。ならいいか。
しかしアランめ、人工筋肉と力比べだと? 俺もやりたかった。
「ギャアアアアアアアオ!」
結局俺を援護できる筋肉はいなかった。
仕方ない、マッスルパワーで相手をしてやろう。
俺は力を溜めるように身を縮め、怪獣がしてきたチョッピングレフトに合わせて拳を突き刺した。
「筋肉パンチ!!」
「ギャアアアアアアアオ!?」
やつの左腕は弾かれた。俺の筋肉の勝ちだ。
観客席が盛り上がっているのを感じる。
「マッスル~~パァワァァァァだーー!」
「ギャアアアアアアアオ!」
拳を鉄に、筋肉を鋼鉄に。空気をパワーに。
これがマッスルパワーだ!
「ああー〈クジャ〉が押された!? ゼフィルス君!」
「おう、奥の手使っていいぞ」
「やた! 行くよ~~。〈狩猟解放杖〉! 『首領解放』! 『真の力を取り戻せ』!」
ゼフィルスがあの犬人の女子、確かテイマーに奥の手を出せと指示したのを確かに聞いた。
そして犬人女子が何やらスキルを発動すると、目の前の〈クジャ〉に紫色のエフェクトが集中した。
これは!? 強化系か!
だが、防ぐ手立て無し。俺は今のうちに〈エリクシール〉を飲んでHPを全快させておいた。
何が起こってもいいようにな。何しろ格上だった相手がさらに強化されたのだ。俺のフルパワーでも危ういかもしれない。俺も本気の限界に挑戦する!
「ふん!! フル~~~パァワァァァ!!」
息を吸い、大胸筋を膨らませ、そのパワーを全身に良く行き渡らせる。
良い感じに筋肉が膨らんだのを感じた。
こちらの準備は万端だ。
俺は視線を怪獣に戻す。
…………。
なぜHPバーが3本もあるんだ?
さっきまで確かに1本だったのに。それに先ほどまで殴り合って受けたダメージが回復している。いやHPバーが増えたのか?
それに先ほどより大きくなっていないか? 胸に水晶体のようなものまである。
姿までパワーアップしているのか。
HPバーが3本って確か上級最奥のボスの特徴のはず……。
まさか、こいつは噂に聞く〈嵐ダン〉最奥のボスじゃないのか?
〈キングアブソリュート〉が盛大に武勇伝を広めていた特徴と一致する気がする。
何よりこの暴風だ。この筋肉をすら吹き飛ばすような荒々しい風。
なるほど。〈エデン〉も攻略したと聞いたしな。〈クジャ〉とか呼ばれてたし間違いないだろう……。
こいつ―――〈暴風爬怪獣・クジャ〉か!!
俺の筋肉が震えてやがる。
武者震い。
良い迫力じゃねぇか。
これぞ、俺が求める強者の姿よ!
「ギャアアアアアアアオ!」
「筋肉!!」
奴の咆哮に俺もマッスルポーズの威嚇で応えた。
直後、突風。
これは先ほどの比じゃねぇ! 俺すら吹き飛ばされかねない猛烈な暴風だ。
なんとか俺の筋肉は耐えきったが、他の筋肉たちはアラン以外吹き飛ばされたようだ。
「む!?」
しまった。他の筋肉たちの心配をしていたらいつの間にか接近を許していた。
今度は打ち下ろし右パンチか! 膨らませたフルパワーパンチで迎撃する。
何!? 打ち負けただと!?
む、奴の体中央にある水晶体が光って。
「ギャアアアアアアアオ!」
「うおおおおおお!」
飛び出したのは視界を真っ白に染めるビーム。
それに俺の体は貫かれた。
とんでもないダメージが襲う。魔法攻撃だ。
俺は必死に抵抗。連打のパンチやハイキックで〈クジャ〉にダメージを与える。
だが3本あるHPは全然削れやしなかった。
結局大暴風、大ビーム、大パンチの応酬に応えているうちに、俺のHPはあっという間に尽きてしまった。とんでもない威力だったぞ!
おいおい、俺が退場するなんていつぶりだ?
まさか〈エデン〉のメンバーと手合わせするどころか、拠点までたどり着くこと無く退場するとは思わなかった。
ゼフィルス、防衛モンスター強すぎるだろ!
その後は〈クジャ〉によってアラン以外の筋肉たちが、アランは人工筋肉に打ち勝ち、ゼフィルスと一騎打ちの末に敗北し、この〈敗者のお部屋〉へやってきたのだった。
「お前たち、よく頑張った! 笑おう! わははははは!」
「「「「わははははは!!」」」」
もう笑うしかねぇ。ゼフィルス、あの召喚盤貸してくれないかな? あれは良い筋肉トレーニングになるぜ。




