#978 〈エデン〉に筋肉たちが攻めてきた!
所変わってここは〈筋肉は最強だ〉。
その数はなんと19人。
〈筋肉ビルドローラー〉が4組出来る数だ。
そしてマッスラーズの全戦力でもあった。
〈炎主張主義〉との対戦でLVの低かったメンバーが5人、〈エデン〉に1人がやられてしまってこの人数だ。
彼らは待っていた。そろそろAランク戦の決着が付くこの時を。
「いよいよだなアラン。筋肉の準備はいいか?」
「おう。かんっぺきな仕上がりだ。いつでも行けるぜ」
現ギルドマスターのマッスル――ではなくランドルがなぜか力こぶを膨らませながらアランに問うと、それに答えるようにアランは大胸筋を膨らませ、両腕の力こぶを膨らませる。
何か、筋肉にしか伝わらないものがあるのだろう。
ランドルが上空スクリーンを見ると、そこには「残り7ギルド」の文字が浮かんでいる。
つまりはあと一つ、ギルドが陥落すれば試合終了だ。
それが自分たちになる可能性は低い。
今ならば好きに暴れられる。自分たちの拠点が狙われないタイミング、この時を待っていたのだ。
狙われるどころか狙うギルドがまったく居ないという事実は置いておき。
とはいえ、それはランドルもアランも分かっていた。
自分たちの拠点を狙うとすればただ一つ、〈エデン〉だけであると。
そして〈筋肉は最強だ〉と渡り合えるBランクギルドも〈エデン〉だけであると思っている。
故に、ランドルもアランも試してみたかったのだ。〈エデン〉との勝負を。もっと言えば学園中を湧かせているあの勇者ゼフィルスが作り、育てたギルドと戦ってみたかった。
以前〈筋肉は最強だ〉と〈エデン〉は少しだけ交流があったものの、それは勝負をしない理由にはならない。むしろ交流があるからこそ戦ってみたいという気になるというものだ。そうランドルたちは考えている。
だからこそ、このタイミングだ。
最初に〈エデン〉に挑めば〈筋肉は最強だ〉もかなりの被害が出てAランク昇格どころの話では無くなる。
しかし、このタイミングであるなら例え全滅しても〈筋肉は最強だ〉がAランクに上れる可能性は高い。拠点が狙われないよう、北にあるギルドは〈エデン〉を残し一掃したのも大きい。これで拠点の防衛をほぼ気にせず、〈エデン〉とやり合えるというものだ。
「ははは、楽しみだぜ。よっしゃお前たち。最後の勝負だ! 行くぞ!」
「「「「応!」」」」
こうして〈筋肉は最強だ〉は〈エデン〉の拠点へと進行した。
全戦力で。
◇
「『ギルドコネクト』! ――ゼフィルスさん西側にマッスラーズ! 数は19ですわ。そろそろ見えてくるかと思います!」
「『おう! こちらゼフィルスだ。了解した。全員配置完了だ。いつでも行ける。罠の準備も出来てるぜ』」
「くれぐれもご無理はなさらないでくださいませ。相手はあのマッスラーズ、学園でも有名な強力なギルドなのですから」
「『はは、まあ準備無しで挑めば確かにヤバいが、ここの戦力を忘れたのかリーナ? こっちは大丈夫だ、任せておけ。防衛用に備えていたものを全部投入してやるぜ』」
「……それは、マッスラーズが逆に可哀想になりますわね。それに〈表と裏の戦乱〉を落としに行ったメンバーが相手を落とし、試合が終了するのも時間の問題。それまで耐えれば良いのですから油断しなければ問題ありませんわね」
「『やるからには全力だ! 相手は筋肉、裸だからちょっと女子にはキツいビジュアルかもしれんが』」
「そこは、まあ」
ゼフィルスの言葉にリーナは言葉を濁す。
確かにお嬢様が多い〈エデン〉にとって筋肉が上半身裸で迫ってくる光景は割と恐怖だ。もしくは羞恥心を刺激されて非常にやりづらい。
だからこそゼフィルスはここに残ったメンバーから近接戦闘メンバーをなるべく外したのだから。
現〈エデン〉拠点メンバー、
Aチーム:ゼフィルス【救世之勇者】、アイギス【竜騎姫】、ノエル【声聖の歌姫】、エリサ【睡魔女王】、フラーミナ【傲慢】。
Eチーム:シエラ【操聖の盾姫】、リーナ【姫総帥】、タバサ【メサイア】、シャロン【難攻不落の姫城主】、ラクリッテ【ラクシル・ファントム】。
計10人。
純粋な接近戦をするメンバーはゼフィルスと、アイギス、シエラくらいである。
アイギスもシエラも中距離から竜や盾を操り迎撃出来るので何とかなるだろう。
そしてこのメンバーのメインはなんと言ってもこの拠点の性能をフルに活かした迎撃が出来るという点だ。
つまりはゼフィルスがやり過ぎなくらい備えまくって、誰も攻めて来ないことに嘆いていた全防衛機能をこの機会に全投入できる。
そのためのメンバーがここにいる10人だった。
そして現在の〈エデン〉の拠点は想像通り、もうどうやって攻略したら良いの? とリーナですら疑問を投げかけるほどの要塞と化している。
起点となるのはもちろん【難攻不落の姫城主】シャロンによる〈防壁〉の要塞。
誰も〈エデン〉に攻めなかったものだから完全にゼフィルス設計図通りのヤバい要塞となっている。
今回、拠点の北側にある隣接3マスが断崖絶壁の山、南西南東がピラミッド山なので、他の東西南の3マスのみに要塞化を集中させている。
周囲8マスを全部要塞にするよりも3マスの方が集中強化できるのでそりゃ堅い。
少し前にやったBランク戦の時も〈カッターオブパイレーツ〉に絶望を与えたあの要塞が、今回さらに堅くなっているのだ。2倍以上。
それだけでもうとんでもないと分かるだろう。
そして〈拠点落とし〉特有の拠点防衛機構、防衛モンスターだ。
起点となるのは【傲慢】フラーミナ。
コストの上限を増やしたり、召喚盤のコストを下げるなどと大罪の名にふさわしい技能を発揮し、前回1組や51組が使った防衛モンスターよりさらにヤバい召喚盤を各種取りそろえてある。
さらにフラーミナ自身の召喚モンスターも防衛モンスターと相性の良いメンバーを新たに連れてきていた。
これだけでも過剰だ。それなのにリーナもいる。
ラナこそいないもののそれを補ってあまりありまくる過剰戦力。これではストレートに陥落すること自体至難の業。普通にぼけっと突っ立っていても〈表と裏の戦乱〉が落ちる方が早いだろう。
リーナは一つ息を吐いてゼフィルスに最後の言葉を送る。
「ではゼフィルスさん、ご武運を」
「『おう! リーナも支援よろしくな』」
◇
リーナとの通信を終えて全員に通達した俺は、拠点の西側の城壁にみんなを集めて待機していた。
「お、マッスラーズが来たな。相変わらずすごい威圧感だ」
「あれだけの人数が綺麗に隊列組んで進んでいるのがシュールなんだよ」
マッスラーズが見えてきたことを言うとノエルが苦笑いで頬を指でかきながらそう言った。
ノエルの言うとおり、マッスラーズは隊列をしっかり組んで進んでいた。
横に並んだ者の肩に腕を回した〈筋肉ビルドローラー〉スタイルで。
あれ、攻撃避けられないし絶対悪手だろうと思うのだが、無理矢理ノックバック状態の者を運べるというとんでもない利点がある事で化けた。
それが4組、〈エデン〉の拠点に迫っていた。残り5マスというところ。
現在〈エデン〉の拠点はシャロンによる『見た目の変わらないお城』のおかげで向こうにはただの拠点に見えているはずだ。
俺は振り返り、みんなに通達する。
「基本は防衛モンスターで押さえ込み、俺たちは遠距離からマッスラーズを倒して行くぞ。筋肉は近づかなければ怖くない!」
「「「おお~」」」
やや小声の返事。
大声を出すと向こうに警戒させちゃうからな。
みんなやる気満々だ。
エリサとかおいっちにーさんしーとアップを始めている。
リベンジに燃えているな。
「よし、防衛モンスターの〈ウルフ〉を出してやれ」
「はーい。いってらっしゃーい」
シャロンが景気よく防衛モンスターの〈ウルフ〉を12体城門から外に出しておく。
この城門も『城門召喚』で出してある〈防壁〉の一つだ。〈ウルフ〉を出したら閉めておく。
〈ウルフ〉は防衛モンスターでコストは2Pだったが、フラーミナの『コストを下げよ』の効果で1Pで出せるコスパに超優れたモンスターとなっている。ちなみにこれを相手が倒した時は普通に2Pが相手に渡ってしまうのでその辺は注意だな。
『コストを下げよ』は最高でコストを30%削減なのだが、小数点切り捨てなので2Pのモンスターは1Pとなる。ちなみにスキルLVが1の時で5%削減、以後2%ずつ上がってLV5の時15%削減、LV9の時23%削減なのだが、LV10でいきなり30%削減にドカンと増える。
どこまでSPを振るか悩みどころなスキルだ。
「む? 〈ウルフ〉の群だ!」
「なんの、筋肉の前に〈ウルフ〉なんて紙同然。蹴散らすぞ!」
「「「「応!」」」」
「「「ウォーン!!」」」
〈ウルフ〉は優秀だ。コスト良し、使って良し、群を作って良し、騎乗して良し、進化させて良しと、〈ダン活〉プレイヤーからはとても愛されていたモンスターだった。
だが、飛び掛かった12体の〈ウルフ〉は速攻で筋肉に轢かれ、光へと帰ってしまう。
「筋肉ヤバいな」
小声で驚愕する俺。
よくスキル無しであれほどの技を生み出したものだ。
【筋肉戦士】のみのギルドだからこそ出来る戦法。
ゲーム〈ダン活〉では思いつかないわけだ。
普通【筋肉戦士】オンリーギルドとか上級で詰むからやらないし。
だが〈ウルフ〉の行動は無駄ではない。
〈ウルフ〉を轢くためにだいぶ速度を上げた筋肉たちが罠に飛び込んで来たのだから。よーし、罠発動しちゃうよ~。
と思ったところで、ランドル先輩が声を張り上げた。
「ゼフィルスに率いられた〈エデン〉よ! 我ら〈筋肉は最強だ〉はそちらに宣戦を布告する! さあ我々と、正々堂々戦いを楽しもうではないか!」
うずっときた。
正々堂々と対決のお誘いである。
さすがはマッスル――じゃなくてランドル先輩だ。
心のくすぐり方を分かってやがる。
「ランドル先輩、アラン! それにマッスラーズの諸君! ならば俺の元へ来るが良い! この城を突破してこい!」
「「「おおおおお!!」」」
ということで罠に嵌めるのはやめた。
さすがにあんなことを言われて罠で蹴散らしたはダメだ。色々とダメだ。
メンバーたちも俺が声を張り上げたことで仕方ないなぁと言わんばかりに、こんなとき用に考えていたプランBに移行した。
しっかり受け止めてやろう。その上で倒しきってやるぜ。ふはは!
だけどごめんな筋肉。さすがに正々堂々と戦っては筋肉に勝つのは難しいんだわ。
ということで、搦め手は使わせてもらうぜ。
あ、エリサ、リベンジはもうちょっと待って。タイミングを計るから。




