#977〈サクセスブレーン〉の作戦を蹂躙する〈エデン〉
前書き失礼します。
本日コミックス2巻発売日!
本日4話目。1話目をまだ読んでいない方は3回バック!
「予想以上に早い展開ですわ。もう7ギルドしか残っていないなんて」
「ちょっと外に行っている間にこんなに素早く展開が進むとは俺もビックリだ。〈エデン〉も早くどこか落とさないとな」
「ですが近いのはその〈筋肉は最強だ〉と〈サクセスブレーン〉ですわ。どちらか落とします? 相手もそれを読んでいたのか〈筋肉は最強だ〉が〈エデン〉に向けて進行しているようですわ」
「筋肉は迎撃する。だがこのままだと防衛している間にどこか落ちて決着しそうだな。〈エデン〉もアタッカーを放つ必要があるぞ」
リーナと一緒に〈竜の箱庭〉を見ながら唸る。
俺たちがその辺を放浪しながら見かけた相手と遊んでいると、なんだか戦況が一気に動いていた。リーナから急に招集が掛かって駆けつけてみたらこの通りだったのだ。
早っ!
残り12あったギルドがこの数十分で〈ミスター僕〉〈サンダーボルケーション〉〈ダンジョンライフル〉〈明るい光の産声〉〈ハンマーバトルロイヤル〉の5ギルドが落ちて気が付けば残り1ギルドが陥落すれば試合終了という状態になってた。
ちょっと、戦況動きすぎだろ!
しかも気が付けば〈エデン〉は〈筋肉は最強だ〉と〈サクセスブレーン〉に抜かされて3位になっていた。ハンナと1位を取ると約束した手前、このまま終わるわけにはいかない。
なのにどこのギルドもどんどん積極的に動いていてこのままでは最後の一つのギルドが陥落するのも時間の問題だ。〈エデン〉も早急に動かなくてはならないだろう。
しかも〈筋肉は最強だ〉が〈エデン〉に仕掛けようとしている。
ふむ。
「これは? 〈サクセスブレーン〉にも妙な動きがありますわね。まさか、〈筋肉は最強だ〉と連動して〈エデン〉に攻めてくる?」
「このタイミングでピラミッド山に留まるか」
見れば〈ハンマーバトルロイヤル〉を下した〈サクセスブレーン〉だが、そのままピラミッド山中央のデカマス山に留まって回復している様子。
もしかしたら〈集え・テイマーサモナー〉のところへ行くかもしれないが、ピラミッド山の周囲に8箇所あった拠点はもう〈エデン〉〈サクセスブレーン〉〈集え・テイマーサモナー〉の3ギルドのみしか残っておらず、〈サクセスブレーン〉と〈集え・テイマーサモナー〉は組んでいると知っているので攻めることはないだろう。
〈エデン〉へ進行してくる可能性が高いと考えるのが自然だが……。
これは別の狙いがあるな。
「そして〈新緑の里〉は動かず、ですわね。いえ、これは〈集え・テイマーサモナー〉が牽制して動かないようにしているのでしょう」
「〈新緑の里〉のエルフは他のギルドを操って2ギルドを落としたんだっけ?」
「はい。外交戦略がとてもお上手ですわ。そして〈氷の城塞〉は〈表と裏の戦乱〉へ逆侵攻を掛けている最中ですわね」
「ということは一番陥落する可能性が高いのは……」
「〈表と裏の戦乱〉ですわ。ここは〈氷の城塞〉に攻めて返り討ちにあい敗走していますから。〈集え・テイマーサモナー〉や〈サクセスブレーン〉と手を組んでいたようですが、助けに入らないところをみるにそのまま退場してほしいみたいですわね。〈サクセスブレーン〉が〈エデン〉を牽制しているのはそのためですか」
「だな。試合が終わりそう!」
「ご丁寧に〈エデン〉の東側をガラ空きにしてあるのがなんとも、ですわね」
当初から〈サクセスブレーン〉を中心とした〈集え・テイマーサモナー〉〈表と裏の戦乱〉が組んでいたことは知っていた。
なら〈表と裏の戦乱〉が攻められたら〈サクセスブレーン〉か〈集え・テイマーサモナー〉が助けに行くのが普通だろうが動く気配は無い。むしろ逆だ。
注目すべきは〈サクセスブレーン〉の今居る位置よ。
ピラミッド山の中央、デカマス山に集まっているのだ。
東から戦力を退いて〈エデン〉の真南に集めている。
それを踏まえると、これは〈エデン〉への牽制と、どうぞ東へお進みくださいという誘導とみて間違いない。
西は〈筋肉は最強だ〉がわっしょいしながら迫ってきているし。
〈エデン〉が楽に進めるのは東で、東には〈表と裏の戦乱〉の拠点がある。
〈エデン〉が狙えるとすればマッスラーズ、〈サクセスブレーン〉、〈表と裏の戦乱〉、〈集え・テイマーサモナー〉だが、〈表と裏の戦乱〉が落ちるのも秒読みというこの状況、この配置、行くとすれば〈表と裏の戦乱〉一択となる。
どうぞお行きになって落としてくださいとでも言われているようだな。
何しろ〈表と裏の戦乱〉はもう陥落間近、そこが陥落すれば試合終了なのだから早く落ちて、いや、落としてほしいのだろう。
〈サクセスブレーン〉が〈表と裏の戦乱〉を落とすのは友好を交した関係上難しいしな。
ここで〈サクセスブレーン〉が裏切ったら、今後どこも〈サクセスブレーン〉と手を組むまい。同じ理由で〈集え・テイマーサモナー〉も攻めない。その代わり南の〈新緑の里〉と〈氷の城塞〉を警戒してその防波堤になっているのだろう。〈サクセスブレーン〉はその〈集え・テイマーサモナー〉の守りも兼ねている位置取りというわけだ。おかげで〈エデン〉が行ける場所が一択となっている。
そしてこれを描いたのが、
「さすがはBランク非公式ランキング第一位だな」
まあ〈サクセスブレーン〉だろうな。〈新緑の里〉の話に乗って〈ハンマーバトルロイヤル〉を落としたのもおそらく作戦の一つだったのだろう。おかげで試合終了間近です。
どこも協力して試合を終わらせようとしているのが明らかだった。
防ぎたいなら〈表と裏の戦乱〉に行くしか無い。
「それで、どうしますのゼフィルスさん」
「ここで試合が終了しちまったら困る! というわけで〈氷の城塞〉を止めるぞ」
先ほども言ったように〈エデン〉は現在3位だ。
ダメ、1位になりたい。
故に、今にも落ちそうな〈表と裏の戦乱〉に助太刀しよう。少なくとも〈氷の城塞〉とはドンパチしちゃおう。
だが、〈サクセスブレーン〉の目論見にはタダでは乗らないぞ!
「了解しました。人選はどうなさいます?」
「BチームとCチームを送ろう。〈イブキ〉を使ってくれ。残りは〈筋肉は最強だ〉と〈サクセスブレーン〉の対処だ」
「すぐに連絡しますわ――『ギルドコネクト』!」
これで〈エデン〉の動きも決まったな。
さて、最後に派手に動こうか!
◇
「上手く行った〈エデン〉は東へ向かったようだ」
「「「「おおおおお!!」」」」
一方、ピラミッド山中央部、デカマス山にいるカイエンはその連絡を受けて安堵の息を吐いていた。
メンバーは裏腹に盛り上がっていたが。
しかしながら、なかなかに綱渡りな作戦だった。
何しろ相手はあの〈エデン〉だ。
ここに人を集め牽制したところで蹴散らされて終わる未来も十分あり得た。
〈サクセスブレーン〉の作戦はリーナとゼフィルスが見破ったように、要は〈表と裏の戦乱〉が陥落されるまでの時間稼ぎ。
正直なところ〈表と裏の戦乱〉がどこに落とされるかはさほど重要では無い。
落としてくれるなら〈氷の城塞〉だろうが〈エデン〉だろうが〈新緑の里〉だろうがどこでも良かった。
だが、ここで〈氷の城塞〉が動かなくても〈エデン〉に襲ってもらい、試合終了させようと思っていたため〈サクセスブレーン〉はこの場所に陣取ったのだ。
全ては作戦のうち。
要は〈エデン〉が危険なら、その危険な者を誘導してしまえという作戦だった。
「カイエン、俺たちはこのまま」
「ああ。動かず、座して結果を待つ。警戒だけは怠るな」
ゴウが聞けばカイエンは鷹揚に頷く。
〈サクセスブレーン〉はここから動いてはいけない。
〈エデン〉の拠点に攻めればカウンターで〈サクセスブレーン〉の拠点が攻め落とされる可能性があるし、別の場所に行けば〈新緑の里〉を牽制中の〈集え・テイマーサモナー〉の拠点へ通行出来るようになってしまう。
今の〈サクセスブレーン〉は〈エデン〉に対し、ただ牽制しているという状況が最善だった。
もちろんそれでも〈エデン〉から攻撃が来る可能性はあったため警戒は怠らない。
ただ、マッスラーズが〈エデン〉に迫ってきている現状、〈エデン〉は防衛に専念するため〈サクセスブレーン〉には向いてこないと見ている。
〈サクセスブレーン〉のメンバーは上級職のスカウトにどんどん成功し、今は15人が上級職だ。うちここには12人の上級職が集まっていた。
〈エデン〉の拠点にいる人数は多くて15人。
マッスラーズを受け止めるだけで〈サクセスブレーン〉へ攻めてくる余裕は無いだろう。リスクが高すぎる。防衛に専念するはずだ。
だからこそ、マッスラーズが〈エデン〉に攻めようとしている現状を放置しているのだから。
〈エデン〉ならマッスラーズの攻撃を受けていてなお〈表と裏の戦乱〉を落とすこともやってのけるだろう。
ここでリスクを嫌ってマッスラーズを迎撃するために〈エデン〉が進攻メンバーを戻したとしても〈氷の城塞〉が〈表と裏の戦乱〉を落としてくれる。そうすれば試合は終了。
どのみち〈サクセスブレーン〉は座して待つだけで勝利を掴めるのだ。
――しかし、それが甘かったと認識したのはすぐのことだった。
〈エデン〉は――普通にリスクを取ってしまうギルドだからである。
〈サクセスブレーン〉の元にDチーム、サチ、エミ、ユウカ、リカ、カルアのメンバーが攻めてきたのだ。
「報告! 〈エデン〉から敵兵! 敵兵です!」
「来てしまったか!(なんで来るの!? 来なくていいのに!?)」
〈エデン〉の拠点からまっすぐ南へと進行してくる5人をその目に捕らえたカイエンは目を見張った。しかしすぐに気を引き締めて指示を出す。
「慌てるな! デカマス山に足を踏み入れたところを狙え! 周囲展開! 『ブレーンフォース』!」
全メンバーにバフを与え、〈エデン〉がこのデカマス山に足を踏み入れた瞬間を狙う。
ここにいる〈サクセスブレーン〉のメンバーは全部で17人。うち上級職が12人。
たった5人なら勝てる。
そう思っていたのだが、
「「にゃー」」
「は? 黒い、猫? な、ぜ――――!?」
気が付けば足下に黒い猫が2匹居た。姿が変わった上級個体のそれが、カルアのエージェントだとすぐに気が付かなかったのがカイエンの悲劇だった。気付いたときには手遅れ。
「『エージェントアサシン』!」
召喚モンスターはマスの減退の効果を受けない。
『影隠れ』と『猫まっしぐら』によって先行していた2匹の黒猫エージェントは、
カルアの新五段階目ツリーのスキルにより、牙を剥く。カイエンへと。
「しま―――あぶぎゃ!?」
「んな!? カイエン!?」
「「「「「ギルマスーーー!?」」」」」
気がついた時にはすでに遅く、2匹から鋭い攻撃を食らってしまう。これは五段階目ツリーだ。その威力も当然強力で、真下から猫パンチのダブルアッパーの直撃を受けることになったカイエンは大きなダメージを受けて吹き飛ばされてしまう。
そのせいで一斉攻撃の指示が出せず〈エデン〉のメンバーがデカマス山に踏み込むのを許してしまった。
「〈エデン〉来てるぞ!?」
「誰かギルマスを!」
「カイエンさーん!?」
「私が行くわ!」
「ギルマスを頼む! 俺たちでここを凌ぐぞ!」
「! そうだ! 俺たちは〈サクセスブレーン〉だぞ!」
カイエンが吹っ飛んだことでかなりばらけてしまう〈サクセスブレーン〉。
指揮官を狙うのは定石。
なんとか〈サクセスブレーン〉からバラバラの攻撃が発射され、〈エデン〉を足止めしようとする。
「あそこ狙う。リカ、行くね」
「任せたぞカルア」
「ん――ユニークスキル『ナンバーワン・ソニックスター』!」
だが、一瞬でカルアとそれに掴まったリカが消え。
「いっくよー!」
「私たちの合わせ技ー」
「とくと見よ!」
「「「――『神気開砲撃』!」」」
発射される3人のコンボ技。
その火力は並外れ、いくつものスキルや魔法を粉砕し、そのまま敵集団の一部へと直撃した。
「「ぎゃあああ!?」」
「んな!?」
「クロイとコブロウの忍者ーズがやられたぞ!?」
まず2人退場。
ピラミッド山中央、デカマス山で最後の戦いが始まった。
 




