#975 決着!〈集え・テイマーサモナー〉最強の奥の手
「行くわよエイリン」
「ガッテン」
〈集え・テイマーサモナー〉にはいくつか切り札的モンスターが存在する。
なんとロマンなことだろう。
そしてそれを持っているのが上級職メンバー。
上級職になると『上級進化』系の類いを覚えられるので切り札的存在に進化させられるのだ。メルのギガントもその一つだった。
そしてその所有者の1人、ギルドマスターのカリンは上級職、高の下、【ビーストテイマー】という、特にビースト系に高い補正を与えられる【テイマー】系だ。
もう1人はサブマスターであるエイリンで上級職、高の下、【ドールマスター】という【人形使い】系の保有者である。
【機械召喚マスター】のメルは【サモナー】系に属しているのに対し、エイリンの【ドールマスター】は人形やぬいぐるみなどのアイテムを自身で操る系で、タバサの『口寄せ』系に近い。
そのバリエーションは自身のバッグの中身次第なのでかなり自由度が高い。
この2人が手を組むと、割ととんでもないものが生まれたりする。
護衛モンスターたちに囲まれながら拠点の1マス隣まで接近してきた2人に〈ダンジョンライフル〉が叫ぶ。
「! 来た! 〈怪獣のリンリン〉が来たぞ!」
「「誰が怪獣よ! というかリンリン呼ぶなし!」」
〈ダンジョンライフル〉も乱戦になりながらもリンリンに気が付き警戒を促すが、現在乱戦中でとても対応できる状態では無かった。
一か八かギルドマスターを含む数人が飛び出し、大将であるリンリンを狙おうとするが、護衛のモンスターたちが飛び掛かる。
「くっ邪魔だ! どけぇ! 『ライフルドラフター』!」
「ワンワン!」
「ゴオオオオオ!!」
護衛のウルフ系やゴーレム系が〈ダンジョンライフル〉を抑え込む。
そこへリンリンコンビが満を持して〈集え・テイマーサモナー〉の最強モンスターを呼び出す。
「行くわよエイリン、合わせて。『ハイビースト爆誕』!」
「ガッテン。『僕の愛する二つの人形』!」
「「出でよギルド最強の化身―――〈ジャイアントケルベロス〉!」」
息の合った2人の掛け声に、カリンの服から飛び出したモンスターへ雷のようなものが落ち、体が変化していく。
「! ジャイアント――ケルベロスだと!?」
「フッ君まずいよ!? 〈ケルベロス〉っていったら!!」
――〈ケルベロス〉。
それは首が三つある犬の怪物であり、冥界の番犬とも言われている強力なモンスター。
伝説上でしか知られておらず、竜と同じく有名でありながらも、存在しないか、上級ダンジョンの奥地に住んでいると言われている。ウルフ系でもかなり上位に位置すると思われているモンスターだ。
それをリンリンコンビは2人の能力を合わせることで降臨させ、させ……。
バンッと登場したそのモンスターには頭が三つあった。その内二つはぬいぐるみだったが。
「って偽者じゃねぇか!!」
「バウ!?」
現れたのはもっふもふな犬のぬいぐるみ二つに頭を挟まれ、超もふもふを堪能しているただの〈ジャイアントメガウルフ〉という上級モンスターだった。ちなみに本物の頭は一つしかない。
どう見てもパチモンだった。
全長6メートル近いが。
そしてフカグルのツッコミに目を見開いて驚愕したウル――ケルベロスは怒った。
「バウバウ(怒)!」
「あーあ、ケルちゃんを怒らせちゃった」
「やっちゃえケルちゃん。今のあなたはケルベロス。大丈夫、私たちが保証する」
「バウバウ!」
ケルベロスなケルちゃんが〈ダンジョンライフル〉のギルドマスター、フカグルに襲いかかった。
「来るか!! バカめその目立つ頭、撃ち抜いてやる!」
「バウ!」
銃撃に怯むこと無く接近したケルちゃん。
まず何をするのか、誰もが三つある頭に注目していたところ、飛び出したのは前足ストレートだった。まさかの犬パンチがフカグルのボディを襲った。
「ぐっはーー!?!?」
「「フッ君ーー!?」」
これは完全に予想外の攻撃。フッ君が大きく吹っ飛ばされ、さらには〈ダンジョンライフル〉メンバーがケルちゃんから気を逸らしてしまった。もちろんその隙を逃すケルちゃんではない。
「バウ!」「「―――!」」
「「きゃああああ!?」」
2人いたメンバーにそれぞれ攻撃、片方にはぬいぐるみから火炎の息が噴射され、もう1人にはケルちゃん自ら火の玉を発射し2人同時に攻撃したのだ。
これがぬいぐるみとウル――ケルベロスの強み。
普通ならスキルを発動している最中に別のスキルを同時発動することはできない。
しかしぬいぐるみとケルちゃんは別個体だ。ただウルフにもっふもふがくっついているだけだ。
故に別々に攻撃することが可能。ぬいぐるみ二つとケルちゃんは別々に攻撃出来る。
――つまりは1度に3回攻撃が可能なモンスターなのだ。
しかも元になった〈ジャイアントメガウルフ〉は上級進化した正真正銘の上級モンスター。単体使用とスキルによって能力が爆上がりしている状態だ。
その強さは見た目に騙される(?)と一瞬でやられてしまうほど強力。
偽者と断じて油断した〈ダンジョンライフル〉の負けだった。偽者は正解だけど。
まあ、それを計算してこのような合体モンスターを作り出したのはリンリンなので、計算高い、作戦成功と言えるかもしれない。
「ノックバックさせます! 『ブレイクファイヤー』!」
「バウ!?」
なんとか時間を稼ごうと体勢を立て直した1人が強力なノックバックをさせる一撃を胴体に放つが、ケルベロスはノックバックしていてもぬいぐるみの方はもちろん健在で、反撃の衝撃波が放たれる。
「「―――!」」
「へ? きゃあああ!?」
そう、止めるにはぬいぐるみの方も止めなくてはいけない。だってそっちはノーダメージなのだから。本体がノックバックとか関係無いのである。これもケルベロスの強みだ。これぞノックバック反撃。
完全にカウンターされて1人が退場するとそこからは早く、もう1人も三つの口でガブリとやられて退場。最後まで奮闘していたギルマスのフッ君はというと。
「ぐへ、ぐは!? ぐ……あぶん!?」
接近されて前足で押さえつけられ、ダウン判定。もう片方の前足でペチンペシンと報復ビンタされダメージを蓄積されていた。
そしてなんとかダウン判定が解けて――。
「やりやがったなこの偽者! 『バビルドンショッ――」
「バーウ!!」「「―――!」」
ここから反撃だと起き上がろうとしたところでケルちゃんとぬいぐるみからブレス発射。
「ああああ―――――!?」
至近距離からの攻撃により直撃を受けたフカグルのHPはゼロとなり、そのまま退場してしまう。
まったく相手にならない。
これぞ〈集え・テイマーサモナー〉最強の奥の手。
ケルちゃんの力だった。
ギルドマスターのおかげで支えられていた〈ダンジョンライフル〉もそこから瓦解。
時間は掛かったがついには立て直すことはできず、というよりケルちゃんによって蹂躙されてついには〈ダンジョンライフル〉の拠点は陥落してしまう。
――〈ダンジョンライフル〉10位。
一方、ピラミッド山の南西では〈ハンマーバトルロイヤル〉、〈明るい光の産声〉、〈新緑の里〉の三つ巴の戦いが繰り広げられていた。




