#965 〈ミスター僕〉VSパメラ、ラナ、シズ。
「おい貴様ら! これ以上勝手は許さん! 俺の指揮下に入れ!」
「冗談はよしてくれたまえ」
「魅力を磨いて出なおしな!」
「ここは俺の火力を見ろ! 『ギガトントントン・パイルストーン』!」
「ふふん、甘いデース! 『軽業』!」
相変わらず連携下手ではあるが、個人は中々に尖っている〈ミスター僕〉。
その中でも槍使いの男子が強烈なドデカイ槍を生み出してパメラを討たんとする。非常に威力の高い強力な攻撃ではあるが、パメラは当たらなければどうと言うことはないの精神で避けてしまう。
「ゼフィルスさんが言っていたデース。一発の火力が強い者には避けタンクを当てろデース! ユニークスキル『必殺忍法・分身の術』デース!」
「分身だと!」
「なんだこれ、かっこいい」
「もしこの僕が5人に増えたら、世界が驚愕してしまう!」
どこかズレた反応をしている〈ミスター僕〉だったが、これでもBランクギルド、その対応は早かった。
「ふんぬー! 『物理トルネード』!」
「『ファイアワークス』!」
「『バーンブレード』!」
「『ライトニングブラスター』!」
「ニン! 一瞬で蹴散らされたデース!?」
分身を過剰なほどの範囲攻撃を当てて屠ってきたのである。
おかげで4体の分身は瞬く間に消えてしまう。
「今度はこっちの番だな!」
「よし、俺が行こう!」
「何言ってんだ、ここはどう見ても俺が行く場面だろう!」
「んだとぉ!?」
「強いのか弱いのかよくわからんギルドデスね!」
せっかくの反撃チャンスを棒に振る。それが〈ミスター僕〉クオリティ。だが、
「こうなりゃ俺が目立つ!」
「くっ! させるか、俺の方が!」
「誰があの忍者を逸早く狩れるか競争だ。そして勝者こそが一番だ」
「ふん。いいだろう」
「あ、やばやばデス!?」
そのまま仲間割れしていればよかったのに、今度は標的がパメラになってしまった予感。
一瞬で6人ものBランクギルドメンバーがパメラに踊りかかった。
「奥の手でいっくデース! 『アクロバティック・フットワーク』デース! 全部避けてやるデースよ!」
だがパメラは怯まない。6対1になろうが関係ない。
全て避ければ問題ないと言ってとあるスキルを発動した。
それこそパメラの避けタンクとしての真骨頂。
『軽業』の上位ツリー。三次元の動きで回避率を特大上昇させるスキル『アクロバティック・フットワーク』である。
「避けタンクには範囲攻撃だ! 『レッドフレイムバスター』!」
直線型範囲攻撃が放たれた瞬間、パメラが軽い足取りでジャンプして回避した。
「バカめ、空中では避けられまい『剛貫通矢』!」
「俺がしとめてやんよ! 『バーンアウト』!」
「チャンスを生かすのは、この僕さ『ライトニングストーム』!」
空中では避けられないと、その隙を狙う〈ミスター僕〉のメンバーたちだが。
「だが残念デース!」
瞬間、パメラが空中二段ジャンプを決め、1人の目の前に着地した。『アクロバティック・フットワーク』は空中二段ジャンプも出来るのだ。
何が起こったのか一瞬わからなかった槍持ち男子が、すぐに構えてパメラに槍を振るうが。
「くっ、なぜ当たらない!?」
「ほらほらどうしたデース。そんなもの、当たらなければどうと言うことはないのデース!」
パメラは三次元の動きで軽快に避けまくり、時には空中移動で、時にはアクロバティックに大胆に回避し、時には槍持ち男子の槍の上に着地を決めたりもして、槍持ち男子の攻撃は一切当たらなかった。
これぞ避けタンクとして、回避率を特大上昇させる奥の手の力だ。
回避のみに集中すればこんなことも可能だと見せつけるようにパメラは動く。
そしてこれが、なにやら別の現象を生み出していくことになる。
「う、美しい」
「なんだあの動きは」
「なんて軽やかなんだ。あれが真の忍者の姿か……」
「芸術だ」
見惚れる〈ミスター僕〉メンバーたち。
なぜかパメラの動きに芸術を見出し始めていた。
「お、俺も参加する!」
「あ、おいずるいぞ」
「パメラさんといったっけ? どうか俺の攻撃も避けてください!」
「い!? なんデスか!?」
パメラ、驚愕する。
なぜか〈ミスター僕〉たちから人気が出たパメラ。
一斉攻撃をしてきたが、パメラが避けに徹し、攻撃を回避するたびになにやら目を輝かせるのだ。
パメラの避けセンスに〈ミスター僕〉のメンバーがときめいていた。
無論、そんな隙を逃すパメラではない。
「隙有りデース! 『暗闇の術』!」
「うお!? なんだこれは!?」
「何も見えないぞ!?」
「パメラさんはどこ!?」
「ふっふっふ、私の芸術避けをタダで見せてあげるわけには行かないデース!」
なんとなくそれに乗っかるパメラ。
「そ、そんな!」
「これは煙幕だ! こんなの晴らしてしまえばいい!」
「それもそうだな! 『槍ぶん回し』!」
さっきまでの仲の悪さはどこへやら。目的のため6人で暗闇の煙幕をかき消すが、そこにはすでにパメラはいなかった。
「パメラさんがいないぞ!」
「どこに、あ、あそこだ!」
「ちょ!」
パメラは少し離れたところにいた。刀の先に太陽を溜めて。
そう、パメラは『暗闇の術』の直後に身を引き、自身の中でもっとも火力の出る『忍法・炎・爆裂丸』をチャージしていたのである。
そして、『暗闇の術』が解けた瞬間踊りかかって。
「食らうデース! 爆裂丸デース!」
「あ――」
「チュドン」という爆発が6人の〈ミスター僕〉メンバーを襲った。
先頭にいた槍持ち男子がその直撃を受けて退場し、他のメンバーも軒並み吹き飛ばされてしまう。
「まだまだいくデース! 討ち取ったりーデース! 『くノ一流・小夜時雨』!」
「ふ、『フレイわああああ―――」
二刀を解き放ったパメラの〈四ツリ〉斬撃スキルが炸裂。
バランスを崩し、レッドゾーンまでHPを減らした火魔法使い君が〈闇属性〉の連続攻撃に斬られて退場する。
「お次はこっちデース! 『くノ一流・氷雨』!」
「『ライトニング――ぐはぁ!? 氷だと―――』
続いて立ち直る前に雷魔法使い男子も屠ることに成功。二刀の氷属性斬撃スキルで斬ってしまう。これで厄介な魔法使い系を倒したことになった。
「残り3人デース! 『三属性手裏剣乱舞』!」
「甘い甘い! 甘いわーーー!! 『バーンクロスストーム』!」
火刀男子が火を纏った刀を振って火の竜巻を作り手裏剣を全て叩き落してしまう。
そのまま火がパメラをも巻き込もうとし。
「『忍法・身代わり反撃の術』! 天誅デース!」
「ぐはぁ!?」
一瞬で側面に移動され斬られてしまう。
その後もパメラは立体駆動で動き続け、時には被弾もするが大きなダメージを負うこともなく相手を攪乱し続ける。
◇
一方シズとラナは。
「なんだこのメイド、火力が半端じゃないぞ!?」
「『徹甲弾』! 『貫通弾』! 『連射』! 『魔弾』! 『ハートスナイプ』!」
「しかも全然攻撃がとぎれねぇ!」
「くそ、俺が行く! 見せてやるよ、男の生き様をよ!」
「あ、バカ!」
「『聖光の耀剣』! 『大聖光の四宝剣』!」
「うわああああああ――――」
「この盾壁から出たらあれがぶっ刺さる!? 怖ぇぇぇ!!」
ここは膠着状態だった。
シズとラナの立ち回りは非常にシンプル。
敵は近づかれる前に倒せ。
瞬間的な火力の高いシズとラナにとって、これが理想的な立ち回りだった。
もちろんゼフィルスの受け売りである。
対して〈ミスター僕〉は盾を持つ者やラクリッテやシャロンのように壁を召喚できる者が力を合わせて小さな安全圏を作り、そこに縮こまるようにすることでなんとか攻撃をやり過ごしていた。マスの角に陣地を作ったため正面からしか攻撃が来ないのが救い。
一応下がれば隣のマスへ行けるのだが、そちらではレグラムとオリヒメが暴れており、あまり行きたくない状況となっている。
「くっどうする!? このままだとジリ貧だぞ」
「盾だって多少フィードバックを受けるんだからな!」
「5人もいて誰もいいアイディアが出ないのか!?」
「ブーメラン」
「この壁が移動さえ出来れば」
シズの攻撃は止まらない。さっきからガッツンガッツン盾や壁に攻撃が辺り、タンクのHPを削っている。
しかも、MPの切れる様子がなく、無視しようものなら火力の高すぎる銃撃と宝剣で即退場まったなしだ。
それによってすでに3人が退場させられていた。
「もうこれ無理だろ。諦めて下がろうぜ。そんであっち倒したほうが賢明だって」
1人の男子が1マス隣のレグラムとオリヒメを指さして言う。
隣は8人が相手をし、すでに2人が退場しているが6人は健在だ。
自分たち5人が合流すればギリ行けるのでは? というのが見解だった。
しかし、残りの4人は揃って首を振る。
「ダメだ。俺たちは数が増えれば増えるほど弱くなる」
「普通逆なんだよなぁ」
自覚あったんだ、というツッコミは誰もしない。
よって他のメンバーと合流はあまりしたくないところ。
「逃げるか?」
「否、背を向けたら撃ち抜かれる未来が見える」
「というかあのメイドさんの火力がえぐい」
「ああ。ただでさえ火力が高いのにたまに〈即死〉を混ぜてくるからな」
その〈即死〉で今まで2名が退場していた。恐ろしい攻撃だった。
それに加え、実はシズは〈エデン〉の中で最も火力の高い1人だ。
DEXは1500を超え、一撃でも受ければ後衛なんかは即退場してもおかしくない数値を誇っている。
しかし、ここで悠長に相談なんかしている時間は、もうなかった。
「シズ、クールタイムが終わったわ」
「了解いたしました。では次で仕留めましょう」
そんな声がちょっと聞こえてしまったからだ。
「『マルチバースト』!」
「『祈望の天柱』」!」
そしてシズの超連射攻撃、盾から出たら間違いなく蜂の巣になる攻撃が襲ったかと思うと、彼らの真上から光の柱が降ってきたのだった。
「逃げるぞ!」
「「「「賛成だ!」」」」
そして〈ミスター僕〉の心は一つになった。




