#964 ナルシスト系単独行動多発地帯〈ミスター僕〉。
前書き失礼いたします!
小説5巻は明日発売!
早い書店では今日にも販売!?
発売日前日ということで本日3話投稿!
楽しんでください!
ギルド〈ミスター僕〉は3年生である「男爵」の男子がギルドマスターを務める、ちょっとナルシスト系の人たちが――ではなく自分の腕に自信を持つ者たちが集まったギルドだ。
Bランク非公式ランキング第十六位。下から2番目。あの〈クラスメートで出発〉の一つ上だ。
自分の腕に自信を持っているにしては、低い順位だ。
しかし個人の能力が低いわけではない。むしろ個人の能力は高い。
ただ全員が個性的で連携がまったくできないだけだ。
今も拠点の周囲には全員が集まっているが、誰もグループになっておらず、単独でなぜか決めポーズを決めている。なぜ決めポーズを決めているのかは不明。
彼らがここで立っているのは単独行動を防ぐためだ。
彼らは個人では強いが連携が弱い。
〈城取り〉ではツーマンセルすら覚束ない。我先に巨城へ群がるほどだ。
故に各個撃破されないためにこうして動かない。
ランク戦では基本的に相手の城を落として勝利を掴むギルドとしても名が知られている。
連携も無く城を落とせるの!? と当然の疑問を持つかもしれないが、「俺が城を落とす」「いや俺だ」「なんだと、俺の方が早い」「なら競争だ。俺の方が優れていると見せてやる」と、そんな感じでよく城に突撃する。そして割と成果を出す。強い。
近くに拠点を持つBランク非公式ランキング第九位、〈サンダーボルケーション〉が攻めに来られないほどに。
そのうち、ギルドマスターのナーシスが決めポーズを決めたままピクリと反応する。
「うん。誰か迫ってきているね。この僕に用かな?」
遠くから接近するラナたちに気が付いたのだ。
彼の職業は【彦スター】の上級職、【スーパースター】。
上級職、高の中に分類される、一応は支援系に分類されている職業だった。
「ふ」
「おい待てナーシス。どこに行くつもりだ? 勝手に持ち場を離れるな」
「おいおい、誰がナルシストだって? 僕はナーシスだといつも言っているだろうゴクロウ君」
「俺はゴロウだといつも言っているだろう」
ナーシスに話掛けたのはこのギルドのサブマスター、ゴロウ。
自分の頭脳は頂点にあり、ギルドメンバーは自分の命に従うべきだと思い込んでいる、頭脳系ナルシストだ。
無駄に頭が良いのでサブマスターに就任し、ギリギリこのギルドが組織として運営できているのはこのゴロウのおかげだったりする。そのためギルドメンバーからはゴクロウ君と呼ばれている。
「敵が迫ってきているんだ。スターの僕には分かるのさ」
「それならそうと先に言え。個人で動くな。全員傾聴! 敵が迫ってきている! 迎撃の準備をしろ! ――それでどこの敵だ? 〈サンダーボルケーション〉が攻めてきたのか?」
ゴロウの声が拠点に響き、全員が決めポーズを――解かなかった。そのまま出迎える態勢だ。
「僕はギルドマスターだから出迎えに行ってくるよ」
「いや、だから行くなと言っているだろう! そのキラキラとしたものを仕舞え!」
「これは輝く僕から常時出てしまうものなのさ。僕自身が輝いてしまうからどうしようもないんだ」
「相変わらず訳の分からないことを」
ゴロウはそう言いつつもギルドマスターを足止めすることに成功する。
ギルドメンバーは総じて頭がちょっとアレなので、自分に興味を持って話し掛けてもらえると移動しない。
ゴロウはそんなナルシストの特性をしっかり把握していた。
そうしてナーシスの体から出るキラキラエフェクトの話題を出していると、ついに目視出来るところまで敵がやってくる。
「あれは、ラナ王女殿下ではありませんか。つまりは〈エデン〉ですね」
「くっ、よりによって〈エデン〉が攻めてくるか。しかし、人数は5人と少ない。これならばまだ――」
現Bランクギルド最強、〈エデン〉。
そのメンバーが迫ってきていると見てゴロウが素早く対処法を練っていると、ナーシスたちが動いた。良からぬ方向に。
「王女に僕を見てもらうチャンス!」
「「「「待てナーシス! 自分だけずるいぞ!」」」」
ギルドメンバーがなぜか全員走り出したのだ。
「いや待て! 本当に待てお前ら!?」
相手が王女なら話は別だ。
拠点に居たメンバー24人全員が一斉に王女様一行に走り出したのだ。
自分をアピールするために。
「くそお! もうこんなギルドやめてやらぁぁぁ!」
ゴロウの魂の叫びが辺りに響いたが、残念ながら誰1人としてその言葉を聞いてはいなかった。
◇
「! 全員警戒!」
「たっくさん出てきたデース!」
「総攻撃だと!?」
ギルド〈ミスター僕〉へ向かう道は一本だ。
この〈ピラミッド〉フィールドで数少ない細い道を進んでいたラナたちだったが、角を曲がり、〈ミスター僕〉の拠点が見えたところで一気に拠点から全メンバーが総攻撃を仕掛けてきた。
「ラナ様、お引きください!」
「問題無いわ! シズ、パメラ、レグラム、やっちゃって! 援護するわ!」
「承知デース!」
「オリヒメはラナ殿下と共に居てくれ。蹴散らしてくる」
「はい、レグラム様。支援回復はお任せください」
24人のBランクメンバーVSラナたち5人。
とても戦力差のある構図に見えるが、個としての強さは〈エデン〉が飛び抜けている。……唯一〈ミスター僕〉が誇れる個人技能で負けてるとかこの後の展開が見えるかのようだった。
ラナは仲間を信じて、まず一当ての決断を下す。
「ラナ殿下、バフとデバフはお任せください」
「任せるわ!」
「では――『ソプラノ』! 『メゾソプラノ』! 『アルト』! 『祝歌』!」
まずはオリヒメによるバフが全体を包んだ。
本当はラナの方がバフの効力は強いのだが、オリヒメのこれはコンボスキルとなっているためオリヒメのバフを優先した形だ。
接触まで残り1マス。
相手も自分にバフを掛けたようで自身にエフェクトを振りまきながらラナたちがいるマスへと進入してきた。最初に飛び込んで来たのは、足の速そうな男子。
「ハーッハッハッハ王女殿下は俺がアピールを――」
「不敬です! 『デスショット』!」
「え? ふご…………!?」
あまりにも不敬。
一番槍(?)で飛び込んで来た細身の男子はシズの一瞬の早撃ちに対応できず、そのまま〈即死〉判定で退場してしまうのだった。
こうして戦い(?)の火蓋が切られた。
「い、一撃だと!?」
「なんだ今の、やべえ!?」
「アピールどころの話じゃない!?」
アピっている場合じゃないと悟った〈ミスター僕〉のメンバーズ。
そこへ切り込んだのは、レグラムだった。
「『天歩天空・空斬』!」
空中移動からの斬撃スキル。ソニック系の空中移動版を振るったのだ。しかし、
「俺だと!? くっ『スケープゴート』!」
「あ、てめ!?」
狙われた【レイヴン】男子が即他のメンバーを囮にして逃げる。
「許せ」
「む、せい!」
「ぐああああ!?」
南無。
囮として差し出された男子を、レグラムはちょっと面食らったがすぐに斬った。
そこから連続で斬り、一方的に囮にされた男子も退場してしまう。
「……誰も助けに来ないのか?」
レグラムが疑問の声に、しかし答える者はいない。
そのとおり囮にされた男子が退場するまで誰も援護に来なかった不思議。それこそがこのギルドが個人プレイの集まりだと象徴していた。
たとえ味方であっても躊躇無く囮に差し出す辺り、〈ミスター僕〉は非情である。
「おい、あっと言う間にやられたぞ」
「あ、あいつ強くね?」
「お、俺帰ろうかな」
「おい、お前行けよ」
「え? いやだよ」
「言い出しっぺだろ、君が行けばいいじゃないか」
「なんだと!?」
〈ミスター僕〉に協調性は皆無。〈零の支配〉だってまだ協調性はあったのに。残念なことだ。
22人もいてたった5人に動揺するのは自分たちが個人プレイの塊で、他のメンバーが役に立たないと考えているからだ。
ついには譲り合いから押し付け合いにまで発展。
困惑するレグラムを他所に隙をさらし始めた。
そこに躊躇無く攻撃するのが我らがラナである。
「あなたたち、全然たいしたことないわね!」
「な、なんだと!?」
「王女殿下だ。これは不利か?」
「そんなところに固まってたら、一網打尽なんだからね! 『祈望の天柱』!」
「う、上だ!」
「でっか!?」
「く、俺がやる!」
「すっこんでろ、俺が蹴散らしてやんよ!」
「バカ、お前じゃ役に立たねぇよ。俺がやる!」
「『フィーバービーム』!」
「『ブルートライアルカノン』!」
「『ストライクレッドジャベリン』!」
今度は自分こそがこの攻撃を打ち消すのだと我先に群がり始めた。
所詮はナルシスト集団。自分の身が何よりも可愛く、逃げるものもちらほら出る中で、ほぼ全員の攻撃が『祈望の天柱』に激突して、そして消滅する。
さすがの五段階目ツリーも物量には勝てない。
しかし、アホな事に〈ミスター僕〉のメンバーは全力で攻撃を撃ってしまったらしい。
余裕無し。隙有りだ。
「突撃デース! 『忍法・炎・爆裂丸!』」
「承知した! 『疾風天空・激天斬』!」
「ぐあああああ!?」
「デバフを掛けますね『テノール』! 『バリトン』! 『バス』! 『呪歌』!」
「ぐっ、1対3とは卑怯な」
「周りを見てみるデース! 人数は22人対5人デス!」
「あいつらは役に立たん」
「何だと!?」
「このギルド、仲間割れがすごいな。せい!」
「爆裂丸プレゼントデース!」
「のわあああああ!?」
オリヒメがデバフを掛ける。
相手がなぜかシズ、パメラ、レグラム対自分1人だと思いっきり勘違いしていたのでパメラがツッコむととんでもない言い草が帰ってきてさらに混沌発生。
連携が取れていない隙を突く形でまた1人を屠ることに成功する。




