#954 〈クラスメートで出発〉に迫る―【悪の女幹部】
マッスラーズが炎に巻かれながら〈炎主張主義〉を陥落させている頃、フィールドの南側でもいくつか動きがあった。
最も〈エデン〉から遠い拠点位置の一つ、包囲の外、フィールドの南西にある地点。
ここはBランク非公式ランキング最下位、第十七位であるギルド〈クラスメートで出発〉が運良く獲得した、このフィールドで最も平和な拠点の一つだった。
もちろん平和の意味は「〈エデン〉から遠い」である。
「どうする? やっぱどこも組んじゃくれないぜ?」
「む、むう。Bランクに上がりたてだから弱小と思われているのがなんともな……」
ギルドメンバーたちが相談する。
北の方ではすでに上位ギルドがドンパチしまくっているというのにここは平和そのものだった。
どこのギルドも北にばっかり注目しているせいである。
このギルド〈クラスメートで出発〉はその名の通り、仲の良いクラスメイトたちが立ち上げたギルドが起源となっていた。
ここは学園だ。クラスとは出会いの中心地。友達とギルドを作る学生も少なくない。
まあ、そういうギルドは大抵Dランク止まりなのだが、中には運良く〈上級転職チケット〉をドロップしたりして大成するギルドも現れる。ここはそんなギルドだった。
拠点のクジ引きからも分かる通り、ここのギルドマスターはそこそこ運を持っている人物である。
おかげでテスト後のランク戦で、滑り込みで元十七位を撃破しBランクギルドに昇格していた。
しかし、運が良いギルドと思われ、実力はいまいちという評価をもらい、こうしてギルドランキング最下位に甘んじていたりするのがやるせないところ。
「やっぱり漁夫の利を狙うのが良いよ」
「いや、だがそれでは名を上げることには繋がらないぞ?」
「だけどこの位置、それにうちのギルドのやり方だとそれが確実じゃないか?」
「北にはマッスラーズがいるって聞いたし、下手に動きたくはないなぁ」
拠点の利点を最大に活かすなら漁夫の利を狙うのが一番。
だってここは平和だから。ここで大人しくしているだけで勝手に相手が少なくなっていくのである。
そうして戦いでヘトヘトになった相手を後半になって攻めれば楽に勝つことができるだろう。
しかし、なんとか運だけのギルドじゃ無いと証明したい〈クラスメートで出発〉は先ほどからどう動くのかを話し合い、そして平行線を辿っていた。
そうして試合開始7分。ようやく意見が纏まる。
「よし。防衛モンスターで点を稼ぐぞ。ヒットアンドアウェイで攻め、危険と感じたらすぐに退くこと、誰も退場しないように」
「「「おお!」」」
さすがに拠点を落とすとなるとBランク新参者な自分たちには荷が重いと感じ、防衛モンスターを屠ってポイントを稼ごうという結論に落ち着いた。
だが、その結論を着けるのは、とても遅かったようだ。
12分もあれば他のギルドは迎え撃つ準備を万全にして構えているからである。
〈クラスメートで出発〉が向かったのはフィールドの東側だった。
「何だ……あれ?」
「氷の、城?」
「あ、あれはまさか、ギルド〈氷の城塞〉!? ありゃダメだ! 退くぞ」
「てったーい! てったーい!」
そこはピラミッド山を囲う包囲の外側、フィールドの南東にある平和な場所その二。
一番平和な場所なら邪魔は入らないだろうと考えて来た所、とんでもないギルドと遭遇して逃げ帰る事になる。
そこで見たのは氷に閉ざされてしまった城。
〈クラスメートで出発〉と同じくつい先日Bランクギルドに昇格したにも関わらず、Bランク非公式ランキングで第四位にランク付けされた大物ギルド。
少し前に〈エデン〉が〈カッターオブパイレーツ〉戦で見せた城の要塞化、それを実現せしめた職業持ちが在籍する〈氷の城塞〉ギルドであった。
あそこは攻められないと撤退する〈クラスメートで出発〉のメンバーたち。
しかし、そこに忍び寄る魔の手があった。
「オホホホホホ! そんな隙だらけじゃ退場させてと言っているようなものよ? 『悪の幹部特製地雷原』!」
「な、誰―――」
〈クラスメートで出発〉のギルドマスターの声は最後まで続かなかった。
「ドドドドドドドボカーンッ!」という連鎖した爆発音に飲まれたからだ。
それを成したのは元〈カッターオブパイレーツ〉所属の【悪の女幹部】女子。アキラ3年生だ。
「オホホホホホ! とってもいい花火だわ!」
〈エデン〉に敗れCランク落ちし、メンバーの脱退を余儀なくされた〈カッターオブパイレーツ〉はその後、〈サクセスブレーン〉から引き抜きにあっていた。
そう、今のアキラはBランクギルド〈サクセスブレーン〉のメンバーだ。
元々〈エデン〉が〈カッターオブパイレーツ〉にランク戦を仕掛けてきた理由にピキッときていた女子メンバーはこの話に賛成し、アキラともう1人、【アベンジャー】女子のケシリスが〈サクセスブレーン〉に移籍していたりする。
「アギドンたちの絶望、移籍編」であるがそれは別の話。
「どんどんいくわよー! 耐えてごらんなさーい『ドクロボンバー』! 『悪の幹部特製ボム』! オホホホホホ! おっとそこも危ないわよ~『ドクロ地雷』!」
「わーわーわー」
ここには罠が張られていたのだ。
3×3のデッカマスを南に抜け、池と山に挟まれたこの周囲はアキラにとって絶好のポイントだった。
どんどんスキルを発動していくアキラ。途中で高笑いも忘れない。
アキラの爆弾は範囲攻撃。冷静に対処しなければその大きな音と衝撃で連携も取れない有用な攻撃だ。これでも上級職、高の中の職業なだけある。
阿鼻叫喚が起こっていた。
「くっ!? 各自脱出するんだ! って――あ!?」
「討ち漏らしたのは私がやるわ。『リベンジソウル』! 『渾身の一撃』!」
「ぎゃああああ!? ―――ぶあああああ!?」
もちろん【悪の女幹部】だけじゃない。【アベンジャー】のケシリスもいる。
爆弾による攻撃から逃れたメンバーを滅ぼすのが彼女の役割だった。
なんとか脱出に成功したかに思えた〈クラスメートで出発〉のギルマスは目の前にいたケシリスによって、爆弾が舞うエリアに再び物理的に戻されてしまう。そして退場したようだ。
ここまで崩されたら態勢を整えるどころか反撃もままならない。
否、反撃なんかさせない。
連携に自信のある元〈カッターオブパイレーツ〉メンバーの2人が組んだ時、殲滅効率は何倍にも膨れ上がるのだ。〈エデン〉の時はあれだ。しょうがなかった。なるべくしてああなったのだ。
アキラたちはこれをカイエンに報告。
「オホホホホホ! というわけで襲撃は大成功! 〈クラスメートで出発〉へ追撃するチャンスよ!」
「よくやった! これより〈サクセスブレーン〉は〈エデン〉を警戒しつつ攻めに出るぞ! 追撃班を組織する!」
カイエンは斥候からの報告で〈エデン〉が今度は西に行きそうな雰囲気をキャッチしていたためこれに頷き、今のうちにポイントを稼ぐように指示を出した。
こうして攻めに出ていた主戦力をボロボロにされた〈クラスメートで出発〉はその後、戦力が低下した所に〈サクセスブレーン〉から襲撃を受け、防衛モンスターのポイントを搾取されるはめになる。
「本当によくやってくれたよアキラとケシリスは。これで〈エデン〉に落とされても辛うじて体裁は保たれる。2人をスカウトしておいて本当によかった」
この戦果にカイエンのお腹に添えられた手がそっと離れたことは本人以外誰も知らない。




