#931 最奥のボス〈マグメタ〉戦、一方的にボコるべし
〈浮遊の巨石ダンジョン〉最奥のボス。
その名も〈マグネットメタモルゴーレム〉、通称〈マグメタ〉。
大きさ7メートルくらい。浮遊する巨石そのもので全身がテカッテカの黒光りしているゴーレムだ。
第一形態は卵形の体に腕のようなものが四方に1本ずつ計4本生え、足は無し。中央には巨大なカメラみたいな目が付いている、威圧感の塊というボスだ。
しかし、動きは緩慢で空中から動かないため、一見遠距離パーティで攻めるのが吉と思うかもしれないがそれはミスリードだ。
こいつは万全の状態だと周りに磁場を形成しており遠距離攻撃が届きにくくなる能力を持っている。要は遠距離攻撃が逸れるのだ。命中してもあの4本の腕で庇われ、ダメージは大きく減退してしまう。
ここのボスには珍しく攻略法が設定されていた。要は正しい攻略法じゃないとダメージを与えられないタイプのボスなんだ。まあ全体攻撃とか他にもやり方は色々あるが、磁場で逸れるかダメージが極端に低くなってしまう。
こいつは体からゴーレムを生み出す。そしてゴーレムを全部倒すと怒って空中から降りてくるんだ。そこをボコるのが攻略法。
〈デブブ〉みたいなボスだな。
しかも厄介なのがゴーレムと戦闘中、上からもたまにビームやら砲やらなんやらが降ってくるところだろう。〈デブブ〉の時は攻撃してこなかったが今回は手の届かないところから一方的に攻撃してくるのだ。さすがは上級。
ゴーレムを倒しさえすれば降りては来るが、一定時間経ったらまた空中に逃げ、またゴーレムを生み出してくる。そしてゴーレムを倒しきるまで降りてこない。その繰り返しだな。
道中の巨石落としにも似た部分があるのはこれが〈岩ダン〉のボスだからだ。
HPは〈クジャ〉よりだいぶ少ないとはいえHPバーはしっかり3本ある。
下手にダメージを稼げないと延々とゴーレムと戦わされて力尽きるためしっかりボコるタイミングを見切るのがこいつを倒す第一歩だ。クールタイム管理に気をつけろ。
しかし安心してほしい。こいつはその厄介な特性を持っているが故に弱点も存在している。それを熟知した俺がいるんだ。今回も余裕で勝ってやるぜ!
「行くぞ!」
「「「「おおー」」」」
ボス部屋への門を潜ると、そこは壁に歯車がギコギコ回っている巨大な箱形の部屋だった。
その中央に浮かぶ黒光りする巨石。
高さ的に近距離組は届かないだろう。四方から伸びた4本の腕のようなものを体に巻き付けており、ぱっと見ではボスだと分かりにくい。
あれも道中あった巨石の一部と見てしまうからだ。
「ボスはどこなの?」
「もしかして、レアボスかしら?」
「それにしてはレアボスがポップする様子はありませんが」
「ん。みんな、あれ、あの岩、ボス」
「ああ。『直感』にビンビンに響いているぜ。あの浮いている巨石こそがボスの正体だ」
案の定ボスが分からず探す3人だったが、やはり『直感』持ちだったからだろう、カルアはすぐに気が付いたようだ。俺の『直感』にもビビッと来てやがる。
「あれなの?」
「あれがボスなのね」
「これは迂闊でした!」
カルアと俺の言葉を聞いて全員が巨石に注目し、改めて構えを取った。
問題無い。あいつは最初動かないのだ。哀れな者たちが「ボスはどこだろう?」とあの巨石の真下まで来ると落っこちて初見殺しをしてくるやべぇシステムが組まれているためだ。
まあ、バレてしまえばどうってことはない。
さて、まずは先制だ。
「シエラ、ラナ、頼む!」
「任せて、『オーラポイント』! 『シールドフォース』! 『四聖操盾』! 『守陣形四聖盾』!」
「バフを掛けるわ! 『守護の大加護』! 『獅子の大加護』! 『耐魔の大加護』! 『迅速の大加護』! 『病魔払いの大加護』!」
いつも通りのシエラの挑発にラナのバフで俺たちがパワーアップする。
しかし、ボスは相変わらず動かない。
「動かないわね」
「? ちゃんとシエラの挑発は入ったはずよね?」
ちゃんとヘイトは稼いでいるが、初見殺しをするまで動かない気なのだ。
よし、張っ倒そう。
「行くぜ! カルア、エステル、付いてこい! だがあいつの真下には入るなよ!」
「ん!」
「承知しました!」
俺が先行する。
カルアもエステルも俺が何をするつもりなのか分かっていないだろうが、指示通り後に続いた。
こいつは一撃入れるか俺たちが真下に来るまで動かない。
それを利用した第一手だ。
俺だけこいつの真下へと躍り出る。すると、
「! ゼフィルス危ないわ!」
「あらよっと!」
ラナの警告にスッと躱す。
来ると分かっていればどうということは無い。
ドシャァンッという音を響かせ、上から〈マグメタ〉が地面に落っこちてきた。
うっわ。これはヤバい。直撃したら一撃だな。ゲームでもこれを素で食らうとタンクですら退場することもあったからな。
しかし、本来なら生み出したゴーレムを倒さないと降りてこない〈マグメタ〉が落っこちてくる貴重な機会だ。ここを見逃す俺では無い。
「降りてきたぞ! 総攻撃だ! おりゃああ『勇者の剣』! 『聖剣』!」
「ビックリしたわ! もう――『大聖光の四宝剣』! 『聖光の耀剣』!」
「降りてくれば、攻撃出来るわね『インパクトバッシュ』! 『ショックハンマー』!」
「少し驚きました――行きます『閃光一閃突き』! 『戦槍乱舞』!」
「ん! 『スターバースト・レインエッジ』! 『64フォース』!」
俺がまず防御力を下げる『勇者の剣』で先制し、そこへラナの宝剣が突き刺さり、シエラが盾とメイスで攻撃し、エステルが威力のある槍攻撃を突き刺し、カルアが短剣二刀流で連続攻撃を叩き込む。
こいつは自分の体を4本の腕のような物で庇っているので、庇われていない脳天辺りを攻撃するのが良いのだが、さすがに7メートル上は届かないので腕に攻撃した。
デバフとバフを掛けたのでそこそこなダメージが入ったな。
「ギギギギガガガ!!」
「! ついに動いたわ! 『挑発』!」
するとついに〈マグメタ〉が動き出す。
体に巻きつくようにくっついていた4本の腕を解き、その正体を現したのだ。
シエラの目の前にはシエラより大きなカメラのような目が映る。
「来る! 『鉄壁』!」
「ギギギギガガガ!!」
シエラがすぐに防御スキルで身を守った。〈マグメタ〉がそれに返礼するかのように腕を挙げて反応。これからボス様が動き出すぞという雰囲気を放つ。しかし、
「腕より本体を狙え! こっちの方がダメージでかいぞ! 俺は目を狙う! 『ソニックソード』! 『ハヤブサストライク』! 『ライトニングバニッシュ』だ!」
「は、はい! 『プレシャススラスト』! 『トリプルシュート』! 『ロングスラスト』!」
「ん! 『32スターストーム』! 『デルタストリーム』! 『スターブーストトルネード』!」
「ギギギギガガガ!?!?」
「出たわねボス! 食らいなさーい『光の柱』! 『聖光の宝樹』!」
「やれやれ! どんどん殴れ!」
俺たちは構わず攻撃。俺なんて『ソニックソード』でシエラの真横に割り込んで、正面にも関わらず目をめがけて攻撃を叩き込みまくった。
エステルとカルアも攻撃一辺倒。
ボスが反撃するみたいな雰囲気出していたが、俺たちは関係無いとばかりに総攻撃。
見る見るHPが減ってく〈マグメタ〉。そして、腕を振り上げた体勢のまま――横にズシンと倒れた。起き上がれない。
「ギギギガガガガガ!?!?!?」
「よっしゃダウンしたぞ! このままボコれ、ボコりまくるんだ! エステルは『姫騎士覚醒』だ! 『太陽の輝き』! 『陽光剣現』! からの―――『サンブレード』!」
俺の『ライトニングバニッシュ』がクリティカルを決めダウンを奪ったのだ。弱点を攻撃していると若干起こりやすくなる現象。狙ってたぜ! このチャンスは逃さないとさらにボコれ指示を出す。
「は、はい! 『姫騎士覚醒』!」
「ん!」
「ええ?」
「ほらシエラも攻撃だ!」
「わ、分かったわ。『シールドバッシュ』!」
「『光の刃』! クールタイムが辛いわ! 『生命の雨』!」
困惑のシエラも急かし、ダウンした〈マグメタ〉に容赦なくダメージを与えていく。
〈マグメタ〉はチャンスを逃すと空中に逃げてしまうためボコれるうちにボコるのが俺流。多少相手が抵抗しようと相打ち覚悟で攻めるときに攻める。それが〈マグメタ〉の戦い方だと思っている。まあ、このやり方が通じるのはこのメンバーだからだが。
あと目を狙うとクリティカルが若干出やすいのもポイント。ボスの攻撃を受けやすい正面に勇気を持って立ち、相手の攻撃に吹き飛ばされるまで攻撃しまくる。なかなかロマンとスリルを味わえるぜ?
「だらっしゃー!」
「!?!?!? ギギギガガガガ!!」
「うおおっと!」
「キャ!」
「にゃあ!?」
「浮き上がったわ!」
「上に逃げる気! ちょっと卑怯よ! 降りてきなさい!」
「むう、今回はここまでか」
ダウンしていた〈マグメタ〉がようやく復帰。
俺たちに反撃することもせず上空へ逃げていった。
ふはは! 勝ったな!
エステルにも『姫騎士覚醒』を使わせたし、こりゃ初っぱなから相当なダメージが入ったな。
見れば〈マグメタ〉の1本目のHPバーがすでになく、2本目のHPバーに突入していた。ヤバいぜ。
戦闘開始1分くらいで全体の3分の1を削っちまったな。
「ギギギガガガガ!」
「おっと変形か!」
悲報、〈マグメタ〉第一形態が飛ぶ。
〈マグメタ〉はメタモルの名の通り、体が変わるんだ。HPバーが1本喪失するごとに第三形態まで変身する。
だが、第一形態ではほとんど活躍無く第二形態に移行してしまったようだ。
うむ。〈マグメタ〉戦ではよくある事だな!




