#930 ついに〈岩ダン〉最奥に到着! 悩ましい料理!
「この調子でどんどん行くぞー!!」
「「おおー!」」
「「おおー」」
テンション上がりまくりの俺、ラナ、カルアといつもの調子を崩さないシエラとエステル。
しかし俺には見えている。シエラの頬が赤くなっているのが! シエラも良い盾がドロップして気分が高揚している。分かる、分かるぜ。
良い装備当たったらテンション上がるよな! レシピだけど!
「エステル、〈イブキ〉を出してくれ!」
「はい! 〈イブキ〉召喚!」
〈空間収納鞄〉から出され、白く美しいその姿を見せる〈イブキ〉に全員が乗りこんで行く。
時間を短縮するために最初から上り下りする階段のフォームに変形しておいたのでそのまま乗車だ。階段も戻して準備完了。
「よし、全員乗り込んだな! エステル、発進だ!」
「あ! ゼフィルス、それ私のセリフ!?」
「〈イブキ〉発進します!」
ふっふっふ、俺も言ってみたかったんだ。ラナ許せ。
エステルは一度〈イブキ〉を変形させ、乗車フォームから通常フォームに変形すると、そのまま階層門へと突入した。
そこからの旅もすこぶる順調だった。
ここのゴーレムは自然物型から機械仕掛け、多脚に浮遊に人型に人形など形も種類も様々だ。たまに浮遊して〈イブキ〉の前に立ちはだかるゴーレムまでいる。まあ、その後衝突して木っ端微塵になるんだが。
相変わらずエリアボスを見つけたら途中停車して戦闘し、守護型ボスを相手にすれば必ずぶっ倒した。
おかげでとうとう全員のLVも26に上がり、五段階目ツリーが見えてきた。
ハンナも今ある素材を卸せばLV30まで行くに違いないので、最初に五段階目ツリーにたどり着くのはこの6人だな。
実はこの世界、どうも上級職LV30に届いている人が皆無らしいのでこれは世界的に見てもとんでもないことらしい。
LVが26に上がった時のシエラ、ラナ、エステルの高揚は凄かったからな。
LV26といえば、それだけでもこの世界の最高峰を越えたようだ。王族と貴族組としてはこれは色々と大事なことなのだろう。
ちなみにカルアはきょとんとしながら混ざりに行ってた。可愛い。
そして道中はテンションが高まりまくってちょっとおせおせ気味のラナたちによってボスは面白いように倒されてしまったよ。
フィールドボス最強、徘徊型ボスとも遭遇したのだが。
あの大地そのものみたいな〈アーシーゴーレム〉を普通にボコってたからな。やべぇ。
ちなみに〈銀箱〉だった。無念。
55層、最後の守護型ボス、35層の〈ササザン〉の親分でもある〈最終防衛機械・ムテキン〉もラナの大活躍で無事撃破。
あの筋肉機械、HPと攻撃力と防御力の化け物は魔法の攻撃に弱いからな。
とはいえその代わり防御力がとんでもなく硬いためデバフとバフで火力を上げないとエステルの攻撃すらまともなダメージにならないという厄介なボスだ。
撃破すること自体は出来たが、時間は結構取られてしまったな。
しかしこれで全員のLVが27に上がった。
その勢いのまま〈イブキ〉は走り続け、とうとう最後の巨石を落っことした。
最奥への階層門は、ちょっとだけ豪華に見えた気がする。気のせいかな?
「やっと到着したわね、ダンジョンの最奥!」
「ついにここまで来たぜ!」
「ん!」
「はあ……本当に2日で最奥まで来てしまったわ」
「ふふ、みなさん嬉しそうですね」
ラナ、俺、カルアが拳を挙げてシャウトする。
シエラはちょっと困ったような顔でエステルは運転しながら笑っていた。
夕方4時。
俺たちは最奥のボスがいる60層までたどり着いたのだ。
ふっふっふ、〈浮遊戦車イブキ〉の走行力と道を完璧に知り尽くしている俺が組めば最奥2日とか軽い軽い。ふはは!
さすがは浮遊する〈馬車〉だ。もうね、最強ですよ。やっぱり〈馬車〉があるとダンジョン攻略が進むな!
最奥はこれまで通り救済場所とボス部屋のみだ。
ここのボス部屋は黒く光っている金属の箱みたいな雰囲気。ちょっと圧迫感あるぜ。
「エステル、そこの広間に降ろしてくれ!」
「はい!」
救済場所のちょっとした広間に〈イブキ〉を降ろして下車。
このままボス部屋に突入か? と思うかもしれないがその前にやるべき事がある。
「さて、時間はあるな」
「挑む前に何か食べる?」
「いつも通り、デザート系であれば良いのではないかしら?」
「では、軽いものでお腹にたまりづらいものを用意しますね。飲み物系も良いかもしれません」
「ん。カレー希望」
「いや、カルア、カレーは飲み物じゃないぞ?」
「?」
最奥で周回するときは何かしらの料理アイテムを食べてバフを掛け、早めに倒して周回回数を上げるのが常道。〈クジャ〉戦でもそれを体現していた俺たちだ。
授業があるときは放課後にしか来られないのでそんな重い料理は食べられるはずも無く、俺たちは主にデザート系か飲み物系を食べてバフを掛けていた。
特に飲み物系はセレスタンやシズが作製できる上、お腹にたまりづらいことが判明したのでとても重宝している。本気で『ティー作製』のスキルLVを上げるか、最近の悩みだ。
ティー系は効果が低い代わりに摂取しやすい。まさかのリアル効果にビックリである。
なるほどティー系にはそんな利点があったんだな。ゲームではあまり役に立たなかったのに!
あとカルア、カレーは飲み物じゃない。ないんだ。
「今回初めての最奥ボスだし、できればがっつり食べたいところではあるんだが、この時間じゃな。いつも通りお腹にたまらなくてなるべく効果が高いやつを選ぼうか」
「はい。そうなると〈トロピカルジュース〉や〈杏仁豆腐〉、〈午後のティー〉などがいいかもしれませんね」
「だがやっぱり上昇値が低いな。〈上級転職チケット〉が飽和したらミリアス先輩に渡すのは有りかもしれない。もしくは『上級ティー作製』を伸ばしている【ヴィクトリアンメイド長】や【最上のセバスチャン】を確保するか……もしくは育てるか……」
まさか『上級ティー作製』技能が欲しくなる日が来ようとは思いもしなかった俺氏。
エステルが出した〈トロピカルジュース〉は全ステータス3%上昇だし、〈杏仁豆腐〉はRESを10%上昇させるだけだ。〈午後のティー〉だと攻撃力と防御力が6%ずつ上昇する。前配ったガッツリ系との雲泥の差につい上級職の料理アイテムが欲しくなってしまう。
まあ、仕方ない。
今はこれだけでもありがたいのだ。
俺はエステルから〈トロピカルジュース〉を受け取って飲み干す。
これ、軽く500ccくらいあるからちょっと侮れない。まあ運動しているから悪くは無いんだが、女子だとこれでもキツいかもしれないからな。
ティーだとカップ1杯なので150ccくらい。リアル料理アイテムとしてこれは非常に優秀だ。やっぱりメイドをもう1人増やすか?
俺の脳裏に【メイド】に就いていて〈エデン〉の店番をしてくれているセラミロさんの姿が過ぎる。
学園から派遣してもらっている彼女を勝手に〈上級転職〉させたら怒られるかな? いや、学生以外のキャラを使っちゃダメだよな。やっぱりセレスタンに頼むべきか。
だがあそこまで育てたセレスタンを今からDEX系の【最上のセバスチャン】にするのは勿体ない。セレスタンには是非アレに就いて欲しいが、『上級ティー作製』は捨てがたい。そうなると問題はSTRとDEXの兼ね合いだな。
むむむ、悩ましいな。後でセレスタンに相談させてもらおう。
しかし、ジュースが美味い。
「ん~。やっぱり料理アイテムって美味しいわ。毎日でも食べたくなっちゃうもの」
「気持ちは分かるわラナ殿下。でも毎日はちょっと、舌が肥えすぎてしまうわね」
「学食が味気ないものに感じるのは嫌ですからね。何事もほどほどが一番です」
「カレーじゃ無い?」
料理アイテムは普通の料理より美味しい。だが食べ過ぎるとほんと舌が肥えそうになって怖いんだよな。前に聞いた、料理アイテムを食べ過ぎて生活に支障をきたしてしまった貴族の子息さんの話が過ぎる。ほどほどが一番だ。
だからカルアもジュースでも飲んでなさい。これが本当の飲み物です。
一息休憩を入れて落ち着くと、俺たちは立ち上がる。
「さて、そろそろ休憩も終わり、ボス周回の時間だ。みんな準備は良いな? 俺たちはこれでLV30に上がるぞ!」
「「「「おおー!」」」」
準備は完了した。
お待ちかね。ボス周回を始めよう。
え? その前にボスの撃破が先だって?
いや、ボス周回で合ってる。合ってるんだ!




