#929 〈金箱〉回!宝箱が選んだ!開けるのはシエラ!
「今日も幸先がいいぞ!」
「〈金箱〉よ!」
「ん!」
いつも楽しみなこの瞬間。
〈金箱〉ドロップのお時間です!!!!
しかし今回、全員での総攻撃中だったため宝箱がドロップしたのはシエラの目の前だった。
「「「あ!」」」
「…………私?」
慌てて駆け寄ろうとしたラナ、〈金箱〉に飛びかかろうとした俺、そして無音で宝箱に近づこうとしたカルアの足がピタリと止まる。
シエラも反応に困った様子だ。だが、俺たちは察した。それなりの宝箱歴を誇る俺たちには分かってしまったのだ。
「ああ~、今回はシエラなのね」
「マジか。〈金箱〉よ、シエラを選んだか」
「残念」
何とビックリ、いつもは出現した〈金箱〉に飛びつく俺たちだが、今回は〈金箱〉がシエラを選んだ!? たまにある現象だ。
以前俺の目の前にドロップした時バンザイしているうちに横から取られたことがあったが、そりゃ無いぜ~と今後は誰かの目の前にドロップした現象の時は横から取らず、おとなしくその人に譲ろうと協定を結んでいたのだ。ということでこの〈金箱〉はシエラのものだ。
ラナも俺もカルアも敗北を認め、残念の表情だ。
「もう3人ともそんな顔しないの。反応に困るじゃない」
「むう、最近宝箱を開けすぎたからかしら?」
「ん。そうかもしれない」
「シエラはあまり宝箱を開けたがらないからな。きっと〈金箱〉の方から開けろと催促したんだろう」
シエラが反応に困る傍らで俺たち3人は納得の表情になった。
つまりは俺たちがあんまり宝箱を開けるものだから宝箱のほうからシエラに行ったのだろう。この分なら次はエステルの前に出るかもしれないな。
「おかしいわね。3人の考えていることが良く分からないわ」
「宝箱も開ける人を選ぶのですね」
「ちょっと待って。エステルもそっち側なの?」
シエラが困惑していたが俺たちには分かるのだ。この〈金箱〉はシエラに開けられたがっている!
「ちょっと反省」
「そうね。――シエラ、エステル! 今度からはもうちょっと積極的に宝箱開けに参加しなさい! 遠慮なんかしちゃだめよ!」
「承知いたしましたラナ様」
「なんだか釈然としないわ」
うむ、以前は積極的にシエラやエステルに宝箱を開けてもらっていたが、最近は大体俺かラナかカルアが開けていた。暴走していたとも言う。シエラとエステルはたまにだ。そういえば、〈岩ダン〉に入ってまだシエラとエステルは宝箱を開けていなかったかもしれない。
なるほど、それでか~。と俺は納得した。今後はローテーションに戻るべきだな。〈幸猫様〉たちもきっとそう言っているに違いない。
「なんでこの人たちは宝箱のことになると、こう、なんて言うのかしら? 話に付いていけなくなるのよね」
「そんなこと気にするなシエラ! 宝箱はいつだってそこにある! 俺たちはしっかりみんなが揉めないよう、ローテーションして開ける人を決めれば良いんだ。ということで、シエラ。〈金箱〉を開けてみよう!」
「…………」
こめかみを指で押さえて難しい顔をするシエラだったが、とりあえず何をすべきかは理解したのだろう。仕方ないわというような仕草で「わかったわ」と言って盾とメイスを腰のポーチ型〈空間収納鞄〉に仕舞い、〈金箱〉の前にしゃがみこむ。
「シエラ、これはきっとシエラに必要な物が入っているのよ! 私には分かるわ!」
「俺にも分かる! 宝箱の方からシエラに寄っていったんだ、きっとシエラにぴったりの装備のはずだ!」
「ん。でもお祈りは必要」
「私も一緒にお祈りしますねシエラ殿」
「宝箱って本当に人を変えるわよね」
再びこめかみを指で押さえる仕草をするシエラだったが、それもすぐに止め、お祈りに入った。
いくらシエラ寄りの何かが入っていると確定していても良い物が出るかはお祈り次第。
みんなで〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお祈りするんだ! 祈っただけ素晴らしいものが出るのだと思え!(暴走)
「…………〈幸猫様〉、〈仔猫様〉どうか良いものをお願いします」
「「「お願いします〈幸猫様〉〈仔猫様〉!」」」
シエラに続いてお祈りを捧げた。これで良いのが当たるはずだ。
シエラはゆっくりと宝箱の両側に手を置き、そのままパカリと開ける。
その中身は。
「これは、レシピね」
「〈金箱〉級のレシピ来たーー!!」
〈金箱〉級レシピって最高だ! もうむちゃくちゃ最高だ!
いつ当たっても嬉しい。それが〈金箱〉級レシピ!
夢がいっぱいだ!
「エステル!」
「はい、ラナ様。〈幼若竜〉の準備は出来ております。『解読』!」
いつの間にかエステルが〈幼若竜〉を抱えてスタンバイしていた。さすがだ。
ラナの指示でエステルが〈幼若竜〉を使用。『解読』スキルの発動により、レシピに書かれていたミミズがのたくっているような文字が動き、日本語に変化して読めるようになる。
「出たわ。これは――〈強合金の盾〉レシピ?」
「ああっと、そっちか!?」
「ゼフィルス? これが何か知っているの?」
「……勇者だからな!」
「…………」
危ない危ない!
あまりの装備名にうっかりツッコんじまったぜ。
なんとかいつものセリフで乗り切った。セーフ。
シエラがジト目になったが、上がったテンションがさらに上がるだけだ。ひゃっほー! いかん、少し冷静にならなくては。
「こほん。とりあえず能力値を見てみな。〈金箱〉産の装備にしてはおかしな部分があるだろう?」
「……分類は小盾? でも数値がすごく高いわね。え? 〈白牙のカイトシールド〉よりも高いわよ?」
シエラが驚くようにそのレシピに書かれた数値を読む。
そう、この〈強合金の盾〉のすごいところはその数値。
盾の中では最も能力値が低い小盾という種類にも関わらず、その数値は大盾どころか両手盾に迫るほどなんだ。
〈白牙のカイトシールド〉といえば今シエラが使っている〈ドラゴンカイト〉の前に使っていた大盾だ。上級下位ダンジョンランク1のボス〈クジャ〉と戦える装備を超える数値と言えば〈強合金の盾〉がどれほどやばいか分かるだろう。
とはいえもちろん欠点はある。
「あ、でもスキル数がゼロなのね?」
「そこがこの小盾の特徴だな」
そう。もうお察しかもしれないが〈強合金の盾〉は能力値特化盾だ。つまりスキルが無い真っ白な代わりに、その能力値がとんでもなく高い盾なんだ。
装備類では必ず一つはスキルがあるのが普通な〈金箱〉産のバニラだ。その数値はとんでもないことになると予想出来るだろう。能力値だけで見れば同じ等級でこれを超える小盾は無い。
正直、下手な盾を装備するよりよっぽど使えるので少なくない人が〈強合金の盾〉を重宝していたよ。
さらには使える理由がもう一つある。
「これはシエラの自在盾にピッタシな盾じゃないか?」
「そうね、今装備している〈白雪の盾〉や〈月の盾〉より数値が圧倒的に高いわ」
シエラのユニークスキル、『多くを守りし四聖の自在盾LV10』は左手装備の他に別枠で四つの小盾を装備することが出来るが、その代わり装備した小盾はスキルを使うことが出来ず、反映される能力値も半分になるというデメリットがある。
しかし、スキルが使えなくても問題は無い。むしろ〈強合金の盾〉のようなバニラの盾は能力値特化なのでそういう盾を装備すれば良いのだ。
ちなみに今シエラが装備しているのが魔防力特化型のバニラ、〈白雪の盾〉と防御力特化型のバニラ〈月の盾〉だ。
これを二つずつバランスよく装備している。ボスを相手にする場合、相手が魔法を多用するボスなら〈白雪の盾〉を四つ装備し、攻撃力特化ボスだったら〈月の盾〉を四つ装備するなど使い分け、対策を練ることが可能なため非常に優秀なユニークスキルである。
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・防具 〈白雪の盾〉(小盾)
〈防御力4、魔防力56〉
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・防具 〈月の盾〉(小盾)
〈防御力60〉
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・防具 〈強合金の盾〉(小盾)
〈防御力70、魔防力62〉
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しかしだ。見て分かる通りこの〈強合金の盾〉は魔防力では〈白雪の盾〉を、防御力では〈月の盾〉を越える化け物盾なのだ。まあ〈白雪の盾〉と〈月の盾〉が〈銀箱〉産というのもあるのだが。
そのためわざわざボス毎に装備を換装する手間を省くことができるのも魅力の一つだったな。
ということで帰ったら早速アルルに四つ作ってもらい換装しようと思う。
これでシエラはまたパワーアップだ!
……と思ったが、そういえばBランクギルドには鍛冶工房が無かったな。
〈青空と女神〉に場所だけ借りることとかできるかな?




