#928 ショートカット転移35層守護型〈ササザン〉戦。
〈妖怪:後一個足りない〉の逆襲にあったがなんとか必要枚数の〈上級転職チケット〉をゲットして、Aランク戦出場者を全て上級職で揃える事に成功した。
〈拠点落とし〉まで後2日。なんとか25人の戦闘職が揃った。
しかし、練習している時間はあまり無い。
エリサには悪いがダンジョンを攻略しながら職業に慣れていってもらうしかないな。簡単なスキル回しのメモを渡しておき、エリサとフィナと別れた。
「じゃあねご主人様~、エリサちゃんの活躍、楽しみにしていてね~!」
「行ってきます教官。姉さまは私が責任持ってモンスターの前に差し出し、スパルタで育てますのでご安心ください」
「フィナちゃんはもうちょっとお姉ちゃんを大事にして!?」
「ほどほどにな~」
今のはフィナのジョークだと思うが、エリサには時間の無い中、なんとか頑張ってほしい。
とはいえ無理してもいい結果にはならない。ほどほどくらいがちょうどいいよと見送った。
俺はその足で〈上下ダン〉へと向かう。
「あ! ゼフィルスが来たわ!」
「思ったより早かったわね。もう少し時間が掛かるかと思っていたわ」
「フィナがちゃちゃっと進めてくれてな」
ラナがこっちよと手を振ってくるのに振り返しながら合流。
ちょうどシエラがパーティの受付から帰ってきたところらしく、俺を見てきょとんとしながら感想を言ってきたので先ほどのことを話した。
「そうなのね。フィナリナグッジョブよ」
「フィナリナはいい仕事をしたわね。後で褒めておくことにしましょう」
ラナとシエラが何か小声で話していたが、よく聞き取れない。
まあ雰囲気からして普通の雑談か何かだろう。
さて、切り替えてもらうぞ。
今日はランク6の最奥ボスへ挑戦する日だ!
「それでは行きましょう」
「ん、出発」
「あれ、俺はケルばあさんのところに行かなくていいのか?」
「ゼフィルスは死にそうに無いからそのまま行っていいそうよ」
「確かに、ゼフィルスは上級ダンジョンでも余裕で生き抜いちゃいそうよね」
エステルとカルアが何事も無くそう言ったのでおやっと確認すると、シエラとラナからそんなことを言われた。
上級ダンジョンに入ダンする際、ケルばあさんに死相が出て無いかチェックされることが〈上下ダン〉のルールになっているが、どうやら俺は顔パス認定を受けたらしい。それでいいの? いいらしい。受付にいるケルばあさんに手を振っておいた。優しい顔で振り返された。それじゃあ、行ってきます。
エステル、カルア、シエラ、ラナに促され、そのまま〈岩ダン〉へと入ダンしたのだった。
「ショートカット転移陣を使うのってなんだか久しぶりね!」
「そうですねラナ様。〈クジャ〉を周回していた時は〈転移水晶〉で直行でしたから」
〈岩ダン〉の門から入ると、そのまま門の後ろ側に回りショートカット転移陣の一つへと乗る。
前回は35層の転移陣から帰ってきたので今日はそのままショートカット転移陣を使い35層へと向かった。
〈転移水晶〉は使わない。これにはちゃんと理由がある。
エステルが言うように〈転移水晶〉は〈クジャ〉の周回に使っていた。
毎回〈嵐ダン〉の最奥に直行していたわけだな。しかし、〈転移水晶〉が直行できるのは「同じパーティがダンジョンで前回使用した座標」だ。つまりこのパーティで〈岩ダン〉で使ってしまうと、せっかく〈嵐ダン〉の最奥に登録してある〈転移水晶〉の座標が上書きされてしまうのだ。
まあ、正直なところ今日〈岩ダン〉の最奥に着いたら上書きするつもりではあるので早いか遅いかの違いしかないのだが、なんだか上書きするのがなんとなく勿体無いのでショートカット転移陣を使った。そういうこともある。あとアイテム使うの勿体ないのもある。勿体ないものだらけだ。
「んじゃみんな、はぐれないようにな」
「ん、一緒。転移」
声を掛けてみんな一緒に転移陣に乗る。
別にバラバラでも転移は出来るが、この先にはフィールドボスがいるからな。
まだ来ない仲間をハラハラしながら待つのは負担になるため俺たちは毎回一緒に転移することにしていた。
さて、やってきました〈岩ダン〉35層。
1日経ったがちゃんと浮遊していた巨石は墜落していて36層への階層門があり、ショートカット転移陣はその近くに設置されていた。
そして階層門を挟んだ反対側には昨日倒した35層フィールドボス、機械仕掛けの浮遊機体〈浮遊型警備用ゴーレム機・ササザン〉がまるで警備をするように見回っていた。
見た目はどっかのゲームとかアニメに出てきそうなモ○ルアーマーのような機体。足の無い人型で浮遊しており、背中に3本のアームが生えている。
前面にはいくつかの歯車が露出していてギギギといいながら回っている機械仕掛けの……ゴーレム。あまりゴーレムっぽくない。
敵を見つけたらその火力で撃ち抜き迎撃する警備用のゴーレムの一種だ。大きさは2メートルほど。なんで警備用なのに巨石に埋まってたのかは不明だ。多分、階層門を警備していたら一緒に呑まれたんだろう。
さて、前に一度倒したことがあるので今回も挑むんだぜ。
「今回は何を落とすかしら?」
「ん。〈金箱〉希望」
「こらこら2人とも、それは倒した後だ。まずはボスを倒さないとな。ウォーミングアップがてら」
すでに倒した後のことを考えているラナとカルアに諫めながら、俺はおいっちにーさんしーと腕を伸ばして柔軟する。ボス周回前のウォーミングアップだぜ。
全員の準備が出来たところでボス戦へと突入する。
「シエラ、今回も頼むぜ、例のキロロに気をつけろ。いけるならカウンター決めてやってくれ」
「任せて。『オーラポイント』! 『シールドフォース』!」
俺の指示にシエラがまずヘイトを稼ぐ。
すると〈ササザン〉がすぐにこっちへ向いた。そしてパトカーみたいなサイレンを鳴らす。
「ギギギギ!! ウーンウーン!」
こいつは警備用なので敵を発見すると警報を発するのだ。
しかし残念かな、警報が鳴っても誰も来ないんだ。これ仲間を呼ぶスキルじゃないから。
「それじゃ、バフ行くわ! 『守護の大加護』! 『獅子の大加護』! 『耐魔の大加護』! 『迅速の大加護』!」
「ウーンウーン! ギギギギ!」
ようやく誰も来ない警報をやめた〈ササザン〉が胸っぽい位置にある小型の砲をシエラに向けると。ドンッという音と共に撃ってきた。しかし、
「懐に潜り込むわ、ゼフィルス!」
「おう、全員散開! シエラが隙を作ってくれるからいつも通り行け!」
砲の弾はそれほどスピードが無いので避けられる。シエラも二回目なので余裕を持って避け、そのまま前に出た。
それに続き、俺がシエラの後を追い、カルアとエステルが左右に分かれて迫る。
砲をドンドン撃ち続けていた〈ササザン〉だったが、シエラが回避、または盾で受け流しながら接近してきたため、遠距離攻撃から近距離攻撃に行動を変更した。
「ギギギ!」
「『キロロブレード』だ!」
〈ササザン〉の背中から伸びた3本の腕のようなものが剣を持ち、それをシエラへと突き刺そうとする。
「『城塞盾』!」
しかし、シエラはそれを冷静に受け止め、〈ササザン〉の動きを止めた。攻撃のチャンス!
「だらっしゃぁぁ! 『勇者の剣』! 『ライトニングバニッシュ』だ!」
「『騎槍突撃』! 『閃光一閃突き』!」
「ん! 『フォースソニック』! 『デルタストリーム』!」
阿吽の呼吸で俺たちの攻撃が〈ササザン〉に入りそこそこなダメージを与えた。
しかし、反撃を食らったことで警戒を強めた〈ササザン〉はここで大技に出る。
ゲーム〈ダン活〉時代も初撃を与えたとき確定で使ってくるスキルで、背中から生える腕が枝分かれして剣を計9本持ち、そのまま回転して攻撃してくる『デス扇風キロロ』だ。
回転すればするほど腕がなぜか伸びていき攻撃範囲が広がってく大技だ。まるで扇風機。巻き込まれたら大ダメージを負ってしまう。
しかし、これには明確な弱点が存在する。
「ギギギ!!」
「来るぞ! シエラ!」
「任せなさい! ここよ! ――『カウンターバースト』!」
「ギギギギ!?!?」
それが防御勝ち、もしくは反射やカウンターなど、要は防御スキルやカウンターなどで回転を弾くと、弾かれた剣がなぜか絡まり、〈ササザン〉を縛り上げてダウンさせてしまうのだ。
伸びた腕で全身が絡まった哀れな〈ササザン〉は疑問符を浮かべながらなすすべなくダウンした。
「ナイスシエラ! ――総攻撃!」
「「「「おおー!!」」」」
そこに俺たちが躍りかかり総攻撃。いいダメージが入ったぜ!
「ギギギギ!」「ドドドドドドドドドン!!」
何とか絡まった腕を解き復帰した〈ササザン〉。
その後は体中から飛び出た砲を撃ちまくりながら長い腕をじゃんじゃん振り回して攻撃してきた。これが手数が多い上に避けにくく、みんなかなりヒットしてしまう。だが問題は無い。俺たちにはラナがいる。
「継続掛けるわね! 『天域の雨』!」
ラナの継続回復は最強。
二重の継続回復が付与されると細かい攻撃は気にもしなくなる。
多少のダメージなんて気付いたら回復しているからだ。
また大技で攻撃しようとすればシエラの『カウンターバースト』が炸裂し体に絡まるのでやりたい放題。
「ギギギギ! ギギギッ!!」
最後怒りモードになって変形し、九つの腕を生やして足にした多脚型になって高速移動し始め、大砲で撃ってくるという移動砲台になった。
これまでの格闘戦とは真逆の遠距離戦を行なってくるので、割と対応力のあるメンバーが求められるボスなんだ。しかし、俺たちを舐めてもらっては困るぜ。
「スリップ狙うぞ! カルア! エステル!」
「ん! 『64フォース』! 『スターブーストトルネード』! 『スターバースト・レインエッジ』!」
「はい! 『戦槍乱舞』! 『騎槍突撃』! 『閃光一閃突き』!」
「『属性剣・雷』! 『ハヤブサストライク』! 『聖剣』! 行かせるか! 『ソニックソード』!」
そこはスリップダウン狙い。
足が無い浮遊状態はスリップダウンが狙えないが、足があればこっちのものよ。移動する〈ササザン〉を追いかけながら片側三つの足に集中的に攻撃を加えると、〈ササザン〉が体勢を崩しダウンした。
AGIが高いこのパーティだからこそ出来る戦法だ。
「ギギギ!?!?」
「おっしゃースリップダウン来たーー! 総攻撃だーー!!」
これは前回、というか昨日もあったフィニッシュパターンだ。
「ギギギーーー!?」
なぜか「そんなーもう終わり!?」という声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。総攻撃が炸裂し、2度目の〈ササザン〉もHPがゼロになってエフェクトの海に沈んで消えてしまう。
そして残ったのは―――金色に光る〈金箱〉だった!




