#924 守護型〈琥珀ゴーレム〉はお宝では無い注意せよ
――ランク6〈浮遊の巨石ダンジョン〉は特殊なダンジョンだ。
今までのように階層門が地面に設置されているのではなく、浮遊する岩に呑まれているわけだからな。とんだギミックである。
とはいえこのギミックがあるのは最初だけだ。岩を墜落させて階層門を出現させたらそのまんま。
再び階層門が岩に呑み込まれるということはしばらくの間無い。
ゲームでは1年くらいで元通りに戻っていたが、リアルでは戻るのだろうか?
もし戻らなかったらこのダンジョンの2層以降を探索するのって俺たちが初めてってことになっちゃうんだよな多分。つまりこれまで攻略されたことの無いダンジョンの情報を知っていたということでもある。
シエラのジト目が止まりません!
「シエラ? ど、どうしたんだそんな目で見つめて」
「……別に」
「何か言いたいことでもあるのか?」
「言ってほしいの?」
「あ、大丈夫です」
ふう、セーフ。(セーフ?)
とりあえずシエラにはそのままジト目でいてもらおう。
その方が俺も力が出るからな!
「ゼフィルス殿、次の目標はどちらにしましょう?」
「ん~、この〈磁気岩発見器〉と俺の『直感』によれば、あっちにある巨石が怪しいな! エステル、進路を2時の方角へ!」
「了解しました!」
「…………」
攻略は順調だ! すこぶる順調だ! シエラのジト目も絶好調だ!
おかげで今日も俺の『直感』が冴え渡っているんだぜ。うん!
そんな俺の冴え渡る『直感』に導かれ、なぜか一度もハズレを引かずに階層門が隠れている巨石を落としまくり、俺たちは順調に進んでいった。
ずっと移動だけというのも体が鈍るので途中のゴーレムを多少狩って気晴らしを挟んだり、隠し扉のある岩に寄り道したりしながら進む。
とはいえ通常モンスターではもう俺たちのレベルは上がらない所まで来ているのでなるべく移動を優先し、最奥のボスへと直行したい考えだ。
計画としてはこのまま〈イブキ〉を走らせ、明日中には最下層へと到着。
明後日にはボス周回しまくり五段階目ツリーを開放したい考えだ。
そして3日後にはAランク戦、〈拠点落とし〉が開始される、レベル上げも間に合う予定だ。
「ゼフィルス殿、ボスを発見しました!」
「よっし狩るぞーー!」
「「「「おおー!!」」」」
なお、途中でエリアボスを発見したらこれも寄り道して狩ります。
素材と宝箱をゲットだぜ!
さらに5層、10層などの階層門を守護する守護型フィールドボスだが、これも当然狩っていく。
ここの守護型は凄いぞ。
階層門の埋まっている巨石を落とすと、階層門とセットで一緒に登場するのだ。
5層では、落ちてきた巨石の中から飴色に輝くテカッテカの〈琥珀ゴーレム〉が登場した。
手足は無く宙に浮き、ゴーレムというより殺戮マシーンクリスタルというか、ラノベでよくあるダンジョンコアというか、そんな感じの見た目のモンスターだ。
どっち向いているか分かりづらい上、ビームとレーザーと極太ビームを放ってくる強敵だな。
ゲーム〈ダン活〉時代、BGMを切っているとこれがボスだと分からず無防備に近づき「お宝かな~ぎゃああああ!?」とやられるプレイヤーが続出した初見殺しボスだった。
「わ! 何これ! お宝かしら!」
「ん! 綺麗」
「ちょーっと待てラナ、カルア、あれは危険だ!」
危ない。ここでも引っかかりそうな、というか引っかかった人物が2名。
過去の俺と同じ事を繰り返そうとしたラナとカルアの肩を掴んで止める。
すると同時に〈琥珀ゴーレム〉が輝きだした。瞬間、カルアの耳がピコンと立つ。おそらく『直感』が警報を鳴らしたに違いない。
そしてあれは、極太ビームを撃つ予備動作!?
俺はすぐにラナとカルアを庇うように前へ出て盾を取りだし構えた。
「『ディフェンス』!」
「―――――!」
「きゃあ!?」
「んんーー!?」
「だらっしゃー! こいつは敵だ! 全員戦闘開始! シエラは前へ!」
「! 分かったわ! 『挑発』!」
こいつは守護型ボスなのでまずパーソナルスペースへ進入してきた相手に最初ランダムで攻撃する。
まず範囲内にいたラナとカルアと俺が狙われた、俺は知っていたので防御スキルでビームを防ぎ、全員に指示を出す。
「これボスだったの!?」
「お宝じゃ、無い!?」
驚愕するラナとショックを受けるカルア。
しかし、一瞬後には2人とも戦闘の構えをしていた。
「そんな綺麗な見た目してボスなんて、酷いじゃない! 『大聖光の四宝剣』!」
「ん! とっても怒! ―――『64フォース』!」
騙された2人が燃えているな。
「『四聖操盾』! 『オーラポイント』! 『シールドフォース』!」
よし、俺も攻撃解禁だ!
「まずは先制の『勇者の剣』!」
「――――!」
「続きます! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』!」
いきなりの戦闘開始でちょっと手間取ることもあったがすぐにいつもの俺たちのリズムになる。
シエラがヘイトを稼いで自在盾を操って防ぎ、俺たちが攻撃する。いきなり大技をぶっ放したラナもその後は支援回復でサポートしてくれた。
こうなればたかだか5層のボスにはやられはしない。
「ビーム来るぞ!」
「『マテリアルシールド』!」
〈琥珀ゴーレム〉の中心が光り、ビームを放つが狙いはシエラなので余裕で防御だ。
〈琥珀ゴーレム〉は魔攻特化型でほとんど単体攻撃しかしない。たまにビームのなぎ払いだけ注意。
後は単純に火力が高く、上手く防御や回復をしないとタンクが吹っ飛ぶのでそこだけ気をつければ楽なボスだな。
シエラがじゃんじゃんビームを防御していき。その間に俺たちが攻撃していった。
しかし、中には強力な極太ビームもあって、
「――――!」
「う、この大きなビーム攻撃、防御スキルを使わずに盾で受けると300も食らってしまうのね。強敵だわ」
シエラが〈琥珀ゴーレム〉の攻撃を通常の盾で受けてそう言った。
現在のシエラはパッシブスキル『受盾技』に加えラナの『耐魔の大加護』によりバフを得ているのにこのダメージだ。
シエラのHPは1200を越えているのにHPの4分の1を吹き飛ばす威力である。俺が油断出来ないと言った意味も分かるだろう。さすがは初見殺しボスだ。
とはいえ今のは相手の実力を知るためにシエラが敢えて受けただけだ。
それに極太ビームは必殺技みたいなものなのでクールタイムも長い。問題は無い。
〈琥珀ゴーレム〉もほぼ単体攻撃しかしてこないのでアタッカーは好き放題攻撃出来るのは楽なところ。
「ガンガン攻撃だ! シエラとの射線にだけは入るなよ! 『聖剣』! 『ハヤブサストライク』! 『ライトニングバニッシュ』だ!」
「ん。こっち攻撃してこないなら怖くない。『デルタストリーム』! 『スターブーストトルネード』! 『スターバースト・レインエッジ』!」
「了解しました。『ロングスラスト』! 『閃光一閃突き』! 『戦槍乱舞』!」
「回復は心配しなくていいわ! 『回復の祈り』! 『獅子の大加護』! 『光の刃』! 『聖光の耀剣』!」
直径80センチほどのクリスタルを全員で殴っているうちに〈琥珀ゴーレム〉のHPはゼロになり、戦闘開始から僅か5分強でボス戦は終了したのだった。
やはりレベル差があるからな。早い。




