#923 岩から岩へ飛び移り、宙に浮かぶ巨石を落とせ!
「どうだエステル、運転の方は」
「はい。少し大変ですがだんだんと慣れてきているようです。岩から岩に飛び移るように進むと言えばいいのでしょうか? ちょっと楽しくなってきました」
「それは良かった」
〈浮遊戦車イブキ〉は地面から少し浮く程度という特性しか持たないため飛行は出来ない。
高度を保つには岩の上から岩の上に進む必要がある。
〈イブキ〉は突然地面から離れてもすぐに落ちるわけじゃ無く、少しの間は高度を保ち、その後緩やかに滑空するように高度を下げていく性質を持つので岩の上から岩の上へ、飛び移るように進めば高度を保てるのだ。
地面に落ちたらまた岩を昇る必要があるので時間を食うしモンスターも地面を歩いているのでエンカウントすることもある。
時間ロスにならないために、エステルは前方へ進むだけでは無く、旋回したり横移動も行ないながら巧みに岩の上を経由して進んで行った。
「む、次の岩へはちょっと距離がありますね――『オーバードライブ』!」
今はこんな感じにスキルも使い分け順調に進めるようになっている。
最初はちょっとつっかえたり、目測を見誤って岩に激突なんてこともあったが、もう慣れたようだ。成長が早いな。これが職業補正ってやつなのか?
俺は〈磁気岩発見器〉を確認しながら指示を出す。
「おっと、エステルそろそろだ。もうちょっと左に寄せてくれるか?」
「承知しました」
「よし、この辺で停めてくれ」
俺の指示通りにエステルが運転し、一つの岩の上で〈イブキ〉を停める。
〈磁気岩発見器〉のコンパスの一つがグルグル回っているのでここで間違いないな。
「カルア、索敵頼む!」
「ん! しゅた―――『ソニャー』!」
カルアは俺の指示を聞いて別の岩の上にピョンと飛び移ると、耳の後ろに手を当てて索敵系のスキルを使う。
なぜカルアが岩の上に飛び移ったのかというと装備中の〈馬車〉の上ではスキルが使用制限されているせいだな。
〈馬車〉の上からスキルを使えたら強すぎる。故に装備者も『ドライブ』系以外スキルは使えないし、搭乗者も〈スキル〉〈魔法〉は使えないわけだ。
戦闘中以外では多少制限も解除されて馬車内にいる者を対象とした回復系くらいなら使えるようになるのだが、索敵はガチガチの戦闘スキルなので一度下車しないと使えないんだ。
「ん、周囲に敵3グループ。4、4、6体」
「近いのは?」
「すぐそこに4体いる、他はちょっと遠い、かも」
「じゃ、近いのだけ片づけて安全を確保しよう」
「ん!」
「エステル、降ろしてくれ戦闘準備だ!」
「はい!」
カルアに索敵してもらったところ1グループがかなり近い位置にいたので排除することにした。
岩が立ちすぎて地面では〈馬車〉の走行はままならない。なので〈イブキ〉を一度地面に降ろしてから下車し、徒歩でモンスターの方へと向かう。
エステルは〈イブキ〉を外し、〈グローリーローラー〉に換装済みだ。
「あれは、〈ロックゴーレム〉が2体、〈パンチゴーレム〉が2体のようですね」
エステルの言うとおり、岩の影から覗き込むとそこに居たのは全身石で出来た2メートルほどの〈ロックゴーレム〉と、異様に大きい腕が4本あるこれまた石で出来た〈パンチゴーレム〉が2体いた。
上層のモンスターは割と知られており、〈ロックゴーレム〉は防御型でダメージが通りにくいが攻撃力と素早さは低く、〈パンチゴーレム〉は攻撃力は高いが防御力と素早さは低いモンスターだ。
「防御型の〈ロクゴ〉の相手は――『貫通強化』を持ってるエステル、頼むぞ」
「〈ロックゴーレム〉のことですね。お任せください」
エステルの武器〈マテンロウ〉は『貫通強化』を持っているため防御力が高い相手や防御スキルを多用してくるモンスターを相手にするのに向いている。
「カルアと俺はまず硬い〈ロクゴ〉に防御力デバフを与えて離脱、先に〈パンチゴーレム〉を相手にするぞ。ラナも頼む」
「ん!」
「任せてよ!」
「シエラ、いつも通り前衛を頼む」
「任されたわ」
「んじゃ、行くぞ」
「『四聖操盾』! 『守陣形四聖盾』! 『オーラポイント』! 『シールドフォース』!」
「「「「ゴオォォォォ!!」」」」
「散開!」
「『獅子の大加護』! 『守護の大加護』! 『迅速の大加護』!」
シエラの挑発におびき寄せられたゴーレムたちだが、その足は鈍重。
鬼ごっこしてもシエラには追いつけないだろう足の遅さだった。
まあ、上層1階層のモンスターならこんなものだ。
ただ、特化した性能はかなりのものだ。
「ゴオオオ!」
1体の〈パンゴ〉が二つの拳で邪魔な岩を殴ると、その岩が粉砕された。凄まじい威力だ。
かなりの攻撃力があると分かる。もしカルアが攻撃を受ければ2,3割くらいのダメージが入るかもしれない。そのくらい攻撃力特化型だった。
「ん。でも遅い、『鱗剝ぎ』! んでこっち――『スターブーストトルネード』!」
まあ、あんなスピードではカルアを捉えることはできないだろう。
カルアは指示通り1体の〈ロクゴ〉に飛び掛かるとまず防御力デバフで防御を削り、すぐに離脱して荒ぶる〈パンゴ〉に連続攻撃で大ダメージを与えていく。
「もう1体は俺だな。『勇者の剣』!」
「こちらも、その速度では恐るるに足りません。『レギオンチャージ』! 『レギオンスラスト』!」
俺がもう1体の〈ロクゴ〉の防御力を下げて離脱すると、スイッチしたエステルが〈ロクゴ〉2体を相手に範囲攻撃でダメージを与える。
よし、ラナのバフに俺たちのデバフ、エステルの『貫通強化』によってそのダメージはかなりのものになったな。
「『シールドスマイト』!」
「ゴオオオ!」
「これは、盾で受けるまでも無いかしら?」
おっとシエラが素避けで〈パンゴ〉のパンチを躱したな。
まあ、「一発が強い相手には避けタンク推奨」なんて言葉もあるくらいなので避けられるのであれば避けるに限るだろう。
その後もシエラは攻撃を避けたり、パンチを盾で受け流したりと軽く流すように立ち回っていた。超余裕だな。まあシエラの今のLVは25。ここのモンスターはせいぜい上級職LV3推奨くらいのものなので余裕過ぎたかもしれない。
結局俺とカルア、ラナの攻撃ですぐに〈パンゴ〉が2体沈むと、すでにエステル1人によって半分近くHPを減らしていた〈ロクゴ〉を相手にし、全員でボコボコにすることで余裕で勝利することが出来た。
「余裕だったわね!」
「LVが違いすぎるからな」
「次はもう少しMPをセーブして戦ってみますね」
余裕だったのはこれが1層の低ランクで単純な物理型モンスターだからというのもある。
これが2層を越えると新たに〈パラライズゴーレム〉や〈ポイズンゴーレム〉など状態異常にしてくるゴーレムが登場し、10層を越えるとさらに〈ファイアゴーレム〉や〈アイスゴーレム〉など属性ゴーレムが登場、さらに中層以降は〈ポイズンファイアゴーレム〉や〈スリープアイスゴーレム〉など状態異常属性付きゴーレムへと変化していくのだ。そこまで行くと『火傷猛毒耐性』や『睡眠氷結耐性』が必要。つまり上級装備を付けていないと中層からは厳しくなっていくよ、という仕様だな。
状態異常については〈即死〉以外の全てが登場する。中には〈チャームゴーレム〉なんて名前の「いやいや絶対ゴーレムに魅了なんてされないだろ!?」とツッコミを受けたゴーレムまで登場するのだ。まあ、〈チャームゴーレム〉の見た目はマジで可愛いロリ人形型ゴーレムなので魅了された人は相次いだのだがそれは別の話。あいつだけ【テイマー】が殺到したんだよなぁ。おっと話が逸れた。
最低でも状態異常対策は万全にしておかないと身動き出来なくなったところにゴーレムの圧倒的な攻撃力でやられてしまう、中々ハードなダンジョンなのだ。さすがはランク6のダンジョンだ。
さて、ドロップの〈ゴーレムの上核〉なんかも回収して上のアレを落としますか。
「じゃ、この辺の岩を壊すぞ。さっき〈パンゴ〉が破壊していたとおり、この辺の岩は破壊出来る。――『シャインライトニング』! 『ライトニングバースト』!」
「わ、本当に岩が壊れていくわね!?」
「結構簡単に壊せるのね」
巨石の下にある岩っていうのは壊れやすいように出来ているからな。
壊れにくかったら救済アイテムが無いと永遠に見つからないし、巨石落とせないし。
というわけで範囲攻撃でこの辺りの岩を粉砕すると、ふと影が大きくなった。
「巨石が落ちてきたわ。みんな、不壊の岩の影に隠れて! 衝撃に備えて!」
シエラの指示で俺たちは素早く壊れない系の岩の影に隠れると、ゆっくりと巨石が地面に落下し、ヒビが入って粉々に砕けてしまう。
「ひゅ~がっしゃーんバラバラ~」という感じ。
おお、音は思ったより大きいが衝撃はあまり無いんだな。なんだかそっと地面に着地したような衝撃の無さだった。もし、万が一あれが直撃したら〈敗者のお部屋〉へ一直線だから気をつけるに越したことはない。
そして巨石が砕けた後には、俺の記憶通り、階層門が現れていたのだった。
「わ! 本当に階層門だわ!」
「ん、不思議すぎ」
「…………」
「本当に岩の中から出てきたのですね。壊れなくて良かったです」
エステルの発言に「あ、確かに」と思った。階層門壊れたらどうなるんだ? やっぱりすぐに直るのかな?
いや、多分破壊不能オブジェクトだから壊れることはないんだろうな。
あと、シエラが妙に俺の事をジッと見つめてくるのが気になります。もちろんジト目です。
ふはは!
「よし、それじゃあ次の階層へ行ってみよう!」
ということで俺は、元気良く次の階層への突入を宣言したのだった。




