#906 〈ヨッシャー〉大騒ぎ、〈エデン〉大騒ぎ。
「うおおおお! 決着だーーー!」
「大変興味深いデータが大量に取れたな! みんな、メモの取り忘れは無いか!?」
「メモは全部取り終えているですギルド長!」
「大儀であるぞメイコ君!」
「! 勿体ないお言葉です!」
観客席の一角で最高峰のSランクギルド、〈ギルバドヨッシャー〉の姿があった。
しかも全員参加。隣には白衣を着た研究者たちの集団が席を確保していることも相まってなんだかこの周囲一帯は異様な雰囲気を醸し出している。また、白衣とヨッシャーたちの間に挟まるようにして冒険者らしき人物が居たような気がしたが、定かではない。
〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーのうち、ノッポなサブマスターオサムスが呟く。
「ふう、ふう。まさか、ロード兄弟を打ち破ってくるとは! しかも作戦がことごとく見破られていて、対抗作戦まで練られているなんて脱帽だな!」
その言葉に〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスター、おかっぱ頭のインサーが頷く。
「やはり、俯瞰した視点が厄介だな。今回のギルドバトルで相手は全マップを把握できていると確信した。上手く騙せなければロード兄弟と言えど食われるというのが分かったことはとても大きな収穫だ。それにギルドバトル特化型職業【ロード】系統が実際に〈エデン〉と戦えることが分かったな!」
ロード兄弟が屠られたことを、悔しがるどころかむしろ喜ぶヨッシャーたち。
彼らは立ちはだかる難易度が高ければ高いほど元気になるのだ。
「問題は初動か。分かってはいたが〈ジャストタイムアタック〉という技が強力だぞ。倍の人数で攻めてもほぼ確実に奪われるな。あれに対処するにはこちらも同じ戦法を使い、さらに相手の〈ジャストタイムアタック〉より早く攻撃する必要がある! ギリギリを見極める対決になるな」
「他にもまだまだ注目するべきことは多い。初の総力戦、しかも〈エデン〉には生産職までいたというのに、その生産職すら活躍する場を用意出来る職業の多様性が凄まじい! 特にあの要塞だ! あれを打ち破るには専門の破壊系職業を連れて行く必要があるな! スカウトに動くか、誰かを〈転職〉させねばならない。でなければ〈エデン〉とはまるで勝負にならないぞ!」
「くぅ、想像が膨らむな! 正面から挑むのであればそれが妥当だろう。破壊系を要塞の壁まで運搬するのはロード系に任せれば良いだろうな。やはり〈エデン〉は凄まじい! 学ぶことが多すぎてインスピレーションが止まらない!」
「ああ! 今回〈カッターオブパイレーツ〉の話を受けて良かった! 〈カッターオブパイレーツ〉に提供した動きは、確実にAランクギルドが相手とて厳しい戦いを強いられただろう戦法だった。それを軽く打ち破った〈エデン〉がどれほどの腕前なのかを知れたのも大きな収穫だ。今後も仮想敵を〈エデン〉とし、その戦術の対抗手段を身に着ければ、俺たちはもっと多くの戦術を編み出すことが出来るぞ!」
「「「「応!」」」」
インサーの言葉にオタク一同が立ち上がり、一声挙げると規則正しく順番に去って行った。〈ギルバドヨッシャー〉はこの後、消灯時間まで今回のギルドバトルについて熱く語り合ったという。
なお、途中で〈カッターオブパイレーツ〉が乗り込んできたが、逆に呑み込まれてギルド内に連れ込まれ、どこがダメだったのか、ここでこういう動きをすれば良かったのだと反省込みで様々な薫陶を叩き込まれたことで完全に燃え尽きてしまったのは余談である。
◇
「さーて皆、ジョッキは持ったかーー!! 初のBランク戦、そして勝利おめでとう! これでギルド〈エデン〉はBランクに昇格した! みんなよく頑張ったな! もう最高だ! これ以上の言葉はいらない! というわけで〈エデン〉のBランク昇格をとっても祝ってカンパーイ!!」
「「「「カンパーイ!!」」」」
ギルドバトルが終わったので、祝勝会で乾杯だ。
ここは〈エデン〉のCランクギルドハウス。
Bランク戦に見事勝利した俺たちは、早速用意してあった祝勝会の会場に凱旋(?)して打ち上げにしゃれ込んだ。
もうね。ギルドバトルが終わったらすでに打ち上げ準備が完了していたとかツッコまないよ。そういうものなんだよ。〈エデン〉が負けたらどうしていたのかとか聞いてはいけない。
俺は早速ジョッキを呷り、中のジュースをグイッと一気飲みした。
「勝利の美ジュースは最高だー!」
「まったくその通りねゼフィルス! 今回はとても楽しかったわ!」
「おう、ラナ! 防衛の要としての仕事ご苦労様! やっぱラナは居てもらわないとダメだー」
「もう、どうしたのよゼフィルス? そんなに褒めて、もう、照れるじゃない! 頭くらいなら撫でてもいいんだからね!」
「はーっはっはっは! そこまで言うのなら~」
「ゼフィルス、お触り禁止よ」
「ラナ様も、こんなところではしたないですよ」
「シエラ、エステル! もう、良いところだったのに~」
「ようシエラ、エステル。お疲れ様だ」
勝利の美酒ならぬ勝利の美ジュースが最高。
テンションが最初からMAXを振り切っていた俺だが、いつもの通りシエラに止められた。
シエラがいつの間にか俺のストッパーになってるんだよなぁ、なぜだぜ?
それはともかくシエラがジト目です。本当にありがとうございました!
「ゼフィルスはまったく。このままだと誰彼構わず踊り出しそうだわ」
「そうだな! 踊るか!」
「もう、し、仕方ないわね。私が踊ってあげても良いわ!」
「ダメよラナ殿下。ゼフィルスを自由にしたら一日中踊ってるかもしれないもの、私が全力で押さえ込むわ」
何やら物騒なことが聞こえた気がしたぞ。気のせいであってほしいな~?
「ゼフィルス殿も、ラナ様にそういうことをするのでしたらどうぞ自室でお願いしますね?」
「いやいや、打ち上げ以外でそんな事はしないぞ?」
クルクル踊るのはテンションがMAXを振りきった状態だからできる事なんだ。
シラフじゃ出来んて。
それに今回はなんと言ってもBランク昇格だ!
これは凄いぞ。B、A、Sランクは最後の三段階。
ランクが上がる毎に上限人数が10人増えるため、一つランクを上げるにもその難易度が桁違いなんだ。
今回、ようやくその第一歩たるBランクへと昇格した。ここからは後戻りなんて考えることは出来ない。
また、昇格したばかりなので引っ越しは来週になる予定。
ただテスト期間に突入するのでもしかしたらテスト明けかもしれないとのこと。
Bランクギルドハウスも楽しみだなぁ。
まあ、すぐにAランクに引っ越すことになりそうだが。
おっとそれはともかくメンバーたちにお祝いをして行こう。
まずはシャロンとリーナの所からだ。
「シャロン~、見たぜ? もうすっげぇ要塞だったな! 完璧に組んでもらって大感謝! あれだけ防備を固めれば対策無しには突破出来ないぜ!」
「あははっ、照れちゃうな~もう。正直どれほどの性能なのかってイマイチ実感無かったんだけど、あれは自分でもビックリだったよ~」
シャロンには設計図をプレゼントしていた。この通り作ってねってやつだ。
シャロンはしっかり作ってくれたよ。完璧だった。かなり練習したんだと分かる。なので大感謝だ!
「わたくしも驚きましたわ。あれほどの要塞を作り上げるなんて、これで防衛力は格段に増しますわね。シャロンさんが居れば〈白の玉座〉や〈竜の箱庭〉の安全運用がさらに安定しますわね」
「シャロン、リーナ、ラナが本拠地を守ってくれれば俺たちは安心して攻めに出れるからな。頼りにしているぜ2人とも」
「う~、これすっごく照れるね」
「それがゼフィルスさんですわ。わたくしは全力以上の力を持ってお役に立ってみせますわ!」
「うん。私もがんばるよ!」
シャロンの守りが入ったことで、今までずっと防備に不安があったリーナやラナに堅い守りが出来た。
これの意味は大きい。
攻めに行くメンバーたちに後方は大丈夫だという安心感を与え、実力をより発揮することが出来るだろう。
〈エデン〉はこれで、さらにギルドバトルで動きやすくなった。
ギルドの躍進は、まだまだ止まらないぞ!
よし、次はハンナとラクリッテのところ、行ってみよう~!




