#884 アイギス合流。ランクアップの鍵はランク9!
〈上級転職〉を無事に終え、4人に育成論を教えて一息吐いた時にはもうお昼の時刻だった。
4人とは練習場で別れたのち、食堂の前でアイギスと合流する。
次はアイギスの番なんだが、こちらはちょっと取ってこなくてはいけないものがあるので時間が掛かる。そのためこうして先ほどの4人とは別で対応、という形だ。
「あの、ゼフィルスさん。今日はよろしくお願いいたします」
「まあまあ、そんなに堅くなるなって。こちらこそ、今日はよろしくなアイギス」
目の前でいつになく畏まった姿勢で礼を取るアイギスに、緊張をほぐそうと軽い感じに挨拶をしながら雰囲気作りを行なう。
今日の午後はアイギスの夢である【竜騎姫】の〈上級転職〉を助ける予定なのだ。その緊張も一入だろう。俺にも分かる。
「あの、その、食事は2人っきり、なのですか?」
「え? いや、そろそろ戻ってくるころ……。お、来た来た、おーいラナ、こっちだー」
「へ? ラナ殿下?」
昼食を一緒に取ろうとしていたメンバーはアイギスだけじゃない。
午後はアイギスの【竜騎姫】の発現条件を取りにダンジョンに挑むのでそのパーティメンバーと食事となっていた。
食堂の前で待ち合わせていると、向こうからラナ、シエラ、カルア、がやってくるところが見えた。
「待たせたわね! 今日はよろしくねアイギス」
「は、はい! こちらこそ今日はよろしくお願いしますラナ殿下」
「アイギス先輩には中々難易度が高いかもしれないけれど、安心して。私がしっかり守るから」
「はい! シエラさんがいると心強いです」
「ん。索敵は任せて。黒猫隊はとても優秀だから」
「カルアさん。頼りにしていますね」
最初は驚き戸惑っていたアイギスだったが、3人と挨拶していくうちにだんだんと落ち着きを取り戻していった。さすがはアイギスだ。
そういえば、ダンジョンには5人で向かうと伝えていたが、食事まで一緒にすることは伝えてなかったっけ?
いつも上級ダンジョン攻略メンバーとは一緒に食事しているから忘れてたかもしれない。
ちなみに、上級ダンジョン攻略メンバーとはエステルとアイギスが入れ替わった形だ。2人とも武器がランス系の槍で職業も【騎士】系統で被っているし、大きなズレや問題も無いはずだ。何かあれば俺たちが全力でフォローするしな。
早速5人で食堂へと入り腹を満たし、これからの事を発表する。
「じゃあ本題に移るぞ、聞いてくれ。今回潜るダンジョンはかなり強力だ。その名も上級ダンジョンのランク9、〈火山の入口ダンジョン〉だ」
「ランク9ですか!」
「火山のダンジョンじゃない!」
アイギスとラナが驚きのリアクションだ。ありがとうございます!
「まったくゼフィルスは、それでそこに何があるの?」
「アイギスの〈上級転職〉のための条件が眠っている気がする」
「…………」
答えたらシエラのジト目が絶好調だった。ありがとうございます!
「火山って熱い?」
カルアはそんな俺たちのやり取りなど気にもせず火山の暑さの事が気になるらしい。
それに答えたのはアイギスだった。
「ランク9〈火山の入口ダンジョン〉は聞いたことがあります。噴火し、溶岩が流れ出る火山の麓のようなフィールドで、流れ出た溶岩の河が大地を分断し、溶岩には炎を纏ったモンスターが泳いでいるという、非常に難易度の高いダンジョンだったはずです。そして何よりフィールド全体がとても熱く、攻略者の体力をどんどん奪っていくと聞きます」
「アイギスはよく勉強しているな。その通りだ。〈火山の入口ダンジョン〉はとにかく熱い。環境対策は必須だな。それと溶岩が道を塞いでいる箇所については、これを使う予定だ」
そうして俺が取りだしたのは〈鎮火の秘薬〉。
〈嵐ダン〉で手に入れたランク9の救済アイテムだ。
「それは、確かあの時レシピで見たやつね! ハンナが作ったの?」
「おう。たくさん作ってくれたぞ。これを溶岩にぶっかけるとあら不思議、溶岩が急速に冷えてカチンコチンになり、道が出来てしまうという超アイテムなんだ!」
「! これってそんな便利なものだったのね」
俺の言葉に一瞬目を見開いてから〈鎮火の秘薬〉をまじまじと見るシエラ。
かなり驚いた様子だ。
ふっふっふ、シエラを驚かせてしまったぜ。
「これは、普通の炎を鎮火させることにも使えるの? 例えば魔法とか」
「いや、そこまで万能なアイテムじゃない。溶岩にしか使えないうえに魔法の炎には効果が無い代物でな。文字通り燃えている溶岩を鎮火させるアイテムだ。魔法の炎が消えない理由はよく分からん」
名称が〈鎮火〉なのに普通の炎には効果が無い不思議。
これが救済アイテムだという証左だな。
だが、これでランク9を通行することが出来る。
なぜ今までアイギスだけ〈上級転職〉をさせていなかったのか。
【竜騎姫】の発現条件が大変厳しいものだったからだ。
その条件とは――〈竜種のテイム〉。
最終的に竜に乗り空を駆けることができるようになる【竜騎姫】には、当然相棒たる竜が必要だった。
しかし、竜はそもそも上級中位の一つ、〈爬翔の火山ダンジョン〉、その下層で初めて亜竜が敵性モンスターとして登場する。基本的に上級上位以上のダンジョンに住まう強力なモンスターだ。
下級職のままそこまで行き、テイムするのはまず難しいと分かるだろう。
本来なら一旦他の上級職に就き〈竜種をテイム〉してから【竜騎姫】に〈上級転職〉するのが正道だ。
しかし、さすがにそれは面倒である。
学園は3年でタイムアップ、寄り道している時間は極力カットすべしという効率の元、〈ダン活〉プレイヤーは上級下位で【竜騎姫】の条件を満たす方法を見つけていた。
それはとある秘宝。
〈火山の入口ダンジョン〉の2階層にある隠し通路の奥、そこで発生するレアイベント、〈竜の宝物庫〉と呼ばれる場所で〈聖竜の卵〉を手に入れることだ。
アイギスは先日、ついに中級上位ダンジョンの攻略者の証が五つ揃った。
こちらも〈鎮火の秘薬〉の数が揃った。
これでようやくアイギスの〈上級転職〉をすることが出来る準備が整ったのだ!
―――【竜騎姫】の条件、取りに行くぞ!




