#001 〈名も無き始まりの村〉-プロローグ-
震えろよ。この職業一覧に。
ザワリと、巨大すぎる体育館が揺れたのを肌が感じ取った。
入学式で多くの学生が夢見て挑んだ職業測定。
職業は生涯を共にするパートナー。
16歳になると全ての人は職業を1つ選択する事になる。
しかし、その選択肢というのは十全ではない。人によって差があった。必ずしも自分がつかみ取りたい選択肢がそこに現れるわけではない。それが当り前だった。
|そんなわけ無いだろうが《・・・・・・・・・・・》と。端的にそれを見せつける。
その多くの視線が俺の職業一覧へと集中しているのを感じた。
「おい。あれは何だ?」
「いったい……いくつあるんだよ」
ある者は自分の目が信じられないとでもいうように、またある者は呆然としてそこに映る職業一覧を眺めていた。
「嘘でしょ。高位職まであるわよ」
「おいおいおい、聞いたこと無いモノまであるぜ。【勇者】だと?」
「何者だよあいつ……」
皆誰しも憧れ夢見る高位職、それを見つけて震える者。
今まで見たことも聞いたこともない職業を多く見つけ、幻覚でも見たような目をする者。
そしてそれを引き起こした、原因である俺を驚愕の視線で見つめる者たち。
ざわめきは加速度的に高まっていく。
君たちは勘違いしている。
この世界では、全ての人がなりたい職業になることができる!
刮目せよ! これが〈ダン活〉が誇る職業群、1021職の一角!
俺の職業一覧だ!
◇ ◇ ◇
「ここって、名も無き始まりの村じゃないか?」
気がついたら見知らぬ場所、いやゲームの画面上で見たことのある場所にいた。
そんなバカな、と思うも推定8000時間のプレイ時間やりこんだゲームだ、今更見間違うはずも無い。
ゲーム名〈ダンジョン就活のススメ〉。
名前が「もっと他になかったの?」と言われても仕方の無いアレなタイトルだが、内容はすさまじく濃いRPGでやりこみ度が高く、廃人生産ゲームとも呼ばれていた神ゲーだ。
俺もその流れに身を任せ灰色の戦士となりやりこみにやりこみ続けている。
いや、やりこみ続けていた、か。
「うっ、頭が!」
それを思い出しかけたとたん脳が拒否反応を起こした。
しかし、そんなの関係ないとフラッシュバックする光景が脳裏に浮かぶ。
それはゲーマーにとって最悪で悪夢で人生の最後のような出来事。
災厄が俺に降りかかったのだ。
最後に覚えているのは泡を吹いてひっくり返った、なんかヤバイ薬やってたんじゃねえかと思われる顔をした、鏡に映った俺の姿。
おそらく、アレが俺の最期だったのだろう。
それくらいヤバイ顔をしていた。
「あれ? じゃあ今の俺は?」
なんで生きているの?
ぺたぺたと身体を触ると、なんか違和感。
「身体、こんなに小さかったっけ? というかこの服ってゲーム衣装じゃ…」
自分の身体のはずなのに自分じゃありえない引き締まった肉体。
ゲーム序盤で見慣れた村人の衣装。
顔に手を当てればさらに違いが…これは違いがよく分からなかった、鏡くれ。
しかし、ここまでくればなんとなく察するに余りある。
「もしかして、もしかするのか?」