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クリスタルリザード

「うぇ、まだ気持ち悪い」


 マルに抱えられてワイバーンの群れをやり過ごした俺は、マルのとんでもない動きに体の中をかき回されて気分が悪くなっていた。


「さっきから何度も謝ってるじゃないですか。それに、あの程度の動きはシュウさんだって普通にしてたんだから、逆に何でって聞きたいですよ」


 俗に言うあれかな。自動車に乗ると酔うけど運転すると酔わないというやつかもしれない。

 確かにマルのという通り、あのぐらいの動きは超人化スキルを使用している時は、特別でもなんでもない動きだったはず。

 俺達は傍から見たら馬鹿な会話をしている様に見えるかもしれないが、この鉱山ではいまだに誰一人として他の冒険者に出会っていなかった。

 物は試しと、ちょっと強く魔力の反応があるところを削ると、簡単に魔石が見つかった。

 それ一個で先日の鉱山で採れた魔石の十倍はあろうかという大きさだった。質については俺やマルやじゃ分からないが、恐らく質もいいのだろうと予想する。

 だって、いきなりワイバーンの群れに会うような場所だからなあ。

 次の島への吊り橋が見えてきた頃になって、ようやく体も落ち着いてきた。俺は快復した体と感覚で辺りを伺うが、これといった反応はない。鑑定スキルを使ってみても、どこにも魔物などの危険な要素は見当たらなかった。


 というか、鑑定で魔石の場所が分かるのか。早く気付いていれば、こないだの鉱山採掘ではさらに倍は採れたかもしれないなと、ちょっと後悔した。

 マルへ周囲の索敵を伺えば、マルも特段異常は感じないらしい。

 ワイバーンの襲来を警戒しつつ、急いで吊り橋を渡ればなんの障害もなく渡りきる事が出来た。

 同じ事を繰り返すこと数度。五つめの吊り橋を渡り、目的の浮島に辿り着いた瞬間、背筋をピリピリとした感覚が走った。


「シュウさん。これって思った以上に強いかも」


 まだクリスタルリザードが姿を見せていないのに、ゴブリンエンペラーと対峙しているような緊張感が襲ってくる。

 これは明らかにカオス=イレやゴブリンエンペラーと同じく災厄級の力をもった魔物かもしれない。

 例によって冒険者の姿は一つもなく、岩肌をむき出しにした小高い丘群が島の大半を占めていた。

 浮島によって密林だったり、湖があったりと多彩だが、この浮島は何も特徴がない起伏のある荒れ地だった。

 逆に考えれば身を隠せる所がない。逃げ道がないという事だ。

 とにかくここにクリスタルリザードがいるのは、教会の関係者からも情報を貰っているので間違いないと思う。魔石を欲しがる教会がわざわざ嘘を教える必要もないからだ。

 マルといっしょに辺りを警戒しながら進むが、クリスタルリザードの影も形も見当たらない。

 どの位探したろうか。太陽が中天からもう少しで地平線に沈みだすといった頃、俺達はさすがに疲れて一つの小高い丘の上で休憩を取る事にした。


「臭いも気配もしないし、本当にいるんですかね」


 最初に感じた気配は、俺達がこの島に足を踏み入れて少し経つと消えてしまっていた。

 足下の岩を適当に砕いて、時折出る魔石を拾っていくマル。

 マルの言うとおり、これだけ探して見つからないとなると、本当にいるのか不安になってくる。

 俺も気分転換に、足下を鑑定して魔石をいくつか掘ろうとすると魔石にまじって思いがけない名前が出てきた。


「はあ!?」


 複数の魔石の名称に埋もれるように、目的のクリスタルリザードの名前が地中に見えたのだ。

 驚いて素っ頓狂な声を出した俺をいぶかしむ様にマルが見てくるが、俺がクリスタルリザードを認識したことを、向こうも気付いたようだ。

 俺はとっさにマルの右手を取ると、一気に丘を駆け下った。身体能力の高いマルは文句を言いながらも、何事かとしっかりとついてきてくれた。

 ほどなくして、俺達がいた丘に罅がはいっていき、てっぺん近くの罅が一際大きく開くと中からクリスタルリザードが出てくる。

 クリスタルリザードというからには透明なのかと思っていたのだが、実際は七色のクリスタルが体中から生えている巨大なトカゲだった。

 隊長は五メートル程か……下手をしたらワイバーンよりも大きいかも知れない。そんなトカゲの表面が固そうな色とりどりのクリスタルで覆われているのだ、その威圧感たるやゴブリンエンペラーより上だった。


「様子見は任せて!」


 マルはスクロールを取り出すと、剣で貫きエンチャントを行う。そしてその勢いのまま、いまだこちらを補足しきれておらず、首を巡らせているトカゲに攻撃をした。

 カキィン!

 まるで固い金属同士を叩き合わせたような音がして、マルの剣は易々と弾かれてしまった。エンチャントしていた炎の魔力も、クリスタルリザードの表面を流れた後、赤と青のクリスタルに吸い込まれていってしまった。


「ゴブリンエンペラーやカオス=イレより厄介な気がする」


 俺の隣へ戻ってきたマルが開口一番そう口にした。

 カオス=イレには僅かながらもこちらの攻撃は通っていたし、ゴブリンエンペラーは群としては脅威だったが、単体としてならカオス=イレより格下だと思っている。

 だが、眼の前のクリスタルリザードはマルの、それもエンチャントした攻撃を無効化したのだ。カオス=イレの時よりも、はるかに強くなっているマルの攻撃をだ。


「ちょっと甘く見てたかも。一旦戻るか?」

「その選択肢はないみたいだけど」


 後方をちらっと見たマルの視線を追えば、なんと吊り橋が落とされていたのだ。その犯人は考えるまでもなく、吊り橋の周辺を飛んでいるワイバーン達だろう。


「自分たちの手に負えないなら、誰かを頼るってか。随分と頭のいいことで」


 吊り橋の位置から移動し、俺達の頭上で旋回しはじめるワイバーン達。

 これ以上無いというタイミングでしかけてきたワイバーン。俺達を補足して殺気を漲らせるクリスタルリザード。

 はっきりいって、いままでで一番最悪の展開かもしれない。

 直接攻撃も魔法攻撃も効かない魔物。

 直接攻撃の届かない魔物。

 本当に厄介この上ない。


「フェンリルに変態できる時間は制限あるから、いまは簡単に使えないかも」


 油断なく周囲を警戒しながら、背中合わせになったマルが小さく呟いてきた。

 俺はそれに「了解」と答えるが、頭の中では次の手をずっと考えていた。後先考えず行動するなら、ワイバーンは多分障害にはならず、すぐに倒すことが出来るだろうが。

 ああもう! 毎回毎回スキルを使う為に頭使わないといけないなんて、面倒くせースキル俺に押し付けやがって!

 作戦なんて上等な物が思いつかばず、動けない俺達にしびれをきらしたのか、最初に動いたのはクリスタルリザードだった。

 巨大な体がもつ長い尾。それを振り回すように体ごと回転させて、俺達を薙ぎ払いに来た。

 見た目通り、あまり俊敏ではない動きではあったので、俺もマルも尻尾を飛び越えて避けることは出来た。

 だが、そこへ狙ったかのようにワイバーンが襲いかかってきて、無理な体勢で迎撃を強いられる。

 なんとかワイバーンの爪を防ぐことは出来たが、無理な体勢だった為、荒れ地となっている地面に背中から打ち付ける事となった。


「げほっ……くっそ」


 二つの厄介さが絡み合い、俺は今の状況をどう攻略した良いか考える。それと同時に、チュートリアルスキルの中から必死に打開できるスキルがないかと、これでもかという速さでスキルの項目をめくっていった。

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