強い魔物
昨日、ギルドマスターから直に呼び出されてからというもの、妙に視線を感じる気がする。
クエストボードの前に立ちながら、依頼を物色しているとひしひしと感じるのだ。
マルは俺よりも感性が強いのか、少しイライラしているように見える。ずっと誰かに見られているってのは、かなりストレスなんだと思う。さらに、昨夜に襲撃があったからなおさらか。
「さっさと依頼を受けて外に行くか」
「そうですね。今日はとても居心地が悪いです」
あれから一睡もしてないのか、寝不足も相まってマルはすこぶる機嫌が悪かった。
さて、それじゃ面白そうで実入りの良さそうな依頼となると、聖王都ではほとんどが魔石がらみだった。
「そういや、魔物から狩った魔石と鉱山で採掘した魔石。教会の人は違いが分かってた感じだったよな」
「最初に持ち込んだ魔石……あれって魔物から綺麗に採れてるって言ってたから、もしかしなくてもそうなのかも」
ライゼルに教えてもらった魔石を鑑定する魔石鏡。あれは聖王国で作られた魔道具ということだ。
銀で縁取りされた華美すぎず、それでいて見る物を引きつける芸術品のような一品。何も知らない人が見れば骨董品に見えるかもしれない。
魔石鏡だけでなく、聖王都では他国より魔道具作りが盛んだというのも聞いたが、これだけ魔石に関する依頼があるなら信憑性も高いと思う。
今度なにか役立ちそうな魔道具でも探してみるか。
「シュウさん。お願いがあるんですが」
マルが申し訳なさそうに、俺に話しかけてくる。マルと初めて会ったときや、これまでを考えてもこんなマルは初めて見た。
「強い魔物の魔石を集めてみたいんです」
強い魔物の討伐依頼となれば、ランクが高い依頼となる。となれば、俺の冒険者ランクでは受けられないという事になる。となれば――。
「いいのか」
「思いがけず第二教皇様と繋がりが出来たんです。第二教皇様がおっしゃっていた質の良い魔石を集めてみたいです」
「昨日の黒幕かもしれなくても?」
マルは不安そうな顔から一気に真剣な表情へと切り替え「それでも、和平への道を探りたい」と強く俺に語った。
「俺はマルの護衛みたいなもんだからさ、マルが好きにしたら良いと思うぞ」
俺の言葉にぱあっと花が咲いたように笑みを浮かべるマル。ちょっと不意打ちでドギマギしそうになったが、腹に力を入れて顔に出るのを抑え……られたと思う。
「今日も鉱山に行くのかい。難易度に比べて昨日はかなりの儲けになったろ」
都合が良いのかタイミングが良いのか、これからどの依頼を受けようか考える時に、ちょうどライゼルが冒険者ギルドに顔を出した。
「つ、強い魔物かよ。おいおいランクEじゃ受けられないぜ」
「ランクは関係なしで、強い魔物がいれば教えて欲しいんだ」
ライゼルには俺がゴブリンエンペラーを倒したという事を伝えてあるが、やはり信じてはいないようで大分渋っている。
「これなら問題ないですよね」
そこへ横からマルが自分のランクAの冒険者カードを差し出した。
「え!?」
ライゼルの視線がマルと冒険者カードを行ったり来たりしている。あまりにも予想外だったのか、目を見開いて最後には固まってしまった。
どれくらいライゼルは固まっていたか。突然、石化が解けたように動き出すとクエストボードのあちこちから依頼書を剥がし、息咳き込んで戻ってきた。
「そうだよな、ランクEだけで倒せるわけないもんな、納得納得。なんで初めに言ってくれないんだよ」
悪かったなランクEがゴブリンエンペラーを倒して。完全に俺の事を信用していないライゼルに若干不機嫌な視線をマルが投げているが、余計な事は言わないようにしたみたいだった。
あのあと受付でマルの冒険者カードを出したときも大騒ぎになりそうだった。ライゼルが横から口を挟んで、ギルドマスターには話が通ってると嘘をさらっとついたおかげで、大事にはならなかったが。
あとでライゼルが冒険者ギルドに何を言われようと、俺は知らない。
「それで、クリスタルリザードってどこにいるんだ」
依頼書には討伐内容だけしか書いておらず、依頼を受ける事でどこで魔物が目撃されたかな等の情報が貰える構造となっていた。
ディスパーの冒険者ギルドでも、昔は依頼を受けないと情報を貰えない形をとっていたが、毎日、酒を浴びるほど飲む冒険者達の口は軽い。あとは言わずもがなだったので、いつからか依頼書に全て情報が載るようになっていた。
「今向かっている鉱山の深部にいるっていうけど。本当にこいつを討伐するのかよ」
悪いが俺は鉱山の中までは危なくて案内できないというライゼル。
俺達が向かっている鉱山は、ランクB以上でないと入れない高ランク向けの鉱山だった。そんな鉱山のさらに深部で目撃されたというクリスタルリザード。
クリスタルリザードは、魔石を主食として活動しているらしく、体全体が魔石といってもいいほどの魔物だそうだ。これだけ聞くととても懐に美味しそうな獲物に思えるが、表皮は硬く刃物を通さず、魔法は体に纏った魔石に吸収され禄に効かないという。
普通だったらランクBの冒険者数人がかりで倒す相手なのだが、マルがランクAということで依頼を受ける事が出来たのだった。
「あーなんだ。とりあえずここまで案内したけどよ、危なくなったら逃げてこいよな」
わざわざ案内するだけで、馬車に三日揺られて辿り着く鉱山までつい来てくれたライゼルに感謝を述べると、馬車の向かう先に目的の鉱山が見えてきた。




