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鉱山2

 鉱山の入り口は、テレビでよく見た廃鉱の様だった。違いがあるとすれば、トロッコを運ぶレールが無いだけのように見える。それ以外は天井が崩れないように一定感覚で太い木材で補強が入れられている。

 朝日を背に俺達三人は鉱山の中へと足を踏み入れていく。鉱山の中は日が届かないせいか、気温が幾分か低くじめじめと湿気が多かった。


「ディスパーにはダンジョンってのがあるんだろ」


 ライゼルがカンテラを持って俺達を先導しがら話しかけてきた。

 廃鉱に入ってすぐは、カンテラの灯の揺れ具合に気をつけろ、毒ガスが出ているかも知れない。天井から垂れてくる地下水を目や口に入れるな。地下深くに行くほど毒水になり体が蝕まれるぞ。と、最初は鉱山に関することばかりだった。

 話が尽きたのかどうなのか突然俺達がやってきた街の話になった、一体どうしたのかと思ってしまった。


「その様子だとやっぱり知らないよな。この鉱山にまつわる伝説ってやつさ」


 話の続きを喋る前に、壁面から魔石を見つけたライゼルは慣れた手つきで掘り出すと、俺に投げて寄越した。


「いいのか」

「こんな所でとれる魔石なんて大した価値なんかないからな、記念にどうだ。それよりも、実はこの鉱山はな」


 くるりと振り返り、カンテラの灯りを顔に近づけて雰囲気を無駄に作ろうとするライゼル。ライゼルの性格が災いしてか、怖さはほとんど感じなかった。


「ダンジョンの死骸って噂なんだぜ」

「「!」」


 思いも寄らない話に俺は一瞬、心臓が跳ねたように驚いてしまった。となりではマルがヒュッと浅く息を吸った音がした。


「ディスパーから来た冒険者にこの話をすると絶対に驚くんだぜ」


 いたずらに成功したような笑顔を浮かべ、再び前に進み出すライゼル。

 からかわれた事に気付いた俺はちょっとむっとしながらも、ライゼルが言ったダンジョンの死骸という言葉について考えていた。

 住処を提供する代わりに、いずれ魔獣や魔物を飲み込んでいくダンジョン。ダンジョンから魔物が溢れればスタンピードになり、ダンジョンが飢餓状態になってもスタンピードになる。

 ダンジョンの死骸。

 俺は鉱山という存在が、途端に不気味に思えてきたようだった。


「そろそろ着くぞ。ここが一番浅い上層の採掘場だ」


 鉱山の通路から採掘場に出ると、一気に視界が広がった。そこかしこに篝火が焚かれ、かなりの明るさをほこっている。

 まるで大きな広間を露天掘りしているような採掘場では、数多くの冒険者らしき人達がピッケルを使って魔石を採掘していた。


「すごいな、此処全部が採掘場なのか」

「おいおい、一番浅いって言ったろ。まだまだ下にも採掘場はあるんだぜ」


 あまりにも広大な採掘場を目にして、ついつい地球に居た頃のくせで東京ドーム何個分なんだよと口にする位だった。

 マルが首を傾げていたが、何かに気付いたのか俺の袖を引っ張ってきた。


「シュウさん、上が……ない」


 マルの言葉の意味がいまいち分からず、マルの視線を追って上を向くとそこは真っ暗だった。篝火の明かりは届かず、篝火から立ち上る煙もどこへいったのか分からない。

 俺の胸にあるものを押し付けてくるマル。俺は一体なんなのかと思って見ると、夜目のポーションだった。

 これだけの篝火の灯りがあり、夜目のポーションを使ったマルが天井が見えないって事は、本当に天井がない? だとしてら空が見えているはずだが、そんな様子は微塵もない。


『ダンジョンの死骸って噂なんだぜ』


 ライゼルの言葉が再び頭の中をよぎった。


「どうしたんだよ、お二人さん」


 俺達の様子が奇妙に映ったのだろう、ライゼルが心配げな様子で話しかけてきた。


「此処って、天井はないのか」


 俺の質問に困ったような顔を浮かべるライゼル。


「それについては今も学者達が研究してるぜ。此処の鉱山は採掘場として使ってる広間では天井が見つかった試しはない。ここから先の採掘場も同じような感じだな」


 さらに――と、とんでも無いことをライゼルは付け加えてきた。掘っても掘ってもそのうちに、掘った所が元に戻っているんだよ……と。


「だから聖王国では魔石は取り放題。祝福や結界なんかも維持し続けられるんだぜ」


 どこが誇らしげなライゼルを俺は不気味な事を言っている男としか今は見えなくなっていた。

 最初の採掘場はそのまま後にして、次の採掘場へと向かっていく。

 上層では大した魔石がとれないので、中層へそのまま行くそうだ。


「マル、何か感じるか」


 マルは俺が何を聞きたいのか分かったのか、何をと聞き返すでもなく首を横に振る。


「どうかしたか? そろそろ中層に着くぞ」


 上層の採掘場と同じように、通路から一気に視界が広がると篝火の灯りとともにすごい熱気が襲ってきた。

 中層の採掘場では、所々を赤い河が流れていた。

 溶岩で出来た河。所々に石でできた橋がかけられ、上半身裸になった人達が一心不乱に壁を削っている。


「どうだすごいだろ、ここがお勧めの中層の採掘場だ」


 どこからか湧きどこかへと消えていく溶岩。相も変わらず天井はなく、夜目のポーションを使っても見通す事が出来ない。


「ここは良い魔石が取れるんだが、長いこと居られないからな。さっさと準備して掘るぞ」


 ライゼルは空いている壁に陣取ると、荷物を下ろし早速ピッケルで魔石を掘り始めた。


「おいおいどうした。早くしないと茹で上がっちまうぞ。魔力が感じられるなら、その場所に向かって掘れば魔石が見つかるぞ」


 俺とマルはしばらく見つめ合った後、不安を感じながらもとりあえず採掘を開始した。

 確かに魔力を感知した先に掘り進めば簡単に魔石が見つかる。ただ、どれも先日のゴブリン達の魔石よりも質は低く感じた。

 体から溢れた汗で服が張り付いて不快感に耐えられそうになくなったとき、俺達は採掘を辞めて外へと戻る事にした。


「二人とも採掘の才能があるんじゃないのか。俺の倍以上も取ってるなんて自信なくすんだが」


 袋がパンパンになる程に採掘した俺とマルと違って、ライゼルの持つ袋はまだまだ入りそうだった。


「ライゼルさんが魔力を感知できた所を掘れば良いって教えてくれたから」

「いや確かに教えたけどさ、それでも、それでもだぜ。俺は経験車なのに」


 鉱山の入り口までグチグチ言っていたライゼルは「そうそう、言い忘れてた」と重要な事を言ってきた。


「鉱山から出る時に掘った魔石の一割は徴収されるからな。大教会と同じで魔石鏡で確認されるから誤魔化せないぞ。誤魔化したら捕まるから駄目だからな」


 魔石鏡。俺達が持ち込んだ魔石を鑑定していたあの魔道具の事か?


「ただし、鉱山内の魔物を倒して手に入れた魔石は徴収されないから。いっておくけど魔石鏡で掘った魔石か魔物からの魔石かは分かるから虚偽の報告禁止だぞ」


 俺もマルも、この時点で気付くべきだったんだ。持っている魔石を全て調べられるということを。

 ――徴収はされなかったがライゼルと教会の関係者は、ゴブリンエンペラーの魔石をみた瞬間、言葉も表情も消し死んだようだった。

 後日、冒険者ギルドと教会から俺達は呼び出されることとなった。

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