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鉱山

前話の終わり方を2020/5/10に改稿しています。

「どうしようか……これ」


 荷物袋から大事そうにマルが取り出したのは、ゴブリンエンペラーの魔石。

 色も形も大きさも、どれをとってもそんじょそこらの魔石とは一線を画していた。


「聖王国での魔石の扱いがアレだったからなぁ。出したら目立つことになりそうだよな」


 国を維持するために魔石が必要な所に、こんなものを持っていけば何処で手に入れただの、もっと持って無いかだのと、言われることは想像に難くない。


「聖王国で魔石が重宝されてるって知ってたから、質の高い魔石を手に入れておきたかったんだけど」

「予想を超えすぎてて逆効果ってか」


 コクりとうなずくマル。

 エスレクの街でスタンピードを回避するだけでなく、魔石も目的としていた理由は分かったが、本末転倒になるとは。


「俺一人で冒険者ギルドに持っていったらどうだ。値段は下がるがこの際、面倒事は早めに終わらせるか?」

「ランクEなのに災厄級の魔石を持ち込んだら、十分怪しまれると思うけど。それに今日のライゼルさんの話しぶりからすると、冒険者ギルドも大教会に魔石を持ち込んでるんじゃないかな」


 ああ、それはあり得そうだな。そういや、透明な魔石だから値段が下がってるみたいな事を言っていたし。冒険者ギルド自体が魔石を大教会に持ち込んでいるのは確実か。


「馬鹿正直に出すのはマルに危険が及ぶだろうから無しとして……」

「え? あ、うん」

「うん?」

「な、なんでもない」


 一瞬狼狽えたように感じたマルは、気付けばすぐに元通りのマルになっていた。別に気になるような話は言っていないはずだが。

 マルの様子はそれ以上変わることはなく、このまま話を続ける事にした。


「マルはこの魔石が和平の材料になると思うか」


 マルの二つ目の目的が、聖王国と魔人との和平だという。


「今は分からなくなった、が正直な気持ちかな。高価な貢ぎ物をして相手の心象をよくするとか、そんな考えはあったけど今日の話だと逆効果になりそうで」

「狙われるってか」


 マルは顔を俯きがちにして視線を逸らす。


「狙われて困るのはマルだから、俺の事なんて気にする必要ないぞ。むしろそれを気にするのは俺だろうが。マルが狙われるんだから」


 顔を上げ、目をパチクリとして、マルは言っている意味が分からないという風にポカンとした表情をしていた。


「俺達が狙われて困るのはマルが獣人でも魔人でも、普通の人間じゃ無いってバレることだろ」


 だからと付け加えて、俺はマルを指差した。


「マルの護衛を『闇』ギルドから正式に請け負った俺が、雇い主の身の安全を心配するのは当たり前。雇い主のマルが雇われている俺の心配をするのはお門違い」

「なんか、私が悪女みたいに聞こえなくもないんだけど」

「いい女が男を良いようにするのはどこの世界も同じだっつーの。俺はマルが困ることになる事がいやだって言ってるの」

「そ、そう」


 また顔を俯かせてしまったマル。無理矢理とはいえ契約を交わしたんだから、俺は全力で依頼を完遂する。それをマルが気にするのはお門違いだ。


「今日の所は、この魔石は表に出さないってことにしておくね」

「そうしろ、そうしろ」


 俺の部屋に入ってきた時とは違い、何度も俺を振り返りながらマルがドアの眼の前に立つと「お休みなさい」と一言いって出て行った。


「ああ、お休み」


 部屋に来たときより挙動不審になったような気がしたが、本人が納得してくれたのなら良しとするか。

 それにしても、地球に居た頃も含めて自分の部屋に女の子が来たのはミラとセリスを除けば初だった。

 ミラとセリスは同じ地球出身ということでちょっと感覚が違ったが、マルのようにかわいい女の子が訪れたことに凄い緊張した気がする。

 かわいい?

 不意に自分で思った事を思い返してみると、俺はマルに似たような事を喋った気がすると後になって気がついた。


「いやいやいや、マルが可愛いのは事実だけど俺そんなこと口に出したっけ。あれ、あれ」


 ベッドの中で頭の中が疲れ切るまで悶えていた俺は、翌日寝不足で一日を過ごす事になってしまった。




 ライゼルとの待ち合わせ場所は冒険者ギルドとしていた。

 宿でゆっくりマルと朝食を取りたいという気持ちもなきにしもあらずだったが、それよりも出来るだけマルと接触する人数や時間を減らしたかったのだ。


「昨日は初めての聖王都ではしゃぎすぎたのか? 二人とも眠そうだな」


 クエストボードを眺めていたライゼルに声をかけると、人の良さそうな笑顔で挨拶を返してきた。


「今日はどうするんだい、また聖王都の中を案内するかい。それとも聖王都ならではの依頼とか受けてみるか」

「聖王都だからある依頼、ですか」

「エスレクのダンジョンみたいなもんでもあるのか」


 ちょっとキモく頬を紅潮させ、興奮気味にライゼルが説明口調で語り出す。


「なんとなんと! この聖王都の近くには魔石が採掘される鉱山があるんだよ。そこで採掘するも良し、採掘者の護衛をするもよし。もちろん採った魔石をどうするかは自由だぜ」


 しかもその魔石が出る鉱山が一つや二つではないらしい。場所によって現れる魔物の質が違うため、冒険者のランク制限があるとのことだ。


「ランクEでも入れる鉱山はあるんですか」

「だな」

「魔石を掘るねえ。なんか楽しそう……かな」


 俺達の興味津々な態度を嬉しそうに眺めていたライゼルが、クエストボードの横に束ねられている紙を一枚渡してきた。

 そこには冒険者名とランクが記載されるところがあるだけの紙だった。


「それに自分の情報を書いて受付に持っていけば、鉱山に入る許可証が貰えるぜ」

「あ、そうなると私は」


 冒険者カードを持って無いという事にしているマルは、もしかして置いてけぼりになるのではないかと焦っているようだった。


「ランクEが入れる鉱山なら、冒険者と一緒に一般人も入れるから安心しな」


 胸に手を当てて安堵するマル。俺としてもマルと別行動なんてあり得ない。


「どうだ。俺を雇って正解だって思ったんじゃないか」


 思った、確かに思ったけど。それを自分で言っちゃうところが、なんかライゼルらしいと思えた。


「鉱山に行くなら、鉱山の入り口に小さい町が出来てるから準備は体だけで大丈夫だ」


 ただ、と一つ微妙な顔をしてライゼルが付け加えた。


「鉱山の町でも魔石の買い取りをしてるが、冒険者ギルドに売るのとだいたい同じ値段になる。だから、それなりに滞在して魔石を多く掘って聖王都で売らないと稼ぎは少なくなるからな」


 改めてライゼルを雇って良かったと思えた。




「聖王都の案内だけなんだから、ライゼルまでくる必要はなかったのに」

「連れないこと言うなよ。第一、聖王都の案内だけであれだけの金を貰ったんじゃ気が引けるからな」


 お昼に再度祝福してもらう為に大教会に寄った後、定期馬車に揺られディーバ鉱山に向かっている。

 ディーバ鉱山はライゼルが言うランクEでも入れる鉱山とのことで、マルには悪いが俺は初めての経験に少し心がうきうきしていた。

 マルとは準備と称してライゼルと分かれたあと、魔石に関する情報を集めようと言うことになった。

 魔石が国のあり方に深く関わる聖王国。その中で魔人との和平を勝ち取る為には、もっと魔石のついての情報が必要なことだろうというのが俺達の話し合いの結果だ。

 定期便を守る冒険者もおり、鉱山まで何事もなく辿り着く事ができた。

 早速冒険者ギルドで入坑の手続きをとり、今日は食料や野営具など鉱山で必要となる道具を買い集める事に費やした。


「一応、ここの鉱山の中層までは俺でも行ったことはあるけど、正直大した魔物や魔獣は出てこなかった」

「つまりそれ以降はってことですか?」

「マルの嬢ちゃんの言うとおり。時折、最深部とかで力の強い魔物が出たとかって話もあるからな。俺達が行くのは中層までだ」


 条件さえ守れば安全だというライゼルがまるで引率の先生のようで苦笑が漏れた。ライゼルもそれを分かっているのか笑っていた。

 だけどマルだけは真剣な表情で、なんで真剣なのか思い出した俺は気を引き締め直して鉱山へと足を踏み入れた。

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