魔石と聖王国
2020/5/10 最終文を一部修正しました。
聖王都に張り巡らされた道は単純明快。蜘蛛の巣のように大教会を中心として放射線状にメインストリートが伸び、それぞれが綺麗に円形状に繋がれていく。
ライゼルが説明するに、移動や過ごしやすさを重視した作りとなっているそうだ。
だからといって、外敵から身を守るに適さない訳ではないらしい。大教会へ向かう途中、所々にある移動式の擁壁を案内してもらった。
この擁壁を非常時には移動して、聖王都内を即席の迷路にするそうだ。
「そんな事態になった事なんて、今まで生きてて無かったけどな」
物騒な話をしてすまないなと、ライゼルが笑いながら引き続き大教会まで案内を続ける。
大教会までは迷うようなことはなく、俺達が聖王都に入った時の入り口からまっすぐ向かえばあるとの事だった。
「っと。そこの通称貴族門をくぐったら、下手に横道に逸れるなよ。何かあっても俺達みたいな立場の低い人間が割を食うだけだからな」
商店や露店などが立ち並んでいたさっきまでの道とは違い、中門を通ったあとは人の気配が一気に減ったような感じになった。
それに、雑多な雰囲気がガラリと変わり品格を感じるように変化していた。
「大神殿は中央の内門の役割も兼ねてるから、ここからそう遠くはないんだが。やっぱりここの雰囲気は慣れないな」
大神殿へ行く道以外に歩く人はおらず、横道ではそこかしこを馬車が走っていた。
大神殿という言葉から勝手に地球の世界遺産みたいな物を想像していたのだが、現実はそれは遥かに超えたものだった。
一言で言えば城だった。
教会関係の施設が集まる中央へと至る門。それがあまりにも巨大で荘厳で、城にしか見えなかった。というかアニメとかで見たことのある城そのまんまだった。
「これが聖王都が誇る大神殿だ。どうだすごいだろ」
まるで自分の事のように誇らしげなライゼルが、ほほを緩めて自慢してくる。おっさんのそんな顔を見れて何が得なのか分からないが、凄いと言うことは伝わってきた。
「この大神殿より先は、教会関係者か貴族や王族じゃないと通れないから注意な」
ライゼルの言葉が頭の中を素通りしそうなほど、大神殿に入った俺とマルはその存在感に圧倒さていた。
ただデカいだけではなく、計算され尽くしたかのように調度品や柱の位置が決められている気がした。そう、この大神殿という城そのものが芸術品と呼ぶに相応しい威容を誇っているのだ。
口から溜息しか出ない俺達の様子をみて、まるで子供を引率する大人のような笑顔を見せるライゼル。
それに気付いた俺は途端に恥ずかしくなり、一度咳き込むと真剣な表情を作りだす。
「ライゼルさん。魔石は何処で買い取りを行ってくれるんですか」
口の端を若干つり上げ、真顔を作り損ねているライゼルだったが、冒険者ギルドを通した依頼はしっかりとこなしてくれる。
冒険者ギルドと違って遥かに多い受付の中から、魔石に関する受付を教えてくれる。俺達を引率するようにしながら、ライゼルは受付に俺達の事を紹介していく。
この聖王都の来たばかりで、魔石の相場の事を知らない俺達。そんな俺達に受付に並ぶシスター然とした格好の人は、穏やかな笑みを浮かべて懇切丁寧に教えてくれた。
不思議な事に魔石を一度売り払った後、その魔石を無料で返還してくれるらしい。そしてその返還された魔石を再度冒険者ギルドで売るのが当たり前なのだそうだ。
だからこそ、冒険者ギルドで売るより二倍以上の値がつくとの事だった。
話を聞いた俺の頭の中はちんぷんかんぷんになっており、隣のマルも同じなのか難しい顔をしていた。
「とりあえず百聞は一見にしかずだな。ほら、買い取ってもらえって」
俺達は大量の魔石を冒険者ギルドと同じように、カウンターに魔石を置いた。
すると、何かしら虫眼鏡のような物をシスターが取り出すと、紙にスラスラと何かを書き始めた。
「随分良い品質の魔石ですね。手早く魔物を倒さないと、ここまで魔素が残留した魔石は残らないのですが」
聖王都までの旅路で出会った魔獣や魔物ははっきりいって雑魚も良いところだったので、出会い頭に首をはねたりして即死させていたのだが。
「有望な冒険者が集うのは、教会としても大歓迎です。全て買い取りで?」
俺が頷くと中世ヨーロッパのドラマとかで出てくるような天秤をカウンターの下から取り出し、片方の皿に先程の虫眼鏡を置いた。
大きく傾いた天秤の逆の皿に、金貨を手慣れた様子で載せていくシスター。
金貨五枚を乗せたとき、天秤は平衡を保って静止した。
「では、金貨五枚と引き換えに魔素の属性を頂きます」
意味は分からなかったが、金貨五枚という破格の金額に驚いていた俺はそのまま頷いてしまった。
今度は鮮やかな金糸や銀糸で彩られた布が魔石に被せられると、布が一瞬輝きその下にあった魔石は黒から透明に変質していた。
「ほら、残った魔石はおまいさんらに返却だぞ」
悪戯が成功したような笑顔でライゼルが言う。俺とマルは恐る恐る透明になった魔石を手に取ってみるが、特段何が変わったか分からなかった。
冒険者ギルドへ取って帰り、透明になった魔石を買い取って貰う。さっきとは違い、すぐに評価額が示され、全部合わせて金貨一枚となった。
二倍どころの話ではなかった。
「属性を抜かれた後の魔石だから、さっき渡した奴よりは値は下がるからそこは勘弁してやってくれ」
ライゼルがフォローすると、安堵の息を吐いたギルドの職員。
冒険者ギルドから大神殿までを往復したおかげで、時間としては夕飯時としても少し遅めとなっていた。
当初の約束通り、ライゼルのお勧めの食堂で奢りながら詳しい話を聞くこととした。
「魔石がどんな使われ方をしてるか分かってるだろ」
魔石の使い道。一番多いのが魔道具のコアとしての使い道が思い浮かぶ。あとは、魔法を使うときの触媒とかか。
「それじゃ、魔石が黒い理由ってのも分かるか」
これには全く想像もつかず首を振る俺達。
腸詰めを茹でた物を頬張り、飲み下してからライゼルが答えを言う。
「魔法と同じように、魔石に中には複数の属性の魔力が渦巻いてて黒く見えるんだってよ」
さらにライゼルはもう一口腸詰めを食べる。
「教会では混ざっている属性の力を取り出すことが出来るんだ。教会は魔石に宿った属性の力が欲しい、冒険者ギルドは魔石に残った魔力が欲しい」
さらに! と、冒険者ギルドで魔石を売らない方が良い理由をさらに付け加える。
「透明になった属性無しの魔石ってのが、魔道具を作る際にすっげー扱いやすいんだとよ」
これだけ聞けば、冒険者ギルドでそのままの魔石を売るのがどれだけ馬鹿らしいかが分かってくる。
「「教えてくれて有り難うございました」」
「ああ、それじゃまた明日な」
宿へと帰り、俺が取った部屋でまっているとドアがノックされた。
静かにドアを開けると、同じく気配を殺したように静かにマルが入ってくる。
部屋に備え付けられた椅子に座った俺達は、テーブルの上に置いた袋を見つめていた。
袋の中身はゴブリンエンペラーの魔石。教会や冒険者ギルドに渡さなかった唯一の魔石がそこにあった。
「聖王国で魔石が重宝されているのは知っていたので、大事に取っておいたのですが」
マルはそれ以上の言葉を言えないようだった。
「まさか、聖王国の結界にというか仕組みに魔石から抜いた属性の力が……とは普通は考えつかないよな」
ライゼルが教えてくれた情報の中で、一番衝撃的だったのが魔石から抜いた属性の力を加工することで祝福の力に変えているという事だった。
国の屋台骨のじゃないかと思える力。それが魔石から得られている物だと知ったとき、頭の中をゴブリンエンペラーの魔石が過ったのだ。
災厄級と言っても良い魔物の魔石。もしこれをあのとき買い取りに出していたらいったいどうなったのか。
マルはこのゴブリンエンペラーの魔石の扱いと、これからの行動について話し合う為に俺の部屋を訪れたのだった。




