案内人
冒険者ギルドの中は、外と同じで白亜の白のような内装だったが、受付やクエストボードが設置されているのは今までと同じだった。
ただ、カウンターやクエストボードに使われている素材が美観を損ねないためなのか、やけに豪華な気がして違和感が凄い。
「私も聖王都の冒険者ギルドに来たのは初めてですけど。色々な意味で凄いですね」
マルの感想に同意する。どうにも見た目と中身がちぐはぐな感じがして落ち着かない。
「あっ、あそこが素材の買い取りの受付みたいです」
聖王都に来るまでに遭遇した魔物や魔獣、薬草などの素材は旅の日数も日数だったので、それなりに溜まっている。途中の街にあった冒険者ギルドでも売り払ってはいたが、それでも溜まる物は溜まる。
魔法使い職の人も結構いるので、フードで顔を隠していてもマルが絡まれる事は無かった。護身用の剣をだと言えば、マルも魔法使いに見えるだろう。
とくに絡まれたりする事もなく、すんなりと買い取りの順番になった俺達は、素材としてそこそこの量の魔石をカウンターに乗せた。
――!
魔石をカウンターに乗せた途端、冒険者ギルドから音が消えた……気がする。
いや、周りの冒険者や職員の目が魔石に釘付けになっている。
「これ全て、お売り頂けるんですか」
まるで信じられないようなものを見る目で、伺ってくる受付の職員。
俺とマルは状況が分からず、目をぱちくりさせながら互いの顔を見つめ合う間抜けな絵面になってしまった。
「えと、そうですけど。何か問題が?」
状況が飲み込めなかったが、聖王国内の街では普通に買い取って貰っていたのだ。聖王都だけこんな反応が出る理由が分からない。
「いえいえいえ! こちらとしては大歓迎です」
「ちょっと待てよ」
魔石を鑑定するために奥へ運ぼうとする職員に待ったをかけたのは、見たことも話したこともない冒険者の男だった。
歳は三十中盤といった感じで、いかにもベテランといった雰囲気と装備だった。
「おい、おまえら少量ならともかく、これだけ大量に魔石があるなら教会へ行った方がいいぞ」
「ちょっとライゼルさん、勝手なこと言わないで下さいよ」
「ああ!? 何も分からない冒険者から儲けを毟り取るのが冒険者ギルドのやり方か? ちょっと位なら俺も口出ししなかったが、あまりにも多過ぎだろ」
いきなり始まった冒険者ギルド職員と見知らぬ冒険者のにらみ合い。
周りは「おいおい」「お人好しのライゼルがまた始まった」「だから女に逃げられるんだよ「女は関係ねーだろ!」」と好き勝手に囃し立てていた。
当人達を放っておいて盛り上がる周りの職員と冒険者達。何が何だか分からない俺達はどう口を挟んで良いのやら分からず、オロオロしてしまっていた。
「おまえさんら聖王都は初めてなんだろ。他の素材はともかく、魔石は中央の大教会で高く買ってくれるからそっち行きな」
「ライゼルさん!」
なんで俺達が注目されていたか。ライゼルと呼ばれた冒険者が教えてくれた事で分かった。周りの反応から察するに、相当に金額が違うと予想できる。
「文句があるなら同じ値段で買い取ればいいだろ」
「それが出来たらやってますよ」
痛いところを突かれたのか、言われた職員だけじゃなく他の職員も苦々しい顔をしていた。
「シュウさん、どうしようか」
うーん、どうするもこうするもな。
マルは今回の事は俺に一任するということなので、好きにさせて貰うことにする。
「今回は勉強代ってことで半分は冒険者ギルドで買い取りしてもらいます。残りの半分はえっと、ライゼルさんの言うとおり大教会に持っていきます」
職員もライゼルも良いのか悪いのか、なんとも判別しにくい表情をしているが、喧嘩じゃないけど喧嘩両成敗にさせていただく。何しろ痛むのはこっちの懐だけなのだから。
「シュウさんがいいなら」
早速魔石の半分を返して貰う。半分といっても、そこそこに量があったので買い取り金額は明日受け取りとなった。
「遅くなり申し訳ありません。冒険者カードの提示をお願いします」
俺が懐から冒険者カードを提出すると怪訝な顔をされる。
「ランクE……ですか? でもこれだけの魔石の量となると……」
ああ、ランクが低い割にも倒した魔獣の量が多いって事か。おれは隣のマルがランクAだからだと、職員に口を開こうとしたら変な声が出てしまった。
鈍い痛みに横をみれば、マルが無言で肘をおれの脇腹に突き刺していたのだ。
「私は冒険者ギルドに登録していないから、彼のカードで処理をお願いします」
いきなり何なのかと、何で嘘をつくのかと思ったがここは聖王都。マルが考えてそう判断したのなら、それに従おうと思った。俺には分からない事が多すぎるから。
疑わしげな目を向けられはしたが、何事もなく手続きの終わった俺達は冒険者ギルドを出た。特段だれにからまれるでも、問題があるでもなくとにかく普通だった。
「口を挟んで悪かったな。だけどさすがに、もったいないって思ってさ」
一人の例外を除いて。
ライゼルは冒険者ギルドから俺達の後をついてくるように出てきて、話しかけてきたのだ。
「あの場じゃ言えなかったけどな、魔石の買取額が大教会と冒険者ギルドじゃ倍以上違うんだからな」
倍以上――か。そりゃさすがに騒ぎになるか。それに、俺達が相当な世間知らずに見えたんだろうな。
「二人は聖王都の外から来たのか。それとも聖王国以外の国からか」
自然と距離を詰めてくるライゼル。『お人好し』と呼ばれていたのもあって、本当に善意から言ってくれているのかも知れない。だけど、こっちはマルの件があるので目立ちたくはないのだ。
ああ、そうか。だからマルは自分の冒険者カードを出さなかったのか。
ランクAなんてなればそりゃ、どうやっても目立ってしまうか。マルが此処で目立つのは得策じゃないってのに。
「てことは大神殿の事も知らないんだろ。夕飯一回分で聖王都の案内をしてやろうか」
ただで親切にされるのは怪しいことこの上ないが、大した対価も無しに親切にされるのも素直に喜べないもんなんだな。
マルも同じ事を考えているのか、胡散臭そうな目でライゼルを見つめていた。
「俺ってそんなに信用できなそうか」
大の大人が突然頭を抱えるように、往来で唸り始めてしまった。
「彼女が出来ても貢いで逃げられるし、他の冒険者とパーティを組んでも何だかんだ理由をつけて報酬が等分に分配されないし……あの時も……この時も……」
黒い影でも背負ってるんじゃ無いかというくらいに暗く落ち込んでいくライゼル。次第に周りの視線も「何時ものが始まった」「今度はあの二人か」と注目を浴び始めてしまった。
「ああ、もう」
マルは俺に此処で少し待っててというと冒険者ギルドに入って行ってしまった。
俺はマルを待つ手前、呪いのように呻き続けるライゼルから離れることができず、ずっと周囲の注目を浴びることになって精神がゴリゴリと削られていく。
後になってマルの後をついていけば良かったのだが、そこまで頭が回らなかった。
そんな事を思っていると、マルが一枚の用紙を片手に戻ってきた。
あ。
俺はマルが何をしてきたのか、その紙をみて一瞬で理解した。まさに、俺がマルにしたことなのだから。
紙を渡されたライゼルは鳩が豆鉄砲の様な顔をして、マルと俺を交互にみつめると、相好を崩して頭を掻き出した。
「へへ、なんか小っ恥ずかしいけど嬉しいもんだな」
マルが差し出した「聖王都の案内」の依頼書にライゼルはサインをすると、スキップでもするんじゃないかという位の勢いでライゼルは冒険者ギルドの中へ入っていった。正式に手続きを済ますのだろう。
「変な人だけど悪い人じゃ無さそうだし。いいよね」
事後承諾となって申し訳なさそうにするマル。
「同じ事をした俺にそれを言うのか」
してやったりと悪戯っぽく笑うマル。
こうやって、聖王都の短いか長いか分からない生活に、ライゼルという案内役が出来る事になった。




