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終息

今回は結構短いです。

 背中ではローブ一枚で返り血だらけのマルが静かな寝息を立てている。

 あれから糸が切れたようにマルはその場で倒れ伏してしまった。俺達はとても慌てたのだが、穏やかな寝息を立てて寝ているだけだと分かり、気が抜けたのにはまいった。

 冒険者のご褒美として、ダンジョンにゴブリン達の遺体が食われる前に上位種を優先で魔石をとっていたが、とても取り切れる量じゃなかった。

 俺以外の二人はまるで昔の漫画であった夜逃げのように、パンパンになるまで魔石を詰めた袋を背負っている。


「お、重すぎます」

「だな。捨ててくるほどの魔石の量を持ち帰るなんて人生初だぜ」


 ジギスとトーラは口では文句を言っているが、頬がさっきから緩みっぱなしになっている。

 ゴブリンの上位種の魔石は、ただのゴブリンと比べるとはるかに大きかったので、それが大量にある今の気持ちは分からなくもないが。


「シュウさん」

「ん?」

「その、本当は本人に直接聞くのが良いんでしょうけど……マルさんって何者なんですか」

「それは俺も聞きてえな」


 マルがこの状態で本人の事をあれこれ教えるのは、なんとなく気分が良いとは言えない。短い付き合いだけどマルなら怒らないだろうと思う。けど、それは今度だな。


「細かい事は彼女が起きてから聞いてくれ。今言えるのはそうだな、彼女がランクAの冒険者ってことかな」

「「ランクA!」」


 二人が驚くのもしょうが無いかと思う。『闇』ギルドのランクSが表沙汰になっていない以上、実質ランクAが冒険者の到達点の一つなのだから。


「もしかしてシュウさんが会う予定のランクAの冒険者って」

「そうそう、背中でぐっすり寝ているマルの事だよ。マルに用事があったんだけど、この様子じゃしばらく先になりそうかな」


 再会してそうそうこんな事件に巻き込まれ、当の本人は力尽きて夢の彼方。起きるまで数日かかるだろうなと予想出来る。


「それはそうとさ、夜目のポーション使ってるけど何でダンジョンの火が落ちてるのに周りが見えるんだ」


 あっ、このタイミングで気付くのかよ。いや、気付いててこのタイミングだから聞いてきたのか?

 チュートリアルのスキルの中から勝手にバフを掛けたのに気付かれてしまった。はっきりいって俺のスキルは説明がし難いし、したらしたで異世界人だってこともばれるし。

 二人の視線が俺に自然と集まっている気がするが、俺は気付かないふりをして前を見続ける。

 微妙な雰囲気がしばらく続いたが「冒険者の手の内を暴くのは褒められた事じゃねーな」と諦めてくれた。

 もうバレバレだけど。


「そういえば、トーラは克服できたのか」


 ジギスも居るのであえて何がとは言わないが、トーラの人間や人型の魔獣に対してのトラウマは克服出来たようだった。

 ゴブリンエンペラーと対峙している間は、他の事に意識を割く余裕なんてなかったからどうなったか心配だったが、場数がものいったらしい。


「気付いたら、ですね。あはは」


 マルが討ち漏らしたゴブリン達とはいえ、それなりの数になったらしく気付けばそんなことに気を回す余裕はなかったそうだ。

 話し続けているうちに、ダンジョンに火が灯り始めた。朝焼けのように地平線から明るくなっていくのではなく、世界全体が一気に明るくなっていく不思議な光景だった。


「おーい」


 気付けばダンジョンの入り口近くまで到達していたのか、入り口を守っていた冒険者達が俺達に遠くから手を振ってきた。

 俺達も声を張り上げて手を振ると、疲れ切りながらも明るい笑顔を見せてくれた。

 どうやら俺達が倒した本陣の他にもゴブリン達の群れはあったらしく、ある時を境にするまでずっとゴブリン達の攻勢に晒されていたらしい。

 恐らく、ある時というのは俺がゴブリンエンペラーを倒した時だろう。

 お互いに大きな包みを持っているのを確認した冒険者達。生きて再会して嬉しいよりも儲けがすごすぎて嬉しいという体になり、つくづく冒険者だなって俺はあきれ顔をしていたのだろう。

 となりではトーラが苦笑しながら俺に顔を向けてきた。


「さあ、帰りますか」

「おいおい、そりゃないだろ」

「そうだぜ。こんな時に主役がこれじゃ締まらねーな」


 俺はまだダンジョンで稼ぐつもりなのかと、本気で呆れそうになったがそうではなかったようだ。

 一人の冒険者が俺の耳元で「……だろうが」と親切に教えてくれた。その冒険者は、一緒に死線を潜り抜けたジギスだった。

 出会いは最悪だったが、ジギスの事を知った事で今では見る目が変わっている。ぶっきらぼうで言葉は悪いが、とても優しいく面倒見の良い男だ。

 俺はジギスに教えて貰った言葉を腹に力を入れて、大声で叫んだ。


「さあ、エスレクの街へ凱旋だ!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 笑顔で猛々しく吠え合い、背中や肩をバシバシと叩き合う。たった一夜だったが、気の遠くなるような一夜は俺達を生涯の友するには十分だった。

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