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スタンピード3

 下級ポーションを全員に分配し、数名は連絡係として街へと向かってもらった。予想外だったのは誰も彼も連絡係をやりたがらず、命の危険のあるスタンピード対策の方へ手をあげたのが大半……というか全員だった事だ。

 連絡係も脚が早いだの体力があるやつがやるべきだとか、押し付けあって話が進まないので俺が軽装の三名を無理矢理指名したのだ。

 なんで俺がスタンピード対策のリーダーみたいになってんだよ。


「シュウさん、これシュウさんの分のポーションです」


 いざとなればスキルを使おうと思っていた俺はポーションの分配を拒否したのだが、トーラは律儀にも残してくれていた。


「ありがとう」


 素直に礼を言うとトーラは、はにかむような笑顔を見せてくる。


「これより作戦を説明する」


 俺の言葉に真剣な表情で見つめてくる冒険者達。俺が立案した作戦とはいえこうも冒険者達が素直に聞いてくれるとは思っていなかった。


「ダンジョンの入口に陣取り、前衛が傷つけば後衛がポーションで回復か、持ち場を交代して時間を稼ぐ。ゴブリン共も上位クラスが多いとはいっても一度に相手にする数が限られればなんとかなる」

「話の腰を折ってわりぃけど、一ついいか」


 どうもトーラはこの喧嘩腰の冒険者が苦手みたいで、毎度毎度目つきが鋭くなってしまっている。


「俺もあんたと一緒の遊撃に入れて貰って良いか」


――遊撃。


 どう表現したら良いか分からないので遊撃なんて言葉をつかったが、ようは混乱に乗じてスタンピードの親玉の首を狩るのが仕事だ。

 その混乱とは例の何かが暴れている隙にという事だ。


「駄目に決まってるじゃないですか。遊撃は何かを見ているシュウさんと私が適任だって話に落ち着いたはずです」

「いや、トーラも此処で防衛に回ってくれ。遊撃は俺一人で良い」

「な!」

「だよな。そんな貧相な剣一本でゴブリンの群れに挑むなんて馬鹿のすることだぜ。俺みたいに『予備の予備』まで魔剣を持ってるなら別だがな」


 冒険者は「まっ、予備の予備まで使うなんて事になる前に俺が死んでるだろうがな」と、まるで俺を見ていないように語りかける。


「シュウさん……」


 冒険者と俺を交互に見て何かを訴えてくるトーラ。何を言いたいかなんてこのやり取りを見ていたら丸わかりだが、それでも危険な事には――。


「言い忘れてたが、俺の名前はジギス。ランクB目前の冒険者だ。これでも何人も冒険者を育ててきたからな、お守りは得意だぞ」


 ジギスと名乗った冒険者の言葉に、じゃっかん剣呑な雰囲気を漂わせながらもトーラは俺を見つめる。


「アンタも俺達も、街にいった奴らも。誰もかれもが失敗すれば同じに結果になるんだ。安全なんて言葉は冒険者にはないはずだぜ」


 二人の言葉に同調するように、周りの冒険者達がうなずき合っている。


「多分、一番危険な役割だぞ。俺の予想が外れていたら必ず死ぬ事になるぞ」

「元より一度救われた命です。ここで出し惜しむものではありません」

「ほらよっ。刀身には触れるなよ、炎の魔剣だから火傷するからな」


 トーラは予備と言うには豪華すぎる魔剣を受け取り、しっかりと腰に佩いた。

 これで遊撃部隊は俺達三人が担うことになった。


「でも、いくら何でも新人の俺達にこんな大役を任せてくれるとはな」


 俺の言葉に何人かの冒険者が苦笑を漏らした。


「ただの新人が俺達より後に出口に辿り着いて無傷なんだ。その時点で俺達のなかじゃあんたら二人は新人じゃねぇさ、俺達と肩を並べられる冒険者だろ。それに相方が何度もシュウだったか、の力量を誇ってたからな」


 トーラは俺が周囲に舐められるような事を言われると、自分の事のように、いや自分のことよりも憤ってくれていた。それがこんな形になるなんて。

 作戦が整い陣形というには心許ない配置も整った。あとは、各人が持ち寄ったゴブリンの情報を元に、対応するだけだ。




「しっかし、ゴブリン達の本陣にかちあって五体満足で生き残ってるなんて、有望な新人がいたもんだな」


 ダンジョンの出口への道を固めるのは、エスレクの街でもそれなりに有名な冒険者達だった。

 十年に一度ほどで起こるスタンピード。弱い魔獣を狩りすぎれば強い魔獣の餌がなくなり、強い魔獣がダンジョンの外へ出てきてしまう。

 逆に弱い魔獣を放っておけば、増えすぎた弱い魔獣が外へと溢れてしまう。

 絶妙なバランス感覚をもった冒険者とエスレクの冒険者ギルドの協力によって数百年以上、エスレクは平和を守ってきていた。

 前回のスタンピードから既に二十年が過ぎようとしているこの時、彼らは一体何が起こっているのか調べるために、討伐の傍らダンジョンに来ていたのだった。


「俺達が見たのはウォーリアとマジシャンくらいだったが」

「シュウがいうにはジェネラルも見たってことだよな」

「キングにクイーン、エンペラーか……此処までの群れになるとさすがに居るんだろうな」


 ゴブリンキングとクイーンは合わせて産まれることが多く、二匹合わせてランクA相当という扱いになっている。大してエンペラーは単体でランクA以上と、それはすでにゴブリンという枠から外れた災厄級の魔物だった。


「シュウが言ったことが本当なら、勝つ見込みは少しはあるんだろうけど。信じるんじゃなくて縋るしかないなんてな、長い冒険者暮らしでここまで惨めな気持ちは初めてだぜ」

「無駄話は終わりの様ですよ」


 周囲を警戒していた斥候の役割の冒険者が戻ってくると、ある一方向を指し示して厳しい顔をした。


「はんっ。お出でなすったか」


 剣を、盾を、斧を、槍を――各々の武器を手に持ち、外への道を死守しようと冒険者達の長い長い戦いが幕を開けようとしていた。




 俺とトーラとジギスは、ゴブリンの本陣があった場所に向かって身を隠しながら進んでいた。

 さすがランクB目前というだけあって、俺達が本気で走っても難なくついてくるし、隠蔽系のスキルも持っているのか気配を薄く感じる。

 俺もパッシブになっている気配隠蔽を使用し、トーラは野草を磨り潰した液と土を混ぜた物を体中に塗って、スキルのハンデを補っていた。


「おまえ、面白い技術知ってるな」

「トーラです。私の師匠がスキルに頼り切るのを是としない人でしたので色々と教わりました」


 師匠……トーラの父の事か。腕っ節だけで騎士爵を賜ったって言うのは伊達じゃないってことか。


「そろそろ、本陣があった場所に着くぞ」


 俺の言葉に二人は背を低くし、ジギスはさらに気配を薄くさせる。

 俺達がゴブリンの本陣と出会った場所には、おびただしいほどの壊れた武具が散乱していた。

 鎧に盾、剣に槍に杖。弓矢やローブなんてもの大量に転がっている。だが、肝心の死体がいっさい見つからなかった。


「ダンジョンに吸収された後か。どんな上位種がいるか実際に見ておきたかったけどな」

「吸収?」

「おいおい」


 ジギスはトーラに睨まれながらも、ダンジョンでは死体はダンジョンに吸収されるのが常だと教えてくれた。ダンジョンは内包する世界に生物を住まわせる代わりに、役割を終えた生物の体を養分として取り込むそうだ。

 どんな危険なダンジョンでも、入り口を塞いで埋めることを事が出来ないの理由だそうだ。もし、ダンジョンが栄養を得られずに飢餓に陥れば、今度はダンジョン自体がスタンピードを起こすそうだ。

 そのダンジョンが起こすスタンピードはすさまじく、周囲に浸食していったダンジョンが近くにいる生物を問答無用で捕食する。

 飢餓になったダンジョンが満足するまでどれだけの犠牲がでるかわからない、だから魔獣が中で繁殖するのを看過し、定期的に間引いているそうだ。


「俺の考えはお節介だったってことか」

「そうでもねえぜ。少し前までは俺も真実を知らずにシュウと同じ行動をしてたしな」


 同じ考えに至っていたからこそ、言葉少なく意味が通じ合ったのか。ジギスが笑う姿を初めて見たが、いつもと違って年齢相応の姿に見えた。


(二人とも、少し静かにお願いします)


 これまで黙って成り行きを見ていたトーラが声をだす。顔を見合わせた俺達は、言うとおりに口を噤んだ。

 ゴブリン達の所為で周りの魔獣が逃げたのか、とても静かな世界に似合わない小さくも激しい音が遠くから聞こえてきた。

 それは、ダンジョンの入り口と此処を直線で結ぶ道より少し外れた所だった。


「ゴブリンの群れに単独で突っ込む何かねえ。シュウの言葉はさすがに信じ切れねえが、それでも信じるしかないんだろ」

「ああ、此処で死ぬか街で死ぬか。どっちにしろあんな大群をどうにかしないと運命は変わりそうにないからな。少しでも可能性があるならマシだろ」

「縁起でもないこと言わないで下さいよ。私はシュウさんを信じます」


 俺達のする事は、ゴブリンを襲う何かの協力を得るか利用して、周りに気付かれる前に群れのボスを倒す、それだけだ。


「いくぞ」

「おう」

「はい」

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