スタンピード2
前話で最後の行を修正し、話の展開が少し変わっています。
ダンジョンの外へと続く階段が眼の前にせまってくると、いくつかの冒険者達がいるのに気付いた。
階段の手前にいる冒険者達は誰も彼も酷く傷ついているようで、ひしゃげた鎧や盾、切り傷のある皮鎧を真っ赤に染めていた。
「よう、運が良かったな坊主。初めて見る顔だが、日帰りか?」
「初めてでスタンピードに会うなんて運が悪いな。それとも逃げ切れているから運が良いのか」
「ふんっ、生きてたか。俺達に感謝しながらさっさと街に帰れ」
傷つき倒れている冒険者の中に、行きの道中に同行していた冒険者の顔があった。だが、あの時に喧嘩を売ってきた冒険者がいるだけで、仲間は何処にもいない。
(シュウさんおかしいです。ここの人達、前衛職ばかりの人達ですよ。それに誰も彼も荷物を一つも持ってないなんて)
怪訝な顔で警戒しているトーラに向けて、冒険者達が笑いだした。
「有望な新人を逃がせたとありゃ俺達がこうしてここにいるのも無駄じゃなかったな」
「余計な事は考えてねーで、さっさと素人は外へ出て街へ逃げればいいんだよ」
相も変わらず喧嘩腰の冒険者が俺達に言うと、とたんに咳き込んで赤い血を口から垂らした。
「おいおい、肺がやられてるのに無理に喋るなよ」
呆れたように言う冒険者も、よく見ると血ぬれの鎧は乾いていない。次から次へと新しい血を滴らせていた。
「あんたら」
「新人は死兵の事なんて気にせず、街に戻ってこのことを知らせてくれりゃいい」
「殿は先のない俺らにまかせな」
「げほっ……だからさっさと行けって」
トーラが俺を見上げてくる。それがどんな意味を持っているか分かる、俺も同じ気持ちだから。正直、このエスレクの冒険者は腐っていると思っていたけど、そうでない人達もいたんだ。
荷物からありったけの回復ポーションを取り出す。全て、冒険者併設の売店で買った低級ポーションだが、ないよりはマシのはずだった。
「気持ちだけ受け取っておくわ」
「なんで!」
予想外の言葉にトーラが悲壮な声を上げた。彼らは誰一人として俺達からポーションを受け取ろうとしない。
「今から街へと戻るとなると定期便は出ていない。そうなると、途中で魔獣共に襲われる心配もある」
「定期便には魔獣避けの魔術が施されてんだよ。げほっ。どうせ知らなかったんだろ」
「ここで一番大事なのは、正確な情報を必ず街に届けることだ。だから、これは受け取れない。それに俺達の傷は深い、おまえ達自身が使ってくれ」
「……シュウさん」
トーラもどうしたらよいか分からないのだろう。若干潤んだ縋るような眼をしているが、それ以上言葉が出ることは無かった。
俺はどうしたい? 俺はギルドマスターだ。成り行きとはいってもギルドマスターになり、人々の生活を守る役割を負っている。正直、こんな面倒な役割なんて捨ててしまいたいと思ったこともある。
だけど、一緒に付き合ってくれたミラやセリスに此処で逃げたら、次にどんな顔をして会って良いか分からない気がする。
この世界に来て、何がしたいかいまだに分からない俺だけど、困っている人達を見捨てるほど腐っちゃいない。
チュートリアルのスキルを操作し、ポイントの見えなくなった上級ポーションを選択。今ここに居る冒険者全員の頭からぶっかけてやった。
『マ○ナスαイン×で強A使&の為、願い$叶え%対!が拡MしまLた』
予想通り頭に流れる不思議な声。多少の痛みを伴って聞こえてくる声は、何度も聞いている内にあの少女の声じゃ無いかと思えてきた。
「お、おい。何しやがった」
一番初めに大声を上げたのは、さっきから何度も血反吐を吐いていた、行きに同行していた冒険者だった。
それから立て続けに「いったい何が」という風に、冒険者達から声が上がってくる。
見た限り、怪我は治っているように見える。これ以上の怪我となると女王を救ったアムリタなんて巫山戯たポイントの物を人数分となるが、それは回避できたようでなによりだった。
こんなポイントがカツカツどころかマイナスで頭を使う行動をしなくちゃなんて、何年ぶりだろ。昔は、少ないポイントでどうやったら良いか考えて苦労しながらだったから、少し懐かしさが胸をよぎる。
「シュウさん、今のって」
「あー、今のは内緒にしてくれると助かる」
「シュウさんって……いえ、後にします」
彼らは多分、仲間を逃がすために体をはって傷ついていた冒険者達。そんな行動をとる彼らだから俺は信頼したのかも知れない。
「突拍子もない事だけど、全員の傷は俺のスキルで治療した」
トーラの様に冒険者達が騒ぎ立てるとばかりおもっていた俺は、一切言葉を発さない彼らを不思議に思った。
「何が目的だ」
険しい眼で俺を見つめてくる冒険者達。
そりゃそうか、いきなり怪我が治ってそれで終わりって考える方がおかしい――のか?
「な、なんなんですか貴方は。あの時もそうですけど、助けて貰ったのに失礼じゃないですか」
「馬鹿みたいな高級ポーションみないたもので全員を助けておいて、善意だからってほうが納得できねーだろうが。一体何が目的なんだ」
「そうだな。もし、生き残れたら大した事じゃないが一つだけ頼みを聞いて欲しい」
「はっ! 生き残れたからか」
俺はゴブリンを蹂躙していた何かに心当たりがあるか、皆に聞いてみた。その問いに揃って帰って来たのは「知らない」「見てない」という答えのみだった。
「俺達が襲われたのは何百ってゴブリンの群れだったが、何万というのは本当なのか。ゴブリン共を蹴散らしている何かも信じられんが」
トーラはそれが本当の事で、だからこそ俺達はここまで逃げてくることが出来たと冒険者達に力説していた。
「俺達が、エスレクの街が生き延びるにはその何かについて調べる必要があると思わないか」
俺の言葉に再び静かになる冒険者達。俺達が嘘を言っていないか、本当だった場合でも味方になるか分からない。そんな考えが開け透けて見えるようだった。
「いいぜ、その話に乗ってやる」
一番初めに同意の声をあげたのは、またもあの俺を馬鹿にしていた冒険者だった。
「どうせ死兵として使う命だったんだ、ここで出し惜しんでたら仲間に会わせる顔がねえからな」
それは、俺の言葉を信じて生きて帰るということだった。
その冒険者に触発されたのか、次々と協力を申し出てくる冒険者達。俺は、不思議と心の中から力が湧いてくるような気がしてきた。
「まずはその何かについてなんだが、もし出会ったらこう言って欲しい」
俺は根拠もない直感に縋る思いで、皆に何かについての予想を伝えた。




