遺跡への道
昨夜はトーラに紹介してもらった宿に泊まり、夕食もその宿でトーラと一緒にとることになった。
トーラのお勧めという事で期待していたが、値段以上の品質とサービス、味だった。おかげでエスレクまでにくる旅の疲れが一気に取れたようだった。
なにより、わらにシーツを掛けただけのベッドではなく、分厚く綿のはいったベッドだったので寝心地がよかったのだ。
「おはようございます」
朝食を食べようと宿の一階に降りると、すでにトーラが起きてテーブルに座っていた。
俺は挨拶を返す。
「おはようーさん。良い宿だな、疲れがどっかにいっちまった」
俺の感想を聞いて、嬉しそうに照れ笑いを浮かべるトーラと同じ席に座る。すぐに駆け寄ってきた店員にお勧めの朝食を大盛りで二つ頼んだ。
「朝からそんなに食べるんですね。さすがです」
「何がさすがか分からないが、一つはトーラの分だよ」
「え?」
トーラは性別を抜きにしても、年の割には細い気がする。
「それともトーラはもう食べ終わってたのか」
「そ、そんなことはないです」
「それじゃ一緒に食おうぜ。昨日渡した依頼料だけじゃ、此処までの宿を紹介してもらったんなら釣り合わないしな」
トーラは「そんな事」と何か言い返したそうだったが話している内にちょうど朝食が運ばれてきた。それは俺にはよく馴染のあるもので、BLTサンドだった。それも特大の。
白パンではないけれど、柔らかそうなパンに挟まれた大量の野菜と極厚のベーコン。ベーコンからは香ばしい臭いが立ち上がり、鼻腔をくすぐった。
食欲を刺激された俺達は、BLTサンドに手を伸ばすと無言で食べ始めた。
膨れた腹を手で支えながら、トーラが案内する馬車の発着場へと向かっている。
なんでも、遺跡の依頼はなんだかんだで人気があるので、馬車の定期便が出ているそうだ。
遺跡への馬車の発着場は、街の門の近くにあるらしく俺達にとってはちょっとした腹ごなしになったと思う。
トーラは「くるひぃ」「うぷっ」とか言っていたが、発着場に着く頃には平静に戻っていた。
「ここから遺跡までの定期便が出ています。帰りの最終は日が落ちる前ですから、それを逃すと歩いて帰ることになるので注意です」
丁寧なトーラの説明を聞き、疑問に思ったことを質問してみる。
「日が落ちる前に最終ってことは、遺跡ってのはそんなに遠くないのか?」
「そうですね。歩きだと三時間くらいです」
たったそれだけの距離だから、ギルドも冒険者もあんな状態になってるのか。もっと距離があれば、スタンピードの危険だって下がるだろうし。
だからって街ごと引っ越せなんていうのは無理がある話なので、この街はこの街で歪でも上手くやっているんだろうと思う。
「トーラありがとな。それじゃ行ってくるわ」
俺は道案内をしてくれたトーラに礼を告げると、ついつい撫でやすい位置の頭をなでてしまった。
わたわたするトーラに苦笑しながらも、馬車の運賃を管理事務所らしきところで払い、馬車へと乗り込んだ。
「もう、僕の事を子供扱いしないでくださいよ」
「おいおい」
もう街や遺跡までの案内は終わっているというのに、自腹を切ってトーラは俺と同じ馬車に乗り込み隣に座った。
「道案内の依頼は終わりでいいぞ。わざわざ危ないことに首を突っ込む必要はないぞ」
「やっぱり、危ない事しようとしてるんですね」
うーわ墓穴。
「僕は強くなりたいんです。自分の事は自分で守りますから一緒に行かせて欲しいんです」
『願〇A届Eら☆ま|た。マCナSポ■×トの為、α否するεとは危φを伴πます』
ぐっ。トーラの最後の言葉を聞いたら、また前に感じたときのような頭痛が俺を襲ってきた。
しばらく痛みに耐えるように俯いていると、心配したようなトーラが慌てて声をかけてきた。
「あ、え、シュウさんを怒らす気も困らす気もなかったんです。ただ、弱い自分が不甲斐なくて悔しく。弱いからってまたあんなことにって、あ、いや。だから弱いままなのは嫌なんです」
必死に自分の心の内を語るトーラに対し、俺は頭痛が収まるまで何も答えることが出来なかった。
どれだけたったか、気づけば馬車はすでに街を出ており、となりでトーラは肩身が狭いように縮こまっていた。
「悪い、怒ってたわけじゃないんだ」
どう言ったらいいか分からず、思ったままを言葉にした。
それでも納得できなかったのか、トーラは縮こまったままこちらをおずおずと見上げてくる。
「疲れが取れたと思ってたけど、少し疲れた残っていただけだと思う」
俺の言葉を信じたのかどうかわからないが、トーラは少し考えこむ仕草をすると柔らかく微笑んでくれた。
「疲れを残したまま遺跡にいって、俺たちの邪魔をしないでくれよな」
俺たちのやり取りを見ていたのか、一緒に同乗していた若い冒険者たちが俺を見下すような視線で語りかけてくる。
「あんたのような三流の冒険者には遺跡はもったいないぜ。獲物の取り合いをしたって俺たちに勝てるわけがないんだろうから、今からでも帰って採取でもしてたらどうだ」
語りかけてきた冒険者のパーティだろうか。いっしょになって馬鹿にするように笑い声をあげてきた。
「シュウさんの事を何も知らないで!」
なぜか俺じゃなくてトーラが激高し、俺は必死になってトーラを抑え込む。こんなところで、争いになっても良い事なんて何もない。
「シュウさん、なんで黙ってるんですか」
いまだに笑い続ける冒険者たちを睨みつつ、俺に文句を言ってくるトーラ。トーラは昨日出会ったばかりだというのに、俺のことを思って怒ってくれていた。
俺には、馬鹿にされるよりそっちのほうがとっても心が温かくて大切なことだった。そんなトーラを無駄に危険なことに巻き込む期にはならなかった。
「一応遺跡周りの採取もあるからな。そっちの邪魔をする気はないよ」
どうせ遺跡にいくならと遺跡周りの採取の依頼も確認してある。常設依頼だったからわざわざ受けてはいないが、特別珍しい物が対象ではなかったので何を採取すればいいかは覚えてある。
「なんだよ、採取が目的なら最初からそう言えよな。まあ、俺たちは深層目当てだからどっちみち競争相手にすらならないだろうけどな」
さらに笑い声をあげる冒険者たち。
本部から離れると、冒険者の質も下がってくるのか。
エスレクの冒険者ギルドの薄暗い仕組みだけでなく、こっちにも手を入れないといけない思った。
いつも仕事から逃げてる俺が言えた義理じゃないが、さすがに見過ごす気になれなかった。
俺が歴史を捻じ曲げたせいで不幸になる人は無しにしたい。それが無理なことだってことは分かるが、目の前にあるなら見過ごす気にはなれない。
それが、俺の責任だと思うのだから。
「シュウさん?」
馬鹿にされながらも心ここにあらずにあった俺を心配したのか、トーラが俺に左袖を引っ張ってきた。
無言でトーラの頭をまた撫でてしまい、文句をいってくるトーラに再び謝る。
馬車の中の雰囲気は悪くなってしまったが、一人でも味方がいるというのはとても心強いものだと思えた。
(トーラが一人だけで、遺跡の外まで帰れるところまでなら同行してもいいぞ)
目の前の冒険者たちに聞かれると、また騒がれそうなのでトーラにだけ聞こえるように伝える。
さすがに、ずっとトーラを守り続けながら初めてのダンジョンに挑むなんて無茶はしたくない。
周りを気にし、大声を出さないように大きく頷いたトーラの瞳はとても輝いているように見えた。
「冒険者のお客さん達。そろそろ遺跡につくよ」
振り返った御者の言葉に、ざわついていた馬車内は一瞬で静かになった。態度は悪いが、冒険者としての資質はあるのか、冒険者たちの目つきが一瞬で切り替わっていた。
「帰りの最終便は日が落ちる前だからね。野営の準備はしてあるだろうから、こっちは心配してないけど一応言っておくよ」
それだけ言い残して御者は前に向き直った。
あと少しで、遺跡と呼ばれるダンジョンか。もし、ギルドの依頼書にあった通りなら楽しいことになりそうだった。




